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六章 星詠みの杖の優美なる日常
第182話 Sランクと銀星の怪物
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その日、中央都市の一区画は戦場と化していた。
学園都市の最強と滅びの具現。
即ち、世界の命運を賭けた第三戦。
その決着は、未だつきそうになかった。
「――成程、探索者の扱う異能についてはおおよそ理解した」
ビルの上部が爆発し、焔に包まれる。
辺りを舞う破片一つ一つに影が宿り、それは生き物のように天使へと迫った。
「つまりは、鏡界の力を自己解釈により出力しているのだな。この方法……以前剪定した人類にも似たようなのがいたな」
天使は器である男の体を操作する。
バイザーが情報を処理し、自分に影響のある焔と影だけを選別。
それぞれに放射状にエネルギー弾を放った。
攻撃が相殺され、激しい爆発が起きる。
天使はそれを背に受け、地面に急接近すると風を巻き起こして着地した。
「やはり鏡界の力をそのまま用いるのは効率が悪いな。であれば、当初の予定通りこの世界の道理で戦うとしよう」
「なんでも良いから、俺を殺すんじゃねえぞ! 既に何度もあぶねえ場面あったからな!?」
「だからこそ、こうして私がサポートしているだろう。喚くな」
天使から体の主導権を返してもらった男は、今まさに降り立ったミズヒとタタリを見た。
「なあ、ここまでやって引き分けなんだからよ。もう今日は止めにしようぜ。お互い、死にたくはないだろ」
「なら捕まれ」
「お鍋」
「話が通じねえやつばっかだなぁ!」
既に決戦は男のアジトから場所を変えて、都市の一区画にまで広がっていた。
その場にいた人々は、探索者も観光客も纏めて避難しており、この広い街並みの中にいるのは三人と一体だけである。
「やるしかねえ。じゃねえと死ぬもんなぁ!」
叫ぶと、男は氷を放った。
氷凰堂レイの異能により生成された氷の弾丸は、マシンガンのように大量に放たれる。
それはミズヒ達へと向かう最中不自然な加速と共にさらに分裂を始める。
中には、電気を纏うものすら存在していた。
「こっちは既に何百って異能を扱ってんだ。テメエらに勝ち目はねえだろうが! 只の氷の弾丸だと思うなよ!」
一つ一つが人類の切札であり、埒外の超常。
それらが群をなして襲い掛かってくるそれは、個と軍の戦争であった。
が、それでも戦いが成立するが故のSランクである。
「たかが数百ですよねー? それに……丁度今日は暑くてアイスが食べたかったんですよー」
放たれた氷の弾丸に対応したのはタタリ一人であった。
ミズヒは構えこそするものの何かをする素振りは見せない。
「いただきまーす」
タタリの背後から影が伸び、巨大な蛇の形へと変化する。
蛇は前へと飛び出し大口を開けると、氷を全て飲み込んでしまった。
「ん~、このパチパチする氷が一番おいしいですねー」
蛇と同時に何かを噛み砕くように口をもごもごと動かしながらタタリは笑う。
その顔は、満足そうだ。
「化物が……っ」
「おかわりありますかー?」
舌をぺろりと出しながら、タタリはそう言った。
その姿は、まるでランチにでも来たかのように気軽で楽しげである。
男がそれを見てたじろいたと同時に、男の口が勝手に動き出した。
「やはり、私が戦おう。お前では非効率すぎる。折角の力もお前では扱いきれない」
「なんだとぉ! そこまで言うならやってもらおうか!」
天使が体の主導権を得ると同時、威圧感が増した。
それだけではない。
確かに、魔力の流れが変わったのだ。
「タタリ、気をつけろ。ここからが本番だ」
「メインディッシュですねー」
影が蛇を生み出し、焔が溢れる。
いつでも攻撃を仕掛けられる体勢の二人を前に、天使は息を吐く。
そして、ただ手を前に突き出した。
「異能は、大元を辿れば天使の力である」
瞬間、タタリとミズヒの体に凄まじい負荷がかかった。
咄嗟に動こうとするもその体は地面に沈んでいき、辺りはアスファルトごとひび割れていく。
