かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

文字の大きさ
上 下
197 / 255
七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第193話 ワクワク蠢く変質者

しおりを挟む
「騎双学園とフェクトム総合学園から、Sランクが派遣されたようだな」

 クローマに数多く存在する構造上の空白。
 その一部に作られた地下室に二人はいた。

「あくまで今回の君の役割りは時間稼ぎだ。それを理解しておくことだな――指揮者」

 博士の一個体であるその女子生徒は、それに向けてそう言った。
 対して、それは返事をすることなくモニターに齧りついている。
 
 
指揮者のヘッドフォンから漏れ出す音は、楽し気な音楽が流れていた。

「おい、聞いているのか」

 博士の問いに指揮者は答えない。
 ただ、ギラギラとした目でモニターの映像を食い入るように見ていた。

(これだから指揮者は……。やはり銀の黄昏には加入させたくはないな。あまりにも欲望に忠実すぎる)

 自身の夢の実現の為であれば、博士や教授に勝るとも劣らない躊躇の無さ。
 無慈悲に、そして感情のままに己を貫く。

 それこそが、指揮者を指揮者たらしめる根源であった。

(これでもう少し、社交的であれば良いのだが。……いや、それは質が悪すぎるか)

 博士は適当な椅子に座る。
 そして指揮者のそれが終わるまで待とうとしたその時だった。

「その椅子に座らないでください」

 指揮者はたった今腰を下ろしたばかりの博士に向けてそう言った。
 その眼は、瞬き一つなく博士を見つめている。

 くっきりと浮かび上がった目の下の隈が、指揮者の異常性を訴えていた。

「その椅子は、あの方のサイン入り限定版です。お前が座る事は許されません」
「随分と偉そうだな。私に指図するとは」
「立てッ! それは鑑賞用の椅子だッ!」

 博士はその言葉に敢えて椅子に深く座りなおし、脚を組む。
 その瞬間、博士の周囲に魔法陣が展開。

 飛び出してきたのは、銀の鎖であった。

「……ぎっ!? お、おいおい、冗談が通じないのか? クローマの人間がユーモアも理解できないとはな」
「黙れ、私は立ちなさいと言った筈です」

 鎖が博士を縛り上げ、無理矢理椅子から引きはがす。
 そして床へと放り投げた。

「っ、随分と好き勝手するじゃないか」

 博士は起き上がり、等分された死を召喚しようとして、止めた。

 指揮者の傍に立つ少女を見て、今の自分に勝ち目がない事を悟ったのだ。

 蒼銀の髪に黒い衣装。
 脈動する漆黒の大鎌は、死神を彷彿とさせる。

 間違いなく、そこにいるのはソルシエラであった。

(厄介な奴に渡ったものだ。第四の天使の力が)

 第三の天使による人との契約は、一度は星詠みを殺すという充分な結果を得ている。
 それを観測した次の天使が、再び人と契約するのは当然の事であった。

(何を基準に選んだのかは分からない。けれど)

 天使が人間を選ぶ基準はいまだ不明である。
 が、それでも指揮者が選ばれたのは確かであった。
 そして、それがどれだけ厄介な事であるのか。

(憧れに身を焼く愚か者め。いずれお前に待つのは破滅だぞ)

