かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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六章 星詠みの杖の優美なる日常

第185話 0号と静謐なる捕食者

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 破壊され元の街並みは跡形もなくなった中央都市の片隅で。
 ミズヒ達は茨の繭を見る事しかできなかった。

「……静かになったがどうなったんだ」
「んー、匂いは特に変わりないですけど」

 影から顔だけを出した二人の視線の先で、突如茨の繭が崩壊を始めた。

 ボロボロと崩れ去っていく茨の中から、やがて0号が姿を現す。
 その背後には、茨で縛り上げられた天使の姿があった。

「勝ったようだな」
「ですねー。じゃあ、第二ラウンドといきますかー」
「は?」

 ミズヒは目を見開いてタタリの方を向く。
 タタリもまた、ミズヒの反応を見て首を傾げた。

「敵が一人減りましたからー。ミズヒちゃんも休憩できたでしょう? ほら、さっさとソルシエラを捕獲して帰りますよー。報酬貰って一緒に焼肉パーティーしましょー!」

 そう告げるタタリの影から、腹の鳴る音が幾重にも響く。
 影の中にいる無数の何かが、餌を求めているようだった。

「はい、出撃ですよー」

 影からはじき出されたミズヒは0号の前に着地する。
 顔を上げれば、0号が天使からバイザーをもぎ取る所であった。

「では、共に行こうか――おや、何か用かな?」
「えっと……」
「今から貴女をぶっ倒して報酬ウハウハ大作戦開始なんですよー」
「ほう」

 0号は愉快そうに微笑んだ。
 そして――。

「この私を倒す? 中々に面白い冗談だ」
「――ッ!?」

 タタリとミズヒの背後に0号は立っていた。
 今まで彼女がいた場所には、膝から崩れ落ちた男だけがゴミのように残されている。

「不意打ちのつもりですかー?」

 タタリから伸びた影が0号の脚へと巻き付く。
 が、それはすぐに茨の蔓により打ち消されてしまった。

「あららー」
「面白い異能だ。……いや、異能というよりはか」
「今のでそこまでわかるんですかー? やっぱり理事会で首輪付きになった方がいいですねー」
「タタリ待ってくれ! ソルシエラは私の恩人なんだ! ここで争いたくはない」

 ミズヒはタタリと0号の間に割って入る。
 そして、タタリを前に半端に銃を構えた。

「なら尚更この子を保護しないとー。銀の黄昏に目をつけられたら一人じゃ勝てませんよー?」
「勝てるさ。私と相棒なら」
「……相棒?」

 ミズヒの怪訝そうな顔に0号はいたずらが成功したかのように意地の悪い笑みを浮かべて深々と礼をした。

「今こそ、理事会にも正式に名乗ろうか。私は成功体第0号。星の輝きの祖であり、デモンズギアの裁定者。そして――ソルシエラと契約したデモンズギアである」
「デモンズギア……だとっ!?」
「…………単体でこれだけの戦闘能力。エイナちゃんとは訳が違いますねー。六波羅から存在だけは聞いていましたが。まさか、貴女がそうだったとはー」

 タタリは感心したように頷く。
 そして、涎を拭いながら言った。

「片腕、それだけで良いので食べさせてくれませんか?」
「Sランクはまともなのがいないのか?」

 別ベクトルの怪物同士が互いに言葉でボディブローを決め合う中、間のミズヒだけがオロオロと両者を見る。

「ま、まて、タタリやめてくれ。さっきも言った通りこの人は……人? 人なのか? というか、デモンズギアってこんなことできるのか? じゃあソルシエラ本人は今どこに? わ、分からない事が多い……!」

