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五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第157話 暗躍! あのミステリアスな影はなんだ!

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 地下に埋没した劇場には、隣接された研究所が存在する。
 元々はダンジョンコアの実験のために作られたものだが、今は学者によって都合の良い物に改造されていた。

 今、この場所は人工的に探索者を作り出す違法な研究所である。
 銀の黄昏からの資金援助を受けているこの組織は、一人の外道によって運営されていた。

「かかりすぎているな、時間が。遊んでいるのか、貴様らは」

 学者は、そう言って並ぶ部下の一人を氷漬けにした。

 言い訳の隙すら与えず、一人の人間が芯まで凍てつく。
 それは、人を殺すというよりは使えないものをゴミ箱に放り投げるように、無関心で冷たい。

「割れてしまえ、無能は」

 パチン、と指を鳴らすと部下は粉々に砕け散った。
 辺りに部下だったものが散らばる。

 しかしそれを見て、残った部下は震えるがその場から逃げ出す事はしなかった。

 それこそ最も愚かな行動だと知っているだからだ。

「容易な筈だ、ガキ一人連れ戻すのは。能力も未調整、完全にSランクを模倣できているわけでもない」

 学者はそう言って、タブレット端末を取り出す。
 画面には監視カメラの映像が映し出されていた。

「こいつか、手伝っているのは」

 レイのクローンが最後に目撃された場所の監視カメラの映像。

 クローンを守るように立つ三人の少女が映し出されている。
 そのうち、金髪と黒髪の少女は見覚えが無いが、ただ一人Sランクの少女だけはすぐにわかった。

 それを見て、学者は初めて興味を持ったようだ。

「Sランクにいたな、この顔は。渡雷リュウコだったか」
 
 記憶の片隅に、僅かだがリュウコという少女の情報があった。

 その特殊な異能構造故に、学者自らクローン制作のターゲットから真っ先に外したSランクである。

「特別だ、奴の中にある別次元深層領域は。故に放っていたのだが……」

 学者は、少しの間黙っていた。
 右手の人差し指が、こつこつとデスクを叩く。

 その音だけが木霊していた部屋で、学者はおもむろに立ち上がった。

「行こうか私が。この力を試す相手として不足はないだろう、あのSランクは」

 そう言って、学者は振り返り部屋唯一のベッドへと向かう。

 多くの機械に囲まれたベッドには一人の少女が眠っている。
 目を覚ます気配のない彼女を、学者は嗤いながら撫でて言った。

「行ってくるよオリジナル。私の栄華の礎よ」

 学者はそれから高らかに笑い、部屋を後にする。
 部下たちは、それに黙って追従した。

「間もなくだ、逆襲は。見せつけるのだ、理事会に! 銀の黄昏に!」

 ある者には禁忌とされ、ある者には下品と蔑まれたSランクのクローン計画。
 しかし、今まさに彼女の望んだ力はその手の中にあった。

「はははは! 造作もないだろう、Sランク一人圧倒するくらい」

 彼女の感情に応えるように、手の中で冷気が溢れ出す。
 学者の眼は、狂気に満ちていた。



 部屋から足音が遠ざかり、やがて静寂が訪れる。
 
「――やはりそう言う事だったのね」

 一つの影が、天井から現れその場に舞い降りた。
 
 蒼銀の髪に黒いドレス。

 その姿は最強の一角、Sランクのソルシエラをおいて他にない。

「可哀そうな子、ふふっ、哀れで本当に愛おしい」

 ソルシエラは、レイに近づくと労わるように撫でる。
 そして優しい手つきで、先程学者が乱したレイの髪を整えた。

「もう少しだけ、眠っていなさい。夢から覚めるには、まだ早いわ」

 ソルシエラはそっと囁く。
 そして、その部屋を後にした。









 ここがあの黒幕のハウスね。

『ふむ、やはり地下にあったか。流石私の妹は優秀だねぇ』
『五分もいりませんでした。ジルニアス学術院の時よりも簡単でした故』

 相変わらず、俺の脳内ボイスはカットされてナナちゃんの声だけが一方的に聞こえてくる。
 
 俺達はナナちゃんを誘拐もとい拉致……もとい攫ったあとすぐにクローマ音楽院に転移した。
 そこからはもう超楽勝。

 だってナナちゃんが全部やってくれたし。
 なんなら計画までぜーんぶ判明したし!

