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四章 騎双学園決戦

第123話 日常

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 突然だが、ミステリアス美少女は毎朝小鳥の声で目覚めるという事をご存じだろうか。

 普段は闇夜に紛れて暗躍する少女にとって、唯一の穏やかな時間と言っても良いかもしれない。
 俺はミステリアス美少女なので、その例に漏れず小鳥の囀りで眼を覚ました――

『コッケコッコオォォォォ!』

 小鳥だっつってんだろ。

「うるさ……」

 頭の中での星詠みの杖君による渾身の鶏のモノマネをされながら俺は起床した。
 最悪である。

「すまない。昂っているんだ」

 突然すぐ真横から声が聞こえて、俺はそちらを向いた。
 
「やあ」
「顔が良いっ!?」

 ベッドの中に、もう一人のミステリアス美少女がいた。
 仰向けの俺にしがみつくようにしていた赤い眼の少女は、俺の頭を撫でながら口を開く。

「朝チュンの構図が欲しくてスタンバってました」
「もうやりたい放題だな君」

 体与えたの選択間違えたかもしれない。
 今も、頭上からシャッターの音が止まらなねえし。

 デモンズギアの親玉って、やっぱやべー奴なんだな。

「というか撮影するな。流石に寝起きは美少女力が下がる……男だし」
「ふふっ、寝起きでも君は可愛いよ」
「ソルシエラ様……♥」
「どういう感情で言ってるんだい?」
 
 何って、自分に堕とされただけだが?
 また俺、何かやっちゃいました?

「それで、朝チュン構図だったか」
「ソルシエラの生意気なお口塞ぎックスは描けたのだが、そうなったら次はどうしても事後の画が欲しくなってねぇ。こうして朝から参上させてもらったわけさ」

 本来は、本人前にあんまりそういう事を言っちゃいけないよ。わかった?

「昨日の写真があまりにも良くてねぇ! 見たまえ、この口元を唾液まみれにされて虚ろな目をしたソルシエラの姿を! ほらこっちも、ほら、こっちだって!」
「待て待て落ち着け。いいかい星詠みの杖君、こんな光景を見られたらどうなる? 俺達は詰むぞ。節度を持つんだ」
「どの口が言ってんだ」

 不満そうな星詠みの杖君を尻目に、俺は起き上がる。
 今日も美少女の朝ご飯が待ってるぜ!
 ちなみに、食うたび魔力保有量が上がっている気がするが、たぶん気のせいではない。

「ああっ、もう起きてしまうのかい?」
「勿論」
「そんな、まだここで私と一緒にミステリアス美少女双子ックスしようじゃないか。ほら、君もソルシエラになって……」

 星詠みの杖君は、俺に背後から抱き着きそして耳元でそう囁く。
 やめろ、ミステリアス美少女ASMRは俺に効く。
 
「君は私の言いなりになっていれば良いんだ」
「っ♥」

 脳が揺れるゥ!
 ミステリアス美少女に、思考がぐずぐずに溶かされるゥ!

「さあ、もう一度ベッドに」
「……び、しょうじょ、のあさ、ごはん……!」
「なんという精神力……!」

 思考は溶け、理性はどこかにいったが美少女への愛が、星詠みの杖君の誘惑を振り切った。
 ミステリアス美少女ASMR、なんて恐ろしいんだ……!

「星詠みの杖君、このままASMR出したらR-18になってしまうかもしれない」
「購入時はレビューしてポイントも貰おうねぇ」
「乗り気になってんじゃねえよ。それR-18も併設されてるサイト想定じゃねえか」

 俺達は健全なミステリアス美少女。
 青少年の性癖を清く破壊し、少女達の脳をミステリアスに焼く。

 けっして、ミステリアスどスケベ集団ではない。マジで。

「ほら、朝ご飯食べに行くから戻って戻って」
「えー」
「えーじゃない。ほら」

 俺は両手を広げる。
 すると、星詠みの杖君は、しぶしぶと言った様子で俺の中へと戻っていった。

『それじゃあ、行こうか』

 うん、楽しみだね朝ご飯。
 今日はヒカリちゃんが作ってくれるんだって。










 素晴らしい事に、わが校には食堂ができた。
 今までは小っちゃいカセットコンロだったのだが、ミロク先輩が思い切ってかつて使われていた食堂を再び使えるように手配してくれたのである。

 今までは四人分だった朝ご飯も、今は七人+一機。
 しかもモヤシ以外の料理をするようになったので様々な調理器具などが必要になったのだとか。

 が、それでも誰かを雇う余裕はなく今はローテーションで皆のご飯を作っている。
 今日はヒカリちゃん。

 彼女は朝から滅茶苦茶元気なので、朝ご飯の量も多い。
 嬉しいね。

「おはようございます!!!! ケイ君!!!!!!」
「おはようございます、ヒカリ先輩」
「えへへ、先輩ですって……!」

 ヒカリちゃんは嬉しそうにくねくねとして笑みを浮かべる。
 どうやら先輩と言われる事が今までなかったらしく、こうして時折先輩呼びしてやれば喜んでくれた。
 ちなみに先輩呼びを固定しないのは、あまりに嬉しすぎてクラムちゃんにからみに行くからである。

