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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第197話 ワイワイ強キャラ大集合

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ヒカリちゃんと俺は、どうやら会議に参加できないらしい。
 まあ、言ってしまえば一般生徒なので、当然ではある。

 なので、俺達はホテルに先んじて戻ってきていた。

「ベッドー!」

 ヒカリちゃんがベッドにダイブする。
 ベッドで何度か跳ねたヒカリちゃんは、そのままスヤスヤと寝息を立て始めた。

「えっ、……ヒカリちゃん?」
「んむぅ――ハッ、まだ寝ていません! 歯磨きして、それからシャワーで汗を流して……」

 ふらふらと起き上がったヒカリちゃんは、目をカッと開きながら俺にそう言った。
 明らかに眠そうである。

「シャワー、先に浴びます……」
「う、うん。気をつけて」

 ヒカリちゃんはそう言って部屋に備え付けのシャワールームへと向かう。
 俺の事を美少女だと信じているので、行動に躊躇が無かった。

 が、それは駄目だ。
 そもそも、美少女二人と一緒の部屋に泊まって良いわけがない。
 ミズヒ先輩は俺を全面的に信頼しすぎているし、ヒカリちゃんは俺を同性だと思っている。

 受け入れてくれるのはありがたい限りだが、まだ俺には早い。
 俺はまだ見習い美少女。

 ここで泊まる訳にはいかない。
 当初の予定では深夜に部屋を抜け出し、夜闇を駆けて偽者狩りをするはずだった。

 けれど、事情が変わった。
 何より今は、会議に参加したーい!

『ソルシエラのかっこいいCGが来るのかい!?』
『CG……?』

 カメ君、人は皆心にギャルゲーシステムを持っている。
 クイックロードやセーブ、そしてCG閲覧やメッセージウィンドウの消去など。

 それらを駆使して、君だけのソルシエライベントを作るんだ。

『……?? すまないマイロード。急に言語機能が壊れたようだ。もう一度言ってくれ』

 君だけのアペンドディスクを作ろう!

『壊れていたのはマイロードの方だったか』
『全年齢版しか出していないのが唯一の不満だねぇ』
『こっちも壊れている……?』

 壊れてないよ^^

 いつかカメ君にもわかる筈だ。
 と、言う訳でいつの間にか会議に参加していた強キャラムーブをします。

 意味深ワードをまき散らして場を盛り上げよう。

『生粋のエンターテイナーだねぇ^^』
『迷惑では?』

 ソルシエラの偽者が出ているのに、本人不在はおかしいだろ!
 俺もSランクだし、会議に出ても問題はない筈だ。

『マイロード、難しい話は皆に任せて君もシャワーを浴びるべきだ。そして歯磨きをして寝よう。大丈夫だ。今日の読み聞かせはマイロードの好きな本だ』

 常識人と奇人を行ったり来たりするな。
 どっちなんだ君は。

『????』
『いや、君だよ。不思議そうにしないで欲しいねぇ』

 やっぱりやべー奴しかいねえや。

 変態にかまってたら会議に遅れちゃう。
 急いで行かないと!

 いっけなーい!遅刻遅刻ー!

「ヒカリ、私は野暮用を片付けてくるわ」

 俺はソルシエラとして、扉の前からそう話しかける。
 すると、すぐに返事があった。

「……ふぁ~、はーい」
「ふふっ、今日はお疲れ様。中々に良い仕事ぶりだったわ」
「そうでしょうか。えへへ……お役に立てたなら何よりです……」

 声色だけでもヒカリちゃんが笑顔なのが伝わってきた。

『この扉の向こうに一糸纏わぬヒカリちゃんがいるんだねぇ^^』

 そういうのは良くないよ。

『すまなかった……』
『線引きが分からない』

 ここで興奮するのは違う。
 だって、それはソルシエラじゃないから。

 仮にここで興奮するなら、俺は腹を大鎌で搔っ捌いて死ぬ。
 搔っ捌いた後に爆発して死ぬ。

『ひぇっ』
『成程、それが貴女の武士道か。感服したぞマイロード』
『いやたぶん違うと思うぞ』

 俺に出来ることと言えば、ご褒美のレモンキャンディーをそっと一つ置いていく事くらい。

「それじゃあ、後はゆっくり休みなさい」
「はい、ありがとうございます!」

 俺は至って凪のような心で、部屋を後にする。
 美少女のシャワーで興奮するなど、あってはいけない。

『本当に脈が乱れていない……!?』
『マイロード、君は人なのか?』

 俺は見習い美少女だよ。

 さあ、会議に行こうねぇ。
 そして、ソルシエラの偽者を倒して調子に乗ってるリュウコちゃんをビビらせる^^

『わぁい^^』
『なぜあの子だけそんな扱いなんだ……』



 ■

 
 