『Sランクのクローン……確かに天使には有効でしょう。が、厄災が強大になる可能性があり得策ではありません故』
「ふふっ、本当に愚かよね。私もこの計画については知っていたのだけれど、まさか
こんな所に潜んでいたとは。ありがとう、シエル」

 俺は手の中にある翡翠色の大鎌を撫でる。

『何も知らないだろ君』

 うるせえ!
 ソルシエラが知らないのは場所だけ!

 クローン計画については知ってたの!
 そういう体で行くの!

 ソルシエラがずっと頭に「?」浮かんでたら情けないだろ。
 
『では♥を浮かべてみるかい?』

 何が『では』なんだよ。
 やめてくれよそういう事は。

『それで、ここからどうする? 敵も本拠地もわかった。君なら今回のミステリアス美少女タイムをどうする?』

 待っててね。今構築してるから。

 どうやら学者はリュウコちゃんの所に行ったっぽいんだよねぇ。
 好都合なので、せっかくならそれも生かしたいんだがうーん。

 この研究所、面白そうなものないしなぁ。
 やっぱ、リュウコちゃんが襲われそうになっているところにクールに現れる?

 そっちの方がカッコいいか?

『だがミステリアスっぽくはないねぇ。どうにも正義の味方感が強い。リュウコに完全な味方と認識されるのは避けたい所だ』

 星詠みの杖君の言う通りだね。
 俺達はミステリアス美少女ソルシエラ。

 敵か味方か、その正体は……!?
 というムーブがしたい。

 そういう意味で言えば領地戦なんて、全然駄目だった。

 天使戦は0号によって献身的な薄幸美少女にされちゃうし、トウラク君との戦いもやっぱり自己犠牲系のヒロインになっちゃったし。

 俺はクールに戦いたいぞ!
 新形態とか言って自傷フォームだしてる場合じゃねえって!

 あんなの二度と使うか!

『そんなぁ! アレだって凄くいいじゃないか! 実際の侵食機能を元にしているから、アレを使うとこっちも気持ちいいんだよ。一つになろうじゃないか!』

 知らねえよ。
 というか、しれっと何気持ちよくなってんだ君は。

『痛みに歪むソルシエラの顔を見ながらの侵食はたまらないねぇ^^』

 君、どんどんヤバさが加速してるじゃないか。
 俺の前で0号演技しなくてもいいんだよ、やめてくれ怖いから。

『……? 演技とは?』

 ひぇ。
 
 はい、あのフォームは二度と使いません。
 封印です。

『そんなぁ! 一定以上私と融合が進むと新たな形態に進化する要素もあるんだが!? あの力を完全に支配下に置く侵星形態テスタメントフォームはどうなるんだ!』

 勝手に用意すんなそんな形態。
 もう形態いっぱいあるでしょ。

 これが日曜の特撮ならもうパパの財布は羽より軽くなってるぞ。
 安易にフォームを増やすな。

『侵食形態はあくまで蛹の状態。ここから0号に人を真に愛する愛が芽生えると侵星形態になるんだ。私はこのイベントを経て晴れてメインヒロインとして君臨しようと思う』

 そのイベントは実装されないよ。

『無能運営』

 何とでも言え。

『頭よわよわ総受け美少女』

 酷い悪口。

『……あの、二人ともまた何か話しているのですか? 私だけのけ者は寂しいです故。そう、まるでフレが新しいソシャゲにハマってログインすらしなくなった時のような……』
「別に大したことではないわ。……というか、貴女少しゲームを控えたらどうかしら。ギフトカードを渡した人間が言っても説得力はないでしょうけれど」

 うっかりうっかり。
 ナナちゃんの事を忘れていたぜ☆

 というか、最近のナナちゃん少し度が過ぎてない?
 この子、ゲームしかしてねえじゃん

『ミロク辺りに何とかしてもらおう。私達では無理だ。絶対に甘やかしてしまう』

 よくわかっているじゃないか。
 そう、無理だ!

 俺はこういう俗物に堕ちた人外系美少女も大好きだからね!
 いっぱいソシャゲをして狂うんだよ^^

 でもSNSでガチャ自慢したらミロク先輩に色々と告げ口するからそれだけは止めてね^^
 一番やっちゃいけない行為だからね^^

「それにしても随分と退屈な所ね。面白いものがあると思っていたのだけれど」

 俺は一人廊下を歩く。
 辺りには監視カメラが沢山あるが、問題ない。
 既に監視カメラは掌握済みだからね! ナナちゃんが!

