かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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四章 騎双学園決戦

第132話 天使

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「――ごめんなさい」

 ソルシエラは最初にそう言った。

 魔法陣の中心で、少女たちは互いの額を合わせている。
 最初は何もわからずされるがままだったが、それがテレパシーの為に必要だという事はすぐに理解した。

 クラムの脳内へと流れる謝罪の言葉。
 
 それは、脳内に浮かんだ言葉をそのまま伝えているためか、普段のソルシエラよりも感情的に聞こえた。

 クラムは謝罪をしてきたソルシエラに対してなにか言おうと口を開閉するが声が出ない。

(これは……音が存在していない?)

 辺りは静寂に包まれている。
 声はおろか、密着しているというのに衣擦れの音すら聞こえない。

 静かで閉じた世界に、まるで二人きりで取り残されたようだった。

「私の想定が甘かった。あの天使は、今戦うべきではない存在」

 焦ったような、嘆くような声が脳内に直接響く。
 その不思議な感覚は、まるでソルシエラと一つに溶け合ったかのようだ。

(私もなにか話せないのかな。これってどうやって喋るんだろう)

 ソルシエラに一方的に話させるべきじゃない。
 このままでは謝罪の言葉を連ねて彼女は自己嫌悪を加速させてしまうだろう。
 そう悟ったクラムは必死に言葉を発そうと試行錯誤する。
 そして――。

「大好きだよ」

 それは、テレパシーというものになれていない普通の人間故のミス。
 脳内を揺蕩っていた言葉がそのままソルシエラへと発せられたのだ。

「「………………!?」」

 発した本人と、ソルシエラの動きが一瞬固まる。
 ほんの一瞬であった筈の静寂の間は随分と長く感じられた。
 
「ちっ、違うの! えっと、これは違う!」

 それからすぐに、クラムは言葉を否定した。
 元よりなんでもそこそここなせる器用さは、テレパシーの二言目にはある程度は自在に言葉を操れるようになっていた。
 尤も、一言目があまりにもひどすぎたのだが。

「私は、えーっと今の発言の意図はね、うーん……」
「ありがとう」

 不意に、後頭部を撫でられる感覚があった。
 ソルシエラは、相変わらず目を閉じて無表情。

 だが、その感謝にはいくつもの感情が混ざり合っている。

 純粋な感謝に始まり、期待、高揚、諦観、後悔、そして、罪悪感。

 好意を向けられた少女の反応とはとても思えない複雑な感情に、クラムはひどく泣きたくなった。

 ソルシエラは好意を素直に受けいれることが出来ない。
 そういう風に今まで生きてきたのだろう。
 そして、これからも。

(だから「ありがとう」なんだ。拒否でも、受け入れる訳でもない。彼女なりの精一杯の答え)

 ソルシエラは歪んでいる。
 が、同時に無垢さも持ち合わせていた。

 誰かと際限のない暗闇に堕ちていきたいという破滅願望を持ちながらも、苦しむのは自分ひとりで良いという献身的な思考。
 
 相反するふたつの感情の間で、彼女は誰よりも苦しんでいた筈だ。

 それを理解しているからこそ、クラムはソルシエラに対して何も言えなかった。
 自分が何かを言えば、それはソルシエラの負担になると理解しているのだ。

「……あの天使は、滅びをもたらす天使の一体」

 ソルシエラはクラムの思考を遮るようにそう言った。
 もしかすると、クラムの思考をソルシエラは干渉により読んでいたのかもしれない。

「明星計画の開始と共に現れるはずだった。ごめんなさい、ここであの天使と出会ってしまったのは完全に誤算。私が警戒しなかったのが原因よ」
「ソルシエラは悪くない! 騎双学園が無理矢理呼んだのかもしれない。貴女のせいじゃないよ!」
「いいえ、私の責任よ。……貴女を危険にさらしてしまったのだから」

 泣きそうな声だった。
 現実の彼女は冷静な顔を保っているが、心より発せられた言葉はその感情のほどを色濃く現わしている。

「大丈夫、ここで見ていて。私が必ずあの天使を殺す」

 そう言って、ソルシエラはクラムの事をほんの少しだけ抱きしめた。

(見ている……私はただ見ているだけなんだ)
 
 クラムは自分の頭を撫でている手に触れる。
 そして、気が付いた。
 
(手……震えてる)

 僅かだが、ソルシエラの手が震えていた。

 人類の滅びが、たった一人の少女の手によって決まるのだ。
 ここで天使を逃がせば、外の世界へ出て多くの犠牲を生むだろう。
 この瞬間、天使を殺せる可能性のある者はソルシエラのみ。

 不意に現れた高位の天使に、戦う以外の選択肢はない。

 恐怖を押し殺し、ソルシエラは戦う選択肢をとったのだ。

「奴の角から発せられる音は聞いただけで死を齎す。だから、ここから出てはいけないわ」

 ソルシエラはそう言うと、額を離す。
 そして、立ち上がると微笑んで大鎌を構えた。

「――」

 静止の声が、魔法によってかき消される。
 クラムは手を伸ばすが、それよりも先にソルシエラは飛び出していた。

 







 三回です。
 三回達しました。

 ミステリアス美少女だけど、流石に達しました。

『えぇ……』

 クラムちゃんとのテレパシーが、俺だけのASMRだって気付いた時からもうヤバったよね。
 脳みそぶっ壊れたと思っちゃった。

 大好きなんて言われたからね。
 聞いてたかい、星詠みの杖君。

 おでこ合わせた状態で大好きって言うって、それもう美少女百合スチル以外の何ものでもないだろ。
 綺麗な花畑じゃなくて周囲が荒れ果てた真っ赤な世界ってのがさらに良さを加速させる。

 星詠みの杖君、これが愛でありエロスなんだ。
 体を重ねるだけでは到達しえない真の愛。

 理解してくれたかな。

『相棒にはいつも驚かされるよ。私の知らない世界を見せてくれる……!』

 あのままクラムちゃんと一緒にテレパシックスしてると俺の腰が砕けちゃいそうなので、早々に断ち切らせてもらった。
 天使をクールに殺して、カッコいい所を見せちゃうぜ!

『智天使如きが私にかなうと思わないでほしいねぇ!』

 死の音が絶え間なく響いている大地を俺は最高速度で駆け抜ける。
 両耳に小さく展開された消音魔法陣が機能しているおかげで、俺はこの中でも平気で活動が可能なのだ。

 まあ、初見は音聞いたら終わりなんて思わないんでクソゲー仕様なんですけどね。
 原作知識を生かした俺TUEEEEEやっちゃいますか^^

『ぶっ殺せー^^』

 六つの滅びを齎す天使の中でも、こいつは最も対策が簡単な天使である。
 こうして音を聞かなければいい。

 後は、馬鹿みてえな身体スペックと衝撃を吸収する皮膚を突破できれば良い!

「品のない音ね」

 俺は智天使に接近してすぐに大鎌を首に振るう。
 が、その手には空を切った感触だけが伝わってきた。

 は、早い! 
 この俺様の攻撃が躱されただとォ!

 あり得ない! 俺はSランクの最強探索者のソルシエラだぞ!!

『かませ役かな?』

 余計な事を考えていると、背後に気配を感じた。
 同時に、魔力障壁が展開される感覚。

『ははは、背後からの不意打ちなんざ怖くもなんともないねぇ』

 振り向きざまに、魔法陣を展開して収束砲撃を放つ。
 朱い世界を貫く銀色の閃光が、智天使へと直撃した。

 が、それでも若干表面が焼き焦げただけで、それ以上はダメージを受けた様子すらない。

 え、固すぎない?
 原作だと、ミハヤちゃんのチート銃で殺してたけど、もしかしてアレがないと厄介だったりするの?

『簡易的な砲撃では貫けないのだろうね。流石にそこは対策しているか。けれど、奴の攻撃も私達には届きっこない。ユックリと調理してやろうねぇ』

 智天使の周囲から銀の鎖が飛び出し、拘束する。
 あっという間に四肢を縛り上げた銀の鎖は、しかし次の瞬間には砕け散ってしまっていた。

 おい、どうなってんだ!

『馬鹿なァ! この私の鎖を破壊するだとォ! あ、あり得ない。私は最強のデモンズギアだぞ! 貴様如きに負ける訳が無いぃ!』

 かませ役かな?

 智天使は、鎖を破壊した瞬間に突進をしてきた。

 無駄に荘厳な魔法陣を盾として展開して真正面から攻撃を防ぐ。
 少女が自分の背丈の何十倍もの大きさの魔法陣を展開するのっていいよね。

『いい……』

 それにしてもどうしようか。

 死の音をまき散らす、強靭な肉体の化物。
 うーん、怖い。

 ミハヤちゃん以外で戦うなら誰が最適だろう。
 六波羅さんはワイルドカードなので除外として……リュウコちゃんとかキリカちゃんが適任かな?
 あの二人は遠距離から一方的に相手を殺せるし。

 二人と同等の火力で一撃で仕留めるのが無難かもしれないね。
 という事で星詠みの杖君、超火力の準備だ!