 混乱が極まり、ミズヒは頭をガシガシと掻きむしる。
 その姿を見て、0号はくすりと笑った。

「相変わらずだな君は。相棒が気に入るのもわかる――っと」

 突如、0号の側面から影の蛇が飛び出す。
 しかし、それは直前で茨にがんじがらめにされると、砕け散った。

「不意打ち上等か。悪くない。君みたいに血気盛んな子も好きだよ」
「私も、貴女のこと好きですー。とっても美味しそうで」

 視線が交錯する。
 小さな切っ掛け一つで本格的な戦いが始まるであろう、張りつめた空気。

 その沈黙を先に破ったのは、0号だった。

「少し遊んであげようねぇ」

 地面から茨が飛び出しタタリへと向かう。
 その数、10。

 囲むようにして全方位から放たれる異能殺しの茨を前に、タタリは獰猛な笑みを浮かべた。

「踊り食いですねー!」

 影の中に体が沈み、茨が空を切る。
 次の瞬間にはタタリは0号の背後にいた。

 その両腕には、無数の影が纏わりついている。

「いただきまーす!」
「待て、おすわりだ」

 タタリの真上に魔法陣が現れ、砲撃が放たれた。
 しかし、タタリは一瞥すらせずに突き進む。

 その頭上、迫る砲撃を前に影が集結し受け止めた。

 否、砲撃を喰らっている。
 銀色の閃光を、まるでジュースのように大口で飲み干す影の蛇たち。

 0号は興味深そうにそれを見て、大鎌を構えた。

「はははっ、君は遠慮がないな! 他のSランクと違って、隙あらば本気で喰らおうとしてくるッ! 私個人としては大変好ましいよッ!」
「丸かじりー」

 タタリの背後から巨大な口が飛び出す。
 0号はそれに向けて大鎌を振り下ろした。

 漆黒の刃と影の牙が火花を散らし拮抗する。

 数秒の拮抗の後、距離をとった二人はそれぞれ次の手を放った。

「何度も茨では芸がないからね」

 その言葉と共に銀色の鎖が放たれる。
 拘束ではなく、打撃を目的とした攻撃。

 対してタタリは、影から狼を生み出すと鎖へと解き放つ。

 鎖と狼は、縛り上げ、かみ砕き、両者ほぼ同時に砕け散って消える。

 タタリはそれを見ながら口をもごもごと動かして言った。

「鎖も美味しいですねー! すっごく爽やかな味ですよー」
「この技を受けてその感想を言ったのは君が初めてだ。……では、これはどうかな」

 0号の前に巨大な魔法陣が重なり展開される。
 回転を始めた魔法陣へと大鎌の銃口を接続すると、引金へと手を掛けた。

「私からの奢りだ。好きなだけ食うと良い」
「っ、メインディッシュ……!」

 それは収束砲撃が幾重にも連結された未知の技術。
 現人類では不可能な魔法技術であった。

 天使との戦闘により辺りに漂う魔力をかき集め、魔法陣の回転は更に激しくなっていく。

「これが星の輝きだ」

 引き金が引かれる。
 同時に発射されたのは、極めて圧縮された魔力レーザーであった。

 今までの砲撃から打って変わって細身になった高密度の収束砲撃は、地面に触れていないにも関わらずコンクリートを融解させ瓦礫を吹き飛ばし進む。
 
 その先には、食事前の動作として当然のように手を合わせるタタリの姿。

「……ふっふふふふふ! これがソルシエラですかぁ! 私、あなたのこと大好き
になりましたぁ!」

 タタリは感情的に笑う。
 その背後、踊り狂う影たちが次々と飛び出して来た。

「久しぶりに、飢えを忘れることができますねー!」

 レーザーを真正面から影が受け止める。
 強力なレーザーを受け止めた結果、辺りには凄まじい衝撃波が発生した。
 が、タタリは涼しい顔で髪を耳にかける。

「残さず食べたまえ」
「言われなくてもー」

 受け止めたレーザーの側面にも影が噛みつき次々と捕食。

 地面が赤熱し泡立ち、タタリを中心に巨大なクレーターが形成されていく。
 それでもなお、タタリはレーザーの捕食をやめない。

 それどころか、影からより巨大な蛇と共に追加で狼を生み出すと、更にレーザーへと向かわせた。

 そして。

「――ごちそうさまでした」

 蒸気が立ち上り、陽炎に揺らぐクレーターの中心でタタリはそう言った。
 一切の無駄なく、彼女は十秒足らずで0号の攻撃の全てを捕食したのである。

「もう少し、味わって貰いたかったのだがねぇ。満足はしたかな?」
「うーん、一時間は平気そうですねー」
「君も中々に難儀な身体をしているようだ」
 
 0号は呆れたように、しかしどこか楽し気にそう答える。
 そして、背を向けた。

「そろそろ頃合いだ。私は失礼するよ」
「あっ、待ってくれソルシエラ! ……いや、0号か? ああ、とにかく待っ――」

 ミズヒの制止も空しく0号は転移によりその場から消える。
 その場には、より一層酷い有様になった戦場だけが残った。

「タタリ、なんで戦ったんだ! もしも、負けたらどうする。あの男みたいになるかもしれないんだぞ!」

 タタリに駆け寄ったミズヒは、男を指さしながらそう告げる。
 男は、先ほどの攻撃の余波で吹き飛ばされ、瓦礫に寝ころんでいた。
 しかし、痛がる様子もなく、空を見上げ何かをブツブツと呟いていた。

「ロリが……救いが……あそこに……」

 およそまともな精神状態ではない。

「ソルシエラの相棒なら大丈夫だとは思う。がそれでも、もし殺されたら「大丈夫ですよー」……え?」

 タタリは鎖を飲み込むと満足した顔でそう言った。

「0号ちゃん、まともに戦う気なかったですからー。遊んで貰ったって感じですかねー」
「遊んで貰った?」
「はいー。私はずっと本気だったんですけどー、あっちは一度も殺意を向けてきませんでしたー」

 タタリは男に目をやりながら、呟く。

「天使とアレ、理事会が本当に戦うべきはどちらですかねー」

 凄まじい戦闘能力が不透明な行動理由で動き回っている。
 もしもそれが敵に回った時、どうなるかなど火を見るより明らかだった。
 
 けれど、ミズヒはその問いにすぐにこう答えた。

「天使に決まっている」

 その言葉に、タタリは初めて虚を突かれたような顔をした。
 それが何故だか嬉しくて、ミズヒは得意げに言葉を続ける。

「ソルシエラは味方だ。私達の恩人だからな」

 ミズヒが彼女を信じる理由など、それだけで充分だった。
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