『面白いかどうかはわかりませんが、入手したマップによると間もなく地下劇場に到着する筈です』

 地下劇場?
 なんだその意地悪貴族の社交場みたいな所。

『誰もいない劇場で、一人演奏をするソルシエラ……画になるねぇ』

 それはそうかも。
 でも俺ってば楽器は弾けないのよね。
 一つくらいはクールに弾いて見せたいけど。

『なら後で、そういう魔法を作ってあげようねぇ』

 やったぁ!
 
 素敵な素敵な星詠みの杖君とお話をしていると、研究所の無機質でクソつまんねぇ廊下が終わった。

 廊下の果てにあったのは、研究所には似つかわしくない古ぼけた木の扉。
 一体いつの物かも分からないそれを俺はゆっくりと開けた。

「……成程、確かに劇場ね」

 俺の目の前に広がったのは古めかしい劇場であった。
 
 ミステリアス美少女の持つ審美眼により、劇場にある物全てがこだわり抜かれたアンティークであると見抜く。
 その場所だけ、時が止まっているかのような異国情緒を感じる空間。

 ……ミステリアス美少女に、ふさわしい。

『相棒、私はここからミステリアス美少女タイムを感じるぞ』

 奇遇だな、星詠みの杖君。
 実は俺も感じていた所だ。

 そして、決まったぞ。
 次のミステリアス美少女タイムが。

「ねえ、シエル。もう少しだけ、仕事をしていかないかしら」

 俺は近くにあった椅子の背もたれを指先で意味もなくなぞりながら言う。

 手の中にあった翡翠色の大鎌は俺の言葉に反抗するようにカタカタと震え始めた。

『約束と違います! 私は十分だけ協力するという話だったから手伝いました! 嘘なら私は怒ります故!』
「ふふっ、これは提案よ」

 俺は劇場の席の一つに座り、隣に大鎌を置く。
 そして、ステージを見ながら言った。

「この劇場を掌握してほしいの。もしも出来たら……ミユメに最高スペックのゲーミングPCを作らせてあげるわ」

『なっ……』
『おい相棒、ライン越えだぞそれは! この子にそんな物を渡したらどうなる! 今はまだソシャゲと家庭用ゲーム機でどうにかなっているが……これ以上は……!』

 星詠みの杖君、俺だって苦しいんだ……。

 でもさ、ナナちゃんが笑ってくれるなら俺はそれでいい。
 その為なら、俺は罪を背負う。

『なにカッコよく言ってるんだ! どうするんだシエルが現実でもネットスラングで会話するようになったら。私は姉として悲しいぞ!』

 どんなナナちゃんでも愛してやれよ!

『ソルシエラ……それは本当ですか』

 おっしデモンズギア一本釣り成功だぜ。

『待ちたまえシエル。ミロクが許してくれると思うか? ここは冷静になれ。今はソシャゲの周回を優先するんだ』
『うっ……確かにそれもそうです。姉上のいう事も一理あります故』

 星詠みの杖君、邪魔しないでくれ!

『うるさいねぇ!』

 ……ソルシエラ受けの『星詠みの彼女にお返しの耳かきASMR』を録ってあげよう。
 君の指示に全て従う君主導のシナリオで構わない。

『シエル、私もゲーミングPCいいと思うよ^^ ミロクも許してくれるだろう^^ 良かったねぇ^^』
『なぜ一秒で意見が変わったのですか……。ですが、まあ姉上もそう言ってくれるならもう迷いは消えました故』

 ナナちゃんは俺に快く力を貸してくれるようだ。
 優しい子だね。

『相棒、忘れるなよ。君は、私に、主導権を、渡したんだ』

 好きにしろ、ミステリアス美少女に二言はねえ!

『その意気やよし!』

 俺達は全員違う方向を向きながらやる気全開である。
 チームワーク、ヨシ!

「それじゃあ、お願いするわね」
『お任せください。このエリア一帯の掌握など、造作もありません故』

 翡翠色の大鎌が輝き、周囲に大小さまざまな魔法陣が展開される。

「ふふっ、楽しみね」

 俺はそう言って、クールに笑った。


 
 
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