「ねえ聞きましたかクラム。私の事を先輩って言ってましたよ?」
「わかったからひっつくな」

 わざわざ厨房から出てきて、食事中のクラムちゃんに擦り寄るヒカリちゃん。
 それを肘で牽制しながら、クラムちゃんは俺を非難するような眼で見つめた。

「おはよう、ケイ。朝から余計な事してくれたね」
「こうすると、おかずが一品増えるからね」
「え、そうなの?」

 美少女百合はご飯のお供にもできる。
 常識だ。
 
「よく朝から食べられるね。私はいつも食べきるだけで精一杯だってのに」

 クラムちゃんはダウナー系美少女に寄ってしまった。
 なので、朝は平気で抜くしご飯も適当。
 放っておくとシリアルとエナジードリンクだけを摂取する。

 ご飯当番の日は真面目に作ってくれるのだが、それ以外の日はあまりに無頓着過ぎた。
 なので、最近ヒカリちゃんにこうして強制的に朝ご飯を食べさせられているのだ。

「あ! また納豆残してる!!!!」
「まだ手を付けてないしセーフ。ケイ、これ上げる」
「えーっと、どうも?」

 俺はクラムちゃんから納豆を受け取った。
 見ろ星詠みの杖君! 美少女から受け取った納豆だ!

『丁重に保管しようねぇ』

 いや、味わって食べようって言おうとしたんだけど……こわ……。
 美少女から貰ったものだからって、やり過ぎだよ……。

『凄い理不尽』

「ケイ君はパンとお米どっちにしますか?」
「じゃあお米で」
「はい、待っていてくださいね!」

 ヒカリちゃんはそう言って厨房へと戻っていく。
 ポニーテールにバンダナエプロンのヒカリちゃん……。
 絶対良いママになる……!

『あの人は私の母だったのでは????』

「はい、サクラマスの塩焼きと玉子焼きです。こっちは小松菜のおひたしと味噌汁。どうぞ!」
「ありがとう……」

 受け取った俺は、その朝ご飯を眺めて唸ってしまった。

「ん、どうしたのケイ」

 向かいでデザートのクソデカパフェ(無理矢理ヒカリちゃんに与えられている)を食べながら、クラムちゃんが問い掛ける。

「今まで、モヤシしか食べてこなかったから……未だに脳が錯覚を疑うんだよね」
「フェクトムどうなってんのよ。漏れなく全員同じ反応しているんだけど」

 だって今まで小さな豚肉のパックを小分けにして食べてたんだよ?
 今日は一切れ多いね、とかさ。

 それが、こんなに立派な朝食を食べられるようになって……!
 
「嬉しいんだ。こんなにきちんとした朝食が取れて」
「そう。……それにしても、貴女もそういう顔するんだね」
「? 何かおかしかった?」
「いや別にー」

 クラムちゃんはそう言って、パフェとの決戦に戻っていった。

 ……ふふふ、わかってますよクラムちゃん。
 君が言っているのは、ソルシエラとして戦う貴女も普通の女の子みたいな表情するんだね、って事でしょ?
 
 理解してるよ、だってそうなるように言動は気をつけているからね。

『こわ……何この人……』

 いずれソルシエラだと正体がバレるなら、学園での那滝ケイは楽し気な姿を多く見せてあげた方が良いギャップが生まれる。

 彼女にも心の拠り所があったんだって思ってほしいし、ソルシエラとして戦って傷つく姿がより悲しく見えてグッド。

『どうしてそうサラッとイカレた事を口にできるんだい?』

 イカレてないよ、後のミステリアス美少女正体バレに向けた仕込みだよ。
 ミステリアス美少女は日頃の積み重ねの成果なんだ。

「ん~おはよ~」
 
 食堂に、新たな美少女が入ってきた。
 眠そうな眼を擦る、パジャマ姿のトアちゃんである。

 既に制服である俺達三人とは違い、トアちゃんは未だに女児みたいなモコモコパジャマを来て朝食を食べに来たようだ。
 かわいいねぇ^^

「ふわぁ……ケイ君、おはよう」
「おはよう。また夜更かしでもしたの?」
「……うん、最近面白い本を買ってね。ミズヒちゃんの特訓の後で、寝るのを我慢して読んでいるんだ~」

 ふにゃふにゃと眠そうな顔で、トアちゃんは微笑む。
 そして、俺の隣に座った。

『隣……? 裁判長!』

 待て星詠みの杖君。
 確かにこの学園は人数が少ないから、一人一つのテーブルでも可能かもしれない。
 けど、離れて食べたら寂しい!

『うーん、情状酌量か……?』

 あと、俺が何処で食っててもこっちに来るから離れて食うのは無理だ。
 それに俺は、隣でねぼすけトアちゃんを見ていたい……!

『正体現したね』

「おはようございます、トアちゃん!」
「んぅ、おはよう」

 目の前に置かれた水をちびちびと飲むトアちゃんを見て、俺は素晴らしい一日の始まりを予感した。
 星詠みの杖君、素敵な一日が始まるぞ!

「そんなに眠いなら、まだ寝ててもいいんじゃない? 私と違って、貴女は寝てても文句言われないでしょ」
「そうだけど、ご飯が美味しいから」

 トアちゃんは、眠そうにしながらもしっかりと意思を感じる声でそう言った。
 ゆっくりと横に揺れつつ「それに」とトアちゃんは続ける。

「今日は、ミユメちゃんが作った発明品を見せてもらうんだ」
「へぇ、そうなんだ。流石だなぁミユメちゃんは」
「うん、そうだよね。あ、中でも凄そうなのが……性別を変えるとか、そういうやつ?」
「え?」
「ケイ君が使ったら女の子になるねぇ。ふわぁ……あ、一緒に、行く?」
「「え!?!?」」

 俺とクラムちゃんの声が重なる。

「んみゅ……ねむ」

 また眠りそうなトアちゃんは、しかし手にしっかりと箸を握っていた。

 トアちゃん、詳しく説明してくれ。
 今、俺は冷静さを欠こうとしている。
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