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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第194話 オドオド目隠れ待ち合わせ

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 夜!!!
 草木も良い子もスヤスヤ眠る20時!

 まあクローマはずっとお祭りムードだからまだどこも騒がしいけどね!
 24時間ずっとこうだけどね!

 けれどそんな事は俺達には関係ない!!

『うおおおおお! 偽者を殺せー!』
『急に騒ぐ必要はあるのか? 冷静に対処するべきだろう。それともう20時なのだから歯磨きしてお布団に入るのだマイロード。おっきくなれないぞ?』

 ふえぇぇ、まともかと思ったら別ベクトルでやばいよぉ><

『安心するんだ。私も一緒に眠ってやる』
『は? この子の両隣は私だが?』
『物理的に不可能だろ』

 変態同士でバチバチやっている間に、さっさと真面目モードになるぞ!

 六波羅さんとエイナちゃんと別れた後、俺は普通にヒカリちゃんと遊んだ。

 ヒカリちゃんに振り回されるソルシエラのイベント自給自足により、既に魔力は充電完了。
 いつでも偽者をフルボッコに出来る所存である。

「ここで待ち合わせなのだが」

 ミズヒ先輩の後に続いて、俺達はとあるステージ裏に来ていた。
 ここはトアちゃんが襲われた場所であり、これから来るクローマ側の調査班との合流地点になっている。

「んむぅ……ふぁ」
「ヒカリちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。寝ない様にホットミルク飲んできたので」
「追い打ちじゃない?」

 ヒカリちゃんは眠そうに目を擦りながらサムズアップする。
 スイッチのオンオフが激しいヒカリちゃんには夜の調査は不向きすぎる。

 どれどれ、ミステリアス美少女が飴をあげようねぇ^^
 俺はいつ何時でも少年少女の脳を焼ける様に飴を持っているんだ。

 憧れのお姉ちゃんから貰った飴……いいよね。

『ソウゴ、待っていたまえ^^』

 星詠みの杖君が既にターゲットをロックオンしてやがる。
 もしもヒノツチ文化大祭で出会ったらまたゴリゴリに性癖をぶっ壊してやろう。

「飴、舐める?」
「ありがとうございます! あ、レモン味はありますか?」
「はい、どうぞ」
「やったー!」

 ヒカリちゃんは飴を口に放り込み、満面の笑みでニコニコと体を揺らす。
 そんな彼女を見ていると、頬が自然と緩んでいった。

 ミズヒ先輩もそれは同じようで、少し前までは緊張していた様子だったが今はマシになっている。
 ソルシエラの偽者と戦うことになるかもしれないともなれば当然だろうか。

「ここで20時に待ち合わせなんですよね」
「ああ。確か、渡雷リュウコとクローマの教師が来ると言ってたのだが……」
「リュウコちゃんですか。一度、あの人には助けて貰いました。とても頼りになる人ですよ」
「そうなのか。実は私はまだ実際に顔を合わせたことが無くてな。……なぜか少し前に連絡先だけ送られてきたのだが」

 たしか、連絡先がどうこうとか、レイちゃんクローン事件の時に言ってた気がする。
 ミズヒ先輩がこれからどんどんリュウコちゃんの扱いが雑になっていくと思うと楽しみだね!

「あっ、あの人じゃないですか?」

 ヒカリちゃんが指さした方向を見れば、そこには美少女がいた。

「あ、あの……えっとフェクトム総合学園の生徒さん達、ですね?」

 ッッッッ!?
 データベースに存在しない美少女のご登場だッ!
 皆、対ショック体勢!

『くっ!?』
『え? ……え? 何を言っているのだマイロード』

 美少女は大きく陰と陽に分けられる。
 この考え方が、古く美少女三千年の歴史のある国から、我が美少女出ずる国へ伝わった文化の一つであることは皆の知るところだろう。

『勿論』
『架空の国から架空の国へ、架空の変な物が渡された?』

 カメ君、お前後で補習な。

『えっ』

 さて、そんな美少女の陰と陽に照らし合わせれば、目の前の美少女はどう見ても陰であった。
 当然悪い意味ではない。
 どこか落ち着く物静かな雰囲気は古びた図書館が良く似合う。

 黒い髪は少し荒れてぼさぼさであり、しかしそれが親しみやすさを感じさせた。
 そして何より……目隠れだッ!

