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四章 騎双学園決戦

第143話 純情

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 たいへんたいへーん!

 私、ソルシエラ十五歳!
 どこにでもいる普通のミステリアス美少女だったんだけど、まさかのファーストキスをネームレスに奪われちゃった☆彡

 もしかして、あの子が好きな人って私ぃ~!?
 これから私の学園生活どうなっちゃうの~!

 ………………ふぅ。
 で、何あれ。

『急に冷静になるな』

 はわわ~!

『悪かった、冷静になってくれ。そのキャラ付けは見ていて何故か腹が立つ』

 マジかよ俺のきゃわわな少女漫画主人公ムーブがムカつくのか。
 君、もう少しそういうの読んだほうが良いよ。

 というか、君は冷静だね。
 少し前まで一緒に『はわわ><』ってしてたじゃん。

『既に昂った気持ちはツイートして発散した。これが感情のコントロールというものだよ』

 戦いの最中に何やってんだ君は。

『仕方がないだろう! まさかネムシエラの可能性があるとは思わなくて!』

 何その独特の呼び方。
 そういう界隈でもあるの?

『有料プランに今月投稿する5ページ漫画は決まったねぇ』

 俺の知らないところでどこかに有料プラン開設してるじゃねえか。
 おい、俺にも教えろよそれ。

『本人には教えないよ。それはマナー違反だろ』

 どの口が言ってんだ……。

 それで、星詠みの杖君は大丈夫なの?
 なんかトランスアンカーをぶち込まれたみたいだけど。

『別になんともないねぇ。確かにネームレスの言う通り、状態を正常にする一種の回復魔法の様な術式があったが、元々君の体は常にベストコンディションだ。効くわけがない』

 まじ? なんかすっごい体が楽になったけど。

『あ、侵食形態が解除されてしまったからかな? あの状態だと定期的に大激痛が走るからねぇ』

 じゃあトランスアンカーに助けられてるじゃん。
 意味あるじゃん。

『余計なことをしやがって……あの後私が登場してソルシエラをぐちゃトロにする予定だったのに……』

 サンキュートランスアンカー!
 なんか知らねえけど助かったぜ!

『ミステリアス美少女を助けただと? ……ネームレス、一体何者なんだ……!』

 それやめろ。
 俺がミステリアス美少女なんだ。

『でも君最近正体知られまくりじゃん。最近のソルシエラに対する皆の評価はもう薄幸美少女になってます。ミステリアスさの欠片もありません』

 だ、大丈夫。
 ここからオリチャーで上手く軌道修正するから……!

『ほーん^^ じゃあ、早速見せてもらおうかな。さっきからずっと君を起こそうとしているクラムがいるからね。彼女相手にミステリアス美少女してみたまえよ』

 任せろい!
 こちとら根っからのミステリアス美少女でい!

『ミステリアス江戸っ子?』

 俺の傍をウロウロする美少女の気配。
 薄眼を開けてみれば、それがクラムちゃんだとすぐに分かった。

「うーん、どうやって起こそう。流石に転移無しだと逃げられないしなぁ……でも無理矢理起こすのも可哀そうだし……」

 どうやらクラムちゃんは傷ついた俺を気遣ってくれているようだ。
 成程、クラムちゃんはその心まで美少女なんだね。

「……いまなら、私もキスできるのでは?」

 クラムちゃん!?

『来た! 王道カプ来た!』

 俺の頭の中で星詠みの杖君が勝手にカーニバルを始めた。
 凄くうるさいし、なんなら王道カプではない。

「き、キスしてもいいよね……うん、だって私は彼女なんだし」

 はわわ><
 
 勝手に彼女にされた上にキスされそうだよぉ~!
 字面だけで見るとヤバイストーカーに襲われているみたい><

 目を閉じて、クラムちゃんが顔を近付けてくる。
 そのタイミングで、俺は目を開いた。

「――なにしてるのかしら」
「うぇっ!? そっ、ソルシエラぁ!」
「騒がしいわね……」

 俺はいかにも目覚めたての雰囲気を出しながら顔を顰める。
 本当はキスしようとしてたんでしょ^^
 知ってるよ^^

『色々と台無しだよ。せめて恥ずかしがってくれ』

 なぜ美少女からのキスで恥ずかしがる必要があるんだ?
 本当なら誠心誠意の感謝を見せなければいけない事だろう?

