204 / 255
七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第200話 ウザウザ美人ダル絡み
しおりを挟む
対峙してすぐ、ネイはソレを予感した。
(2、3、4……うん、18手。それ以上はたぶんボコボコに負けちゃうなー。これは本物だ、うん)
目の前にいるのは、理事会ですらその正体を掴めていないSランク、ソルシエラ。
一度、六波羅と交戦し、勝利を収めた最強の中の最強。
自分が勝てるはずもない事は、事前の情報でわかっていた。
(外にいた偽者達とは訳が違うねー、隙がない。……いや、違うな。これは、この子の中にいる誰かと死角を補い合っているのかな。確か、0号とか言うのがいるって情報もあったかな。手札が見えないってのは厄介だ。めんどくせー)
ネイはソルシエラを観察する。
大鎌を片手にこちらの様子を窺う少女は、ネイを警戒しているようだ。
このまま戦えば、すぐに敵と認定され予想通りの結末を迎えることは分かっていた。
故に。
「――よし、えーっと、ソルシエラちゃん」
「何かしら」
ネイは両手をゆっくりと上にあげて、にっこり笑って言った。
「参りました!」
「……そう」
ソルシエラは興味が無いのか素っ気ない返事をする。
しかし、ネイはそれを見て確信した。
(あー、取り繕ってるタイプか。中身は案外普通の女の子かな? 嫌だねー、こんな可愛い子が重い物を背負っているのは)
数多の舞台で数えきれない程の役を演じたネイには、ソルシエラのそれが演技だとすぐに理解できた。
一挙手一投足、視線の動き方、声の抑揚。
その一つ一つに、僅かに演技の色がある。
それはネイから見ても卓越した技術に見えたが、演技と解る範疇であった。
そして、演技とわかったのならば、中身が怪物ではなく少女だとわかったのならば、やりようはいくらでもある。
「出来れば、見逃がしてくれないかな……? あ、お菓子とか食べる? 私、色々持ってるんだよねぇ」
「いらないわ」
「そんな事言わずにさ、ね? 年上の言う事は聞いておいた方が良いよ。私も可愛い可愛い一番弟子にはいつもお菓子を持ち歩くように言ってるんだよね。ほら、チョコとか」
それは、探索者とは別の技巧であった。
ソルシエラを普通の少女と仮定し、ネイは適した仮面を選択。
少女の警戒心が薄れる言動と共にあっという間にソルシエラと距離を詰める。
言葉や声のトーン、そして目くばせに至るまで、全てが計算されつくした演者としての技であった。
そしてそれは、人ではなく怪物として扱われてきた少女には随分と効果があった様だ。
「生憎、私は甘党じゃないの」
「……はは、ならこのビターチョコは? これはいいよ。甘さ控えめ、思考力を上げるのにも丁度いい」
そう言って、ネイは小袋に入ったチョコを差し出す。
するとソルシエラは、一瞬躊躇ったが、それを受け取った。
そして、それに魔法陣を展開し、ひとしきり検査をした後に口にする。
その頬が僅かに綻んだ瞬間をネイは見逃がさなかった。
「どう? 美味しいでしょ? それ、一個1500円する高級チョコなんだよ。味わって食べてね」
「……勝手に押し付けてきたのは貴女でしょう」
「そうだっけ? そうだったかも。……あ、そのー、出来たらでいいんだけど。その鎌しまってくれないかな。私、見ての通り、お菓子を持ってるだけの何処にでもいる普通の美人教師だから」
そう言ってネイが頼み込むと、ソルシエラはため息をついて大鎌を消失させた。
(19、20、……えぇ、大鎌の無い状態でも30手が限界!? マジ!? どんだけ強いのこの子。リュウコと同レベルじゃん。喧嘩売らなくてよかったぁ)
ネイは戦闘をシミュレーションし、内心で胸を撫で下ろす。
しかし依然として、選択肢を間違えれば死ぬことに変わりはなかった。
「あっ、そういえばここには何か探しに来たの? それとも調べ物? 良ければ私が手を貸すけど。と言っても、たぶん聖域の事だよね?」
「さて、どうかしらね」
ソルシエラははぐらかす。
(心読めねぇ! 演技はわかったけど、本心がわっかんねー。 あ、もしかして聖域のお勉強に来たとか……いや、ないか。なんか、私やリュウコよりも頭良さそうだし)
勝手に馬鹿の枠にリュウコを引きずり込みながら、ネイは優しい笑みを浮かべる。
そして、手を差し伸ばして言った。
「まあまあ。良ければ、聖域について教えてあげるよ。これでも、初代聖域使いだからね!」
そんなネイを前に、ソルシエラはため息をつくと背を向けた。
「いらないわ」
「えぇっ!?」
ソルシエラはネイを放って奥へと歩き出す。
その背中を、ネイは情けない姿で追った。
■
なんかめっちゃ付いてくるんだけど、この美人さん。
こんな美人、俺のデータにないぞ!