『―新しい実績が解除されました―』
『なんだこのアナウンスは』

 全てが完璧に纏まっているそれは、バランスを追及したが故の美少女。
 高級フレンチではなく、大衆食堂の親しみの味。

 この「コイツの魅力に気付いてるのは俺くらいだろ……」感は狙って出せるものではない。
 素晴らしい美少女よ、貴女の名前をお聞かせください。 

「あっ、すみません自己紹介が先でした。わ、私は溝呂木コガレです。クローマではダンジョン攻略を教えています。その、一応、先生……です」

 自己紹介の間に自信を無くしたのか、どんどん言葉が尻すぼみになっていく。
 コガレ先生……これは、思春期の男子生徒の脳が危ないぞ!
 
 目隠れ黒髪引っ込み思案年上教師概念に、男子生徒は弱いんだ!

『限定的すぎないだろうか』
『放課後に特別授業をして貰おうねぇ^^』

 そのイベントで一瞬見える綺麗な目がさらに脳の奥に焼き付くんだ。

『待て、私を置いて二人でいかないでくれ』

 俺達は待たないぞ。
 付いてこい。

『早くこっちのステージに来いよ、天使^^』

 星詠みの杖君は今日も絶好調である。
 
 それはそうと、古時計の音が響く部屋で膝枕をするコガレ先生の姿は、恐らく既にどこかの国で宗教画として保管されているだろう。
 
『コガレによる癒しの耳かきボイス!?』
『念のため聞くが、初対面か? なんであっただけでそこまでの無い話を生み出せるんだ?』

 美少女がいるなら、そこには確かに「在る」んだよ。
 目ではなく、美少女の輝きを理解しろ。
 見るのではなく感じろ。

 風を掴むように、美少女の本質に触れるのだ。

『??????』

「コガレ先生、よろしくお願いします。私はフェクトム総合学園の生徒会副会長、照上ミズヒです。そしてこっちが那滝ケイ、八束ヒカリ」
「よろしくお願いしますねっ!」
「よろしくお願いします、コガレ先生」