 博士は言葉に出さず、そう毒づく。
 指揮者はその姿を見下ろして、ハッとしたように言った。

「間もなく、本日最後の公演が始まります。行かなくてはなりません」

 指揮者の言葉にソルシエラは博士へと転移魔法陣を展開させる。
 その場で優先されるのは指揮者の意思であり、それ以外の全ての事に意味はなかった。

「出ていきなさい、博士。私はこれから公演に行きます。計画は遂行しますので安心してください」
「……何度も言うが、足止めだぞ。Sランクをここに釘付けにしろ」

 その言葉を最後に博士が転移により消え去る。
 指揮者は返事をすることなく出かける準備を始めた。

 気分が良いのか、指揮者の鼻歌が部屋に響き渡る。

「では、貴女もいつも通りに暴れてください」

 指揮者がそう言うと、ソルシエラは頷き、転移魔法陣の中へ消えていった。

「間もなくです。……間もなく、世界は貴女を理解するでしょう」

 指揮者は恍惚とした笑みを浮かべる。
 そして、無数に存在するモニターの全てに映ったその女性を見て、その名を呼んだ。

「ネイ様……」











 御景学園の生徒会室に呼ばれたトウラクとルトラ、そしてミハヤの表情は固かった。
 目の前で座る青年を見ると、どうしてもその胡散臭さから警戒してしまうのだ。

 例え、高価なライブチケットを貰ってもである。

「……これで僕達は何をすれば良いのですか?」
「え? いや、別に。ただ、楽しんでほしいなと思ってね。ほら、ヒノツチ文化大祭まであと少しだろう。先んじて足を運んで来なよ。視察というの名の観光でもさ」
「つまり、斥候」

 ルトラの言葉に胡散臭い青年ユキヒラは首を横に振った。
 そして、三人の持つチケットをそれぞれ指さして言う。

「それは、僕の自費で買ったものだ。君たちには、特に迷惑を掛けているからね。だから、羽を伸ばしてくるといい」
「良いのですか?」
「大丈夫さ、君たちがいない間の書類整理はリンカがやる。これは彼女からの提案でもあるからね気にせず楽しむといい」
「そうですか。ありがとうございます」

 ミハヤは礼を言って、内心でホッと胸を撫で下ろす。
 トウラクと共に呼ばれた時点で何かしらの任務だと思っていたのだが、嬉しい誤算であった。

「クローマの前夜祭は派手で面白いよ。ルトラちゃんも楽しんで来ると良い」
「うん、ありがとう」

 ユキヒラにぺこりと頭を下げるルトラ。
 その姿を見て、トウラクは頬を緩めた。

 そんな彼等を見て、ユキヒラは「ただ」と言葉を続ける。

「今のクローマは妙に騒がしい。一応、気をつける様に。と言っても、ダイヤ生徒会長がいるし、あと一応リュウコもいるし大丈夫だろうけど」
「リュウコ……確か、Sランクですよね。私、意外と見た事ないかも」
「メディアへの露出は恥ずかしいからって、あんまり出たがらないんだよ、あの子」

 ユキヒラはそう言って笑う。

「けど、強いよ。頼りになる。君たちに伝わるように言うなら、あの六波羅に何度も勝ったことがある、と言えば良いかな」
「……確か、六波羅さんも同じことを言っていましたね。リュウコさん、一体どんな人なんだ……!」

 トウラクは身震いする。
 その中に、戦いたいという願望が混じっていることに本人は気が付いていない。

「普通の子だよ普通の。まぁ、僕個人としては、ダイヤ生徒会長の方が頼りになると思うよ。だから、もしも困ったらダイヤ生徒会長を頼るといい」
「その人はどんな人なんですか?」
「うーん、難しいな。……ロイヤル?」

 ユキヒラの言葉に三人は首を傾げる。
 がユキヒラは変わらずもう一度だけ「ロイヤル」と言っただけだった。

「とりあえず、行っておいで。楽しんで」
「わかりました。ありがとうございます」

 トウラク達はもう一度頭を下げて生徒会室を後にした。

 その後、ユキヒラはPCのモニターを見て笑みを浮かべる。
 
(六波羅には手を出すなって言われているけど。たまたま遊びに行った先で巻き込まれたならしょうがないよね。うん、しょうがない)

 クローマの校舎の上。
 大鎌を構えた少女の姿が映像に映りこんでいた。

「偽者……だろうけど、少しだけ遊んでみようか」

 ユキヒラはそう言って楽し気に椅子に体を預ける。
 そして、アイマスクをすると間もなく寝息を立て始めた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...