『もうそのポジション諦めたまえ』
なんでぇ!?
『……マイロード、警戒を怠るな。私は、あまりあの女は好きではない』
なんでそんなこと言うんだカメ君。
見てみたまえ、抜群のプロポーションに短く整えられた緋色の髪。そして切れ長の目。
うん、美人だ。
はわわ~><
見つめられちゃったらどうしよう~><
『どうにも行動が軽すぎる。それに、あれは……』
あれは?
『ロリではない』
解散。
はー、もうロリコンはこれだから嫌だねぇ。
『彼女からはロリの純真さを感じない。あれはきっと嘘つきだ!』
『そんなこと言ったらソルシエラなんて嘘で構成されてるだろ』
星詠みの杖君の正論にカメ君は押し黙る。
やれやれ、あとでお姉さんキャラの良さを教育してあげないとねぇ。
「あ、見て見て。これが三代目聖域使いの説明だよ。あの子は凄かったねぇ。聖域をギュッて纏めて剣にしたんだもん。私には出来ない発想だ。あ、そんでこっちの四代目は――」
「……そう」
で、どうすんのこれ。
美人女教師がずっと俺の後ろを付いてくるんだけど。
そして俺は何処に向かっているの?
お勉強したかっただけなのに、どうすればいいの?
『転移で逃げるしかないだろう』
逃げる……?
このミステリアス美少女が……?
『でも、今の君完全に攻略される側の構図だぞ。秘密をかかえたクールな生徒と三枚目の美人教師。しかも彼女は過去に聖域使いだった実力者だ。もうどう転んでも完全に今の君はヒロインです』
いつの間に教師と生徒の恋愛ゲーに移行していた……!?
これが聖域か!?
『違うよ』
『違うぞ』
慈悲のない否定。
もうやだ。
「ねーねー、ダイヤ生徒会長にはもう会った? あの子の聖域もすごいよー。なんてったって、Sランクにも匹敵するんだから」
「興味ないわね」
「もー、つれないなー。こんな美人に案内してもらえる機会なんてそうそうないよー? ……アッ、サーセン。調子乗りました……」
俺がキッと睨めば、ネイさんは数歩後ろに下がる。
が、美人にこんな態度をとるのはしんどい。
ソルシエラじゃなかったらまだ好意を素直に受け取れるのだが……。
適当に何か分かったフリをして帰る? この調子だとずっとこの人付いてくるよ?
『そうするしかないねぇ。聖域については後で私がまとめサイトで調べておくよ^^』
なぜわざわざソースの弱い情報源に頼る?
デモンズギアが情弱でいいのか?
