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五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第159話 妥協は敵! ダブルミステリアスASMR!

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 俺達は今、クローマ音楽院の防音室の中にいた。
 ここで、作戦の準備をしようと思ったのだ。

 今回のミステリアス美少女タイムには、多くの魔力を必要とする。
 その為に俺達が双星形態となるのは当然の事であった。

 二人がそろえば、共鳴し魔力は高まっていく。
 が、それだけでは時間が足りない。
 もっと早く、そして莫大な魔力が必要だった。

 その為に、ASMRの収録をするのは当然の事と言えよう。
 当然だよな? なぁ!?

 俺の心をもっと昂らせてくれ。

「ああ、遂にこの日が。……台本は未だ完成していないが、わかるとも。ここからは私達の魂の言葉で語ろうとそう言うのだろう!?」

 ダミーヘッドマイクをセットする俺の背後で星詠みの杖君こと0号はそう言った。
 ちなみにこれはミステリアス窃盗したミユメちゃん特製ダミーヘッドマイクである。

 ごめんね♥ 後で天使のパーツ上げるから許してね♥

「あー、最高。まるでクリスマスプレゼントを待つ子供の気分だ。私は今、人というものを学習している! 実に心地が良い……!」

 この子、ずーっとこのテンション。

 ナナちゃんをフェクトムに帰すまでうっかり口を滑らせないか心配だったわ。
 
「シエルも誘えば、ロリボイスも完璧だったのにねぇ」
「姉としてその発言はどうなんだ」

 ナナちゃんは、既に仕事を終えて帰還した。
 俺達に地下の劇場と研究所の全権限を譲渡した後、満面の笑みで転移している。

 地面に設置した転移魔法陣に親指を立てて沈んでいったが、あの子ゲームしながら往年の名作見てる?
 もしかして勝ち組ヒキニート?

「今回はどういった風に録るんだい」
「魔力を増幅させたいからね。出来れば俺の感情を引き上げるようなものが良い。という事で、今回は二人になったソルシエラに耳元で囁かれるASMRで行こう。片方が意地悪に、もう片方が優しく」
「――そう、わかったわ」
「とんでもねえ順応速度」

 0号から一転。
 そこには既にソルシエラがいた。

 ほ、本物だぁ!

「確かに、私の魔法ならそういう事が出来てもおかしくない。聞き手も納得してくれるでしょうね」

 ソルシエラの設定はあまりにも万能。
 故に、こういった創作物ではすんなりとシチュエーションを受け入れられるだろう。

「流石に理解が早いわね。初めに言っておくけれど、これはあくまで睡眠導入性癖破壊音声よ。だから、あくまで囁くだけ。わかったかしら」
「ええ勿論よ^^」

 ちょっと漏れてんぞ中身。

「では、始めましょうか」

 俺は指でカウントをしていく。
 そして――。

「おはよう、可愛い探索者さん。目が覚めたのね……っと、驚かせてしまったわ。私は

 俺は導入を完璧に読み上げる。

 今回の台本はこうだ。

 深夜のダンジョン探索をしていたあなたは、日頃の無理が祟ってしまい倒れてしまう。
 そんなあなたを助け、隠れ家へと連れ帰ったルシエラという謎の少女。

 ルシエラはあなたの事が前から気に入っていたようで、疲れているあなたを癒してくれることに。
 ルシエラとあなたの泡沫の夢が今始まる――。

 と言った感じである。

 流石にソルシエラの名前を使うと本家に迷惑が掛かるからね。
 まあ本家俺達なんだけど。

 本人が性癖拗らせたASMR録るとか意味わからないから。
 だから、こうしてあくまでやたらとクオリティの高い二次創作として世に送り出すのだ。

 今回のテーマはミステリアスな癒し。

 ソルシエラとしてのキャラクター性を保ちつつ、音声作品の第一号として世に出すには全年齢版が良いだろう。

 故に、最初は安眠出来るような癒しボイスだ。

 つまりは、世界中の良い子に安眠してもらうために作るのである。

 特にソウゴ君は覚悟しろ。
 今回で音声作品狂いにもするからな。

 君のためだけの特別トラック『憧れのあの人に耳かきされるASMR』も用意してやるぞ。

『いいよ、素晴らしい導入だ。完璧だよ。吐息多めの声は嬉しいねぇ^^』

 テレパシーで星詠みの杖君が感想を伝えてくる。

 そう、これこそ俺だけの利点。
 理解ある杖君との脳内会話による阿吽の呼吸の収録だ。

 お互いヘッドフォンが装着されており、それぞれの声がクリアに聞こえるようになっている。

 これで俺は演者、そして消費者の二つの視点からミステリアス美少女を堪能することができるのだ。
 その場合、はたして俺の魔力生産量はどうなるだろうか。

『魔力はどう?』
『爆発的な上昇だ。それに共鳴して私も魔力を生み出している。これなら三十分もあれば目標の魔力値に到達するだろう』
『よーし、ならば今回はpart1だけの収録だな。残りは戻ってからやろう』

