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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第198話 フワフワ言動根拠なし

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 ソルシエラは、今まさに渦中の存在である。
 自身の偽者が大量に発生しているこの状況、ソルシエラが起こした事件として捉えられる可能性もあった。

 そしてそれ以上に、今のソルシエラは理事会から追われる身である。
 端的に言えば、Sランクは敵。

 つまり、ここで姿を現すことは彼女にとって一つも利点になりはしない。

 いつ襲われるか分からない、そんな状況でソルシエラは涼しい顔でこの場にいるメンバーの顔を見る。

 驚いた様子の者、顔を青くしている者、楽し気な笑みを浮かべる者、どこか信頼した顔をしている者。

 そして――ごちそうを前にした無邪気な笑顔を向ける者。

「……あぁ、すっごく美味しそう」

 タタリの口から、無意識に言葉が漏れ出す。
 今までは何の変哲もなかった影が大きく伸び、まるで蛇のように鎌首をもたげる。
 気が付けば、会議室には空腹を訴える音が響き渡っていた。

 ソルシエラはそんなタタリの様子を見て、挑戦的に手招きをする。

「来なさい。遊んであげる」
「食べる前に、運動でお腹空かせましょうねぇー!」

 予兆は無い。
 
 椅子も、テーブルも、カーテンすら揺らめくことなく、次の瞬間にはタタリはソルシエラの目の前にいた。
 恐ろしい事に、タタリはこの期に及んで理性的である。

 この会議室の全ての物が食事には及ばずとも価値のあるものであると理解していた。
 怪物であっても、人の心はわかる。
 そう言わんばかりに、タタリは最大限にダイヤを気遣った上で、ソルシエラを捕食するという人間と怪物の相反する行動を共に行っていた。

「いただきまーす!」
「待て」

 ソルシエラとタタリの間で焔が舞う。
 次の瞬間には、間にミズヒが割って入った。

 ミズヒはソルシエラを庇うように焔の壁を作り上げる。

「わぁ! 副菜もあるんですねー!」

 焔をタタリはただの食料としか捉えない。
 事実、彼女にかかればこの程度の壁など一秒足らずで捕食してしまうだろう。

 が、Sランクがその隙を見逃す訳が無い。

「龍位継承――グレイプニル!」

 背後から声が聞こえたかと思えば、タタリの足に鎖が巻き付いていた。
 それは影すらも拘束して完全に動きを停止させる。
 
 タタリが非常に面倒臭そうに鎖を辿って見てみれば、必死に鎖を引っ張る機械仕掛けの龍とリュウコの姿があった。

「タタリちゃん……! 流石に駄目だって! 抑えてー!」
「リュウコちゃん、離してくださいー!」
「タタリ、ソルシエラは味方だ。食べるな。頼む」

 前と後ろからそう言われたタタリはしょんぼりとして肩をすくめる。

 そんな姿を見て、ソルシエラは微笑むとミズヒを追い越しタタリの前に立った。

「ふふっ、今日はこれで我慢なさい」

 そう言ってグレープ味のキャンディをタタリの口に放り込む。

「こっこれは……!」

 ソルシエラの魔力がたっぷり込められたそれは、タタリの飢えを満たすには十分すぎるものだった。
 完全に戦う気を無くしたタタリは両頬を抑えて笑顔になる。

「このまろやかで柔らかい舌触り……。なんて丁寧に練られた魔力なんでしょうー。舐めれば舐める程に旨味が溶け出してきますー。濃厚であるはずなのに、のど越しも良く後味もスッキリしている。これは……最上級ですよー!」
「いいから、座ってー! バルティウス、鎖巻いて! もっと巻いて今のうちに! そのまま椅子に縛り付けちゃって!」

 笑顔で立ち尽くすタタリは、バルティウスにずるずると引っ張られていきやがて無抵抗のまま椅子に縛り上げられた。
 その間も、タタリはうわ言のようにソルシエラの魔力入りキャンディのレビューをしている。

 ミズヒは、そんなタタリの隣へとすぐに戻った。
 当然、監視するためである。

「ハッ、アイツらのやり合う所を見たかったがなァ」
「はぁ……楽しんでたの六波羅さんだけだよ。私、メッチャ焦ったっての。ミズヒちゃん、ありがとう」
「構わない。私も助かった。ソルシエラも、大丈夫だったか?」
「大丈夫よ。まったく、貴女は心配性ね」

 そう答えるソルシエラの表情は、心なしか穏やかであった。
 しかし、彼女は壁に寄り掛かったまま、席に着く素振りは見せない。

「どうした、座らないのか?」

 ミズヒの問いに、ソルシエラは肩をすくめて言った。
 
「馴れ合いは嫌いと言ったはずよ」






 




 六波羅さんがあまりにもナイスアシストすぎる。
 正直、タタリちゃんに先を越された時はもう帰ろうかと思った。

『良かったねぇ』

 うん!

