かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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四章 騎双学園決戦

第120話 撮影

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昨晩はお楽しみでしたね^^

『まさかあそこまでASMRの脚本会議が熱くなるとは』

 俺達は一分たりとも無駄にしない美少女の探求者。
 夜はASMRの制作に向けて、そして昼間は星詠みの杖君が作りたいと言っていたソルシエラ同人の為に。

 俺達は二人で一人のミステリアス美少女である。
 昨日、俺の趣味に付き合わせた分、今日は星詠みの杖君の趣味に付き合うことにした。

 ダンジョン救援とか適当な事を言って、俺は今騎双学園の自治区の外れに来ている。

 天使を探ってますよー、というアピールをクラムちゃんにしつつも良い感じの廃墟を探していたのだ。

『む、ここにしよう。このボロボロのコンクリートに建物の内部にまで入り込んだ草木……退廃ックスにはもってこいだ』

 どうやら星詠みの杖君は、ソルシエラ退廃ックス百合本を書くらしい。
 主を題材にするとはなんと恐ろしい事を……。

 あ、言っておくけどR-18は駄目だよ?
 一応ヒノツチ文化大祭は青少年の健全な文化祭なんだから。

『でもネットには性癖大博覧会と記されていたが』

 それはそうだけど……。
 とにかく気をつけてくれよ。
 本人が自分の同人持って行って規則違反で追い出されるとかとんだ笑い者だからな。

『直接的な描写は避ける。安心したまえ。星詠みの杖としての演算能力により、人々がエロいと感じる描写をギリギリのラインでお出しして見せよう』

 なんて頼もしいんだ……!
 これでソルシエラが攻めじゃないのが気になるけどね……!

『ソルシエラは受けだよ。しかし、今回は君の趣向も取り入れてある。単に攻められるのではなく、あくまで主導権はソルシエラだ。体を貪られているはずの彼女の方が余裕そうな笑みを浮かべている。そういうスタンスでいこう』

 素晴らしい。
 やはり性癖は歩みよりだね。

 俺はソルシエラの受けは嫌いだが、完全に否定はしない。
 性癖とは、美少女とは、皆で作り上げていくものなんだ!

『これが人の絆……! あ、その辺りで撮影しようか』

 人々が絆で一つになる日も近いのかもしれないね。

「よし、それじゃあ行くぞ星詠みの杖君!」

 俺はソルシエラへと変身する。
 そして、魔力を解放してその形態移行の鍵となる言葉を唱えた。

「双星はここに顕現する」

 吹き荒れる魔力。
 蒼と紫の風が俺を包みこみ、もう一人の俺を形成していく。

 俺のすぐそばに生み出されたそれは、手を横薙ぎに振り払い風を散らした。
 風が散り、もう一人のソルシエラが爆誕する。

「ふむ、ありがとう相棒」
「別に良いのよ。気にしないで」
「……成程、もう入っているのか」

 俺の言葉に星詠みの杖は察してくれた。
 この恰好の俺はソルシエラ。

 いつもの頭の悪そうな発言は慎まなければならない。
 誰も見てないから大丈夫とかそういう気のゆるみが、やがて大きなミスに繋がるのだ。

「うん、昨日作り上げた節約モードもしっかり機能しているようだ。これならば、半日は持つだろうねぇ」

 星詠みの杖君はカメラを俺の拡張領域から取り出してニッコリ笑う。
 
「なんでも良いのだけれど、撮るなら早くしましょう?」
「ではその瓦礫の上に座って貰っても良いかな。……ああ、足は組んでくれ。そう、こっちではなく右上を見て」

 星詠みの杖君は俺に指示を出しながら、真剣な顔で撮影を始めた。
 俺は星詠みの杖君の指示に合わせてポーズをとっていく。

「最初はこんな感じだが、どうだろうか」

 どれどれ、ふむ……。

 天井の穴から差し込む陽に蒼銀の髪を煌めかせるミステリアス美少女。
 物憂げな表情でどこか遠くを見つめているその眼は、果たして何を映し出しているのだろうか。

 その美しさゆえに思わず手を伸ばしたくなってしまうが、同時にそれが自分の手に収まらない禁忌であると予感させる独特の雰囲気。
 この廃墟ビルにはソルシエラという少女が持つ良さがマッチしていた。

「まあいいんじゃないのかしら。貴女の好きにしなさいな」

 そう言いつつも正直な右手がサムズアップする。
 星詠みの杖君もサムズアップで返してきた。

「この数枚を参考に表紙を決めたいねぇ。実際に何枚か描いて見てみよう」

 星詠みの杖君は俄然やる気である。
 もう星詠みの杖としての使命はどこかにいったのではないだろうか。
 
 まったく、私がいないと駄目なんだから♥

「それじゃあ次はここに横になってくれ、仰向けで頼む」

 収束砲撃で、指定された場所のゴミを綺麗に焼き払いながら星詠みの杖はそう言った。
 凄い、きちんと配慮がされていやがる……!

