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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第189話 ナゾナゾ偽者奇々怪々

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 人気者には付き物のお約束イベントというものがいくつか存在する。

 俺ことソルシエラに襲来したのは、そんなイベントの一つであった。
 そう、偽者の登場である。

「私の偽者……ね」
「そうなんだ。最近、クローマで頻繁に目撃されているらしくて」

 そう言ってクラムちゃんはダイブギアで展開した動画を俺に見せてきた。

 動画内は夜の街の様で、屋根の上を跳ぶ蒼銀の髪の美少女が映っている。
 衣装や髪もソルシエラと同一のようだ。
 
 星詠みの杖君、君じゃないの?

『違うぞ。私ならソルシエラと0号の関係を仄めかしゼロソル草の根運動をする。が、動画の偽者はそんなことをしていない。あのソルシエラは出来損ないだ、食べられないよ』

 本物も食うんじゃねえよ。

『それに、あの動き方には美学が無い。本当にソルシエラならもっと華麗に、そして見た人の目を惹くような、優美な振る舞いをするはずだ。それと、こんな話題になる程に撮られたりしない!』

 星詠みの杖君の言葉に俺も同意しかない。

 あくまでミステリアスに、そして必要最低限の情報のみを残す。
 これがソルシエラだ。

 それに比べてこのソルシエラはどうだろうか。

 俺のファンが偽者相手にはしゃいで動画を拡散、中には十分以上ソルシエラの姿を捉えた物も存在する。

 これはソルシエラではない。
 見た目は似ているようだが違う。

 それに何より、美少女の輝きが存在しない。
 その時点で美少女に対する侮辱を感じる。

 ソルシエラに憧れた女の子なら、その心に美少女の輝きを宿しているはずなのだ。
 当然男であっても、美少女になる意思があるのなら輝きを感じる。

 それが無いという事は、完全に私利私欲のためにソルシエラを使っているのか、それとも。

「そもそも生き物ではない……?」
「何か知っているんですか! 流石ソルシエラですね!!」
「……ええ、勿論」

 思考が漏れちゃっただけなのだが、どうやら核心をついたみたいになってしまった。
 どうしよう。

『相変わらずお口トロトロだねぇ』

 うるさいやい!
 とにかく誤魔化さないといけないだろう。

 何か適当な嘘を……!

「今回は少し厄介なことになりそう。けれど……ふふっ楽しめそうね」
「ケイ、大丈夫なの? この偽者、話によると貴女と同じ力を使っていたみたいだけど」

 やっべ、お終いじゃんね。
 干渉がついにパクられるようになってしまったか。

 干渉が常に環境トップじゃないのかよ!
 Tier1って話はどこに行った!


『はっはっは、干渉が真似できる訳が無いだろう。アレは私と君だけの力だ』
『……いや、私達なら出来るぞ』

 え?

『え?』

 て、天使君……!?

『天使は前に殺された個体から学習し、進化する。だから、干渉に対応して干渉を獲得した天使が生み出されてもおかしくはない。そもそも、私自身がそうだったのだから。第二の天使を殺したマイロードに対応して毒を作り上げ、殺す事が目的だった。それで駄目だったのだから、同じ干渉で対抗する可能性は高い』
『新人が偉そうに言うじゃないか! 干渉はそんな簡単に模倣できる能力じゃない! 事象への介入だぞ!』
『そうだ。だから、あくまでソルシエラが今まで使用した干渉能力にとどめているだろうと推測する。干渉能力を限定的にすることにより、再現を可能にした』

 つまり……過去の俺と戦うということだろうか。

『そういう事だ。お役に立てただろうか、マイロード』
『そういう時はいかがでしたか? って言うんだよ』
『そうなのか。……いかがでしたか?』

 まとめサイト増えちゃった。

「ケイ、勝てますか? こういう偽者は最初はめっちゃ強いんですよ。ダークソルシエラに勝つには、強化フォームが必要なんです! ……あっ、それとも劇場版ですか!? 前売り券でレアな連動アイテム貰える感じですか!?」
「ふふふっ、どうかしらね」

 俺はヒカリちゃんの頭を撫でて笑う。
 純粋なこの子の言葉にはいつも笑みがこぼれてしまう。

 そしてそんな期待に応えたいとも思うのだ。

 というわけで、対偽シエラ用のフォームよろしくね。

『上の人間っていつもそうだねぇ! 現場の苦しさってものが分からないのか!?』
『現場……?』

 いつもの事じゃないか。
 納期はそうだなぁ……折角ヒノツチ文化大祭でクローマに行くんだから、その時には完成してて欲しいな。

『三日しかないじゃないか!』

 三日も、だろ。
 今までの形態変化全部思いつきでしょうが。

『えっ……アレが、思いつき? 思いつきに、私は負けたのか……?』

 天使君がショックを受けている。
 どうやら、0号モードに相当コテンパンにされたらしい。

 そもそもいつ戦ったのだろう。
 俺が寝込んでいた時だろうか。
 
 確かに魔力の使いどころとしては間違っていないが。

「とにかく、偽者の目的を探らないと。……ソルシエラは一人でいいからね」

 クラムちゃんが恐ろしいことを口走っていた。
 それ、殺しも視野に入れていないだろうか。

 いずれにしても、偽者には一度会う必要があるだろう。
 そして俺のファンであれば、頭を撫でるくらいのサービスはあってもいいかもしれない。

『天使の可能性もある。マイロード、気をつけてほしい』

 おいおい、天使君安心してくれ。
 俺は最強のソルシエラだぞ?

