178 / 255
六章 星詠みの杖の優美なる日常
第174話 リンカと親愛なる友人達
しおりを挟む吾切リンカはうんざりしていた。
夏の日差しは、まだ昼前だというのに唸ってしまうほどに暑く、コンクリートジャングルでは尚更だ。
御景学園の自治区は多く存在し、避暑地なども存在している。
が、今彼女がいる場所は違った。
立ち並ぶ多くの建造物は全てが医療施設。
塔花救護学校の次に規模の大きいそこは、ダンジョンコアを一つ丸々使用した医療区であった。
(くっそ暑い……もう空もダンジョンで覆っちゃえばいいのに)
憎たらしいほどに輝いている太陽を見て、リンカは忌々し気に顔を顰める。
そして、彼女がうんざりしているのは後ろの二人も原因であった。
「――本当に、大丈夫? まだ辛いなら、僕がおんぶするけど」
「大丈夫よ。まったく心配性ね。今まで軽い運動くらいしかできなかったんだから、これ以上体が鈍ったら困るでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「まあ、その気遣いは嬉しいわ……ありがとう」
「ミハヤ……」
背後、親し気に会話するトウラクとミハヤ。
彼等が、リンカのイライラを加速させていた。
(なんで、病院出てからずっとイチャコラしてんだあの二人はぁ! こっちの身にもなってみやがれってんだ! ルトラちゃんだって、気まずそうに――いや、なんか楽しそうなんだけど)
チラリとルトラを見てみれば、ミハヤとトウラクに手を引かれて笑顔である。
その姿は、完全に仲良し家族でしかなかった。
(くっ……羨ましい……! 私も、私だって……!)
リンカの脳内に浮かぶのは、白いワンピースを着て微笑む蒼銀の髪の少女。
呪縛から解放され、等身大の少女の笑顔をこちらに向ける彼女は、無邪気に手を振っている。
夏の暑さが見せた幻だった。
「確か、今は六波羅っていう人と訓練しているのよね? 今日もこの後訓練するの?」
「いや、今日は休みだよ。どうしても、その……君と一緒に過ごしたくて」
「……ばか、やけに積極的じゃない」
(なんで昼間っからこんなにイチャつけんだ。っていうか、トウラクが想像以上に成長しすぎたんだけど! 六波羅さんやり過ぎだってー!)
トウラクの技量は既に完璧と言って差支えないものである。
彼は既に、人が到達する限界にいた。
故に、六波羅が提案した訓練の殆どが、精神を鍛える類。
トウラクという人間をさらに高みへと至らせるために必要な最後のピースが彼自身の心の強さであると理解していたのだ。
(メンタルの不調が原因だとはわかってたけど、けど……なんでこんなに完璧に仕上げちゃうのさ……てか、あの人なに? 人相悪いけど、昨日の訓練とかレモンの蜂蜜漬け持参してたし。頻繁にご飯奢ってくれるし。良い人? 良い人なの?)
結果として、六波羅との訓練は大成功であった。
その中でも成果が大きかったもの、それは――ソルシエラに対する向き合い方である。
「……ミハヤ、僕はソルシエラを、ケイ君を助けたいと思っていた。けど、それは違ったんだ」
突然、そうトウラクが言葉をこぼす。
彼の表情からミハヤは、今までのやたらと回る口が彼なりに緊張をほぐそうとした結果だとすぐに理解した。
不器用ながらも、自分の考えを告げようとするトウラクを彼女は静かに待つ。
彼の緊張が伝わったのか、ルトラがさらに強くミハヤの手を握った。
「僕は、彼女の隣に立ちたい。あの子を守るんじゃなくて、あの子と一緒に戦いたい。だから、力を貸してほしいんだ」
「……そっか。それが、アンタの答えなんだ」
トウラクは頷く。
「僕はずっとケイ君を助けるべき弱い存在として見てしまっていた。無意識のうちに見下していたんだ……六波羅さんに指摘されるまでは気が付かなかったよ」
自嘲気味に笑うトウラク。
だが、次に彼が顔を上げた時には、その表情はさっぱりとしたものになっていた。
「だから、もうあの子は助けない。助けるんじゃなくて、一緒に戦いたい。そして、それは僕だけじゃなくて、皆がいいんだ。皆であの子の隣に立ちたいんだ」
トウラクの言葉を静かに聞いていたミハヤは「……そうだね」と静かに答える。
そして、いたずらっ子のように笑った。
「あっちが嫌だって言っても、無理矢理にでも隣に立ってやろう。そして、一人で悲劇のヒロイン気取るなって言ってやるんだから!」