『帰ろうマイロード。そしてチョコを食べたのだから入念に歯磨きをするんだ。もしも苦手なら私が手伝おう』
うーん、どっちも平常運転。
こうなると、日を改めた方が良さそうわよ。
明日は昼間は自由時間があるし、その時来ようか。
ヒカリちゃんとか連れて一緒にお勉強しよう。
『最高だ、マイロード』
それロリコン視点からの評価だろ。
ほら、さっさと帰りますよ。
「折角の夜会だけれど、そろそろ終わりにしましょうか」
「え? ちょっと待ってよ。まだこれから楽しい聖域の歴史講座が――」
俺の前に転移魔法陣が展開される。
後ろでネイさんが何か言おうとしているのを無視して一歩踏み出そうとしたその時だ。
『待て、それは私の展開した魔法陣ではないぞ!』
『敵性反応確認。マイロード、戦闘態勢に移行しろ』
二つの警告に俺は転移魔法陣に向けて迷わず大鎌を振り下ろす。
が、それは転移魔法陣からとび出てきた大鎌により防がれてしまった。
「……猿真似も、ここまで来ると大したものね」
そして転移魔法陣の中から姿を現したのは、俺がよく知る姿だった。
漆黒の衣装に、黒いベール。
通常の衣装よりもずっと黒く、死神を彷彿させるその姿は。
『第二形態だと……!?』
『偽者であろう。が、今までよりも強いぞ』
偽シエラって第二形態もいけるの?
じゃあ、本格的にマズくない???
「聖域使いを出せ」
「もう聞き飽きたわ」
俺は大鎌を構えて距離をとる。
対して、偽シエラは俺達を無機質な表情で見つめていた。
『私と君で初めて作った形態だぞ! あんな偽者に着られてたまるか! 私を出せ! 双星形態で消し炭にしてくれる!』
『落ち着け。仮にそれがきっかけで双星形態がコピーされたらどうする』
そうだよ、落ち着くんだ星詠みの杖君。
ここは一つ、どちらが本物か教えてあげようじゃないか。
那滝ケイじゃないのだから、加減する必要はないしね!
俺は意気揚々と大鎌を構えた。
「――うん、こっちは五手か」
背後から聞こえた声は、今までと同じ。
しかし、なぜか底知れないナニカを感じた。
振り返ろうとした俺の肩に手が置かれる。
「自分で自分を殺すなんて、偽者とはいえ寝覚めが悪くなっちゃうでしょ」
ネイさんはそう言って俺を庇うように立った。
そして、振り返り笑みを作る。
「大人がいる時くらい、頼りなって。大丈夫、これでも私結構強いからさ」
「……なら、お手並み拝見と行きましょうか」
「はっはっは、任せてよ! リュウコに「それ二度と使わないでくださいマジで。訓練にならないから」と言われた必殺技を見せてあげよう!」
言った人がリュウコちゃんなのいまいち信用がねぇ……。
「さて、始めようか」
ネイさんが取り出したのは綺麗な装飾のなされたレイピアであった。
大人でありながら、ダイブギアでの武装の召喚が可能。
それ自体が一つの強者の証である。
「聖域使いを出せ」
「元聖域使いじゃ代用出来ないかな?」
ふざけた言葉だった。
しかし、構えた瞬間、場の空気が完全に支配される。
そして。
「――はい、勝ち」
刹那の閃光であった。
今まで偽シエラがいた場所には、砂の山だけが残されている。
まるで、画が切り替わったかのような、突然の結果であった。
……ん??????
何が起きたの?????
『……見えなかった。高速戦闘か?』
『いや、違うねぇ。あれは、結果を取り出す異能だ。既に確定している結果を即座にその場に適応することが可能みたいだ』
よくわかったね今ので。
星詠みの杖君、君がいなかったら俺とカメ君はずっと頭に「?」を浮かべていたよ。
『これもパンフレットに書いてる』
書いてんのかよ。
『学園都市の内外問わずに大人気みたいだからねぇ。殆どの情報は揃っているよ』
『マイロード、もしかしてあの女は強いのではないだろうか』
そりゃ見ればわかんだよ!
結果を取り出すって何ー!?
知らないんだけどそんな強キャラー!
「どう、見た? 昔ほどじゃないけど、強いでしょ私。あ、サインあげる?」
「いらないわ」
「えぇ。……あっグッズは? 非売品のネイちゃん人形とかあげるよ?」
「いらない」
先程までの雰囲気はどこへ行ったのか、ネイさんはまたヘラヘラとしていた。
でも強いという事がわかったので、正直気が気じゃない。
どうしよう、六波羅さんとは別ベクトルの戦闘狂だったら。
ここから笑顔で俺との戦闘に移行したら。
「もうここに用はないわ」
「もしかして、アレを倒しに来たの?」
もうそういう事でいいよ。
星詠みの杖君、帰ろう。
イレギュラーな強キャラはミステリアス美少女の弱点だ!