 クローマ音楽院の会議室は、装飾も相まってまるで一つの美術館のようだった。

 職人が一つ一つ丁寧に作り上げた椅子やテーブルに、数十億の価値がある画、なにより一国を左右する金額の聖遺物が装飾として使われている。

 聖遺物に、道具以外の利用価値を見出す。
 その名目で何代も前の生徒会が作り上げたこのトンチキ会議室は今まさにその扉を開いていた。

 集うは、いずれも最強の名を冠する者。
 この場に相応しい力と経歴を持つ王者たちによる会議の始まりだった。

「――うわぁ、リーダーあそこの天井の宝石持って帰りましょう。この椅子とか、削ったカスでも売れそうじゃないですか? 私の事星穿にしていいですから、削りません?」
「駄目に決まってんだろ」
「ダイヤ生徒会長、やっぱ私帰ってもいいですか? ……あ、駄目ですかそうですか。いやでも、レイちゃんは私がいないと寝れなくて。……え? クローマ最高峰のスイートルームでぐっすり寝てる? あ、はい。じゃあ、えっと……うん、なんでも、ないです……うん」
「ケイとヒカリは無事帰れただろうか……心配だ……。あ、ミロクへの定期連絡を忘れていた」

 いずれも最強の名を冠する者。
 ただ、この場で真面目な顔をした者は誰一人いなかった。

 頂点故に、縛られることなく各々が好き勝手な行動を始めている。
 いや、正確には六波羅だけはこの会議を開いた主を見ていた。
 当然、その右手はエイナの首根っこを掴んでいるが。

「――今宵は、お集まりいただき感謝いたしますわ」

 最強達に囲まれても、尚も存在感を発揮するロイヤルな少女はそう言った。
 その顔には優雅な微笑みを浮かべており、一人紅茶を飲んでいる。

「ダイヤ生徒会長こっちに座らないですか? そんな、一人だけお誕生日席だなんて」
「……渡雷リュウコ。貴女が昼に使った百鬼夜行は、報告書が必要でしたわね。後で、きっちり五十枚分の報告書をお願いいたしますわ」
「なんでー!」

 余計なことを言うSランクはこうなる。
 リュウコを見せしめにしたダイヤは、一呼吸置いて言った。

「では、早速会議を始めます。と言っても、これはクローマ音楽院からの救援要請になるのですが」

 その言葉に六波羅は頷く。

「明後日には本祭だからなァ。そんな状況であんなのがウヨウヨいたら間違いなく大問題だ。俺は理事会の子飼いとしてそれを受けるぜ。テメエはどうだ」

 六波羅にそう声を掛けられたミズヒは迷うことなく首肯した。

「当然、手を貸そう。フェクトム総合学園にとっても初めてのヒノツチ文化大祭だ。台無しにされるわけにはいかない。それに、トアの仇でもある」
「っつー訳だ」
「え、私は? 私の意志は?」
「テメエはクローマのSランクなんだから問答無用で参加だろ」

 リュウコはその言葉に、がっくりと項垂れる。
 そして、拡張領域からお菓子を取り出すと食べ始めた。
 落ち込んでいる割には、意外と余裕そうである。

「あー、いいなぁ」
「エイナちゃんも食べる?」
「ありがとうございますぅ!」

 机の上に出された駄菓子にエイナが手を伸ばしたその瞬間、影が駄菓子を飲み込む。
 その光景を見て、エイナはすぐに六波羅の背中に張り付いて叫んだ。

「ひぃぃ! リーダー! 出ましたよ、アイツですぅ!」
「最初からいただろ。何ビビってんだ、お前」
「いたなら教えてくださいよぉ……」

 涙目のエイナの前で、影から一人の少女が現れる。
 黒い髪の凛とした少女は、ミズヒの隣の席に座ると笑顔を向けた。

「ミズヒちゃん、こんばんわ」
「ああ、タタリか。……すまない、今は何も食べ物を持ち合わせていないんだ」
「大丈夫ですよ。私、道中沢山食べてきたので。レトルトのソルシエラってあんな感じなんですねぇ」

 満足げに頷きながら、タタリは駄菓子を食べる。
 
 その姿にSランクメンバーは誰一人として驚いていなかった。
 驚いているのは、エイナとダイヤだけである。

「な、なんで皆さんそんな冷静に……」
「まあ、タタリちゃんはどこにでもいるし。今回とか、絶対もういると思ったよ」
「それに、文化大祭は出店も多いからなァ。食いしん坊がクローマにいるのは毎年の事だ。いい加減慣れろ」
「えぇ……」
「ダイヤ生徒会長、この人たちの感覚がおかしいだけですからね。私達の感覚が正しいですからぁ」

 Sランクが気軽にひょっこり現れる事に慣れている六波羅達が間違いなく異常なのだ。

「で、では、改めて。皆様、今回のヒノツチ文化大祭の防衛作戦に協力してくれるという事でよろしいでしょうか。その、タタリさんも……?」
「食べ放題プランですねー」

 ダイヤの言葉に、各々頷く。
 と、その時だった。

「――そのままずっと見物決め込んでいるつもりかよ」

 唐突に、六波羅がそう呟く。
 するとその背後の空間が歪み黒い羽が舞った。

「っ、貴女は!」

 ダイヤ生徒会長が、思わず立ち上がる。

「たまには、仲良くSランク同士馴れ合おうぜ」
「……はぁ、馴れ合いは嫌いよ。星は孤独だからこそ輝く。そうでしょう?」

 大鎌を傍らに置き、壁に背を預ける少女。 
 蒼銀の髪に黒い衣装――それは間違いなく本物のソルシエラであった。

 
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