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六章 星詠みの杖の優美なる日常

第172話 ソルシエラの美麗なる体調不良

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 昨晩はお楽しみでしたね^^

 ミユメちゃんに武器を作ってもらえることになったし、ミステリアス膝枕も出来たし、終始クールに終わることができた。
 クローマの時といい、俺はいい感じにミステリアスムーブが出来ている気がするぞ……!

「げほっげほっ……うぅ」

 まあ、風邪ひいたんですけどね!

 普通に! ミステリアス風邪を! 拗らせたんですけどね!

「大丈夫かい?」
「……うん」

 思えば、夏場だというのにクソ寒かったし、なんか体が怠かった気がするわ。
 ミステリアス美少女が風邪ひくとかマジであり得ないんだけど。

 星詠みの杖君は心配し過ぎて普通に0号として出てきちゃったし。
 それはそれは心配そうにしている星詠みの杖君を見ていると、なんだかこっちまで不安になってしまう。

 大丈夫だよ、ただの風邪だから。

「……私の契約者である人間が体調不良はあり得ない。これは一体なんだ?」

 風邪じゃないかも……。
 なんかもっとヤバイやつかも……。

「だ、大丈夫だから。心配しないで、私は平気よ」
「そんな状態でもなおミステリアス美少女として振舞うというのかい君は……!」
「だってそっちの方がお得だし」
「果てなき向上心、もはや感服だよ」

 美少女が風邪なんてなぁ、俺からしたら美味しいイベントでしかねえんだよぉ!
 しかし、俺以外の美少女を風邪にしてはいけない。

 こういう苦しみありきの美少女イベントは全て俺が担当するぞ!
 欠損も精神崩壊も記憶喪失も任せろー!
 既にいろいろ準備してるから安心してくれ!

「……今、前向きに自傷行為を想像していないかい?」
「ふふっ、よくわかっ――げほっ」
「ああ、はいはいお水を飲もうねぇ」

 星詠みの杖君は、コップを俺に差し出してくる。
 ソルシエラと容姿が瓜二つなので、こうしてみるとまるでソルシエラに看病されているみたいだ。

 ソルシエラに看病される音声、アリだな。

「やはりおかしいねぇ。君がこうなるはずはないんだ」

 星詠みの杖君はそう言って不思議そうに首を傾げる。
 それから、寝ている俺の上に跨ってきた。

 なんで??

「少し失礼するよ」

 そう言って、星詠みの杖君は顔を近づけてくる。

 か、顔が良い……!

「痛くないからねぇ」

 ピタリとおでこに密着する感触。
 それは、俺のおでこと星詠みの杖君のおでこがくっついた感触に他ならない。

 これは傍から見ると顔の良い瓜二つの美少女がおでこックスをしているある種の宗教画のようになっているだろう。

 今すぐここに腕に覚えのある画家を呼べ。
 金ならある。足りない分は理事会に身売りして工面する。

「ふむふむ……大体理解した」

 そう言って、星詠みの杖君はニッコリ笑っておでこを離す。
 その際、俺の頬を撫でたのはポイントが高い。
 細部にこそ、美少女は宿るのだから。

 星詠みの杖君が成長してくれて俺も鼻が高いよ。

「相棒、君は今かなりの疲労が溜まっている状態のようだねぇ」
「……そう」
「本来、私は契約者を使い潰すように設計されている。私にとって人間はエネルギータンクに過ぎない」

 とんでもねえ事言い始めた。

「使い終われば、契約者を守護者に作り変え私自身は機能を停止する。ここまで長い稼働は想定されていないんだ」

 星詠みの杖君はそう言いながら、リンゴを取り出し剥き始めた。
 どこから出したそのリンゴ。

「君は常に魔力を生産し、かつ過去に類を見ないほどに適合率が高い。おかげでここまで生きながらえてきたのだが……それが仇になったようだねぇ」

 悲しそうに目を伏せてから、星詠みの杖君ははっきりとこう言った。

「ASMR同時収録、あれが原因だ。爆発的な魔力生産量が消費量を上回り今の君は自分の魔力に侵されている」
「……そう」

 つまり、俺の身体はASMR収録に耐えられなかったらしい。
 情けないにも程がある。

 が、魔力に体が侵されていると聞くと力が抑えきれない最強キャラって感じがして、それはそれでカッコいい。

「今、カッコいいって思っているだろ」
「ふふっ、どうかしら」

 さっきから星詠みの杖君が思考を読んでくるんだけど。

「まあ、数日休めばなんとかなるだろう。魔力の生産を抑えて安静にするんだ」
「……今回は大人しく従ってあげる」
「素直な子は好きだよ」

 星詠みの杖君は俺の頭を撫でる。
 それから、綺麗に星型にカットされたリンゴを差し出してきた。
 どうやって切ったらそうなるんだよ。

「と、いう訳で――私は少し出かけてこようと思う」
「え?」

 星詠みの杖君の言葉に俺は一瞬固まってしまった。
 俺という常識人がいない状態で星詠みの杖君を野に放つのは非常に危険だと思う。

 俺が傍にいないと……。

「今、私への魔力供給量を増やしている。私は今、通常よりも強い。外で暴れて余分な魔力をこちらで消費するからねぇ^^」

 成程。どうやら、俺の代わりに余分な魔力を使い切ってくれるようだ。

「適当な悪の組織を片っぱしからしばき倒してソルシエラとして振舞う。これでミステリアスムーブもできて一石二鳥だ。どうかな、相棒」
「……好きにしたらどうかしら」
「はっはっは、お気に召したようで何よりだよ。あ、トランスアンカーは起動しておきたまえ。それで少しでも魔力を消費してくれ」

 星詠みの杖君はそう言って、俺の手の甲にキスをする。
 コイツ、最近やたらと俺にキスしてくるな。
 
「それじゃあ、行ってくるよ」
「え、もう? まだ、早朝だけれど」
「ミステリアス美少女の朝は早いのさ」

 星詠みの杖君はそう言ってウインクをしてみせた。
 ソルシエラは絶対にやらない動作なので、新鮮である。

「それに、ヒノツチ文化大祭までに体調は完璧にしておかないとねぇ」

 ここまで言われては、止める事は出来ない。
 今は原作だと天使も現れない期間だし、俺から何かをする必要はない。

 原作時空のクローマでトウラク君と戦った指揮者は見つからなかったけど、まあどうせ文化大祭当日なったら出てくるし。その時しばき倒せばいいか。

 今はゆっくりと休むことにしよう。

「それじゃあ、お願いしようかしら」
「ああ、任せたまえ」

 星詠みの杖君はニッコリ笑うと、俺に何やら魔法陣を展開した。

「……これは?」
「かなり効く解熱魔法だ」
「急にピンポイント」

 なんだその凄く助かる魔法は。
 確かに体が楽になってきた気がするぞ……!
 
「じゃ、行ってくるよ」

 星詠みの杖君は転移魔法を展開し、クールに微笑む。
 が、途中で何かを思い出したのか口を開いた。

「そう言えば一つ注意なんだが――美少女を感じないようにね? 君、美少女関係になると魔力を生み出すけれど、今はそれが原因で体が滅茶苦茶になってるんだから。絶対に、今は美少女を感じるな」
「半ば死刑宣告では?」
「それじゃあ」

 星詠みの杖君は今度こそ、ひらひらと手を振って転移魔法陣の中に消えていった。

 俺の部屋に残されたのは、星型のリンゴ(食べかけ)、お水(飲みかけ)と風邪ひき美少女だけである。

 しかも、美少女を封印されてしまった。
 せっかくなら呪いに苦しむソルシエラをしたかったのに……。
 
 侵食形態になって写真撮ろうとか計画してたのに、ぜーんぶ無し。

「……寝よ」

 美少女を封じられた俺は無力である。
 今は、眠ることしかできない。











「――ふむ、眠ったようだねぇ」

 ケイの部屋を魔法陣から覗き見た星詠みの杖は頷いた。
 その姿は、ソルシエラと瓜二つである。

 強いて違いをあげるならば、その顔に怒りが浮かび上がっていることだろうか。

 本来であれば、冷静沈着なソルシエラが見せるはずもない激情。
 星詠みの杖は一人、吐き出すように言った。

「天使風情がァ……」

 ケイの体調不良の原因として本人に語った事は、事実である。
 が、星詠みの杖はあえて一部の情報を秘匿していた。

 額を合わせた際に、星詠みの杖はケイの体へと干渉。
 その体に起きている全ての異常を把握していた。

「私の相棒に手を出すとは、余程死にたいらしいな」

 ケイの体調不良は、天使によるものである。
 本人には語らなかったが、それこそが今回の核心であった。

(体調を崩しているのは、肉体の疲労もある。がそれ以上に体内に侵入してきたウイルスに過剰に反応しているからだ)

 元々天使を殺すために作られたデモンズギアは、天使に対して異常なまでの拒否反応を示す。
 双星形態により魔力が混ざり合った結果、ケイの中に溶け込んだ星詠みの杖の魔力が作用し彼女の体の中で暴れていたのだ。

(あの智天使がデモンズギアに負けた事から学習して、対デモンズギア用の天使を送り込んできたか? まったく――)

「今すぐに殺してあげないとねぇ」

 声は平坦で、まるで機械的であった。
 が、その目だけは、確かにケイを見つめて離さない。

「あの子を守るのも、傷つけるのも、私だけに許された特権なんだよ」

 狂気を孕んだその瞳は、爛々と輝いていた。


 

 
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