「こんな感じかしら」
「そうそう、そうだねぇ! もう少し顎を引いて。軽く微笑んでくれるかい?」
「ふふっ」
「Perfect」

 お互いにサムズアップ。
 以心伝心ソサエティである。

「いくつか構図で欲しいものがある。どれ、私も失礼するよ」
「え?」

 仰向けの俺の上に、星詠みの杖君が四つん這いに覆い被さる。
 星詠みの杖君は、俺の顔の横に両手をついてジッと此方を見下ろしていた。

「こっ、これはなんのつもりかしら?」
「ソルシエラのイラスト集であれば一人で構わないのだがね。これはカプ同人だ。人気配信者が憧れの人をつい襲ってしまった退廃ックスなんだ……!」

 あらすじに昨日の影響がモロに出てる……。

「本当なら本人を撮影に誘いたいところだが、それでは世間様にお出しできない光景が広がってしまう。だからこうして私が代役を務めているわけさ」
「そう。じゃあ満足するまで好きにしたらいいわ」
「ああそうさせて貰おうか」

 星詠みの杖は、謎技術でカメラを空中に固定して、自分込みでの構図を作り始めた。
 凄い便利そうな魔法使ってる。
 後で教えてもらおうかしらね。

「右腕を押さえさせて貰う。痛かったら言いたまえ」

 気遣いの出来る星詠みの杖君に、俺は笑みで返す。
 星詠みの杖君は右腕を掴み、俺を抑え込むような体勢になるとそのまま膝を両脚の間に入れてきた。

 星詠みの杖君?????

 俺が困惑していることに気が付いたのか、星詠みの杖君は歪んだ笑みを浮かべる。
 なんて良い顔なんだ……いや、これ元は俺だったわ。
 
「どうした、こんな状況でも君の言うソルシエラなら笑ってみせるのだろう?」
「っ!」

 あ、これ星詠みの杖君監督先生の指示や!

「ふふっ、私を抑え込んでどうするつもり?」

 俺達は今、コンテンツを作り出している。
 ならば困惑などしている場合ではない。

 お互いの事を理解し、感情を読み取り、二人でさらにその先へと!

「やはり、君は私に応えてくれる素晴らしい存在だ……!」

 星詠みの杖君も嬉しそうである。

 互いの需要を満たし、自らをもコンテンツとして消費し食らいあう俺達こそがウロボロスなのかもしれない。
 どうだ教授! これが本当のウロボロスだ!

「――もう駄目だ。我慢できない」

 星詠みの杖君は、そう言って俺に顔を近付けてきた。
 成程オーケー、覆いかぶさってのキスの構図ね!

 確かに今回はソルシエラが受け身なのでこういう構図は必須であるだろう。

 俺は多少の身じろぎで抵抗していますよ感を出してより臨場感をぶち上げる。
 やべぇ、興奮して涎出てきちゃった……!

 ミステリアス美少女同士の破滅的な共依存百合。
 それは万物の祖にして人類の至る完成系なのかもしれない。

 しかも見た目が同じなんですよこれ。
 つまり見方を変えれば双子退廃ックスにもなるんですよ。

 そっちも描いてくれ星詠みの杖君。
 それとも俺からSk〇bで依頼を出したほうが良いかい? 金ならいくらでも出すぞ!

「ああ、哀れで愛しい私のマスター」

 星詠みの杖君の顔が迫る。
 顔面が強い!

 キャー、ナニコレ自分に堕とされちゃう♥
 こんな幸せなことあっていいんですか!?

 感動して涙も出てきちゃったんだけどぉ!

「――ねえ、ケイに何をしてるの」
「「!?!?!?!?!?」」

 お互いの動きが硬直する。
 気分は夜の自己研鑽時に親が入ってきたようなものであった。

『ヤバイぞ相棒! なんか聞こえたんだけど!』

 星詠みの杖君が、脳内に直接語り掛けてきた。
 二人に分かれた状態だとこうしてわざわざ脳内での会話を意識しなければ話せないのは不便である。

『星詠みの杖君が周りは見てると思ったんだけど』
『見ていたが、途中から昂ってしまって……』
『ならしょうがないね』
『くそ、あと少しだったのに……』
『まあ、撮影は別日にしようぜ。それよりも今はこの状況をどう切り抜けるかだ。星詠みの杖君、今の声は誰かわかるかい?』

 俺達は顔を見合わせたまま、咄嗟にミステリアスプランを立てていく。
 緊急時でもクールに対応する、それがミステリアス美少女だ。

『背後に二名……あ、それとルトラがいるねぇ』
『成程ねぇ……え!? ルトラちゃんいるのォ! じゃあ、必然的に――』

「ケイ君……?」

 原作主人公様がいるゥ!
 なんでェ!?

 もう騎双学園の探索はしなくてもいいでしょ君はァ!

『もう一人は、吾切リンカだねえ。第一声は彼女のようだ。声の震えからして、うん。バチクソにキレているね』
『そっかぁ』

 俺は星詠みの杖君の顔を見ながら考える。
 どう転んでも、面倒くさい事にしかならない。

 なら、もうこっちの趣味に合った面倒臭さに持っていくほかないだろう。

『星詠みの杖君、0号モードだ! 君は今から力の代償に主の事を貪ろうとする人の心のない怪物のフリをしろ!』
『およそ命令としては最低の言葉だねぇ』
『でも普段はすまし顔のソルシエラが裏で0号に貪られているのは君的には最高でしょ?』
『勿論だねぇ♥♥♥♥♥!!!!!』

 へへっ、体も口も正直だぜ。
 なら行くんだ星詠みの杖君。

『今から君は、俺の中に居座る怪物になれ!!!!』
『オデ、ソルシエラ、クウ』
『そこまで怪物に堕ちなくてもいいんだよ』

 星詠みの杖君は、ゆっくりと体を持ち上げるとそのまま緩慢な動作で振り返った。
 振り返った先にはトウラク君とリンカちゃんの姿があるのだろう。

 俺はその間、無感情な目をする。
 まるで、そうされるのが当たり前とでも言わんばかりの眼。

 そして見てください。
 どういう訳か、丁度良く涙が流れてるんです。

「――まったく、無粋な邪魔が入った」

 星詠みの杖君は俺の頬を指先でなぞりながら、歪な笑みを浮かべる。

「これだから人間は嫌なんだ」

 もはやデモンズギアの中でも、人間LOVE勢筆頭の星詠みの杖君の名演技が、今始まった。
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