上 下
153 / 232
五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第150話 迷子! ブリザードガール!

しおりを挟む
 
 途中までは良かった。
 マジで、凄く良かった。

 食いしん坊の臆病美少女に、クールな保護者美少女、そして無個性を気にする美少女。

 もうテンプレきららだった。
 完璧にほのぼの日常美少女パターンに入ったと思っていた。

 だから、油断した。

 いきなり現実に引き戻されるとはね。
 マジで怖いね、学園都市。

「ん、このハンバーグはしょっぱくて美味しいな。ワタシ様は満足だ」

 ところ変わってとあるファミレス。
 
 俺の向かいの席に座った美幼女はそう言った。

 あれから俺達はリュウコちゃんの指示の元、移動したのだ。

 ちなみに、今は全裸ではなくフリルたっぷりのゴスロリ衣装を着ている。
 付け加えて言うならば、チョイスは俺ではない。断じて違う。
 トアちゃんだ。

『かわいいねぇ^^ 』

 フォークを小さな手で握って、もっきゅもっきゅと口を動かすさまは可愛い。

 けど、この人たぶん騎双学園の生徒会長だよなぁ……。
 面影というか、一人称と自分中心の言動がモロにあの人だ。

 氷凰堂レイは、原作では敵というよりは災害に近い。
 六波羅さんがトウラク君サイドについたときに騎双学園のリーダーとして立ちはだかるのだが、敵らしい行動はそれだけ。

 あとは騎双学園の愉快な仲間達と共に問題を起こして「また生徒会か」と言われるような半ばギャグの集団と化していた。

 が、侮ってはいけない。
 この人、Sランクの中でも中々にやばい人である。

 彼女の能力である凍結は、概念に干渉し、時すら凍らせる。
 そして、相手の能力さえも。

 Sランクでこれに対抗できるのは無敵モードの六波羅さんだけであり、これこそが騎双学園にだけ二人Sランクがいた理由だ。

 なので、この子がもしもレイちゃんなら、俺達は敵に回ったその瞬間に敗北する。
 凍結ってズルだろ。どうやって勝つんだよ。

『? 凍結ごとき干渉すれば良いのでは? 私の事を舐め過ぎだねぇ』

 凍結って雑魚だろ。マジで楽勝過ぎるわ。

『相変わらず、見事な手のひら返しだ』

 よせやい、褒めても何も出やしねえ。
 
 が、俺が凍結に対処可能ならもう安心だ。
 なんで幼女になってるかわからないけど、遊んであげるね♥

 丁度ロリ枠が空いてるよ。四人それぞれ属性が分かれてておさまりがいいね。
 
『幼女すらコンテンツにしてる……というか良いのかい? レイは君の記憶ではこんなに幼くはないのだろう?』

 まあその辺は学園都市だし……。
 原作でもヒロイン達が聖遺物のせいでロリになる回とかあったし……。

 だから、驚くほどの事じゃない。
 マジで困ったらアリアンロッドに行けばいいしね。

「トア、ワタシ様のハンバーグを一口くれてやろう。だから、そのステーキを一切れ寄越せ」
「あ、いいよ。はい、どうぞ」
「ん! 美味いな! ワタシ様のもくれてやる!」
「ありがとう……うん、美味しいよ!」

 目の前で、トアちゃんとレイちゃん(幼女のすがた)があーんをし合っている。
 見たまえ星詠みの杖君。この光景が見られたのなら、彼女が幼女になった理由など些細な事だと思わないかね。

 どうせあっちでどうにかするんだし、俺達はこの幸せを享受しようではないか。

『おぉ……これが、愛。人の持つ心の輝きか……』

 ラスボスかな?

「ケイ、お前は食べないのか? このミートソーススパゲティを注文したらどうだ。そうすれば、ワタシ様のハンバーグと交換してやってもいいぞ」
「貴女が食べたいだけでしょ。私は遠慮しておく。もうお腹いっぱいだから」
「む、そうか。であれば無理強いはしない」

 レイちゃんはそう言うと、特段落ち込んだ様子もなくハンバーグを食べ始めた。
 その隣では、トアちゃんがメニュー表を見ている。

 そう言えば、パフェとか口走ってたね。
 ……え、マジで食うの?

「……あ、私の分もパフェ頼んでもらって良いかな。チョコモンブランパフェで」
「リュウコちゃん、戻ってきたんだ」

 声のした方を見れば、疲れた顔のリュウコちゃんがいた。
 
 彼女はSランクという事でレイちゃんが滅茶苦茶にしたクレープ屋の処理をしていたのだ。
 俺達に一旦レイちゃんを預けて一人クレープ屋に残ったリュウコちゃんの背中から漂う哀愁は今も忘れられない。

「だ、大丈夫? ステーキ食べる?」
「ワタシ様のハンバーグもくれてやる」

 食えばなんとかなると思っている二人に差し出された肉をそれぞれ食べたリュウコちゃんは「んまい」と元気がないまま言うと俺の隣に座った。

 はわわ!

