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五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第155話 諦めるな! 活路を開け少女たち!

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「もうやだ! 私お家帰る! 帰って寝る!」
「りゅ、リュウコちゃん……」

 ゲートを見下ろせるビルの一つ。
 その屋上で、俺達はバルティウスの翼の中に隠れていた。

 駄々をこねるクソガキリュウコちゃんは地面に寝ころんで手足をばたつかせている。

「リュウコ、家にしょっぱい食べ物のストックはあるのか?」
「あるよ! タタリちゃんから貰った原材料不明のハンバーグ! だから帰ろう! 明日の私に全部任せよう!」
「ハンバーグか……いいな。ワタシ様は何度でもハンバーグが食べたいぞ!」

 レイちゃんはそう言ってリュウコちゃんの隣に寝ころぶと、そのまま抱き着いた。
 リュウコちゃんは拒否するでもなく半泣きでレイちゃんに頬ずりをしている。

「うえぇぇん! レイちゃん助けてぇぇぇ!」
「ハンバーグくれたらいいぞ」

 きゃわたん! きゃわたん!
 特に、お互いのほっぺがむにってなってるところがきゃわたん!

 というかもうすっかりリュウコちゃんに懐いているね! やっぱ子供にも舐められる人間なんだなリュウコちゃんって!
 尊敬するぜ!

『尊敬……?』

 …………さて、どうしようか。
 そろそろソルシエラとして動く時のことを考えないとね。

『急に冷静になるな』

 現状を整理しよう。
 
 今、クローマの自治区にいる人々は大体がブレスレットを装着して半ば敵。
 さらに敵の目的はわからず、居場所も不明。
 こっちはレイちゃんを護衛、一般人に危害を加えないようにしているため下手に暴れることも出来ない。

 こう見るとそこそこ詰んでいるように見えるな。

『まあ、ソルシエラになればどうとでもなるがね』

 リュウコちゃんは暴れるのが得意だからこういう相手にはさぞかしやりにくいだろう。

 早いところ、俺が敵の親玉を見つけてリュウコちゃんとトアちゃんの前でミステリアスにボコボコにしたいところだが……。

 実は、大きな問題がある。
 
 俺、このイベント知らねっす。
 こんなヤバすぎイベントあった?

 クローマの敵って指揮者じゃないの?
 トウラク君の偽物を操って暴れるイベントじゃなかったっけ?

 なにこれ。ねえナニコレ。

『君にわからないのに私にわかると思うかい?』

 わかるわけないだろうな。

 それに他の三人も――。

「あっ、遂に通信さえ出来なくなった……オワッタ……エイナちゃん『草』しか返してくれなかったし」
「い、一度落ち着こう。ね?」
「そうだぞリュウコ。ワタシ様の腕の中で今は静かにみっともなく泣くがよい」
「うぅ……ぐすっ」

 未だに地面に寝ころんだままリュウコちゃんはレイちゃんの胸に顔をうずめる。
 裁判長!

『むぅ、無罪だねぇ』

 そ、そんな!

 ロリの胸の中で泣くのは男女関係なく大罪でしょう!
 うらやま、じゃなくて平等に裁くべきだ!

 司法は何のために存在しているんですか!

「よしよし、今は泣け。そして泣いた分ハンバーグを献上しろ」

 頭まで撫でられてる! 
 あまつさえ頭まで撫でられてる!

 裁判長、これもう駄目ですって!
 いくら美少女と言えどもこれはズルいですって!

『……成程、ロリシエラのよしよしお昼寝音声か』

 裁判長はご乱心か!

「そ、そろそろ方針だけでも決めないかな。このままだといずれ見つかると思うんだけど」

 俺はそう言って笑顔を取り繕う。
 リュウコちゃん、俺も本当はきゃわわなロリと戯れたいんだ。

 独り占めなど、酷いとは思わないかね。

『やはりクール系ロリでのよしよしか……? いや、せっかくロリになったのだから無邪気さに包まれるのも乙というものだろうか』

 見てくれ、星詠みの杖君を。
 あれはもう駄目だ。

 君たちの突然の百合供給に壊れてしまった。

「でもどうするんだよぉ。こうなったら、ネイ先生にお願いしようかな……。あの人の聖域なら通信も回復するだろうし……でもあの人どこにいるのかわからないしなぁ。もしもブレスレットを持ってて敵に回っていたら最悪だし……」
 
 誰だ。
 俺の知らない人の名前を出すな。
 というか聖域ってなんだ。

 そんな能力、俺のデータにないぞ!

『データキャラはもう諦めたら?』

 ええい、うるさい!

 じゃあもういいよ!
 ソルシエラで解決方法をでっち上げるから!
 
 全部こっちで仕込みをするから!

『お、ソルシエラか!? ソルシエラするのか!?』

 やってやらぁ!

 だが、その前に理由をつけて三人の前から姿を消さなければ。
 今回はそもそも敵から調べる必要があるので一時間以上は独りになる理由が欲しい。

 アイス食べたし、ぽんぽん痛いでいけるか……?