「こ、これは……!?」
「重力操作、です、ねー!」
タタリはすぐさまその異能の正体を看破する。
そして、影の中の蛇と共に何かを頬張った。
そして何事もなかったかのように立ち上がるタタリを見て、ミズヒは目を見開く。
「なっ……」
「重力だと分かった今なら、燃やせますよねー?」
「っ!? ああ!」
タタリの言葉を理解したミズヒはすぐさま焔を噴出し重力による攻撃を消し去った。
「まだミズヒちゃんには実戦経験が必要ですねー。この程度で取り乱しては、Sランクとしてやっていけませんよー? 基本的に私達って、各組織からメタ張られてますしー」
タタリはそう言いながら重力を咀嚼し、飲み込んだ。
「重力系は甘さが控えめなんですよー」
「……やはり、通常の異能とは違うな。お前のそれは」
天使はタタリを見てそう呟く。
「お前の異能は、本来の姿を外れて歪んでしまった。いや、だからこそお前はお前であるというのか」
「問答は嫌いですー。好きな食べ物の話とかにしませんかー?」
「くだらん。私は物を食べない」
「そうですか、なら――もう死んでくださいねー」
タタリの足元から伸びる影が、濁流のように溢れ出す。
それは無数の手となり天使に迫った。
が、天使は表情一つ変えずに手を向ける。
「では、これでどうだろうか」
天使の背後から伸びた影が白く染まり、同様に無数の手を形成し飛び出す。
黒と白の影は、中央で衝突すると互いを飲み込むように絡み合っていく。
それを見ながら、タタリはニコニコと笑っていた。
「猿真似ですかー? 杜撰ですねー」
「流石に側を似せただけだと理解したか。お前を筆頭にSランクの異能は模倣が難しいからな。しかし、お前らを殺すには充分だ。星詠みの杖もな」
「……ソルシエラですかー。あの子も、いつか食べてみたいと思ってたんですよー」
「残念ながら、その望みは叶わないだろう」
天使はその背中から異形の翼を三対作りだし飛翔した。
無数の生き物が絡み合ったように生物的で、どこか神々しさすら感じる翼である。
ミズヒとタタリは直感的にそれが何であるかを理解した。
「あの翼、羽の一つ一つが異能か」
「選り取り見取りですねー!」
一人は顔を顰め、一人は笑う。
天使の力を前にした二人の反応は別々だった。
が、相対した時の答えは変わらない。
「撃ち落とすか」
「からあげ」
ミズヒが構えた銃から焔が放たれる。
それは空中で弾けると大量の焔の雨として天使に降り注いだ。
対して天使もまた、翼を一振りして異能を弾丸として放つ。
焔と異能がぶつかり合い、いくつもの爆発が巻き起こり煙が上がる。
その煙の中、飛び込んできたのはタタリであった。
「あっはははは! せっかくのごちそうですからねー! 欠片一つ残しませんよー!」
「君たち程度に負ける訳にはいかないな」
再び無数の異能が翼から放たれる。
同時に、天使は氷凰堂レイの凍結の力を使用した。
「遊びは無しだ」
翼による雑多な攻撃ではなく、天使が実際に演算処理をして行使されるレイの異能は、時間を凍結させるに至った。
停止した時間の中で、天使の放った大量の異能だけが動く。
時が止まった灰色の世界の中、攻撃はタタリへと迫り、そして――全てが捕食された。
「うん、おいしいですねー! 時間とのマリアージュは中々です!」
天使にとっては体感一秒にも満たない時間停止に、初めて表情が崩れる。
対してタタリは、その口に何かをいっぱいに頬張ったのかもごもごと動かしていた。
「時間停止なんて、Sランクの中じゃ挨拶にもなりませんねー」
「参考までに、何をしたのか聞いても良いかな? ああ、おおよそ見当はついているのだが本人の口から聞きたくてね」
天使の言葉に、タタリは食べていたそれを飲み込み言った。
「時間を食べましたー。無い物は止められないでしょうー?」
「……認識を改めよう。君も、星詠みの杖と同様に対処すべき存在だ」
「君たちも、の間違いじゃないですかー?」
タタリがそう言うと同時に、何もなかった空間から焔が溢れ出す。
そして、天使のすぐ目の前に銃口が現れた。
「空間の焼却による転移……ッ!?」
ソルシエラを除けば、他に類を見ない強者である天使との戦い。