空無カノンで散々実感した!
『もう半分トラウマじゃないか。空無カノンが』
『マイロードにトラウマを植え付けた……? 空無カノン 一体何者なんだ……!』
カメ君もそれやるのかよぉ!
星詠みの杖君、変な事ばっかり教えないで!
『変な事は教えていないよ^^』
今度こそ、本物の転移魔法陣が目の前に現れる。
俺は、何も余計なことは言わずにその場から消え去った。
■
「あっ、消えちゃった……」
ネイは、ソルシエラが今までいた場所を見つめてため息をつく。
「緊張したぁ……。もうマジ無理、さっさと生徒会呼んで警備増やしてもらお」
拡張領域から箒とちりとりを取り出したネイは、その場に残された砂を掃除し始める。
(ソルシエラ、ねぇ)
恐ろしい怪物であり、最強の少女。
噂にそう聞いていたのだが、実際に会ってみればその印象は違った。
(怪物があんな顔するかっての。独りで頑張ってる普通の女の子じゃん)
恐怖など抱く訳が無い。
それどころか、教師である自分に救えないあの少女を見て憤りを覚えるほどだ。
強すぎるが故に、誰に頼ることもできない孤高の星。
それは果たして、誰に救えるのだろう。
(私の異能を見ても、反応しないし……結構有名なんだけどね? 知っててもちょっとは驚くんだけどなぁ)
ネイがいなくても、ソルシエラは顔色一つ変えずに偽者を殺しただろう。
しかし、それだけは許せなかった。
教師として、出来るだけの事をしたいというネイの意地のようなものである。
(私に出来るのはあの程度だね。後は……うん、リュウコに任せよう、そうしよう)
何処にでもいる普通の少女にとてつもない期待を寄せながら、ネイは鼻歌を歌い始めた。
(2、3、4……うん、18手。それ以上はたぶんボコボコに負けちゃうなー。これは本物だ、うん)
目の前にいるのは、理事会ですらその正体を掴めていないSランク、ソルシエラ。
一度、六波羅と交戦し、勝利を収めた最強の中の最強。
自分が勝てるはずもない事は、事前の情報でわかっていた。
(外にいた偽者達とは訳が違うねー、隙がない。……いや、違うな。これは、この子の中にいる誰かと死角を補い合っているのかな。確か、0号とか言うのがいるって情報もあったかな。手札が見えないってのは厄介だ。めんどくせー)
ネイはソルシエラを観察する。
大鎌を片手にこちらの様子を窺う少女は、ネイを警戒しているようだ。
このまま戦えば、すぐに敵と認定され予想通りの結末を迎えることは分かっていた。
故に。
「――よし、えーっと、ソルシエラちゃん」
「何かしら」
ネイは両手をゆっくりと上にあげて、にっこり笑って言った。
「参りました!」
「……そう」
ソルシエラは興味が無いのか素っ気ない返事をする。
しかし、ネイはそれを見て確信した。
(あー、取り繕ってるタイプか。中身は案外普通の女の子かな? 嫌だねー、こんな可愛い子が重い物を背負っているのは)
数多の舞台で数えきれない程の役を演じたネイには、ソルシエラのそれが演技だとすぐに理解できた。
一挙手一投足、視線の動き方、声の抑揚。
その一つ一つに、僅かに演技の色がある。
それはネイから見ても卓越した技術に見えたが、演技と解る範疇であった。
そして、演技とわかったのならば、中身が怪物ではなく少女だとわかったのならば、やりようはいくらでもある。
「出来れば、見逃がしてくれないかな……? あ、お菓子とか食べる? 私、色々持ってるんだよねぇ」
「いらないわ」
「そんな事言わずにさ、ね? 年上の言う事は聞いておいた方が良いよ。私も可愛い可愛い一番弟子にはいつもお菓子を持ち歩くように言ってるんだよね。ほら、チョコとか」