「お、起きたんだ……ふ、ふーん」
「あら、私が起きてはいけなかったのかしら?」
「そ、そんな事は言ってないよ! ……体は大丈夫なの?」

 心配そうなクラムちゃんかわいいねぇ。
 一度親友を失った経験が誰かを失う事を恐れさせているんだよね。

『あ~、脳にキクねぇ。これだよこれ。必死に攻めるクラムとその根底にある弱さを受け入れるソルシエラ。これが、人の持つ輝き……』

「大丈夫よ、浸食も止まったわ」
「そう、そうなんだ……良かった……」

 今にも泣きそうなクラムちゃんを見て、俺はふっと微笑み抱き寄せた。
 そして、両手で優しく抱きしめる。

「ありがとう、クラム」
「は、はわ」

『うおおおお! これだよこれぇ! 人間、マジ最高!』


 星詠みの杖君は満足してくれたようだ。
 さて、星詠みの杖君よ、何か忘れていないかい?

『え? この場にクラソルより大事なものがあるのか?』

 トウラク君。

『あっ……』

 君さ、一応は星詠みだよね?
 妹が暴走したら仕事するんだよね?

 なのに、趣味にかまけて使命を忘れるのはどういう事?
 ほら、様子を見に行くぞ。

『す、すまない。けれど、一応は暴走も沈めたし大丈夫だと思うけどねぇ』

 ふらふらと立ち上がった俺をクラムちゃんがさっと支えてくれる。
 ありがとね。

「もうこの場から逃げちゃう?」
「いえ、まだよ」

 どうして皆トウラク君を放って行こうとするの?
 最後に様子を見ようとか、そういうのはないの?

『まあ大丈夫だろう。肉体の修復もしたし、暴走状態も解除した。これ以上何が出来ると?』

 まだミステリアス美少女出来るだろうが……!

「トウラク……」

 俺は少しだけ体を引き摺りながら移動を開始する。
 ちなみにもう体は元気いっぱいなので普通に走ろうと思えば走れる。

 が、足を引きずる。
 そっちの方が良いから。

 クラムちゃんに支えられて、トウラク君の前まで来た俺はクールに呟いた。

「――余計なモノを、背負わせてしまったのかもしれないわね」

 俺の悲し気な呟きは風にかき消されてしまう。
 が、これで良い。

 うん、満足したし帰ろう。

『なんだったんだこの時間』

 こういうのこそ意味があるんだよ。
 クラムちゃんをご覧。

 意味のないスカスカの言葉を勝手に深読みして辛そうにしてるよ。
 これこそミステリアス美少女の醍醐味だ。

「さあ、戻りましょうか。このままここにいると、厄介なのに勝負を挑まれかねないわ」
「執行官だね。あれは相手にしたくないなぁ」

 クラムちゃんの言葉に俺は肩をすくめる。

「私もよ」

 お互いにふっと微笑んで、転移魔法陣を起動した。

 間もなく領地戦も終わるだろう。

 六波羅さんが天使の相手をしているという事は、ミズヒ先輩が野放しという事だ。
 そこにヒカリちゃんとトアちゃんもいるなら、既に騎双学園のダンジョンコアは攻略間近なはずだ。

 転移魔法陣に入る直前、俺は振り返る。

「どうしたの、ソルシエラ」
「別になんでもないわ。行きましょう」

 ちなみにマジで意味はない。
 クラムちゃんが気が付くの読みで、それっぽい動作をしただけである。

「本当に、なんでもないの」

 こうして、俺の領地戦は終わりを告げた。

『……で、この天使の首ってどうするんだい?』

 …………あっ!
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