さらに、隣には強大な力の扱い方を知っているタタリという存在。
この短期間で、ミズヒはさらに一つ上のステージへと至っていた。
「焼き加減は?」
「ウェルダンでー」
「馬鹿なっ!?」
焔が天使へと直撃し、たちまち全身を包む。
概念すら焼却してしまう焔をまともに受けてしまえば、いくら天使と言えども無事では済まない。
天使は、焔に包まれたまま落下し地面へと激突した。
「まっる焼き♪ まっる焼き♪」
「……食べていいのは少しだけだからな? 理事会にきちんと死骸を渡すんだぞ」
ウキウキのタタリと釘を刺すミズヒ。
そんな二人の前で、焔に包まれた天使はしかしゆっくりと立ち上がって見せた。
「っ、まだやるか」
「おかわり……!」
「――今回は、大概ふざけた人類のようだな。類を見ない強さだ」
天使は燃え盛る翼を広げ、一度大きく羽ばたく。
すると、焔はたちまち消え去った。
あちこちに火傷を負い見るも無残な姿の天使は、自分の手を観察して頷く。
「融合した概念はまだ完全には焼却しきれないか。成程」
その体は、見る見るうちに修復されていった。
「せっかくの決戦だ。存分に楽しめ、人類よ」
「……タタリ」
「大丈夫ですよー。Sランクが二人そろって負けたら何のための学園都市ですかー?」
不安げなミズヒに、タタリは飴を口に投げ入れながらピースサインを作る。
(とはいえ、少し面倒くさい事になりましたねー)
確実に、自分たちが押しているという実感はあった。
が、それでもまだ決め手には欠けている。
(無数の異能の組み合わせ。それによる柔軟な対応。後だしばかりでズルいですー)
それが凡百の異能であれば、対処は容易い。
実際、タタリは過去に数万人規模の学園内部抗争を一人で終了させている。
どれだけ集まろうと、それが雑多であるならば決してSランクには勝てない。
が、天使は違った。
(異能を全部底上げしてやがりますしー、それにレイちゃんの凍結がうざったいですよー)
仕組みは不明だが、天使は能力を全て底上げしていた。
タタリの予想が正しければ、全てがAランク相当。
どれもが学園でエースになれるだけの強力な異能へと昇華している。
そこに氷凰堂レイの凍結という異能。
Sランクが二人がかりで戦いを仕掛けてなお、拮抗している理由はそこにあった。
(このままじわじわと嬲り殺すのもやぶさかではないですけどー)
タタリは横目でミズヒを見る。
今のミズヒは、Sランクとして完成している。
が、疲労が蓄積した様子だった。
本人は気が付いていないようだが、人を匂いと味で判別できるタタリには人体の機微がわかる。
ミズヒはあと十分もしない内に限界を迎えるだろう。
故に、タタリは短期決戦を選んだ。
「……んーミズヒちゃん。こうなったら、私は切札を使用しますー」
「切札?」
「はいー。一度決まれば、例えSランクでも抜け出せない最強技ですよー。準備している間、時間稼ぎお願いできますかー?」
「何秒必要だ」
「五秒くださいー」
ミズヒは銃を構える。
その体の至る場所から焔が吹きあがり、呼気が燃えた。
「任せろ。その程度」
二人のやり取りを聞いていた天使は、心底呆れた様子で嘲笑う。
「舐められたものだな。天使とは、恐れ敬う存在だろう」
異能の翼が、開かれる。
迎撃を超え、殲滅のために翼が様々な輝きを放ち始めた。
「Sランクとして、恥のない戦いを……!」
「驕るなよ、人類」
人類側の勝利条件は至って単純。
五秒間の時間稼ぎと、その後に放たれるタタリの切札である。
敗北条件は、死。
至って単純、それ故に強さが命運を分けるこの戦い。
「ッ!」
「滅びよ」
五秒間の決戦が幕を開ける――ことは無かった。
「~~♪」
歌声が響く。
風に乗り、瓦礫に反響し、三人の耳に美しい鼻歌が届いた。
タタリはそれを発狂者だと考え周囲を見渡す。
ミズヒは聞き覚えのあるその声に動きを止める。
そして天使は。
「――ッ!? ここで来るかッ!」
魔力を感知し、ミズヒへの攻撃を停止した。
三者三様の反応。
しかし、見る方向はみな同じだった。
崩れたビルと捲れ上がったアスファルトが、真夏の太陽に照らされ陽炎に揺らぐ。
