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四章 騎双学園決戦

第137話 介入

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 戦場を縦横無尽に駆ける二つの影。
 凄まじい速度でそれらが通り抜けた後には、天使の残骸だけが残っていた。

「ルトラ、三振り」
「ハハハハッ! そんな太刀筋で俺が捉えられるかよォ!」

 六波羅は笑いながら、トウラクの放った太刀を受け止めた。
 並大抵の探索者であれば、受け止めるという選択すらさせない神速の抜刀。
 が、その一撃を容易く対処できるからこその、Sランクである。

「軽い。弱い。つまんねェ」
「……」

 受け止めた太刀を見てそう吐き捨てる六波羅の前で、トウラクの姿が消えた。
 そして次の瞬間にトウラクが現れたのは六波羅の側面、完全な死角である。

「――獲った」

 二手、彼は斬る対象を六波羅ではなく、距離に定めていた。
 概念の切断を利用した瞬間移動。

 三手目こそが、彼の本気の一撃である。

「悪いな、それもうネタバレくらってんだわ」

 しかしそれは、あっけなく受け止められた。
 動きを予測していた六波羅の双剣が、トウラクの太刀を弾いたのだ。

 そして、接近してきたトウラクの勢いを利用して自分の腕の中に引き込むと、拘束した。

「エイナァ!」
『かっ、感情転化始めますぅ!』

 デモンズギア、及びデモンズギア使いの暴走への対処は二通り存在する。

 一つは、暴走していないデモンズギアでの鎮圧。
 それが不可能であれば、明星計画自体の凍結を目的として星詠みの杖の起動。

 故に、デモンズギアにはそれぞれがそれぞれに対して有効となる攻撃を持ち合わせていた。

『こうやって実際に感情転化を他のデモンズギアに使うの初めてですねぇ! なんかルトラを正しい立場でボコボコに出来るのって良い気分ですぅ!』
「黙ってやれ」

 戦場に多くの生徒がいる都合上、魔法陣の展開はできない。
 そのため、六波羅は自身の接触をトリガーに感情転化を行っていた。

「……っが、ぁあああ」
「あー、はいはい暴れんな馬鹿が。ちっと大人しくしてれば終わるからよォ」
「ル、トラ! 一振り!」
「ッ!」

 太刀が力任せに抜かれ、辺り一帯に滅茶苦茶な斬撃の嵐が発生する。
 木々が細切れになり、天使は塵となり舞った。幸いだったことは、他の生徒が辺りに居なかったことだろうか。

『あ、逃げられましたぁ!』
「もっと景気よく吸えねえのか、感情」

 自分に致命傷となる斬撃のみを斬り落としながら、六波羅はエイナに文句を言った。

『そもそも一機での処理は想定されていないんですよぉ。せめてソルフィ姉様かシエル姉様がいないと! 欲を言えば全員来て欲しいですぅ! 私の役割りは本来は後方支援ですからぁ!』
「あ? じゃあなんで近距離用の武器になれんだよ」
『リーダーが勝手に折ってるだけじゃないですかぁ!』

 やいのやいの騒ぐ相棒にため息を吐きながら、六波羅はトウラクを見る。
 先程とは違い距離をとる彼の姿は、感情転化を警戒しているようだった。

(まァ、当然か。さて、後はどうやってもう一度近付いて感情転化をするかだが……)

 六波羅はエイナを構える。
 が、両者動く気配はない。

(俺の無敵なら斬撃は耐えられる。が、あの距離を切断する技が厄介だ。12秒間逃げ切られたら意味がねェ。せっかくの切札だ。どうせなら確実な場面で使いてェが)

 獰猛な笑みの裏で、六波羅は論理的に戦いを構築していく。
 彼が優位に立ちまわれている理由は、そもそもの彼のスペックもそうだが何よりも既に星斬を見ていることが大きい。

「ネームレスとかいうクソアマには感謝しねェとな。アイツのおかげで、随分とやりやすい」

 星斬と併用して多くの能力が使用されていたあの状況に比べれば、切断しか手札がない目の前の存在の行動は単調である。
 少なくとも六波羅はそう感じていた。

「ルトラ、一振り」

 トウラクの刀が抜かれ、虚空を切り裂く。
 同時に、無数の斬撃が六波羅へと飛来した。

「遠くから三枚おろしに変えたか。まあ良い判断だなァ。けど、そんな玩具の剣で斬れるかよ」

 六波羅がエイナを思い切り振り下ろす。
 その瞬間、赤いエネルギー波が全てを吹き飛ばした。

「テメェの感情由来の衝撃波だ。どうだ、自分の感情に攻撃防がれる気分は」

 六波羅の言葉に反応することなく、トウラクは再びルトラを構える。
 その姿には一切の迷いがなかった。

「ルトラ、一振り」

 一撃にありったけの魔力を込めて、斬撃が再び六波羅へと向かう。
 その光景を前に、エイナは悲鳴を上げた。

『感情の貯蓄が無いってバレてるぅ! やっぱり仲間呼びません!? 塔花にシヤクいるから、呼びましょ? 塔花ならすぐそばで万が一の為にスタンバイしてるでしょ?』
「領地戦際中に入って来れるわけねェだろ馬鹿」

 六波羅がエイナを構える。
 感情のエネルギーを使い切った彼は、その斬撃を全て物理的に切り落とそうとしていた。

「この場に介入なんて、そんな事出来るのは予めここに細工をしていた奴、それか」

「――私くらいのものね」

 声が響く。
 そして六波羅とトウラクの前に、突如として現れる魔法陣。

 斬撃の全てが、砲撃により撃ち落とされていき辺りを黒煙で包んだ。

『こ、この反応は……!』
「おいおい、随分とカッコつけた登場じゃねェか!」

 六波羅が歓喜の声を上げる。
 
「ふふっ、本当は舞台に上がるつもりはなかったのだけれど」

 黒煙が魔力の風により霧散し、一人の少女が姿を現した。
 大鎌を構え、蒼銀の髪を靡かせる黒衣の死神。
 その名を――。

「会いたかったぜェ! ソルシエラァ!」
「私は会いたくなかったわ」

 断罪の星は、ここに顕現した。





 





 マジで会いたくなかった……。
 下手したらこの人もテンション上がってこっちに襲い掛かってくるもん。

『別に二対一でも負けないが? エイナとルトラ相手なら余裕だが?』

 その使い手が化物だって話してんだよ!
 だから、六波羅さんには退場願おう! マジで! 

「状況は理解しているわ。貴方は去りなさい」

 六波羅さんに背を向けているのは、ブチギレグリズリーに背を向けているのと同じ危険度なのだが仕方あるまい。
 この人の常識人の側面に賭けるほかないだろう。

「あ? 去るだァ? ふざけたこと言ってんじゃ――」
「トウラクは、私が止める……お願い」

 俺はシリアスにそう懇願する。
 どうだ六波羅さん、貴方は人情家だからこういうのに弱いだろう!

「……ちっ、好きにしろ」

 ほら見たか!
 星詠みの杖君、これが人心掌握というものだ。人なんざミステリアス美少女の手のひらの上でコーロコロよ!

「その代わり、後で俺と一戦遊ぼうぜ」
「……ええ、勿論」

『これも手のひらでコーロコロ?』

 いや、想定外です。

 六波羅さんにぶっこーろころって感じ。
 マジ最悪☆

 でも、もう止められないよ。
 だって、今からの戦いは俺一人の方が映えるんだから。

『うおおおおお! 大きな代償を払って戦う美少女が見れるぞ!』

 それどの立場からの発言?
 表向きは君がその代償の原因だって分かってる?

「もう一つ、貴方には天使の破壊を頼みたいのだけれど良いかしら」
「それは勿論構わねェ。天使を殺せばボーナスだからな」

 え、マジ?
 じゃあさっきの鹿さんってメッチャボーナス!?

 やったぜフェクトム総合学園の皆!
 今日のお夕飯は豪勢に焼肉わよー^^

 天使戦と領地戦の勝利を記念して、ハッピーにパーティーわよ!

『クラムだけずっと表情曇ってそう』

 なんでやろなぁ。

「エイナに私の魔力を辿らせなさい。協力者に私の魔力を付与しておいたから。詳しい事は彼女達から聞いて」
「至れり尽くせりで逆にムカつくなァ。……まあいい」

 六波羅さんは納得してくれたのか、エイナちゃんを使って辺りの魔力を探知し始めた。

 この魔力を付与した協力者というのは、リンカちゃんとクラムちゃんの激重コンビである。

 今から六波羅さんには、この二人の所に行ってもらう。
 三人で仲良く天使を殺してらっしゃい。

「……そこか」

 探知早いねぇ。
 やっぱ敵には回したくない性能していやがるあのデモンズギア。

「見つけたのなら早く行って。時間が無いわ」
「俺に指図すんな。……ったく、エイナ行くぞ」

 次の瞬間には、六波羅さんの姿は消えていた。
 え、あの人もしかして素の脚力でこの場から消えた?

 硝子の靴無くてもそんなに速く移動できるの?
 もしかしてまた強くなった?

『次も負けないようにしたいねぇ』

 次はあの人12秒間の無敵とエイナ併用してくるから桁違いに強いよ。
 ……うん、そういう事は考えないようにしようね!

「……待たせてしまったかしら」

 俺はようやく本日のメイン曇らせに声を掛けた。
 本来は真っすぐ爽やか系主人公のトウラク君である。

「構わないよ。アレを斬るよりも君を待っていた方が意味がありそうだから」

 今は何故か血まみれの人斬りみたいになっているが、何があったらこうなるのだろうか。

 この子の保護者兼メインヒロインのミハヤちゃんはどこに行ったんだ!
 貴方の彼氏、今からミステリアス美少女に情緒ぐちゃぐちゃにされちゃいますよ!
 いいんですか!?

「僕は君を助けるために、全ての悲劇を終わらせるためにこの力を手に入れた」

 そう言って、トウラク君は俺に向けてルトラを構える。
 なんかルトラちゃんが見たことない色してる……。

「そう……なら、私も全力で応えましょう」

 俺も大鎌を無駄に振り回した後に構えた。
 カッコよさは俺の勝ちである。

『ソルシエラ侵食バージョン構築出来ました! いつでもいけます!』

 相棒も準備が出来たと言っているし、後は戦いの中で新たな形態をお披露目するだけだ。

「「――ッ」」

 俺とトウラク君は同時に駆け出す。

 行くぞ星詠みの杖君!
 これより『大切な存在であるはずなのに傷つけあってしまう二人』のイベントシーンを始める!

『トウ×ソルか、ソル×トウか、ここでそれを見定める事としようか』

 見定めるな、真面目にやれ。
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