かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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四章 騎双学園決戦

第139話 交錯

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 エイナの探知により場所を割り出した六波羅が向かった先には、二人の少女の姿があった。
 吾切あぎりリンカと綺羅螺きららクラム。

 初対面であるはずなのに何故か片方には見覚えがある。

「お前、どっかで会ったことあるか?」
「え、クラム知り合いなの?」
「……いや、全然しらないなぁ~あ、あははは」

 六波羅としきりに目を合わせようとしない紫髪の少女。
 その姿がどこか引っ掛かりながら、六波羅は首を傾げつつも話を進めることにした。
 
 この少女が知り合いかどうかなど、些細な事である。
 それよりも大事なのは。

「この騒動の大元となった天使の破壊。俺はソルシエラにそいつを頼まれてきたんだが」
「うん。ソルシエラから聞いてるよ。私に任せて」

 そう言って、リンカは仮想ウィンドウを展開する。
 それは、両陣地の地図であった。

「あ? なんだこれいつの間に……」
「私はこういうの専門だから。で、天使を破壊するって言っても、今回は少し事情が違う。天使を裏で操っている奴がいる。だから、六波羅執行官にはソイツの捕縛をしてほしいの」
「なるほどなァ、それでエイナを使おうってか」

 合点がいき、六波羅は頷く。
 クラムはそんな六波羅からそっと距離をとっていた。

「クラムの自律武装のおかげで、天使の出現位置は大体分かった。明らかに意図的で使役者の癖がある。後はここから今いる位置を逆算していけば――」

 そう言って、リンカは地図を見てブツブツと何かを呟き始めた。
 物凄い集中力だと、傍から見ても理解ができる。

 僅かな時間ではあるが手持ち無沙汰になった六波羅は、自分から何故か距離をとっているクラムへと話しかけた。

「おい、お前はなんかしねェのか」
「……私の役目はまだ。今は、あの子の戦う姿を見ていることしかできない」

 人呑み蛙が現場からリアルタイムで送られてくる映像を見ながら、クラムは答える。
 映像にはソルシエラとトウラクの二人が映し出されていた。

「これは……アイツらか」

 クラムの眼が映しているのは、ただ一人。

「……あの子は代償を払ってあそこにいる。私は、また何もできなかった」

 







 
 星斬は、明星計画の要である。
 概念を切り裂く力による厄災の切断は、ルトラにしかできない。

 その強力な力はトウラクのよく知る所だ。
 しかし。

「……おかしいな、斬れないものはない。それが星斬だって聞いたんだけど」
「っ、はぁっ……ふふっ、悪いけどここで貴方に負けるわけにはいかないのよ」

 目の前で笑うソルシエラは赤いドレスを身に纏っていた。
 戦いの中で、黒かった彼女の服を飲み込むように、赤いベールが重なっていったのである。

 それは見た目だけの変化に非ず。
 トウラクは何度か攻撃を仕掛けてその姿の本質を理解した。

「干渉により、鎌に触れる異能を全て無効化する……そうだろう?」
「流石の観察眼ね、正解よ。さて、貴方はどうするのかしら」

 ソルシエラは笑う。
 が、表情とは裏腹に呼吸は荒く、動きは精彩を欠いていた。

 自身の不調を取り繕うなど、普段のソルシエラなら造作もない。
 そんな彼女ですら隠しきれない程の負担がかかる形態であるようだ。
 
 トウラクはそれを見て、悔しそうに顔を歪める。

「どうするか……だって? 君を助けるに決まってるだろ!」
「なら貴方がまずはルトラを手放しなさい」
「断る。それじゃあ君を守れない」

 互いの視線が交錯する。
 束の間の静寂。

 そして次の瞬間には、両者は衝突していた。

(あれは触れた物の異能を無効化する。なら、それ以外の場所はッ!)

 ソルシエラの大鎌とルトラがぶつかる直前、星斬が重力を切断。
 トウラクは不自然な機動で鎌を回避すると、そのまま背後に立ち横に大きく切り裂いた。

 が、その一撃は地面より現れた茨によって防がれる。
 
「貴方ならそうすると思ったわ」

 振り向くことなく、ソルシエラはそうつぶやく。
 そして、指を鳴らした。

 地面から無数の茨が現れて、トウラクを囲んでいく。
 彼女に巻き付いていた物と同じ、痛々しい黒い茨だ。
 
「ルトラ、一振り」

 トウラクは慌てることなく、周囲の茨を前にそう命じた。
 瞬間、トウラクを囲んでいた茨が細切れになりその場に落ちていく。

 その向こう、こちらに駆け出していたソルシエラの姿が見えた。

「ルトラッ!」
「ふふっ、もう遅いわ」

 星斬の発動よりも早く、ソルシエラの大鎌が振り下ろされる。
 トウラクは咄嗟にそれを受け流し、己の培ってきた剣術のみで対応した。

(星斬を使う隙が無い……。滅茶苦茶な攻撃でも、こうも基礎スペックが高いと厄介だな)