その向こう、誰かが此方へと向かってきていた。
「~~♪」
鼻歌は途切れることは無い。
綺麗な歌声と、どこか不安定なメロディ。
しかし、その少女が上機嫌である事だけは理解できた。
黒い衣装は、この荒れ果てた戦場の中では目立つ。
風になびく銀色の髪は、この場の何よりも美しい。
引き摺り火花を散らす大鎌は、獲物を求めているようだった。
「星詠みの杖ッ!」
天使は忌々し気にその名を呼ぶ。
「――やあ」
それはまるで旧友に会うかのように親し気なものであった。
星詠みの杖――0号は、花の咲くような笑みを浮かべる。
「この気持ちの昂りを誰かに伝えたくてねぇ。君、丁度いいよ」
これは、Sランクと天使の人類の存亡をかけた決戦であった。
そう、つい先程までは。
(ロリシエラの需要あり過ぎだねぇ! やっぱり私の目に狂いはなかった! っていうか、これならロリシエラと0号のおねロリも開拓できるのでは!? あっ、でも性的行為はNGだからぐちゃトロには出来ないのは難点か。いつものあの子じゃなくてロリシエラに拒絶されたら流石に一日は凹む自信があるし下手な行動は出来ないなぁ。でもどうにかしてあのお腹ペロペロできないか? お医者さんごっことか言えばセーフじゃないのかな。触診しようねぇ、触手で診察、それが触診。あー、私もロリシエラと一緒にお店屋さんごっこしたい! 一緒に屋号を考えて市役所に申請しに行こうねぇ^^ 名前は「きゃわきゃわロリシエラたん本舗」とか良いと思うのだが却下されるかもしれないからもっと精査しようか。っていうか仕込みの手帳がもう見つかったけどあれ正体バレヒロイン堕ちの時に使う奴じゃないのかい。まあ、今の私には見ることしかできないけどね、あー! 小っちゃなあんよが可愛すぎるしロリの太ももが眩しくて、実質アレが星の輝きじゃ――)
これより始まるは、人類の存亡を賭けた戦い。
「私の話を聞いてくれよ^^」
「失せろ、模造品」
天使と怪物の戦争である。
学園都市の最強と滅びの具現。
即ち、世界の命運を賭けた第三戦。
その決着は、未だつきそうになかった。
「――成程、探索者の扱う異能についてはおおよそ理解した」
ビルの上部が爆発し、焔に包まれる。
辺りを舞う破片一つ一つに影が宿り、それは生き物のように天使へと迫った。
「つまりは、鏡界の力を自己解釈により出力しているのだな。この方法……以前剪定した人類にも似たようなのがいたな」
天使は器である男の体を操作する。
バイザーが情報を処理し、自分に影響のある焔と影だけを選別。
それぞれに放射状にエネルギー弾を放った。
攻撃が相殺され、激しい爆発が起きる。
天使はそれを背に受け、地面に急接近すると風を巻き起こして着地した。
「やはり鏡界の力をそのまま用いるのは効率が悪いな。であれば、当初の予定通りこの世界の道理で戦うとしよう」
「なんでも良いから、俺を殺すんじゃねえぞ! 既に何度もあぶねえ場面あったからな!?」
「だからこそ、こうして私がサポートしているだろう。喚くな」
天使から体の主導権を返してもらった男は、今まさに降り立ったミズヒとタタリを見た。
「なあ、ここまでやって引き分けなんだからよ。もう今日は止めにしようぜ。お互い、死にたくはないだろ」
「なら捕まれ」
「お鍋」
「話が通じねえやつばっかだなぁ!」
既に決戦は男のアジトから場所を変えて、都市の一区画にまで広がっていた。
その場にいた人々は、探索者も観光客も纏めて避難しており、この広い街並みの中にいるのは三人と一体だけである。
「やるしかねえ。じゃねえと死ぬもんなぁ!」
叫ぶと、男は氷を放った。
氷凰堂レイの異能により生成された氷の弾丸は、マシンガンのように大量に放たれる。
それはミズヒ達へと向かう最中不自然な加速と共にさらに分裂を始める。
中には、電気を纏うものすら存在していた。
「こっちは既に何百って異能を扱ってんだ。テメエらに勝ち目はねえだろうが! 只の氷の弾丸だと思うなよ!」
一つ一つが人類の切札であり、埒外の超常。
それらが群をなして襲い掛かってくるそれは、個と軍の戦争であった。