『しかし、干渉能力は本来であれば厄災の繭が持つ力。限定的な再現とはいえ、それが本当なら苦戦は必至だ。準備は入念に行うべきだろう』
『なんだこの真面目君は……。そんなんじゃ美少女やっていけないねぇ』

 堅物美少女だってあるよ星詠みの杖君。
 人間のルールや感情を学び人に近づいていく美少女型天使……うん、アリだ。

 やっぱいずれは美少女にしようねぇ^^

『? 美少女とは成るものではなく識るものではないのか?』

 既に変な価値観構築してやがる。

「ケイ、それともう一つ話しておかないといけないんだけど……」

 クラムちゃんは硬い表情で言った。

「この偽者に……昨日、トアちゃんが襲われたみたいなんだ」

 よし殺す。
 一切の加減も遊びもなく殺す。
 迅速に確実に殺す。

『美少女に手を出す……粛清だねぇ』
『どうしたんだ二人とも』

 偽物のせいで、美少女が怪我をしたんだ。
 既に奴に対する慈悲はない。

「……それで、トアちゃんは大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。クローマに会場設営のアルバイトに行ってたらしいんだ。その時、偶然ソルシエラに出会って」
「襲われた、と。……何故すぐに教えてくれなかったのかしら」
「病院に運び込まれて、目覚めたのがついさっきだったんだ。あの子一人でのバイトだったし、連絡をとれる人がいなくて。……今日からミズヒとこの子が助っ人に行くはずだったんだけど」

 成程……。
 昨日、トアちゃんはこの唾棄すべき紛い物に襲われたのか。
 それで目覚めてすぐに連絡をしてきたと。

 ……ん? 

『どうかしたかい?』

 なんで偽者だって分かったのだろう。
 俺の正体を知らない以上、普通はソルシエラに襲われたと言うのが普通だ。
 
 きっとこの動画も、ソルシエラ本人であると信じるだろう。
 現に、ネットの声は本人説が多い。

「一つ、聞きたいのだけれど。どうして私の偽者だとあの子はわかったのかしら?」

 完全に予想外だったが、トアちゃんが俺の正体を知っている可能性が出てきた。
 クソ、フェクトム総合学園の初期組には正体を知られたくないのに……!

『正体を明かしたほうが活動しやすいのでは?』
『後々正体を明かしたほうが盛り上がるんだよ。そして、こういうのは出来るだけ長い間一緒にいたメンバーの方が美味しい』

 わかっているね星詠みの杖君は。

 そうだ。
 だから俺は常に完璧な立ち回りで正体を隠していたというのに……!

『いや、完璧かどうかは……まあ、うん……^^』

 何笑ってんだ。

「トアが言うには、ソルシエラと会話が出来なかったらしいの。ずっと、同じことを言うだけのロボットみたいだったって」
「同じ言葉?」
「聖域使いを出せ――ずっとそれだけを呟き続けていたらしいわ」

 聖域? 知らん……なにそれ……。
 とりあえず、知っているふりしておくか。
 ミステリアス美少女に無知は許されない。

「成程、聖域。となると、アレが狙いのようね」
「はい! 聖域といえば、クローマ音楽院の生徒会長が継承している聖遺物ですね!
 きっとそれを奪うために悪のソルシエラ軍団を作ったんです……!」

 サンキューヒカリちゃん!
 原作クローマでそんな話なかったから知らなかったわ!

「はいはい、フィクションフィクション。ヒカリは静かにね」

 クラムちゃんはヒカリちゃんの頭を撫でる。
 それから、俺を見て言った。

「後、トアが言うにはソルシエラは絶対に酷い事をしない。だから偽者だって……信頼されているね」
「ふふっ、純粋な子。私が何を考えているのかなんて分からないでしょうに」
「そんなこと言って、ちょっとは嬉しい癖に」
「……私、そういう冗談は嫌いよ」
「はいはい」

 クラムちゃんはくすりと笑う。

 いいねぇ、こういうやりとり。
 クラムちゃんとも中々に良好な関係を築けているんじゃない?

『脳焼き専属だからねぇ。これからも近くでもっと脳を焼かないと^^』
『普通にイチャイチャするのは駄目なのか? なぜわざわざそのような回りくどい事を……』

 それが、愛なのだよ。

『……愛』

 いずれ、君にも教えてあげるよ。
 
 さて、行動方針は決まった。
 トアちゃんの仇討ちに行こうか。

『精神を崩壊させてぶっ殺そうねぇ^^』

 バチクソにキレてる……。

「私の姿でこれ以上ふざけた茶番は許さないわ。すぐに、クローマに行くとしましょうか」
「そう言うと思った」

 クラムちゃんは頷く。
 そして、ヒカリちゃんを俺へと差し出してきた。

「さっきも言った通り、ミズヒとヒカリが今日クローマに行くことになってるから。そこに、ケイの名前も追加しておいた。これで、トアが襲われた現場で問題なく動けると思う」
「あら、準備がいいのね」
「私だって、トアを傷つけて貴女の名前を騙る偽者を殺し……じゃなかった見つけたいし。ミズヒは言わずもがな、ヒカリも雑に強いから、きっと役に立つよ」
「雑は余計ですが、私は強いです! 任せてください!」

 ヒカリちゃんは胸を張ってふんぞり返る。
 可愛いねぇ^^

「そう。期待しているわよ」
「はい!!!」

 元気なヒカリちゃんの返事が部屋に響いた。
 
 思えば、この子と本格的に行動を共にするのは初めてかもしれない。

『自分とは相反する元気なヒカリにたじたじのソルシエラ……天使君、君はこれをどう見る』
『幼い頃の自分を重ね合わせ、ヒカリを護る対象として捉える、といったところだろうか』

 変態が二人に増えたよぉ><

 
 
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