それは、探索者とは別の技巧であった。
ソルシエラを普通の少女と仮定し、ネイは適した仮面を選択。
少女の警戒心が薄れる言動と共にあっという間にソルシエラと距離を詰める。
言葉や声のトーン、そして目くばせに至るまで、全てが計算されつくした演者としての技であった。
そしてそれは、人ではなく怪物として扱われてきた少女には随分と効果があった様だ。
「生憎、私は甘党じゃないの」
「……はは、ならこのビターチョコは? これはいいよ。甘さ控えめ、思考力を上げるのにも丁度いい」
そう言って、ネイは小袋に入ったチョコを差し出す。
するとソルシエラは、一瞬躊躇ったが、それを受け取った。
そして、それに魔法陣を展開し、ひとしきり検査をした後に口にする。
その頬が僅かに綻んだ瞬間をネイは見逃がさなかった。
「どう? 美味しいでしょ? それ、一個1500円する高級チョコなんだよ。味わって食べてね」
「……勝手に押し付けてきたのは貴女でしょう」
「そうだっけ? そうだったかも。……あ、そのー、出来たらでいいんだけど。その鎌しまってくれないかな。私、見ての通り、お菓子を持ってるだけの何処にでもいる普通の美人教師だから」
そう言ってネイが頼み込むと、ソルシエラはため息をついて大鎌を消失させた。
(19、20、……えぇ、大鎌の無い状態でも30手が限界!? マジ!? どんだけ強いのこの子。リュウコと同レベルじゃん。喧嘩売らなくてよかったぁ)
ネイは戦闘をシミュレーションし、内心で胸を撫で下ろす。
しかし依然として、選択肢を間違えれば死ぬことに変わりはなかった。
「あっ、そういえばここには何か探しに来たの? それとも調べ物? 良ければ私が手を貸すけど。と言っても、たぶん聖域の事だよね?」
「さて、どうかしらね」
ソルシエラははぐらかす。
(心読めねぇ! 演技はわかったけど、本心がわっかんねー。 あ、もしかして聖域のお勉強に来たとか……いや、ないか。なんか、私やリュウコよりも頭良さそうだし)
勝手に馬鹿の枠にリュウコを引きずり込みながら、ネイは優しい笑みを浮かべる。
そして、手を差し伸ばして言った。
「まあまあ。良ければ、聖域について教えてあげるよ。これでも、初代聖域使いだからね!」
そんなネイを前に、ソルシエラはため息をつくと背を向けた。
「いらないわ」
「えぇっ!?」
ソルシエラはネイを放って奥へと歩き出す。
その背中を、ネイは情けない姿で追った。
■
なんかめっちゃ付いてくるんだけど、この美人さん。
こんな美人、俺のデータにないぞ!
『もうそのポジション諦めたまえ』
なんでぇ!?
『……マイロード、警戒を怠るな。私は、あまりあの女は好きではない』
なんでそんなこと言うんだカメ君。
見てみたまえ、抜群のプロポーションに短く整えられた緋色の髪。そして切れ長の目。
うん、美人だ。
はわわ~><
見つめられちゃったらどうしよう~><
『どうにも行動が軽すぎる。それに、あれは……』
あれは?
『ロリではない』
解散。
はー、もうロリコンはこれだから嫌だねぇ。
『彼女からはロリの純真さを感じない。あれはきっと嘘つきだ!』
『そんなこと言ったらソルシエラなんて嘘で構成されてるだろ』
星詠みの杖君の正論にカメ君は押し黙る。
やれやれ、あとでお姉さんキャラの良さを教育してあげないとねぇ。
「あ、見て見て。これが三代目聖域使いの説明だよ。あの子は凄かったねぇ。聖域をギュッて纏めて剣にしたんだもん。私には出来ない発想だ。あ、そんでこっちの四代目は――」
「……そう」
で、どうすんのこれ。
美人女教師がずっと俺の後ろを付いてくるんだけど。
そして俺は何処に向かっているの?