が、それでも戦いが成立するが故のSランクである。
「たかが数百ですよねー? それに……丁度今日は暑くてアイスが食べたかったんですよー」
放たれた氷の弾丸に対応したのはタタリ一人であった。
ミズヒは構えこそするものの何かをする素振りは見せない。
「いただきまーす」
タタリの背後から影が伸び、巨大な蛇の形へと変化する。
蛇は前へと飛び出し大口を開けると、氷を全て飲み込んでしまった。
「ん~、このパチパチする氷が一番おいしいですねー」
蛇と同時に何かを噛み砕くように口をもごもごと動かしながらタタリは笑う。
その顔は、満足そうだ。
「化物が……っ」
「おかわりありますかー?」
舌をぺろりと出しながら、タタリはそう言った。
その姿は、まるでランチにでも来たかのように気軽で楽しげである。
男がそれを見てたじろいたと同時に、男の口が勝手に動き出した。
「やはり、私が戦おう。お前では非効率すぎる。折角の力もお前では扱いきれない」
「なんだとぉ! そこまで言うならやってもらおうか!」
天使が体の主導権を得ると同時、威圧感が増した。
それだけではない。
確かに、魔力の流れが変わったのだ。
「タタリ、気をつけろ。ここからが本番だ」
「メインディッシュですねー」
影が蛇を生み出し、焔が溢れる。
いつでも攻撃を仕掛けられる体勢の二人を前に、天使は息を吐く。
そして、ただ手を前に突き出した。
「異能は、大元を辿れば天使の力である」
瞬間、タタリとミズヒの体に凄まじい負荷がかかった。
咄嗟に動こうとするもその体は地面に沈んでいき、辺りはアスファルトごとひび割れていく。
「こ、これは……!?」
「重力操作、です、ねー!」
タタリはすぐさまその異能の正体を看破する。
そして、影の中の蛇と共に何かを頬張った。
そして何事もなかったかのように立ち上がるタタリを見て、ミズヒは目を見開く。
「なっ……」
「重力だと分かった今なら、燃やせますよねー?」
「っ!? ああ!」
タタリの言葉を理解したミズヒはすぐさま焔を噴出し重力による攻撃を消し去った。
「まだミズヒちゃんには実戦経験が必要ですねー。この程度で取り乱しては、Sランクとしてやっていけませんよー? 基本的に私達って、各組織からメタ張られてますしー」
タタリはそう言いながら重力を咀嚼し、飲み込んだ。
「重力系は甘さが控えめなんですよー」
「……やはり、通常の異能とは違うな。お前のそれは」
天使はタタリを見てそう呟く。
「お前の異能は、本来の姿を外れて歪んでしまった。いや、だからこそお前はお前であるというのか」
「問答は嫌いですー。好きな食べ物の話とかにしませんかー?」
「くだらん。私は物を食べない」
「そうですか、なら――もう死んでくださいねー」
タタリの足元から伸びる影が、濁流のように溢れ出す。
それは無数の手となり天使に迫った。
が、天使は表情一つ変えずに手を向ける。
「では、これでどうだろうか」
天使の背後から伸びた影が白く染まり、同様に無数の手を形成し飛び出す。
黒と白の影は、中央で衝突すると互いを飲み込むように絡み合っていく。
それを見ながら、タタリはニコニコと笑っていた。
「猿真似ですかー? 杜撰ですねー」
「流石に側を似せただけだと理解したか。お前を筆頭にSランクの異能は模倣が難しいからな。しかし、お前らを殺すには充分だ。星詠みの杖もな」
「……ソルシエラですかー。あの子も、いつか食べてみたいと思ってたんですよー」
「残念ながら、その望みは叶わないだろう」
天使はその背中から異形の翼を三対作りだし飛翔した。
無数の生き物が絡み合ったように生物的で、どこか神々しさすら感じる翼である。
ミズヒとタタリは直感的にそれが何であるかを理解した。
「あの翼、羽の一つ一つが異能か」
「選り取り見取りですねー!」
一人は顔を顰め、一人は笑う。
天使の力を前にした二人の反応は別々だった。
が、相対した時の答えは変わらない。
「撃ち落とすか」
「からあげ」
ミズヒが構えた銃から焔が放たれる。
それは空中で弾けると大量の焔の雨として天使に降り注いだ。
対して天使もまた、翼を一振りして異能を弾丸として放つ。