「そ、そこまで言うつもりはないんだけど」
今まで静観していたルトラはこの時初めて口を開いた。
「私は言う。ついでに、姉さんも煽る」
「ルトラだけ方向性違くない? ねえ、別に戦う訳じゃないよ?」
「私達の有用性を示すために一度ソルシエラと本気で戦うべき。トウラク、今の私達ならアレで斬れる。絶対に」
力強く頷くルトラを見て、トウラクは苦笑いをした。
そんな二人を見て、ミハヤは首を傾げる。
「アレって何?」
「私達の最終形態。星斬を超えた星斬」
「と言っても、まだ一分も維持できないけどね」
「ふーん……私も早く戦線に復帰しないと。アンタ達に置いていかれちゃうわ」
ミハヤは楽し気にそう言った。
それから、手を繋いだまま駆け出す。
ミハヤに手を引かれたルトラが釣られて走り出し、それにさらに引っ張られたトウラクも慌てて後を追う。
ミハヤの向かうその先には、一人少し先を行くリンカの姿があった。
「当然、アンタも一緒に戦ってくれるのよね?」
そう言って、ミハヤはリンカの肩に手を回す。
突然の事に驚いたリンカは、肩を一度震わせてミハヤ達を見る。
期待の籠った彼女達の瞳を見て、リンカは力の抜けた笑顔を浮かべた。
(イチャイチャしておけばいいのに、そうやって私まで輪に入れようとして……)
そう思いつつも、リンカはまんざらでもなさそうに言った。
「任せてよ。むしろ、貴方達の出番ないかもねー」
「へえ、随分と強気じゃない」
「ま、潜ってきた修羅場の数が違いますから。ね?」
「むぅ……私がいない間に三人とも成長しすぎじゃない? ちょっと疎外感感じるわね。私も六波羅っていう人にトレーニングお願いしようかしら」
「止めた方が良いと思うよ」
「うんうん」
リンカは冷静にそう言うと、トウラクが隣で頷く。
ミハヤと六波羅の二人を見ているリンカとトウラクだからこそわかる。
この二人は、あまりにも気が合い過ぎるのだ。
(二人でずっと訓練してそう……そしてそれに巻き込まれそう)
ミハヤが元気になった事は喜ばしい。
が、そのおかげで、非戦闘員である自分まで稽古をつけられる気がしてならないのだ。
(ま、そうなったら私は理由をつけて逃げますけどね。ごめん、トウラク。二人の相手は君にしてもらう事になる)
トウラクに対して脳内で合掌する。
その時、リンカのダイブギアから通知音が響いた。
誰かからメッセ―ジが届いたらしい。
「あ、ちょっとごめんねー」
断りをいれて、リンカはさっとその場から離れる。
開いてみれば、それは好敵手からのメッセージであった。
(クラムか……)
彼女とは、連絡先を交換して以降意外にもやり取りをすることが多い。
その大半がソルシエラに関するマウント合戦ではあるが、険悪な仲ではない事だけは確かだ。
(この子とも協力する日が来るんだろうな)
0号と戦うには人数が足りない。
だから、手を取り合う必要があった。
いつか本気で戦うことになるとしても、その時だけは力を合わせる必要がある。
(案外、いいコンビになれたりして)
いつの日か来るであろう決戦を想像しながら、リンカはふっと微笑む。
(話してみれば案外悪い奴じゃないしね。今度、普通にランチでも誘おうかな)
そんな事を思いながら、メッセージを開いた。
『イェーイWWWWW 自称協力者のリンカちゃん見てるー? 今から君の大事なソルシエラの事、看病してヨシヨシしちゃいまーすWWWWW おかゆ、あーんで食べさせちゃいまーす!WWWWWWW』
その言葉と共に、おかゆをお盆に乗せたクラムの写真が送られてくる。
流石は元配信者。
完璧な構図で、自分がもっとも可愛くなるように映していた。
背後には、ソルシエラの自室であろう扉。
つまり、これからクラムは看病という名の抜け駆けをしようとしているらしい。
「――は?」
普段の彼女からは考えられない低い声。
銀の黄昏で培った冷静な思考など、怒りの炎で既に焼却されきっていた。
「リンカ、どうしたの?」
彼女の変化を感じ取ったトウラクが近づいてくる。
リンカは、振り返ると完璧な笑顔を貼り付けて言った。
「私、ちょっと用事できちゃった」
キレたリンカが使い捨て転移魔法装置(五百万円)を使用しフェクトムに行くまで、あと二秒。
33
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる