かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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六章 星詠みの杖の優美なる日常

第171話 ミユメの長い夜

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 ミステリアス美少女は如何なるものをも受け入れる。
 去る者は追わず来る者は拒まず、その度量の深さこそがミステリアス美少女がミステリアス美少女たる所以だ。

 つまり、ミステリアス美少女は決して底を見せてはいけない。

 そういう意味では今の俺はもの凄くミステリアス美少女であった。

「「……」」

 俺とミユメちゃんは互いに口を閉ざしている。
 が、俺達の間にあるのはある種の信頼であり、夜を楽しむ余裕こそがこの静けさを生み出していた。

 夜風に揺れる髪を耳にかけて、微笑みながら俺は膝の上のミユメちゃんを撫でる。

 美少女への膝枕……これは実績解除だな?

『トロフィーコンプまで頑張ろうねぇ^^ あ、ちなみに君が膝枕をしてもらう側のトロフィーもあるよ^^』

 ミステリアス美少女が膝枕をされるだぁ?

『おや、嫌なのかい? 美少女の膝枕であれば君は喜んで飛びつくと思ったのだが』

 美少女の膝枕は神聖なもの。
 かつて我が国では美少女の太ももを模ったご神体を祀った神社がいくつもあったとか。

 八百万の神の七割五分が美少女の太ももに内包されているとされる文献すら残っている程だ。

『どの国出身?』

 極東の国だが?
 大和魂だが?

 つまるところ、美少女に膝枕をされるためには多くの準備が必要になるという事だ。
 シチュエーションから凝らねばいけないだろう。

 個人的に、ミステリアス美少女が膝枕をして貰うのは本編ではなく追加DLCだと思うんだ。
 本編では決して弱みを見せなかったミステリアス美少女が、ふと覗かせるその弱さ。
 膝枕とは、する側とされる側の協力で成り立っていると言っても過言ではない。

 あちらが美少女として最高の膝枕を提供してくれるなら、こちらもほんの少しだけ弱さを見せたミステリアス美少女をお出しする必要がある。

 その為に自分の心身をボロボロにしたりとか、疲弊したりとかしないといけないからね。
 膝枕をするなら一ヶ月くらいは不眠不休で天使と戦うくらいはしないと。

『とんでもねえ変態だった』

 せっかくの膝枕。
 ならば、疲れ切った体の方がトぶのでは?

 俺はッ! 美少女のッ! 膝枕をッ! 最大限楽しみたいッ!

『軽い気持ちで提案したことを後悔しているよ。そこまで膝枕の奥が深かったとは』

 でも新人は気軽に膝枕をして構わないよ^^
 カジュアル膝枕も今は流行っているしね。

 下手に敷居を高くして膝枕プレイヤーの人口を減らしたら俺達古参膝枕プレイヤーが困る事になるだろうし。

『初めて聞いた界隈』

 まだまだ星詠みの杖君は人の世の事を知らないようだ。
 後で教えてあげないとね。

 とりあえず今は、ミユメちゃんに対するお姉様ムーブを完遂しないと。
 クラムちゃんにこういう事したら襲い掛かってきそうで出来ないしな……貴重な機会です。

『クラムにもしてあげなよ^^ お返しに耳かきしてくれるかもよ^^』

 見え見えの罠に引っ掛かるわけないだろ。
 そんな事したらミステリアス美少女からただのよわよわ薄幸美少女になってしまう。

 ……それはそれでアリか。

「――ソルシエラさんは、どうしてここに来たんすか?」

 俺と星詠みの杖君の有意義な会議を遮るように、ミユメちゃんはふとそう問い掛けてきた。

 ミステリアススマイルを浮かべながら、俺はミユメちゃんの髪を梳かす。

「ふふっ、別に何でもないわ。気にしないで」
「……もしかして、私の事を心配して?」
「………………さあ、どうかしらね」

 やっべ。
 武器作ってと言える空気じゃなくなっていくぞ。

 どうするんだ星詠みの杖君。
 このままじゃ俺の武器がぁ!

 せっかく新武器に向けて演奏も練習してるのにぃ!

『落ち着きたまえ。タイミングを窺うんだ』

 そ、そうだな!
 ミステリアス美少女は常にクールでなければならない!

 キャラ崩壊気味の自称クールとか、勝手に萌え概念を追加されたソルシエラとかそういうのは二次創作に任せておこう!

 公式である俺は孤高のミステリアス美少女を貫くぞ!

『自分をコンテンツ化しているだけでも異常なのに、そういう浅い二次創作にも寛容なんだねえ……』

 二次創作が盛んだと公式も元気になるからね。

「なんだかんだ言って、お人好しっすね。ソルシエラさんって」
「ただの気まぐれよ。天に輝く星は平等に人を照らすだけ」

 ミユメちゃんを撫でると、彼女はくすぐったそうに頬を緩めた。
 この空気、うんめぇ~^^
 
 全部肺に収めて帰ろうぜ^^

『急にキモい所を出してくるんじゃない』

 でもこういうところを見せられるのは星詠みの杖君だけだからさ。

『ッッッッッッ!!!?!?!? そ、そうかい!? まあ当然といえば当然だねぇ!』

 うん、最近君の扱いわかってきた。
 これめっちゃ懐いてる犬と同じだわ。

『相棒♥ 今日はぐちゃトロにしてあげるね♥ 泣いても叫んでも止めてあげないから♥ 私の物だって事を体にわからせて上げないとね♥♥♥』

 犬じゃなくてグリズリーかも。
 飢餓状態でバチクソに凶暴になったグリズリーかも。

「……私、お姉ちゃんに会えると思うっすか?」

 ミユメちゃんはミユメちゃんで重い話してるし。

 前門の星詠みの杖君に後門のミユメちゃん。
 やれやれ、ミステリアス美少女は大変だぜ。

『どっちも原因君だけどね』

 それはそう。

 故に、俺は責任をもってミステリアスムーブを完遂するッ!

「貴女がそう望むのなら。きっと叶うわ」

 俺はふっと微笑む。
 この時、いつもよりも少しだけ優しい笑顔をしてやることがポイントだ。

 これで、天才の脳にミステリアス美少女の笑顔を焼き付ける。
 ミユメちゃん君の前にいるのは、君が生涯忘れる事の出来ないミステリアス美少女だ……!

「……ありがとうっす。なんか頑張れそうな気がするっす!」

 そう言って、ミユメちゃんはゆっくりと起き上がった。
 暫く横になっていたからだろうか、ミユメちゃんはスッキリとした顔をしている。

 そして代償に俺の両脚は痺れている。
 星詠みの杖君、どうしよう立てないわ。

『えぇ……』

 こういう時脚が痺れない訓練も後でしようか。
 ミステリアス美少女は脚とか痺れないから。

 涼しい顔で何時間でも膝枕をできるのがミステリアス美少女だからさ。

「ソルシエラさん、ありがとうっす!」
「別に構わないわよ、これくらい」

 俺の言葉に、ミユメちゃんは首を横に振った。

「いえ、思えば今までも助けられたのに私は一度もお礼をすることができてないっす。良ければお礼をさせてほしいっす。私、こう見えてモノづくりには自信があるっすよ!」

 肩をブンブンと回すミユメちゃんは、やる気満々のようだ。

 これは……武器チャンスだな?

「それじゃあ、一つお願いしようかしら」
「はいっす!」

 俺は無駄に仰々しい魔法陣を展開し、拡張領域と接続。
 そして、天使の頭骨の一部と角を取り出した。

 星詠みの杖君により安全に処理され、機械的なケースにぶち込まれたそれらは、こうして見ると中々に仰々しい。
 ただの雑魚天使の死骸なんだけどね。

「え……え!?」

 真理の魔眼でそれが何か理解したのだろう。
 ミユメちゃんは俺の顔と天使の残骸を交互に見た。

「こっ、これって……え、あの噂の天使とかいうやつじゃあ……」
「あら、知っているのね。そうよ、これは天使の死骸。中々に面白い能力を持っていたから、これで遊んでみようと思ってね」

 俺はメモリーチップを取り出し、テーブルの上に置いた。

 それから、俺は紅茶を一口飲んで言う。

「この天使を素材に武器を作って欲しいの。基礎となる設計図はその中にあるわ」
「天使を使った武器……!」

 ミユメちゃんの中の研究者魂が疼いたのか、キラキラした目で天使の死骸を見ている。
 おめめキラキラで可愛いね^^

 そんなに欲しいなら、余った素材上げちゃおうかな?

『気軽にプレゼントできる代物じゃないだろ』

「ああ、もしも余ったらその素材は好きになさい」
「えぇ!?」

『えぇ!? 本当に!?』

 ミユメちゃんなら悪用はしないだろ。大丈夫大丈夫!
 
『まあ、うん、……一応人類を滅ぼせる存在なんだけれどねぇ』

 あんな弱い奴で滅ぼせる訳ないだろ。六波羅さんに勝ててようやくスタートラインだぞ。

「い、いいんすか?」
「勿論。優秀な技師にはそれなりの対価を払うものよ」
「でも、こんな天使なんて……」

 む、ミステリアスムーブチャンス!

『え?』

 ミユメちゃんが目を離したこの一瞬に転移するんだよ!
 今まで会話していた相手が消えたらなんか強キャラっぽいだろ!

 早く、転移早く!

『忙しいなぁ』

 あ、ティーカップ忘れないでね!
 クローマでは忘れたせいで誰かに盗まれたんだから。あそこ意外に治安悪いわよ!

『はい、転移しまーす』

 うっす。
 じゃあねミユメちゃん^^

 また星の綺麗な夜に会おうね^^










「こういうのって、個人で所有していいものな――」

 次にソルシエラの方を見た時、そこに彼女はいなかった。
 ティーカップも、彼女も、まるで幻だったかのようにその場から忽然と姿を消している。

「……きっと忙しいんすね」

 ミユメは納得したように頷き、メモリーチップを手に取った。
 そして、自身のダイブギアにデータを読み込ませると、仮想ウィンドウにそれを展開する。

「確かに設計図っすね。うん、良く出来てる」

 それを見て、ミユメはこの設計図を作り上げた者が相当な腕の持ち主であることを理解した。
 
「これは作りがいがあるっすよー!」

 ミユメは俄然やる気であった。
 面白そうな設計図に、恩人への感謝を伝えられる絶好の機会。

 彼女がやる気にならない訳が無い。

「こっちが設計図で、こっちが天使の詳細っすねー」

 データは、いくつかのファイルに分かれていた。
 ミユメは天使の詳細なデータが記されていると思わしきファイルを展開する。

 そして。
 
「……これって」

 目にした瞬間、当然ミユメは気が付いた。
 扱う際の注意点が細かく記されたそれは最初から誰かに渡そうとしていたように思える。

 何よりも、その天使の持つ権能。

「死を司る天使……」

 肉体の損傷や、魂の破壊により齎される結果での死ではない。
 それは、死という概念そのもの。
 
 なぜそんな代物をソルシエラが渡してきたのか、ミユメは即座に理解した。

「最初から、これを渡すつもりで……私の研究を手伝うために……」

 ミユメは聡い少女である。
 故に、ソルシエラの行動の真意を理解していた。

「やっぱりお人好しじゃないっすか」

 ミユメはここにはいない彼女に向かってそう言った。
 それから、息を一つ吐いて頬を叩き気合を入れる。

「……よしっ、ソルシエラさんが驚くくらいに最強の武器に仕上げるっすよー!」

 再び作業スペースに足を運んだミユメは、すぐさま武器の作成に取り掛かった。
 
(これで、少しでも恩返しが出来るなら……!)

 ミユメの夜は、まだ始まったばかりだ。

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