「どうして六波羅さんいないんだよ……。どこ行ったかもわからないし……タタリちゃんも連絡つかないし、キリカちゃんは既読無視だし……。ユキヒラさんはなんか怖いし……」

 ぶつぶつと呟きながら、リュウコちゃんはどんどんと俯いていく。

 確かに、Sランク一番の問題児が幼女になっているとか、リュウコちゃんの立場なら関わりたくないだろう。

 君、本当は面倒臭がりの事なかれ主義だもんね。
 無個性なのが個性だもんね!

「良かったら、私からミズヒちゃんに連絡しようか……?」

 心配そうにトアちゃんがそう言った。
 
 その瞬間、リュウコちゃんは顔を上げてぱぁっと表情を明るくする。
 が、次の瞬間にはハッとして首を横に振った。

「い、いや、いいよ! 新入りにばかり頼っていては示しがつかないからね。うん、マジで。これくらい、Sランク渡雷リュウコがなんとかしてやらぁ!」

 もう半ばやけくそであった。
 が、リュウコちゃんの異能であるバルティウスは、たぶんこういう事には不向きである。

 ドラゴンで何が出来るってんだ。

『ふむ、ではそのバルティウスをドラゴン娘にしてみては?』

 何が「では」なんだよ。
 解決になってねえだろ。

「とりあえずパフェだ! 難しい事はそれ食べてから考えよう!」
「リュウコ、ワタシ様もパフェ食べたい」
「……そっかぁ! じゃあ頼みな!」

 リュウコちゃんの中の何かが壊れたようだった。
 俺には心配そうな顔のクール美少女を演じる事しかできない。

 ごめんね、いざとなったら俺がソルシエラするからね。

 まあ、そんな大したことにはならないと思うけどな、ワハハ。















 クローマ音楽院の大元は、国家機関であった。
 その成り立ちから説明するとなると、学園都市ヒノツチの設立まで遡ることになる。

 騎双学園などに並ぶ最古の学園と言っても良いだろう。
 
 今でこそ観光客用に自治区は作られているが改造を繰り返されたこの都市の裏には明確な空白が存在する。

 クローマ音楽院の観光用商業区の地下100メートル。
 誰の目にも晒されないその場所に、一つの劇場があった。

 簡素な装飾と必要最低限の明かり。
 あくまで主役はステージの上の人間だとでも言っているかのようだ。

 ステージの上では、一人の男がピアノの演奏をしている。
 どういう訳か、彼の顔は随分と青い。

「――あー、つまりは逃げたんだろう、サブプランが」

 無数に並ぶ席の真ん中に座り、一人の女性は通話の相手に向けて吐き捨てるようにそう言った。 
 それからため息つき、頭をガシガシと掻く。

「見誤ったか、覚醒のタイミングを。別に良いさ、問題ないから」

 黒と緑が混ざった奇抜な髪色のその女は、よれた白衣の中を漁りながら言う。

「追ってくれよ、一応。必要になるかもしれないからな、あのガキも」

 キャンディーを取り出した女性は、それを口に入れるとボリボリとかみ砕いていく。
 その顔は、眉をしかめながらも口元は弧を描いていた。

「オリジナルを所有しているのは、私達。だから殺して回収でも良い、最悪」

 女性はもう片方の手で、銃の形を作る。
 その先には、ピアノを引く男性の姿。

「許すよ、この私が」

 銃を撃つ仕草をしながら、女性は嗤う。
 その瞬間、男の弾いていたピアノを氷が覆い始めた。

 それでも男はピアノを弾く手を止めず、しかしその顔は今にも泣きそうである。

 彼の感情に呼応して、演奏が荒々しくなっていく。
 そしてついに、男は恐怖に駆られて立ち上がり逃げ出そうとした。

「立ったな、席を。止めたな、演奏を」

 学者はそう言って手を叩く。
 まるで拍手のように軽快に、そして陽気に。

 が、拍手を送られている筈の男の顔は怯え切っていた。
 何度も学者に許しを請うその姿は、既に奏者ではない。

「罰ゲームだ、残念ながら」

 男の周囲に、霜が降りる。
 それはまるで死神の吐息のようで、男の足元を氷が覆っていった。

 それからは、あっという間だった。

 まるで映像の早回しのように男の足を覆っていく氷は、そのまま数秒ほどで男を飲み込んだ。

 ピアノの音も、男の嘆く声も聞こえず、辺りに静寂が訪れる。

 学者はそれを見て席を立った。

「ヴァイオリンだな、次は」
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

月額ダンジョン~才能ナシからの最強~

山椒
ファンタジー
世界各地にダンジョンが出現して約三年。ダンジョンに一歩入ればステータスが与えられ冒険者の資格を与えられる。 だがその中にも能力を与えられる人がいた。与えられたものを才能アリと称され、何も与えられなかったものを才能ナシと呼ばれていた。 才能ナシでレベルアップのために必要な経験値すら膨大な男が飽きずに千体目のスライムを倒したことでダンジョン都市のカギを手に入れた。 面白いことが好きな男とダンジョン都市のシステムが噛み合ったことで最強になるお話。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...