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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第191話 ガヤガヤ人混みレイドボス
しおりを挟むヒノツチ文化大祭は、三日掛けてクローマ音楽院で行われる一大イベントである。
元は、探索者という存在が人間にとって無害かつ、有益な存在であると示すための政府主導の一種のプロパガンダだった。
が、時は流れ学生たちによる派手なお祭りへと様変わりしている。
今は、前夜祭と後夜祭の名目で実質五日間も祭が行われる程だ。
その前夜祭まで残り二日となった今、クローマ音楽院は以前来た時よりも騒々しい。
俺達は到着して早々、観光区のちょっとお高いホテルにチェックインをして部屋に荷物を置きに行くことにした。
今までなら考えられないことだが、今俺達の学園にはSランク様がいるので何も問題はない。
「ミズヒ先輩のおかげで泊まる場所は文化大祭の間は考えなくてよさそうですね」
「ああ。このシーズンでもホテルは理事会が融通してくれているからな。こんな高いホテルでも問題ない」
「うっわああ! ベッドがメッチャデカいー!」
ヒカリちゃんがベッドにダイブする。
そしてリュックを降ろし「ここがいいです!」と場所の主張をした。
好きな場所でいいよ^^
なんなら俺は床で寝るからね^^
「場所は好きにするといい。ケイも好きな場所を選べ」
「ありがとうございます」
ミズヒ先輩の視線は、そう言いつつも一番窓際のベッドに向けられている。
こういう時、クールに気を利かせるのがミステリアス美少女だ。
「じゃあ、こっちの扉側で」
「む、そうか」
見て見て! ちょっと嬉しそうだよ! 可愛いね!
『可愛いねぇ^^』
『でも敵には容赦ないから注意しろ。奴は遊び無しに真っ直ぐ殺しに来るぞ』
その視点での感想君が初めてだよ。
「さて、クローマから派遣される調査班との合流まで一時間はある。今から少しの間は自由時間でいいだろう」
「え、いいんですか!」
「ああ。元々、当初のアルバイトの時点でそうだったからな」
ミズヒ先輩の言う通り、当初はアルバイトのつもりだった。
ヒノツチ文化大祭に、俺達は学園としては参加しない。
あくまでお祭りを運営するスタッフ側である。
といっても少しは遊びたいお年頃。
なので、遊ぶ資金を増やすために、数人が学園代表で先に行き事前のステージ設営などのアルバイトを追加でするのだ。
本来、ミズヒ先輩とトアちゃん、ヒカリちゃんはその為に選出されたメンバーであった。
ちなみにこれは厳正なじゃんけんによって決められている。
が、それも今朝までの話。
今は『偽ソルシエラをフルボッコにし隊』でもあるので、割とその責任は重い。
「じゃあ遊びに行きましょう!」
ヒカリちゃんが財布を握りしめて目を輝かせる。
が、ミズヒ先輩は申し訳なさそうに首を横に振った。
「すまないが、私は遠慮する。……実は、ここ数日まともに睡眠時間を確保できていないんだ。依頼をこなせばこなすほど報酬が貰えるからつい張り切ってしまって。少し、眠らせてくれ」
「そうですか……わかりました!」
最近のミズヒ先輩は基本どこかで理事会の依頼の元戦っていた。
おかげでもりもりフェクトム総合学園の財政が立て直されていくのだが、あまり無理はしないでほしい。
もうソルシエラとして理事会所属もありなのでは?
偽者が出現しているし、ここらで存在感をアピールしてもいい。
というか、俺もSランクの招集に参加したーい!
最強キャラ達の会議に混ざりたーい!
『そんなテンションで行くところではないのでは?』
天使君真面目過ぎだよ、もっと適当でいいんだ。
「じゃあケイ、行きましょう!」
「いいですよ、行きましょうか」
こんな感じで、元気っ娘と共に遊びに行ってもいい。
偽者は見つけ次第殺すが、心にゆとりは持たないとだめだよ。
『ヒカソルだねぇ^^』
ちなみに、ここまでのゆとりは持たなくていいからな?