『ロリシエラたん、ぽんぽん痛くなったの?^^ 撫でてあげるからこっちおいでー』

 ロリコンも大概にしろ。
 
『でも腹痛で離れるにしても一時間は無理だと思うよ』

 急に冷静になるなよ。

 何か、離れる口実……口実……。

「あ、あのリュウコちゃん、一つ私から提案があるんだけど」

 トアちゃんはそう言っておずおずと手を上げる。

「何かなトアちゃん。今はどんな意見でも絶賛募集中だよ、マジで」

 寝ころんだままリュウコちゃんはそう答えた。

「ここは見張りが沢山いるけど、もしかしたら別のゲートは手薄かも。物資搬入用のゲートとか。学院の生徒の使うゲートとか」
「確かに沢山あるけど……今から全部回るの? 時間が掛かるよ。ブレスレットが配布されればされるほど、こっちが不利になるんだからなるべく時間は掛けたくないな。手早く、安全に、そして後で褒められる方法が良いです……」

 この子、結構余裕なのでは?

「確かに、皆で纏まって移動したら時間がかかるよね。だからさ、ここは二手に分かれるっていうのはどうかな?」
「……バルティウスの迷彩の外で動くことになるよ?」

 リュウコちゃんはそう言って、上半身を起こした。
 そんな彼女に、トアちゃんは自信満々に俺を指さす。

「ケイちゃんは――すっごく男装が上手なんだよ!」
「「えっ」」

 トアちゃん、渾身のどや顔。

「今はこうだけど、実はケイちゃんは男の子のふりも得意なんだ。ね、ケイちゃん!」
「……! うん、実はそうなんだ」

 なんだか知らねえけど、これは好機では!?

 日頃から善い行いばっかりだからミステリアス美少女の神様が俺を助けてくれたんだろう!
 乗るしかねえ、この波によぉ!

「昔、色々と教わってね。こうして男装も出来る」

 そう言って、俺はトランスアンカーを解除した。
 はい、男です。
 男装というか、もう男です。

『男が美少女三人とデート? ……ふむ』

 司法が俺にだけ厳しい。

「なっ……本当に男みたいだ……」
「そうでしょ? 実はほとんど見破られたこと無いんだ」

 リュウコちゃん驚き、俺を見て固まっている。
 レイちゃんはその隣でスヤスヤだった。

 ご飯をいっぱい食べて、リュウコちゃんに遊んでもらって満足したのだろうか。
 俺たちが、この子を守らねば。

「これなら今までとは姿も違うし、自由に動けると思うよ。ね、ケイちゃん」
「うん。確かにこれなら大丈夫そうだ。これで二手に分かれよう」

 トアちゃんの完璧なサポートにより、俺達の方針は決まった。
 さて、こうして少し離れてソルシエラに。

「いや、駄目だね」
「え? でも、今の私って全然姿違くない?」
「そうだね、凄い。けど、危ないじゃん。二人は巻き込まれただけなんだから、余計なリスクは負わなくていいんだよ」
「リュウコちゃん……」

 さらっと素面で言えるセリフじゃねえ。
 なんだこの子……。

 ぼっ、凡人のアンタが私の心配なんて百年早いのよ!
 そんな……私の心配なんて……ありがと。

 って、なんでもないわよ! 何も言ってない!

『往年のラノベ始まった? 厄ネタ抱えたツンデレと自称普通の高校生の異能力バトルラブコメ始まった?』

 始まってないよ、真面目に会議聞きなよ。

『とんだ裏切り』

「リュウコちゃん、私達はただ巻き込まれただけじゃないよ。そりゃ、最初はそうだったけど、今は大切な友達。でしょ?」
「ケイちゃん……」

 俺は脳内で『心配されたツンデレヒロインの反応あるある』をやりつつ、凄く真面目に返答していた。
 
 今はいいシーンなんだよ。

「友達なんだから、頼ってよ。それに大丈夫。私はこう見えても強いから。ね、トアちゃん」
「うん。そうなんだよ」
「そうなの?」

 トアちゃんは何度も頷く。
 まるで自分の事のようにドヤ顔で口を開いた。

「ケイちゃんは強いよ! ミズヒちゃんの鬼の特訓を受けているし、ジルニアス学術院で起きた事件でも活躍したし。それに」

 トアちゃんは、リュウコちゃんの目を見て言った。

「あの六波羅さん相手に二度も生還している」
「……えっ」

 リュウコちゃんが俺を見る。
 俺はピースサインを作って言った。

「能力を使われた上で生還しました。ピース」
「お願いしますケイ様この矮小な私めを助けて下さい」
「「どっ、土下座!?」
 
 変わり身が早すぎる。
 リュウコちゃんの中で俺が強い人に格上げされたのだろうか。

 それにしても随分と土下座に慣れているな……。

「か、顔を上げて! そんなことしなくても勿論協力するから……!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 体育会系みたいな礼を何度もするリュウコちゃんを尻目に、俺はトアちゃんの方を向く。

「じゃ、じゃあ私行ってくるから。後はよろしくね」
「うん、任せてよ」
 トアちゃんは笑顔で頷いた。
 この子もいざとなったら収束砲撃を撃てるし、安心だな。

「リュウコちゃん、じゃあ下まで降ろしてくれるかな」
「うん。……本当にありがとうね。気をつけて」

 バルティウスは俺達を拾い上げて、一度下の路地裏まで降りた。

 俺は、一人背から飛び降りる。
 少し進んで振り返れば、既にそこには何もなかった。

 えっ、もう行ったの?

『いや、反応的に目の前にまだいるよ。ただ、君にはもう見えないんだ』

 すっげぇ、こうなってんだ……。

『相棒、時間をむやみに消費するものではない。行こう』

 そうだな。
 よし、行くぞ星詠みの杖君。
 ここからが、ミステリアス準備タイムだ。
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