 俺とヒカリちゃんは頭を下げる。
 すると、コガレ先生は俺達に慌てて頭を下げ返してきた。

 そんなにオドオドしなくても大丈夫だよ。
 獲って食べたりしないから^^

「あ、あの那滝……って、もしかして那滝家のご子息ですか?」

 コガレ先生が恐る恐るそう聞いてきた。

 そうか、教師的には金持ちのボンボンの相手はしたくないか。
 顔色伺いながらの仕事は疲れるもんね。

 どうせもう那滝家と関わることは無いのだから、きっぱりと宣言しておこう。

「いいえ、俺はもう……あの家とは関係ないです」
「そ、そうですか」
「ケイ……」

 ミズヒ先輩がなぜか悲しそうな顔をしている。
 金持ちとの繋がりはあったほうがやはり嬉しいのだろうか。

 でも心配しなくてもフェクトム総合学園の財政はもう立ち直っているので問題はない。

「あ、そう言えば渡雷リュウコちゃんはどうしたんですか? 一緒に来るって聞いていたんですけど」

 ヒカリちゃんがそう声を上げる。
 それを聞いたコガレ先生は、ハッとして再び頭を下げた。

「ごめんなさい! 渡雷さんは、遅れてくるそうです。シンプルに寝坊したみたいで」
「そうですか。まあ、怪我などでは無くて良かったです」

 ミズヒ先輩の言葉にコガレ先生がさらにペコペコと頭を下げる。
 こうしてみるとどっちが教師かわからんな。

「で、では、渡雷さんが来る前に今回の調査について認識のすり合わせをしておきましょうか」

 そう言ってコガレ先生は拡張領域から紙を取り出し、俺達に渡してきた。
 
 どうやらそれは、ヒノツチ文化大祭当日の警備ルートらしい。

「ソルシエラが目撃されたルートはいずれも文化大祭当日の警備ルートと重なっていました。正確には、展示される数々の聖遺物の近くと言えば良いでしょうか。月宮トアさんが襲われたのも、当日に聖遺物を展示するための特設ステージの裏。いずれも、聖遺物の傍にソルシエラは現れています」
「……つまり、クローマ側はソルシエラが聖遺物を狙っている可能性が高いと」
「はい。ただ……」

 コガレ先生は困った様に肩を落とす。

「今日の夕方、騎双学園から執行官が来まして……。ソルシエラを騙った偽者が聖遺物とは別目的で動いている可能性が高いとおっしゃってきたんです。あの人、怖かった……」

 絶対六波羅さんだ……。

「なので、今日はソルシエラがそもそも本物なのか。そして、その目的を少しでも明確にすることが狙いです。と、言っても会えるかわからないですけど」

 まあ、会ったら偽者は即殺すけどね。

『辞世の句を読む権利すら与えないつもりだ』

「突然の事なので、私どもから言えることはこれだけなんです。すみません……」
「そんな、十分すぎます。こうして調査の権利を与えてくれるだけもありがたいですよ。もしもソルシエラに会ったら私に任せてください」

 そう言ってミズヒ先輩は銃を召喚して構えた。

「これでも、Sランクの肩書きを背負った身。負けるわけにはいきません」
「なんて頼もしいSランク……! 寝坊して、ガッサガサの声で連絡してきた渡雷さんとは大違い……!」

 リュウコちゃん……先生からもこんな扱いなんだ……。

「それで、このまま待つんですか? 私、ちょっと飛んで回り見て来ても良いですけど」

 そう言ってヒカリちゃんが手を上げる。
 それに対してコガレ先生が首を振ったその時だった。

「いえ、渡雷さんの到着を待ちましょう。ソルシエラの狙いが聖遺物ならばもう一度ここに来てもおかしくは「――来たな」……え?」

 最初に臨戦体勢に入ったのはミズヒ先輩だった。
 それに倣うように俺は短刀を、ヒカリちゃんは光翼を展開する。

 俺達の視線の先には、ソレがいた。
 
 夜風に蒼銀の髪を揺らす、物憂げな顔の少女。

 名をソルシエラ。
 本来現れるはずがない少女が、確かに存在している。

『相棒、確かにあれはソルシエラだ』
『ふむ、考察通りか。マイロード、注意したまえ』

 デモンズギアと天使からの言葉は、この場の何よりも信用に値する。
 俺は短刀を構えたままコガレ先生を庇うように立った。

「えっ、本当に来ちゃった!? ど、どどど、どうしよう! ネイ先輩も渡雷さんも生徒会長もいないのにぃ!」

 わたわたと慌てるコガレ先生を落ち着かせる余裕などある訳もない。
 肌を刺すような殺気は、目の前のソルシエラによって発せられているのだから。

「ケイ、ヒカリ、死ぬ気でかかれ。偽者でも本物でも、あれが怪物であることに代わりはない」
「はいっ!」
「わかりました」

 俺達を前に、ソルシエラは涼しげな顔で大鎌を構える。
 そして、端的に言った。

「聖域使いを出せ」

 それ以上は語る言葉を持ち合わせていないとでも言わんばかりに、ソルシエラは口を閉じる。 

「……いくぞ」

 ミズヒ先輩の言葉を合図に俺達は駆け出した。
 
 未だ周囲は騒がしく楽し気な声が響く。
 色とりどりのライトが学区内を照らし、生徒たちが思い思いに叫び歌う。

 そんな混沌とした自由の支配するクローマの片隅、戦いの火蓋が切られた。

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