「もう抵抗はやめなさい」
「嫌だ。僕が悲劇を終わらせる!」

 短い会話の応酬。
 それはやはり、平行線で終わった。

「相変わらず、強情ね――ぐっぅっ……!?」
「ッ!」 

 突然、ソルシエラの動きが鈍る。
 その隙をついて、距離をとったトウラクは即座に彼女を見た。

 左腕を押さえながら苦しそうに呻く彼女は、今にも倒れそうな体を大鎌で支えている。
 いつものトウラクならば、武器を捨てて駆けだしていたはずだ。

 が、しかし今は違う。
 ソルシエラの傷つく姿は、彼の心を掻き立てるだけだ。

「――どうしてそこまでして戦うんだ。使命だとか、役割りだとか……君は君だろ」
「……これが、私の望みだから」
「ッ!」

 トウラクはルトラを構えて駆け出した。

「ルトラ三振り!」

 距離が切断され、ソルシエラの背後に移動する。
 次いで切断された重力が、ソルシエラの体を宙に浮かせた。

「あら」

 ソルシエラは涼しい顔で、大鎌を振るう。
 干渉により重力異常が打ち消されて、彼女の足は再び地に付いた。

 が、その隙こそトウラクが狙っていたモノだ。

「ごめん、今から君を――殺す」
 
 トウラクはずっと考えていた。

(……もう殺してしまって、後から蘇らせた方が良いんじゃないか?)

 それだけは超えてはならない一線だと叫ぶ自分を無視して。

(そうだ、それがいい)

 彼が思い描いていた理想は、彼自身によって切り捨てられた。

「痛いだろうが苦しいだろうが、耐えてくれ。僕だけが、君を救えるんだ」
「っ、想像以上におかしくなってるのね貴方……!」

 ソルシエラは驚愕する。
 そして次の瞬間には、覚悟を決めたように大鎌をトウラクへと向けた。

「私が貴方を止める」
「僕が君を救う!」

 大鎌とルトラが交錯する。
 が、真正面からの衝突は避けられた。

「ッ、ここだ」

 大鎌を受け流し、トウラクが前に一歩踏み出す。
 能力の使用を制限された今のソルシエラと、異能を無効化されたトウラク。

 この両者の間にあった基礎スペックの差は、既に存在しない。

 三振り目。
 トウラクはこれを自身のリミッターの切断に使っていた。
 無意識のうちに抑えていた人としての枷、それを自ら外し獣に堕ちる。

 そうしてまでも、彼は目の前の少女を救いたかった。

「ケイっ!」
「……っ」

 大振りな鎌という武器の間合いの内側に入ってしまえば、今のソルシエラには抵抗は出来なかった。
 茨を生み出そうとするも、彼女は既に代償によりまともに操ることができない。

「これで君を殺してあげられる……!」

 トウラクは、ルトラを投げ捨てる。
 空になった手は伸ばされていき――ソルシエラの首を掴んだ。

「がぁっ!?」

 ルトラという最大の武器を捨てた、生身での絞殺。
 想像の範囲外の攻撃に、ソルシエラは目を白黒させながら必死に腕を振りほどこうとした。

 が、彼の腕は離れない。

「僕に救われた方が幸せになれるだろ……! もう君が傷つく姿は見たくないんだ、だから救われてくれよ!」
「ぁ、が……っ」

 首に力が込められていく中、ソルシエラはそれでも笑って言った。

「自分よりも、辛そうな人に誰が、救われ、たい、の?」
「……え?」

 言葉の意味が分からずに、トウラクは一瞬動きを止めた。

 その隙を、彼女が見逃すはずがない。

「く、らむ……!」

 僅かに動いた唇が、確かにその名を呼んだ。
 その瞬間、潜んでいたであろう自律武装が、飛び出してくる。
 
 それは、一匹の蛙だった。

 蛙は、ぴょんと跳ねるとトウラクの背中にしがみつき、そして爆発した。

「――っ」

 ルトラを持たないトウラクに対処などできる訳が無い。
 勝敗を決めるには充分な威力の爆発がトウラクを襲い、彼はそのまま前のめりに倒れた。

 ソルシエラは、それを真正面から受け止めると優しく抱きしめて笑う。 

「私を助けようとしてくれて、ありがとう」

 その言葉と共に、トウラクを中心に魔法陣が展開された。
 優しく暖かな光が、周囲を包んでいく。

 その光の中心に彼を寝かせ、それからルトラを傍に置いた。

 それからソルシエラは微笑んで、トウラクにだけ聞こえる小さな声でつぶやく。

「貴方に会えた時に――私はもう救われているんだよ」

 傷ついた体を引きずり、ソルシエラはトウラクを背に立つ。
 二人の周囲には、獲物を前に昂る無数の天使。

「ふふっ、二人で潰し合えば勝機があるとでも思ったのかしら。愚かね」

 震える腕で、ソルシエラは大鎌を構える。
 その眼は、輝きを失っていない。

「来なさい、ダンスの相手がいなくなって困っていたところなのよ」

 トウラクを守るように、ソルシエラは天使へと駆けだした。
 たった一人で戦うその姿をトウラクは見ていることしかできない。

「け、い……」

 体が僅かに動き、手がソルシエラへと伸びる。

 そうして、彼の意識はそこで途絶えた。


 
 
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