お勉強したかっただけなのに、どうすればいいの?
『転移で逃げるしかないだろう』
逃げる……?
このミステリアス美少女が……?
『でも、今の君完全に攻略される側の構図だぞ。秘密をかかえたクールな生徒と三枚目の美人教師。しかも彼女は過去に聖域使いだった実力者だ。もうどう転んでも完全に今の君はヒロインです』
いつの間に教師と生徒の恋愛ゲーに移行していた……!?
これが聖域か!?
『違うよ』
『違うぞ』
慈悲のない否定。
もうやだ。
「ねーねー、ダイヤ生徒会長にはもう会った? あの子の聖域もすごいよー。なんてったって、Sランクにも匹敵するんだから」
「興味ないわね」
「もー、つれないなー。こんな美人に案内してもらえる機会なんてそうそうないよー? ……アッ、サーセン。調子乗りました……」
俺がキッと睨めば、ネイさんは数歩後ろに下がる。
が、美人にこんな態度をとるのはしんどい。
ソルシエラじゃなかったらまだ好意を素直に受け取れるのだが……。
適当に何か分かったフリをして帰る? この調子だとずっとこの人付いてくるよ?
『そうするしかないねぇ。聖域については後で私がまとめサイトで調べておくよ^^』
なぜわざわざソースの弱い情報源に頼る?
デモンズギアが情弱でいいのか?
『帰ろうマイロード。そしてチョコを食べたのだから入念に歯磨きをするんだ。もしも苦手なら私が手伝おう』
うーん、どっちも平常運転。
こうなると、日を改めた方が良さそうわよ。
明日は昼間は自由時間があるし、その時来ようか。
ヒカリちゃんとか連れて一緒にお勉強しよう。
『最高だ、マイロード』
それロリコン視点からの評価だろ。
ほら、さっさと帰りますよ。
「折角の夜会だけれど、そろそろ終わりにしましょうか」
「え? ちょっと待ってよ。まだこれから楽しい聖域の歴史講座が――」
俺の前に転移魔法陣が展開される。
後ろでネイさんが何か言おうとしているのを無視して一歩踏み出そうとしたその時だ。
『待て、それは私の展開した魔法陣ではないぞ!』
『敵性反応確認。マイロード、戦闘態勢に移行しろ』
二つの警告に俺は転移魔法陣に向けて迷わず大鎌を振り下ろす。
が、それは転移魔法陣からとび出てきた大鎌により防がれてしまった。
「……猿真似も、ここまで来ると大したものね」
そして転移魔法陣の中から姿を現したのは、俺がよく知る姿だった。
漆黒の衣装に、黒いベール。
通常の衣装よりもずっと黒く、死神を彷彿させるその姿は。
『第二形態だと……!?』
『偽者であろう。が、今までよりも強いぞ』
偽シエラって第二形態もいけるの?
じゃあ、本格的にマズくない???
「聖域使いを出せ」
「もう聞き飽きたわ」
俺は大鎌を構えて距離をとる。
対して、偽シエラは俺達を無機質な表情で見つめていた。
『私と君で初めて作った形態だぞ! あんな偽者に着られてたまるか! 私を出せ! 双星形態で消し炭にしてくれる!』
『落ち着け。仮にそれがきっかけで双星形態がコピーされたらどうする』
そうだよ、落ち着くんだ星詠みの杖君。
ここは一つ、どちらが本物か教えてあげようじゃないか。
那滝ケイじゃないのだから、加減する必要はないしね!