 あくまで俺達は不法侵入で音声作品の収録中である。
 なので長居は出来ないのだ。

「無理をしては駄目よ。今くらいは、自分を愛してあげなさい。そう、また横になって。……え? どうして私も横になっているのかって? ふふっ、どうしてかしらね」

『あー、最高。ソルシエラが私の横で寝ているねぇ! 添寝だぁ!』

「あなたがまた眠るまで、こうして添寝してあげる」

 最初はこうしてあまあまな感じで。
 しかし、ここからが本番だ。

「顔を赤くしちゃって、可愛い。ふふっ……少し虐めたくなってしまったわ」

『ここで魔法の起動した様なそれっぽい音を差し込むとしようか』
『うっす。お願いするっす』

 脳内で色々と話し合いながらも、俺達は止まらない。

 シナリオでは、こうして俺が魔法を起動した後に――。

「こういうのはどう? ……あぁ、また驚かせてしまったかしら」

 星詠みの杖君がソルシエラを完璧に模倣して参戦する。

「これは私の分身よ」

 これぞ、ダブルミステリアスASMRだ。
 古くから我が祖国に伝わる伝統芸能である。

「あなたが眠るまで」
「両側から」
「「癒してあげる」」

 お互いの声がヘッドフォンを通して伝わる。
 俺と星詠みの杖君は目を合わせて頷き同時にテレパシーを開始した。
 
 『『Perfect……』』
 
 あまりにも完璧だ。

 これから、俺と星詠みの杖君がそれぞれあまあまソルシエラとSっ気のあるソルシエラに分かれて両耳を虐める。

 ここからが本番だ。








 同時刻、御景学園にて。

「――ッ!?」

 エイナは一人、その異常に気が付き弾かれたように天井を見上げた。

「……え、えぇ」
「あ? どうしたエイナ」

 相棒の可笑しな様子に気が付いた六波羅が声を掛ける。
 すると、エイナはすぐに作った笑みを浮かべて首を全力で横に振った。

「なっ、なななんでもないですぅ! マジで、ね! ほら、トウラクとかいう新入りをボコす作業に戻りましょうよぉ!」
「別にボコボコにするのが目的じゃねェんだが……」

 六波羅は、そう言って床に寝ころぶトウラクを見る。
 既に五回目の戦闘が終了し、汗だくの彼は起き上がることも出来そうにない。

「おい、何か隠してんだろ」
「い、いいえぇ!? ま、まさかぁ! リーダーに私が隠し事するわけないじゃないですかぁ!」
「……エイナァ」
「ひぃっ、すみませんすみません! 言いますぅ!」

 睨まれたエイナはすぐに頭を下げて、それから六波羅をちょいちょいと手招きした。

「なんでわざわざ耳打ちしてくんだ。普通に話せよ」
「いえ、これはトウラクに聞かせない方が良いかと思いまして……」

 そう言ってエイナは六波羅にこっそり告げた。

「……先程、想像もしたくないほどに強力な魔力を検知しました。魔力的に、恐らく姉様の」
「ソルシエラか。そうか、成程なァ……場所は」
「クローマ音楽院です。リュウコが助けを求めていた学園ですよ」

 広範囲の探知が可能なエイナだが、本来は学園を跨いでの探知は難しい。
 そんな彼女が察知できる程の膨大な魔力をソルシエラが放っている。

 つまりそれだけの力が必要になったのだ。

「なんかマジでヤバい事が起きてるかもしれません」

 エイナは、苦虫を嚙み潰したような顔でそう言った。
 見るからに行きたくなさそうだし、関わりたくなさそうである。

「あ、あのリーダー私は今回のは知らなかったことにしたいのですが……」

 エイナは恐る恐るそう言った。

 対して六波羅は、エイナを一瞥しただけで黙り込んでいる。

「わ、私が行っても邪魔になるかもしれませんしね! 今回は縁がなかったという事で一つ見逃がしましょう、そうしましょう! というか、こっちはこっちで仕事中ですし!」

 手をわたわたと動かしながら、エイナはそう訴える。
 そんな彼女を見て六波羅は――。

「そォだな、分かった」
「……え、まじすか」
「ああ。こっちの方が優先度が高ェ……って、なんだその顔は」

 エイナは救われた顔で目にいっぱい涙を溜めながらうなずいていた。

「私ぃ、絶対に連れていかれると思っててぇ……良かったぁ」
「情けねェ理由だな、オイ」

 六波羅は呆れた様子でそう言った。

「クローマにはリュウコとソルシエラがいるんだろ。なら、どう転んでも大丈夫だ。仮にも俺に勝った奴が二人だぞ」
「そ、そうですよね!」
「…………俺に勝った奴が二人もいる? 丁度いいタイミングかァ……?」

 自分で言っていて何かを思いつきかけた六波羅を見て、エイナは今日一の声をあげた。

「いつまで寝てんだトウラクぅ! こっちはもう準備出来てんだよぉ! デモンズギア使いとして情けなくねえのかぁ!」
「きゅ、急に何!?」

 寝そべったままのトウラクを早急に復活させまた訓練に思考を戻そうという作戦だった。

「早く立てよぉ! 私は先輩デモンズギアだぞぉ!」
「うっ、でも体が……」
「気合で動かせぇ!」

 そう言ってトウラクの手を掴もうとしたその瞬間、彼の手の中にあった白亜の太刀が光を放った。
 それはやがて少女の形をとり、そのままエイナの腕を捻りあげると見事に関節をきめる。

「い、いたい! ルトラ、いたい!」
「トウラクをいじめるな。斬るぞ」

 姿を現してから一秒。
 ルトラの完全な勝利だった。

「リーダー助けてぇ! デモンズギアに虐められてるぅ! 私の腕がとれちゃう!」
「こっちが黙っていればいい気になって。許さない」
「ひ、ひえぇ! リーダー、早く来てぇ!」

 完全に組み伏せられたエイナが六波羅の名前を呼ぶ。
 その一部始終を見ていた六波羅は、心底呆れた様子でため息をついた。

「お前……仮にも姉なんだろ……なんで負けてんだよ」
「関節外れちゃいますぅ! 助けてぇ!」

 想定とは違うが、そのみっともない姿に六波羅はクローマへの特攻を止めた。
 情けない相棒の姿に興をそがれたのだ。

(まあ、どっちもいつでも遊べるしなァ。今はこっちに集中するか)

 相棒と違い、彼は意外と公私混同しないタイプだった。

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