『双星か!? 双星なんだな!? ついさっきまでテレパシックスをしていた相手が自分と同じ存在に貪られる所を見せるんだね!?』

 いや違うけど……何そのテンション、こわ……。

『君、一度自分の事客観的に視たほうがいいよ』

 なにかほざいている星詠みの杖君は放っておこう。
 というか、クラムちゃんに双星を見せると何するかわかったもんじゃないから0号は封印です。

 然るべき時に見せて情緒をぶっ壊します。

『じゃあどうするんだい?』

 星詠みの杖君、君が使っていた収束斬撃を使おうと思う。
 あれ、すっごくカッコよかったからさ。

 鎌を紫色に光らせてズバーンってやつ。

 一点突破の瞬間最大火力なら、あのブヨブヨ装甲も貫けるはずだ。

『ふむ、ではやってみようか』

 盾の魔法陣を消して、俺は両手を広げる。
 まるで智天使を迎え入れるかのような姿勢。

「ほら、私はここよ」

 それを見逃がす智天使ではない。
 凄まじい剛脚が地面を抉り、俺へと突進してくる。

 もしかすると、角を直接当てて死の音を体内に響かせるつもりなのかもしれない。
 が、そんなものが俺に通用すると思うな!

 俺に角が当たるその瞬間、パッと羽を散らして俺は転移する。
 黒い羽が辺りに舞い、智天使は見失った俺を探してキョロキョロとしていた。

「どうしたの? きちんと当ててみなさい」
 
 背後で俺は存在をアピールする。
 智天使が気が付き突進しようと振り返ったところで、再び転移。

「哀れね。天使と呼ばれる存在が、ただの人間一人に惑わされるなんて」

 俺は智天使の真横に姿を現わす。
 そして次の瞬間には姿を消した。

 現れては消えるの繰り返し。
 これこそ、強キャラにのみ許された連続瞬間移動だ。

 さらに、追加オプションで羽が散るようにしているため辺りは既に黒い羽が舞うミステリアス空間。
 この空間では俺のテンションが上がり全ての行動にプラスの補正が掛かる!

『あながち間違いじゃないのがおかしいねぇ』

 姿を現しては消してを繰り返す俺。
 智天使はがむしゃらに突進するが当たるわけもない。

「この程度で人間を滅ぼすつもりなの? 愚かね」

 かく乱され、動揺する智天使。
 転移をひたすらに行って、完全にミステリアス美少女の強さが演出できた頃合いに、俺はクールに智天使の首に降り立った。

 そして、大鎌を構える。

 普通であれば智天使が接近を許すことなどないのだろう。
 が、大量の転移で俺の居場所が分からなくなっていた今の智天使の首に乗るなど容易である。

「まず一つ、堕としたわ」

 大鎌に魔力を込める。
 テレパシックスにより何十倍にも高められた魔力が込められた最凶の一撃。

 実質、俺とクラムちゃんの愛の結晶なのでケーキ入刀と同義である。

『そんなわけあるか』

 振り下ろされた刃は、一切の抵抗を許さずに智天使の首を堕とした。

 首が音を立てて地面に転がる。
 それにあわせて胴体から大量に吹き出した赤黒い血が降りかかってくるが、俺は避けない。

 やっぱ血を浴びてこそよね。

『そうだねぇ……えっ、もしかしてこの衣装のクリーニングを私が!?』

 察しが良い星詠みの杖君を放って、俺は意味もなく血まみれで空を見上げた。

 ミステリアス美少女の完全勝利である。
 後はこの死体をトウラク君の前に持って行って、これが天使だよって教えてあげれば原作修正完了だ。

「……終わったわよ」

 消音の魔法陣を解除して、クラムちゃんの元へと戻ろうとしたその時だった。

 赤い空の一部が捻じ曲がり、何かが飛び込んできた。
 まるで雑に放り投げられたかのように空から落ちてくるそれを、俺のミステリアスアイが捉える。

 アレは……リンカちゃん!?

『空から落ちてくる美少女……メインヒロインかな?』

 そんなこと言っている場合か助けるぞ星詠みの杖君!

 今もなお落下を続けるリンカちゃんの元へと俺は大急ぎで向かった。
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