『だが、わざわざ会議に参加する意味はないだろう。この場にいる人間と手を組むよりも私達で動いたほうが効率が良い』

 カメ君、俺はここにミステリアスムーブをしに来ただけだ。
 会議に参加はしないよ。

『迷惑では?』

 マジレスばっかりのカメ君を放って、俺は言う。

「一つ、忠告してあげるわ。これは、第四の天使の仕業よ」

 その言葉に、Sランクの皆はそれぞれ反応をした。

「てっ、天使!? 私戦いたくないんだけど……!」
「天使……じゅるり」
「へェ、ようやく本格的に天使と遊べるのかァ」
「ふむ、次こそは足を引っ張らないようにしよう」

 流石はSランクである。
 全員やる気だった。

 ……それに比べてリュウコ! なんだお前は!
 Sランクなのに、バルティウスとかいうクソつよ異能持ってるのに! 

 君には厄災との戦いでラスボスのいる場所までトウラク君を連れていく役割りがあるだろうが!
 そんな事でどうするんだ! 原作の君はもっとカッコよかったぞ!

『一方的な印象の押しつけが凄い』
『たまに相棒は厄介になるんだよねぇ』

 厄介じゃない。
 原作愛だよ。

 みーんな大好き♥

 大好きだから、今回の事件に関して色々教えちゃう♥
 
「けれど、今回の事件は通常の天使とは違う。……恐らく、銀の黄昏が絡んでいるわ」

 久しぶりに、原作読破勢の全知をお見せしよう。

『全知?』

 疑問を持つな。

 今回の事件は、原作でトウラク君の偽物が出現した話が恐らく関係あるだろう。
 天使を倒し、めきめきと力を付けるトウラク君を見てマズいと判断した銀の黄昏。
 彼等は、デモンズギア使いに悪印象を持たせるために天使と手を組んだのである。

 そうして爆誕した偽トウラク君を倒すために、生徒たちから逃げながらクローマの学区を奔走する。
 それがクローマ編である。

 ここのラストでのミハヤちゃんとトウラク君で花火を見るシーンが良くてね……。
 皆の見せ場もあるし、最高。
 それ以降、お辛いバトルばかりだから、余計にここが染みるんだ……。

 そして、そんな偽者を作る為に天使との交渉役に選ばれたのが指揮者である。
 コイツですよ今回の黒幕!(ネタバレ)

『だが、君の知る未来とは随分と違うようだが? 本当にそうなのかい?』

 クローマで偽者事件ならそうでしょ。
 たぶん。

『そんなフワフワの根拠で提供して良い情報じゃないだろ』

 うるさいやい。
 とにかく指揮者! 指揮者が悪いの!

「銀の黄昏ねェ……おかしな話じゃねェ。タタリ、てめェは俺の後任だろ。どう思う」
「私も銀の黄昏が関係していると思いますー。それに、既に銀の黄昏は第一の天使を手に入れていますからー。今回の第四の天使も入手しているとしてもおかしくはないですよー。今回の事件は、あくまで天使の性能テスト、そう捉えることも出来るかもしれませんねー」

 いいぞ、頭の良い人たちが勝手に理論を組み上げていく……!
 ありがとう、頭の良い人たち!

『もし間違ってたら君、とんでもなく恥かくけどね』

 大丈夫だよ。
 犯人がだれであっても、「コイツが銀の黄昏のメンバーの指揮者っす」って言って差し出すから。
 ぶっ殺して差し出すからさ。

 死人に口なしってなぁ!

『……思ったのだが、マイロード。君は善人ではないな?』
『何を今さら。相棒の需要と世間の定義する正義がたまたま同じなだけだよ。相棒はずっと欲望に忠実だ』

 夢に真っすぐって言ってくれよ。
 
「忠告はした。後は貴女達の好きになさい」

 俺はそう言って転移魔法陣を展開する。
 
 ミステリアス美少女は会議に参加しないし、これ以上の情報はベラベラ喋らないの。
 すぐに夜闇に消えようねぇ。

 そうして、真夜中の偽者狩りに行こうねぇ^^

『砂で無感情ソルシエラ作りたーい^^』

 駄目だって言ってんだろ。

『マイロード、夜更かしは体に良くないぞ』

 君だけ毎回別ベクトルにおかしいのやめてくれない?

「ま、待ってくれ。ソルシエラ、協力しないか?」

 ミズヒ先輩がそう言って俺を呼び止める。
 この人にとって俺は頼もしい味方に見えているのだろう。

 だが! ミステリアス美少女はそんなホイホイ手を貸す存在じゃない。

「協力なんてするわけないじゃない」
「……そうか」

 利害の一致で一時的な共闘。
 これこそ、ミステリアス美少女の美しき参戦理由だ。

「ふふっ、それじゃあね。次は……戦場で会いましょう」
「あァ」
「次こそメインディッシュですねー!」
「あ、私は勘弁して下さい……。お吸い物セット上げますから……」

 リュウコちゃん、それ余ったコラボ商品じゃない?

 滅茶苦茶ツッコミしたいが、ミステリアス美少女はそんな事はしない。
 そういうのは、スピンオフのキャラ崩壊四コマ漫画だけだ。

『ゆるい絵柄のソルシエラ。可愛いねぇ^^』
『ロリキャラ回を所望する』

 するな。

 俺は、無駄に魔力の羽を舞い散らしながら、その場から消え去った。
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