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五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第149話 仲良し! スイーツ巡り!

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 曰く、その女子生徒たちは二人で美味しい物を食べに来たらしい。

 最近何かと話題に上がるフェクトム総合学園という学園の生徒のようだ。
 金髪の少女をトア、黒髪の少女をケイと言うらしい。

「それにしても、他の学園の生徒さんがよくこのクレープのことを知っていたね」
「当然! 美味しい物の事なら!」

 トアは目を見開いてそう答える。
 その隣では相変わらずケイが仕方がなさそうに苦笑いをしていた。

 女子高生同士という事もあってか、リュウコは既に二人と意気投合している。
 故に、三人で仲良くそのクレープ屋に向かうのも、当然の事だった。

 既に口調も砕け、まるで旧知の仲のよう。
 スイーツが繋げた友情の輪だ。

 リュウコの場合は任務への現実逃避もあるのだが、些細な問題だろう。

(というか、どっちも綺麗な子だなぁ)

 リュウコは二人に気づかれないようにチラリと見る。
 見れば見る程、その美少女っぷりが理解できた。

 トアの方は、パッチリとした目に小動物を彷彿とさせる顔だちである。
 声や動作がどこか庇護欲を掻き立てた。

 仮に男子がいれば放っておかないであろう純真さは、同性のリュウコですら良いと思ってしまう。

 一方でケイは、落ち着いた少女であった。
 美しい黒髪に、きめ細かな肌。
 蒼い眼はまるで宝石の様である。

 一見冷徹なイメージを持ってしまうが、トアの言葉に笑みを浮かべて相槌をうっているあたり、堅物という訳ではなさそうだ。
 おそらくは、トアの保護者のような立ち位置なのだろう。

 常に視界の隅にはトアを置き、彼女が転びそうになればサッと前に出てサポートをしている。
 それに加えて、どうやらトアに悟らせないように歩きやすい道へと誘導しているようだった。

(出来るメイドとお忍びお嬢様?)

 二人を見たイメージはそれが一番しっくりきた。

 と、その時ケイと目が合う。
 ただそれだけで、リュウコは無意識の内に緊張していた。

「……あの、聞いて良いのか分からないんだけど」

 そう前置きして、ケイは言葉を続ける。

「リュウコちゃんってもしかして、あのSランクの渡雷リュウコ?」
「えっ……えええ!?」

 ケイの言葉に驚くトア。

 そしてリュウコ本人と言えば。

「いやぁ……まあ? そんな感じかなぁ?」

 自尊心を満たしまくっていた。

(久しぶりに気付かれた……! 前は一か月前だったかなぁ。やっぱり嬉しいなぁ!)

 面倒臭い事は嫌だがそれはそれとしてSランクとして皆に一目置かれたいリュウコ。
 そんな彼女にとってケイの言葉はクリーンヒットしていた。

「やっぱりわかっちゃう? そう、私がSランクの渡雷リュウコだよ」
「す、凄い……ケイちゃんサインとか貰おうよ! わあ、私凄い人とお友達になっちゃった!」

(き、気持ちいぃ! 私がSランクだと気が付いてここまで喜んでくれる人初めてかも……! いつもは「あ、リュウコじゃん。草」で終わりだし……)

 もう任務のことなど忘れてリュウコは喜んでいた。
 こんな事、向こう数年あるかどうか怪しい。

 ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、リュウコは自身の拡張領域から既にサインがされた色紙を取り出した。

「サインが欲しいの? えっへへ、上げちゃう」
「わあ! ありがとう!」
「常備してるんだ……」

 一人だけ正気のケイを置いて、二人は加速していく。

「いやぁ、いっつもサインをねだられるからこうして数枚用意してるんだよね。今日もここに来るまでに百枚ほど配っちゃってさぁ!」
「す、すごいよぉ! やっぱりSランクって人気なんだね。ミズヒちゃんも最近は声をかけられてばっかりでファンへの対応の方が大変だって言ってたし」
「えっ、そうなの」
「うん、リュウコちゃんと一緒だね」
「……ハハハ、ソウダネ」

 哀れSランク渡雷リュウコ、新入りに大敗北である。

 心のどこかでは今年こそ、Sランクの人気投票で最下位を脱出できるのではないかと思っていたのだが、どうやら無理そうだ。

(どこでこんな差が……やっぱり髪色か? 私も他のSランクみたいに髪の色を派手にするか?)

 トアの髪をジッと見つめながら、リュウコは考える。
 彼女はSランクとしての使命よりも、ちやほやされて大金を稼ぐ事の方が大事だった。

「あっ、もしかしてなんだけど」

 何かに気が付いたかのように、トアは辺りをキョロキョロ見渡した後にリュウコにそっと耳打ちする。

「今って、Sランクの秘密の任務の遂行中? だから、わざと存在感を消してた……とか?」
「………………うん! 後半は正解かな!」

 リュウコは自分のプライドをとった。

「別に任務ではないんだけどね、休日にはこうして人通りの多い所をパトロールしてるんだ。この辺りは色んな学園の生徒さんが来るからね。争いごとも少なくないし」

 嘘である。
 今の言葉は、クローマ音楽院の生徒会長に見回りを頼まれたリュウコが言われた言葉だった。

 なお、リュウコはそれをSランクの仕事が忙しいで断っている。
 一番仕事を受けたがらないくせに、忙しいと言って断っている。

「か、カッコいい……私達も、見習わないとね、ケイちゃん」
「……うん」

 ケイの蒼い瞳がリュウコを捉える。
 当の本人は、咄嗟に目を逸らした

(ば、バレてる……? いや、まさかね。だって私、Sランクだし。……というか、これ任務どうすんの)