星詠みの杖君は生物が二人になると勝手にカップリングする掛け算の怪物だから。
『成程、ヒカリとロリシエラか』
何が成程なんだ。
「私、ゴルゴタの丘クレープっての食べたいんですよ!」
なんかトアちゃんがそんなの食べたいって言ってたなぁ。
結局店が氷漬けになってたから食べ損ねたけど。
『あれ確かかなり大きいクレープだったのでは?』
『幼い体では食べきれないかもしれない。マイロード、貴女は小さなクレープにしなさい』
『こぼさないように気をつけるんだよ^^』
なんだお前ら。
■
ホテルを出てすぐの大通りは、以前にも増して人でごった返していた。
いつかこういう場所でのミステリアスムーブもしたい所である。
重要な情報を簡潔に伝えて、人混みの中に消えていく。
みたいな。
すごくいいね。
あと、電車が通り過ぎた後に姿が消えているやつもやりたーい!
「見てください! あそこメッチャ人いますよ! ってことはメッチャ面白い事があるんです!」
人混みの中を、ヒカリちゃんが手を引いてずんずんと進んでいく。
こんな言動と見た目なのに、俺の一個上の先輩っていうのがいいんですよ。
まじ推せる。
あと、おててが柔らかい。
『裁判長!』
俺も女の子だからセーフです^^
『……? なら女の子の恰好をするべきでは?』
『それは違うんだよ』
そうだそうだ、俺は今男装している美少女(TS)をしているんだよ。
だから、男子生徒の恰好で合っているんだ。
『??????』
ミステリアス美少女はこれが基本だからね。
天使君にも慣れてもらわないと困る。
それに、今俺が女装してヒカリちゃんと遊んでいたら、万が一ミズヒ先輩が見た時混乱してしまう。
だから、俺は今は男装美少女ソルシエラとしてヒカリちゃんとこのお出かけを楽しんでいるのである。
『難儀な生き方をしているな』
そんな事ないわよ。
今だってヒカリちゃんのおかげで癒しを常に供給されている。
この子は表情がコロコロ変わるし、明るいから見ていて飽きない。
今日はとっても良い日になりそうわよ!
そして夜には偽者を殺す。
『情緒どうなってんだ』
「ケイ、はぐれない様に私の手を握っていてくださいね! 迷子は怖いですからね!」
「はい」
俺はヒカリちゃんの手を握り、人混みの中をかき分けて進んでいく。
もうこれだけで幸せMaxである。
『魔力が漲っていく……!』
『なぜこれで魔力が?????』
幸せな気持ちでふわふわとヒカリちゃんに手を引かれているが、これは何処に向かっているのだろうか。
人だかりの中に突っ込んでいるのはわかるが。
美少女お菓子屋さん?
人気の美少女パフォーマー?
『美少女は確定なんだねぇ』
当然だ。
これだけの人を集めるなら、それ相応の美少女に決まっている。
さぞ名のある美少女だろう。
俺はヒカリちゃんと一緒に人だかりの中心へと飛び込んだ。
そして。
「――あァ? ……おいおい、あっちから来てくれるとはなァ」
その声を聞いた瞬間、俺はすぐに引き返したくなった。
まだ見てないからセーフ。
あの人がいる可能性といない可能性の二つが存在している。
そして俺はいない可能性を信じてこの場から去ることにした。
余計な思考も言葉も不要。
こんな場所にいられるか! 俺はホテルに戻るぞ!
『あっ、この反応は……』
何かを察した星詠みの杖君がそう言うのとほぼ同時に、ヒカリちゃんが人だかりの出来る原因となった人物を見て声を上げた。
「あ、六波羅執行官! お久しぶりです!」
可能性が確定しちゃった。
俺は恐る恐る振り返る。
そこにはエイナにアイアンクローをかます六波羅さんの姿があった。
「お前は自警団の……久しぶりだなァ。んでもって――」
六波羅さんは俺を見ると、それはそれは嬉しそうに笑う。
「ケイ、会いたかったぜェ……!」
やばいぞ、レイドボスだ!
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