俺は意気揚々と大鎌を構えた。
「――うん、こっちは五手か」
背後から聞こえた声は、今までと同じ。
しかし、なぜか底知れないナニカを感じた。
振り返ろうとした俺の肩に手が置かれる。
「自分で自分を殺すなんて、偽者とはいえ寝覚めが悪くなっちゃうでしょ」
ネイさんはそう言って俺を庇うように立った。
そして、振り返り笑みを作る。
「大人がいる時くらい、頼りなって。大丈夫、これでも私結構強いからさ」
「……なら、お手並み拝見と行きましょうか」
「はっはっは、任せてよ! リュウコに「それ二度と使わないでくださいマジで。訓練にならないから」と言われた必殺技を見せてあげよう!」
言った人がリュウコちゃんなのいまいち信用がねぇ……。
「さて、始めようか」
ネイさんが取り出したのは綺麗な装飾のなされたレイピアであった。
大人でありながら、ダイブギアでの武装の召喚が可能。
それ自体が一つの強者の証である。
「聖域使いを出せ」
「元聖域使いじゃ代用出来ないかな?」
ふざけた言葉だった。
しかし、構えた瞬間、場の空気が完全に支配される。
そして。
「――はい、勝ち」
刹那の閃光であった。
今まで偽シエラがいた場所には、砂の山だけが残されている。
まるで、画が切り替わったかのような、突然の結果であった。
……ん??????
何が起きたの?????
『……見えなかった。高速戦闘か?』
『いや、違うねぇ。あれは、結果を取り出す異能だ。既に確定している結果を即座にその場に適応することが可能みたいだ』
よくわかったね今ので。
星詠みの杖君、君がいなかったら俺とカメ君はずっと頭に「?」を浮かべていたよ。
『これもパンフレットに書いてる』
書いてんのかよ。
『学園都市の内外問わずに大人気みたいだからねぇ。殆どの情報は揃っているよ』
『マイロード、もしかしてあの女は強いのではないだろうか』
そりゃ見ればわかんだよ!
結果を取り出すって何ー!?
知らないんだけどそんな強キャラー!
「どう、見た? 昔ほどじゃないけど、強いでしょ私。あ、サインあげる?」
「いらないわ」
「えぇ。……あっグッズは? 非売品のネイちゃん人形とかあげるよ?」
「いらない」
先程までの雰囲気はどこへ行ったのか、ネイさんはまたヘラヘラとしていた。
でも強いという事がわかったので、正直気が気じゃない。
どうしよう、六波羅さんとは別ベクトルの戦闘狂だったら。
ここから笑顔で俺との戦闘に移行したら。
「もうここに用はないわ」
「もしかして、アレを倒しに来たの?」
もうそういう事でいいよ。
星詠みの杖君、帰ろう。
イレギュラーな強キャラはミステリアス美少女の弱点だ!
空無カノンで散々実感した!
『もう半分トラウマじゃないか。空無カノンが』
『マイロードにトラウマを植え付けた……? 空無カノン 一体何者なんだ……!』
カメ君もそれやるのかよぉ!
星詠みの杖君、変な事ばっかり教えないで!
『変な事は教えていないよ^^』
今度こそ、本物の転移魔法陣が目の前に現れる。
俺は、何も余計なことは言わずにその場から消え去った。
■
「あっ、消えちゃった……」
ネイは、ソルシエラが今までいた場所を見つめてため息をつく。
「緊張したぁ……。もうマジ無理、さっさと生徒会呼んで警備増やしてもらお」
拡張領域から箒とちりとりを取り出したネイは、その場に残された砂を掃除し始める。
(ソルシエラ、ねぇ)
恐ろしい怪物であり、最強の少女。
噂にそう聞いていたのだが、実際に会ってみればその印象は違った。
(怪物があんな顔するかっての。独りで頑張ってる普通の女の子じゃん)
恐怖など抱く訳が無い。
それどころか、教師である自分に救えないあの少女を見て憤りを覚えるほどだ。
強すぎるが故に、誰に頼ることもできない孤高の星。
それは果たして、誰に救えるのだろう。
(私の異能を見ても、反応しないし……結構有名なんだけどね? 知っててもちょっとは驚くんだけどなぁ)
ネイがいなくても、ソルシエラは顔色一つ変えずに偽者を殺しただろう。
しかし、それだけは許せなかった。
教師として、出来るだけの事をしたいというネイの意地のようなものである。
(私に出来るのはあの程度だね。後は……うん、リュウコに任せよう、そうしよう)
何処にでもいる普通の少女にとてつもない期待を寄せながら、ネイは鼻歌を歌い始めた。
21
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる