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四章 騎双学園決戦

第124話 変身

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日頃からいい行いをしていると自分に返ってくる。
 当然のことだ。

 そして、常日頃から慈善活動をしている俺に良いことが返ってくるのも当然のことだった。

『慈善活動……?』

 なんだ文句あんのか。

「……まさか、こんなに来るとは思わなかったっす」

 ミユメちゃんのラボ兼自室に、ヒカリちゃん、クラムちゃんにトアちゃんが集まっていた。
 そして美少女の中に紛れる俺……この瞬間にもギルティポイントが加算されているのを感じる。

「皆、ミユメちゃんが作った性別を変える装置に興味があるんだってー」
「ああ、トランスアンカーっすか。アレは私の発明品というよりはネームレスが植え付けた物っすけどね。はい、これっす」

 そう言ってミユメちゃんは、俺達に腕輪を見せてきた。
 ん? あれは普通のダイブギアじゃないか?

「これ、普通のダイブギアじゃないですか? あ、もしかしてミユメちゃん間違えちゃいましたか? おっちょこちょいですねー!」
「ヒカリと一緒にしない方がいいよ。……たぶん、そういう魔法式なんでしょ? 実体がある訳じゃなくて」
「そうっす。クラムちゃんの言う通り、これは魔法式っす。ダイブギアにも少し特殊な改造を施しているっすけどね。これを使うと……性別が変わるっす!」
「はいはい! 私やってみたいです!!!」

 手を上げ今まさにダイブギアを付けようとしているヒカリちゃんを押さえながら、クラムちゃんからアイコンタクトが飛んできた。

 美少女からのアイコンタクトを一切の誤訳なしに理解できる俺は、その言葉の意味を即座に把握する。

『本当は女だってバレるんじゃないの?』

 と言っているのだろう。
 クラムちゃんは俺のことを女だと思っているのだから当然の心配だ。

 俺は安心するようにと頷く。

 今の俺は、頭は冷静に、しかし魂は熱い。
 ミステリアス美少女はこんなところで正体バレしないわよ!

「ちなみに、これの持続時間はどれくらいあるの?」
「んー、その人の魔力量によるっすね。あくまで半自動の魔法なので、魔力がなくなれば元に戻るっす」
「成程ね。つまり、使用中は魔力が常に消費されている状態なんだ」
「そうっす。けれど、それも最適化されていて傍から見れば魔力を消費しているとは気が付かれないっすよ。もしまたどこかに潜入するなら使えるかもしれないっす」

 それイケメンばかりの潜入任務になっちゃうだろ。

 ともかく、ミユメちゃんの言葉が本当なら、これはスーパーミステリアス美少女にならずともミステリアス美少女が出来るお手軽素敵アイテムである。

 何より素晴らしいのが、エイナちゃんや他の探知系に引っ掛かることなく美少女になれそうなことだ。
 つまり、ごく自然に美少女として振舞えるのである。
 
『だが、やはり機械制御で完全に美少女になるのは難しそうだねぇ』

 それはしょうがない。
 少しだけ期待をしていたが、やはり完全なTSは難しいようだ。
 むしろ、魔力の消費だけで美少女になれるトランスアンカーは優秀な部類だ。

 こんなものを作り出したネームレス……いったい何者なんだ……!