焔と異能がぶつかり合い、いくつもの爆発が巻き起こり煙が上がる。
その煙の中、飛び込んできたのはタタリであった。
「あっはははは! せっかくのごちそうですからねー! 欠片一つ残しませんよー!」
「君たち程度に負ける訳にはいかないな」
再び無数の異能が翼から放たれる。
同時に、天使は氷凰堂レイの凍結の力を使用した。
「遊びは無しだ」
翼による雑多な攻撃ではなく、天使が実際に演算処理をして行使されるレイの異能は、時間を凍結させるに至った。
停止した時間の中で、天使の放った大量の異能だけが動く。
時が止まった灰色の世界の中、攻撃はタタリへと迫り、そして――全てが捕食された。
「うん、おいしいですねー! 時間とのマリアージュは中々です!」
天使にとっては体感一秒にも満たない時間停止に、初めて表情が崩れる。
対してタタリは、その口に何かをいっぱいに頬張ったのかもごもごと動かしていた。
「時間停止なんて、Sランクの中じゃ挨拶にもなりませんねー」
「参考までに、何をしたのか聞いても良いかな? ああ、おおよそ見当はついているのだが本人の口から聞きたくてね」
天使の言葉に、タタリは食べていたそれを飲み込み言った。
「時間を食べましたー。無い物は止められないでしょうー?」
「……認識を改めよう。君も、星詠みの杖と同様に対処すべき存在だ」
「君たちも、の間違いじゃないですかー?」
タタリがそう言うと同時に、何もなかった空間から焔が溢れ出す。
そして、天使のすぐ目の前に銃口が現れた。
「空間の焼却による転移……ッ!?」
ソルシエラを除けば、他に類を見ない強者である天使との戦い。
さらに、隣には強大な力の扱い方を知っているタタリという存在。
この短期間で、ミズヒはさらに一つ上のステージへと至っていた。
「焼き加減は?」
「ウェルダンでー」
「馬鹿なっ!?」
焔が天使へと直撃し、たちまち全身を包む。
概念すら焼却してしまう焔をまともに受けてしまえば、いくら天使と言えども無事では済まない。
天使は、焔に包まれたまま落下し地面へと激突した。
「まっる焼き♪ まっる焼き♪」
「……食べていいのは少しだけだからな? 理事会にきちんと死骸を渡すんだぞ」
ウキウキのタタリと釘を刺すミズヒ。
そんな二人の前で、焔に包まれた天使はしかしゆっくりと立ち上がって見せた。
「っ、まだやるか」
「おかわり……!」
「――今回は、大概ふざけた人類のようだな。類を見ない強さだ」
天使は燃え盛る翼を広げ、一度大きく羽ばたく。
すると、焔はたちまち消え去った。
あちこちに火傷を負い見るも無残な姿の天使は、自分の手を観察して頷く。
「融合した概念はまだ完全には焼却しきれないか。成程」
その体は、見る見るうちに修復されていった。
「せっかくの決戦だ。存分に楽しめ、人類よ」
「……タタリ」
「大丈夫ですよー。Sランクが二人そろって負けたら何のための学園都市ですかー?」
不安げなミズヒに、タタリは飴を口に投げ入れながらピースサインを作る。
(とはいえ、少し面倒くさい事になりましたねー)
確実に、自分たちが押しているという実感はあった。
が、それでもまだ決め手には欠けている。
(無数の異能の組み合わせ。それによる柔軟な対応。後だしばかりでズルいですー)
それが凡百の異能であれば、対処は容易い。
実際、タタリは過去に数万人規模の学園内部抗争を一人で終了させている。
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が、天使は違った。
(異能を全部底上げしてやがりますしー、それにレイちゃんの凍結がうざったいですよー)
仕組みは不明だが、天使は能力を全て底上げしていた。
タタリの予想が正しければ、全てがAランク相当。
どれもが学園でエースになれるだけの強力な異能へと昇華している。
そこに氷凰堂レイの凍結という異能。
Sランクが二人がかりで戦いを仕掛けてなお、拮抗している理由はそこにあった。
(このままじわじわと嬲り殺すのもやぶさかではないですけどー)
タタリは横目でミズヒを見る。
今のミズヒは、Sランクとして完成している。