 トアの言葉で任務を思い出したリュウコは考える。

(クレープ食べてお別れ? 嫌だなー、もっとこの子たちと遊びたかったー! 特にトア)

 既にトアはお気に入りの子であった。

(まあ、こうしてスイーツ食べ歩きしてれば見つかるでしょ)

 非常に都合の良い考えと共に、リュウコは今後の方針を決めた。
 その名も「今が楽しければそれで良い」である。

 彼女は、テスト前日に一夜漬けをするタイプだった。

「パトロールはしてるけど、休日でもあるからね。こうしてクレープを食べてもオッケーってわけ。……っと、ほらあれが噂のクレープ屋さんだよ」

 リュウコは気持ち良いままそう言ってクレープ屋を指さす。
 
「あそこが噂のクレープ屋……。一口食べれば二度と手は止まらず、食べ終える頃には昇天していると噂の生クリームたっぷりの鬼カロリークレープ!」
「トアちゃん?」

 饒舌になったトアを見て、ケイが困惑する。
 が、隣にはトアには負けるもののスイーツが大好きな少女がいた。

「あのクレープは翌日の体重計に乗った女子高生を殺す。しかし美味しさゆえに止まることは無い。その様子が死刑台へと自ら歩む者の姿に似ていた事、そしてクレープの上に乗った採算度外視のフルーツやクリームが丘のように盛られている姿からあのクレープはいつしかこう呼ばれることになった」
「リュウコちゃん?」
「「ゴルゴタの丘クレープ!」」
「え、私だけ置いていかれてる? ねえ、いつの間にそんなしめし合わせたかのように……いや、握手しないで。……うん、別に私も握手したいってことじゃないから」

 終始冷静なケイだったが、一人で二人分の暴走を止められるわけがない。
 片やスイーツを前に。
 片やSランクだと褒められて。

 どっちも気分は最高潮だった。

「さあ、行こう二人とも。私はこのクレープ屋の裏メニューも知っているからね。教えてあげるよ」
「本当!? ケイちゃん、やったね!」
「いや、私は小っちゃいやつでいいです……この前に色々食べたよねトアちゃん?」

 後ろで和気あいあいと楽し気な二人の会話に頬をほころばせつつリュウコはクレープ屋を見て、動きを止めた。

「……ッスー」

 息を吸う。
 それから、眉間を揉んでもう一度クレープ屋を見た。

 凍っている。
 あちこちに、氷が張り付き、辺りに霜が降りている。

 嫌な予感しかしなかった。

「わあ、流石クローマ音楽院。クレープ屋さんも凄いデザインなんだね」
「そういう事なの? これ」

 ケイは違和感に気づいているのか、首を傾げている。
 リュウコに迷っている暇はなかった。

(流石に一般生徒を巻き込むわけにはいかないよね……)

 トアとケイはただの客人である。
 ならば、裏の問題に巻き込むべきではない。

 そう判断したリュウコが口を開いたその時だった。

「急ごう。数量限定だから!」
「「えっ」」

 ケイとリュウコの困惑をよそに、トアは駆け出す。
 今までのおっとりした様子から考えられない程に機敏であった。

「ちょ、ちょっと待って! ストップストップ!」

 リュウコは咄嗟に腕を掴む。
 が、ただの女子高生一人に止められるわけがなかった。
 
 収束砲撃の撃ち手は、時に重砲を持ったまま戦場を駆けまわる。
 ならば、たかが数十キロの重しで止まるはずがない。

「力つよっ!」
「トアちゃん、止まって。ほら……あっ、力つよ」

 見かねたケイもトアを掴むが、止められるわけがない。
 
 トアは騎双学園やジルニアス学術院での事件、そして領地戦を経てさらに強くなっていた。
 細身の美少女が一人加わった程度で止まる筈がない。

「クレープ食べて……次はパフェ?」

 止めるのに必死なリュウコと、言葉を聞いてギョッとしたケイを引き摺って、トアはそのままクレープ屋へと足を踏み入れた。

「こんにちは! ゴルゴタの丘クレープを……あれ」

 トアの暴走が止まり、リュウコはようやく立ち上がる。
 そして嫌々ながら店の中を覗き込んだ。

「……うわぁ」

 うんざりした声が自分から出たことにリュウコは気が付いていない。

 至る所が凍てついた店は、既に店員も客もいなかった。

 争いにすらならなかったのだろうか、意外にも小奇麗さは残ったままの店の中で、ソファに座っている全裸の少女が一人。

 口の周りにべっとりとクリームを付けて、手づかみでクレープを食べる青い髪の幼い少女だ。

「――ん、これはうまい。けど」

 少女は目の前のクレープを平らげて言った。

「ワタシ様はしょっぱい物が食べたい」

(絶対この子だあぁぁぁ!)

 リュウコは思わず膝から崩れ落ちた。
 
「え、リュウコどうしたの?」
「リュウコちゃん? っていうか、なんであの子裸なの!? 親は!? あと限定クレープは!?」

 Sランク、渡雷リュウコ――任務継続中である。

 
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