『美少女化への道のりは長いねぇ』

 大丈夫、俺達にはTSダンジョンがあるから。

 あくまでこのトランスアンカーとかいう代物は、日常で美少女になりたいときに使えばいいんだよ。

『日常で美少女になりたい時……?』

 あるだろ。

「危険がない事は、既に私自身で確認済みっすから大丈夫っすよ! ヒカリちゃん、使ってみるっすか?」

 手渡されたトランスアンカーを、ヒカリちゃんは笑顔で腕に巻く。
 クラムちゃんはそれ見て、額に手をあて天井を仰いでいた。

「これ変身って言えばいいですか!」
「いや、普通に魔力流せばいいっす」
「わかりました! 変身!」

 その瞬間、ヒカリちゃんの体が変化を始める。
 光を放ったかと思えば、次の瞬間にはポニーテールの長身イケメンがいた。
 明るい雰囲気の元気なイケメンの爆誕である。

 ヒカリちゃんは、鏡を見ながらわなわなと震えていた。

「こ、これは……!」

 ヒカリちゃんは、ビシッとポーズを決める。

「これなら日曜朝に通用する……!」
「そこなの? というか、制服ぱんぱんじゃん」
「本当だ! 破れる前に脱がなきゃ!」

 ヒカリちゃんは、そう言って普通にその場で脱ぎ始める。
 その瞬間、ミユメちゃんとトアちゃんがギョッとして、クラムちゃんはすぐに動き出していた。

「やめろ馬鹿。脱ぐなって……おい抵抗するな!」

 クラムちゃんは、体格差をものともせずにヒカリちゃんを拘束した。
 流石幼馴染、行動の予測ができてやがる。

「筋肉で服破るやつやっていいですか!」
「ダメに決まってんでしょ!」

 お互いに一歩も譲らぬ攻防。
 しかし、ヒカリちゃんは今肉体が男性であるため、クラムちゃんの拘束は解けてしまった。

「うぅ……離してくださーい!」
「ちょ、力つよ――」

 再び捕まえようとクラムちゃんが手を伸ばす。
 が、ヒカリちゃんの腕を掴みそのまま倒れ込んでしまった。

「うわっ、ちょっ」
「わー!」

 二人で一緒に倒れ込む。
 その光景を見て、俺は固まってしまった。

「痛い……大丈夫ですか、クラム」
「私は大丈夫……うん、大丈夫だから」

 四つん這いになったヒカリちゃんの間にすっぽりと収まっているクラムちゃん。
 何故か、その顔が赤い気がする。

「クラム、顔赤いですけど、もしかして転んだ時ぶつけましたか!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫だって、ちょっと……ほんとに、やめて。今は顔みないで」

 おいおいおいおい!
 乙女ゲーム始まっちゃったぞ!

 星詠みの杖君! 対ショック体勢だ!
 百合だと思っていたところに突然ノーマルをお出しされると我々の脳はショックを受けてしまう!!!
 少しでも自分の身を守るんだ! 

『男体化ヒカリ×クラム!?!?!? ……成程、そういうのもあるのか』

 君、本当に無敵だね。
 もう殆ど雑食のカプ厨じゃん。
 
「ヒカリ……」
「え、どうしたんですかクラムちゃん。なんで首に手をまわして……」

 クラムちゃんが手を首に回す。
 困惑しているヒカリちゃんを他所に、顔をどんどんと近付けていき――。

「駄目っすよー! ウチのラボでなにやってるっすかー!」
「あっ」

 ミユメちゃんが、真理の魔眼ガン開きでトランスアンカーを停止する。
 少女の姿へと戻ったヒカリちゃんと、どこかまだ夢うつつなクラムちゃんを前にミユメちゃんはぷんすか怒っていた。

「そういう事は自分たちの部屋でやるっすよ! プレイに使わないで欲しいっす!」

 その顔は真っ赤で、肩で息をしていた。
 ミユメちゃんには刺激が強かったようだ。
 まあ、まだ実質生後数か月だしね。

『成程、今までは女の子同士だからと友情に押し込めていた感情が、今ので爆発したのか。……ハッ、という事は前のソルシエラに対する行動も、その根底に愛があると自分で認識していないのかクラムは!? おいおい話が変わってくるぞそれは……! あくまで大切な友達として接していく中で、自分の中に育っていく謎の気持ち。その正体に彼女が気が付いた時にはソルシエラは既にこの世にはもう――』

 落ち着け。
 それと、俺を殺すな。

『あいつは友達だから、と言い聞かせてきたクラムがソルシエラの死後に本当は恋人になりたかったと後悔する概念……あると思います』

 だから殺すなって。

 しかし成程……クラムちゃんは自覚があるタイプじゃないのか……。
 なら、ソルシエラとして俺が完全にこじ開けてやろうかな。
 勿論攻めでな!

 所で、俺の右腕に何を取り付けているんですかミユメちゃん。

「……ん? ナニコレ」
「はい起動するっす」

 そう告げるミユメちゃんの眼は幾何学模様が浮かび上がっていた。
 真理の魔眼による強制的な起動である。

「え、俺に選択権は――」

 俺の身体が光に包まれる。
 せめて心の準備とかしたかったー!

 女の子になるんだから、禊から始めたかったー!

『もうスーパーミステリアス美少女になってるんだから変わりはないだろ』

 違うッ!
 これは日常使いなの!
 
 今までみたいにミステリアス美少女するんじゃなくて、日常で使いたいの!別物なんだよ!

 それに今から、起きるのは一生で一度しか味わえないイベント。
 通称「皆の前で美少女になっちゃった!?」なんだぞッ!

 そして、クラムちゃんのようにソルシエラを知っている人間には、「普段は女の子として扱ってもらえていないソルシエラが偽りとはいえ少女として扱ってもらえる」神イベントなんだ!

 TSイベントと、曇らせイベントを同時に行える絶好の機会。
 真に美少女になることは出来なかったが、この機を逃すほど俺は愚かじゃないぜ!

 星詠みの杖君、俺は今から全力で「馴れない状況に恥ずかしがっているソルシエラ」の演技をする!
 ついてこい!

『応ッ!』

 俺達は、一心同体だ。













 ミロクは一足先に朝ご飯を済ませ、生徒会室で仕事をしていた。
 学園の代表者として、支援企業の社長代理であるヒナミとの面談である。

 正式に支援企業となったことにより、前回よりも踏み込んだ内容の話し合いとなっていた。
 しかし、お互いに齢も近いという事もあって笑顔が多く、穏やかな雰囲気だ。

「朝早くからすみませんでした。この子が、どうしても早く行きたいって」
「大丈夫ですよ。私も、前に頂いたお仕事のお話には興味がありましたから」
「……あ、あの、ケイおねっ……お兄ちゃんは」

 そわそわとしたソウゴの言葉を聞いて、ミロクは微笑む。
 どうやら、ソウゴはケイが気に入ったようだった。

「ふふっ、ケイ君とお友達になったんですね」

 ソウゴは頷く。
 ミロクがヒナミへと視線を送ると、察したように頷いた。
 10歳には、これから始まる話は難しく退屈だろう。

「ソウゴ君、今なら隣の寮の最上階にケイ君はいるはずですよ。今日は、皆でうちのメカニックの発明品を見ているはずです」
「発明品……!」

 少年心には魅力的に聞こえたのか、ソウゴは眼を輝かせる。
 それを見て、ヒナミとミロクは優しい笑みを浮かべた。

「ソウゴ、行ってきても良いけど迷惑かけちゃだめだよ?」
「うん……大丈夫、迷惑かけない!」
「ふふっ、私の方から皆に連絡は入れておきますから」

 そう言ってミロクはダイブギアでメッセージを送る。
 ミロクがメッセージを送り終える頃には、ソウゴは立ち上がり扉へと向かっていた。

「じゃあ、行ってきます!」

 ソウゴの言葉に、二人は手を振り見送る。

 


 ミロクの誤算は三つ。

 発明品が性別を変えるというある種の兵器であった事。
 メッセージを見る余裕のある人間がいない事。

 そして、そのケイという青年へんたいが今から私利私欲にまみれた美少女イベントを開始しようとしている事。

「……ケイお姉ちゃん、ビックリするかなぁ!」

 ――ソウゴの性癖に、依存百合が追加されるまであと五分。

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