が、疲労が蓄積した様子だった。
本人は気が付いていないようだが、人を匂いと味で判別できるタタリには人体の機微がわかる。
ミズヒはあと十分もしない内に限界を迎えるだろう。
故に、タタリは短期決戦を選んだ。
「……んーミズヒちゃん。こうなったら、私は切札を使用しますー」
「切札?」
「はいー。一度決まれば、例えSランクでも抜け出せない最強技ですよー。準備している間、時間稼ぎお願いできますかー?」
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「五秒くださいー」
ミズヒは銃を構える。
その体の至る場所から焔が吹きあがり、呼気が燃えた。
「任せろ。その程度」
二人のやり取りを聞いていた天使は、心底呆れた様子で嘲笑う。
「舐められたものだな。天使とは、恐れ敬う存在だろう」
異能の翼が、開かれる。
迎撃を超え、殲滅のために翼が様々な輝きを放ち始めた。
「Sランクとして、恥のない戦いを……!」
「驕るなよ、人類」
人類側の勝利条件は至って単純。
五秒間の時間稼ぎと、その後に放たれるタタリの切札である。
敗北条件は、死。
至って単純、それ故に強さが命運を分けるこの戦い。
「ッ!」
「滅びよ」
五秒間の決戦が幕を開ける――ことは無かった。
「~~♪」
歌声が響く。
風に乗り、瓦礫に反響し、三人の耳に美しい鼻歌が届いた。
タタリはそれを発狂者だと考え周囲を見渡す。
ミズヒは聞き覚えのあるその声に動きを止める。
そして天使は。
「――ッ!? ここで来るかッ!」
魔力を感知し、ミズヒへの攻撃を停止した。
三者三様の反応。
しかし、見る方向はみな同じだった。
崩れたビルと捲れ上がったアスファルトが、真夏の太陽に照らされ陽炎に揺らぐ。
その向こう、誰かが此方へと向かってきていた。
「~~♪」
鼻歌は途切れることは無い。
綺麗な歌声と、どこか不安定なメロディ。
しかし、その少女が上機嫌である事だけは理解できた。
黒い衣装は、この荒れ果てた戦場の中では目立つ。
風になびく銀色の髪は、この場の何よりも美しい。
引き摺り火花を散らす大鎌は、獲物を求めているようだった。
「星詠みの杖ッ!」
天使は忌々し気にその名を呼ぶ。
「――やあ」
それはまるで旧友に会うかのように親し気なものであった。
星詠みの杖――0号は、花の咲くような笑みを浮かべる。
「この気持ちの昂りを誰かに伝えたくてねぇ。君、丁度いいよ」
これは、Sランクと天使の人類の存亡をかけた決戦であった。
そう、つい先程までは。
(ロリシエラの需要あり過ぎだねぇ! やっぱり私の目に狂いはなかった! っていうか、これならロリシエラと0号のおねロリも開拓できるのでは!? あっ、でも性的行為はNGだからぐちゃトロには出来ないのは難点か。いつものあの子じゃなくてロリシエラに拒絶されたら流石に一日は凹む自信があるし下手な行動は出来ないなぁ。でもどうにかしてあのお腹ペロペロできないか? お医者さんごっことか言えばセーフじゃないのかな。触診しようねぇ、触手で診察、それが触診。あー、私もロリシエラと一緒にお店屋さんごっこしたい! 一緒に屋号を考えて市役所に申請しに行こうねぇ^^ 名前は「きゃわきゃわロリシエラたん本舗」とか良いと思うのだが却下されるかもしれないからもっと精査しようか。っていうか仕込みの手帳がもう見つかったけどあれ正体バレヒロイン堕ちの時に使う奴じゃないのかい。まあ、今の私には見ることしかできないけどね、あー! 小っちゃなあんよが可愛すぎるしロリの太ももが眩しくて、実質アレが星の輝きじゃ――)
これより始まるは、人類の存亡を賭けた戦い。
「私の話を聞いてくれよ^^」
「失せろ、模造品」
天使と怪物の戦争である。
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弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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