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四章 騎双学園決戦
第119話 暗雲
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刃が空気を裂く音だけが響く御景学園の第三訓練場。
トウラクは指先に至るまで神経を研ぎ澄まし、一刀、また一刀と丁寧に素振りをしていく。
その姿は、ソルシエラと戦った時よりも洗練されているようだった。
「まだやってたのね。そろそろ終わりにしたら?」
声のした方を見れば、ミハヤがやや呆れ気味に見ていた。
「休憩してないでしょ?」
放り投げられたスポーツドリンクを、トウラクは礼と共に受け取る。
特訓を始めたのは昼過ぎだったが、窓の外は既に陽が沈んでいたようだ。
「……あはは、うん休憩忘れてたね」
「はぁ、こういう時相棒であるデモンズギアがきちんと管理してくれると良いのだけれど?」
ミハヤがジッと白い太刀を眺めると、それはやがて少女の姿へと変わった。
白い髪を揺らす幼い少女は、胸を張ってミハヤに言う。
「トウラクはこの程度で倒れたりしない。限界を超えてからが本番だから」
「そうだね、うん。限界、超えよう!」
「どうして二人の中にはブレーキが存在しないのかしら」
そうは言いつつも、自分がブレーキになれている事に喜びを隠せていないミハヤは「私がいないと駄目ね!」と言ってルトラにも飲み物を差し出す。
デモンズギアである彼女にはスポーツドリンクではなく、好みに合わせたリンゴジュースだ。
「ありがとう、ミハヤ。これで後72時間は戦える」
「領地戦まで時間もない……良し! この休憩が終わったらもう一度」
「今日はおしまい! はい、撤収準備!」
ぱんと手を叩いてそういうミハヤに、何か言いたげな二人は、互いに顔を見合わせて仕方がないとため息をついた。
「トウラク、星斬形態まであと少し。明日も頑張ろう」
「勿論! ミハヤ、明日は模擬戦をしたいんだけどいいかな」
「なんで既に明日の特訓の事を……」
トウラクは根っからの努力馬鹿ではあるが、最近はそれにより輪をかけて酷い。
原因は、一つ。
(ルトラの能力を解放した星斬形態。今のトウラクには、少しでも早く手にしたい力よね)
千界学園での出来事を経て、トウラクはルトラの力の片鱗に触れた。
自分たちの限界の先に、さらなる世界が広がっている。
その実感は、トウラクを訓練に駆り立てるには十分すぎるものだったのだ。
だが、だからこそ冷静に物事を俯瞰する立場のミハヤはその熱に飲み込まれてはいけない。
「残念だけど、明日は予定があるの」
「そうなんだ」
「ちなみに貴方達にも生徒会として仕事があるわよ」
ミハヤからタオルを受けとり、汗を拭きながらトウラクは首を傾げる。
「詳しい話はリンカから夕飯の時にでも聞きなさい」
「そうなんだ。わかった、ありがとう。……でも、なんだろうね仕事って。僕に回ってきたってことはまず間違いなく荒事なんだろうけど」
「学園都市なんて荒事ばっかりだから、わからない」
ルトラも分からないと、首を傾げる。
彼女にわかるのは、切断とご飯の事だけだ。
「そうね、私もよく知らないのだけれど確か、騎双学園の生徒会長が領地戦に出ないのがおかしいとかって言っていたわね」
「……確かに、アレは妙だった。栄枯の六波羅と並んで騎双学園のSランクであるはずなのに」
今回の領地戦は、騎双学園の今後を決める重要なものである。
仮にこの戦いで勝利すれば、逆転とまではいかずとも今後について有利に交渉を進められる筈だ。
それなのに、騎双学園の生徒会長は参加していない。
「あの人はデモンズギアの能力の特性故に、使用は制限されている。12秒の無敵も単一では最強だが集団戦向きではない。彼一人では、どうあっても戦況は覆らないよ」
「まあ、ユキヒラ生徒会長とあの人って相性が互いに最悪だからね」
未来を都合の良い物に確定する能力は、攻めを信条とする六波羅に対して有効だ。
さらに追い打ちを掛ける様にデモンズギア使いのトウラクと、フェクトム総合学園から助っ人に来るSランク。
御景学園の布陣は盤石である。
「試合ならともかく、領地戦ならあの人の足止めだけをしていれば良い。その間に、片が付く」
これはあくまで集団戦。
数、質ともに有利であるこの戦いは、気味が悪いほどに御景学園の勝利が確約されていた。
だからこそ。
「だからこそ、僕もおかしいとは思っていた。騎双学園の生徒会長の能力があれば、勝率は一気に跳ねあがる。参加する前提で、最初は作戦を組み上げていたのに」
「それについても、心当たりがあるってリンカが言っていたわ」
「心当たりか……」
「そうそう、確か――」
■
「――騎双学園の生徒会長は、きっと天使を狙っている」
クラムちゃんはシリアス顔でそう言った。
夕飯食べてニコニコ満足して自室に戻ろうとしている最中にクラムちゃんに呼び止められたのだ。
ショタの性癖をぶっ壊した後の飯はいつもよりも美味しかったです。
ソウゴ君、後でお泊りイベントもやろうね♥
一年生全員と一緒に泊まって多種多様な美少女に脳を焼かれろ♥
『逃げてくれソウゴ君。出来るだけ遠くに』
というか天使を狙ってるってマジ?
そんな描写原作じゃなかったけど。
「あら、貴女もわかっているのね」
「その口振り、流石に知っていたか。やっぱりソルシエラは凄いや」
「あまりこの学園でその名前を口にしないで。誰が聞いているかわからないもの」
最近、人が多いので夜も普通に誰かに出会う。
深夜も行動する組が来たおかげで、俺は現在ミステリアス美少女をしにわざわざ別学区のはずれまで行っているのだ。
「それにしても、天使を貴女も知っていたなんてね。流石は、暴露系人気配信者様って所かしら?」
俺はそう言ってクラムちゃんにミステリアスな笑みを浮かべる。
「ふふっやめてよ。もう私は浄化ちゃんじゃないんだから」
恥ずかしそうに笑うクラムちゃん。
可愛いねぇ。
「天使の存在は、騎双学園の違法研究所を潰して回っているときに知ったんだ。それに出現時期も。私が領地戦に出なかったのは、生徒会長の企みを阻止するため。貴女もそうでしょう?」
「ええ、勿論」
『もう呼吸するように嘘をつくじゃないか』
嘘はミステリアス美少女を輝かせるアクセサリーだよ。
「じゃあ、一緒に生徒会長を止めよう――」
俺はクラムちゃんの髪を撫でる。
そしてフッと微笑んだ。
「貴女はもう日の当たる場所を歩いて良いのよ? 私に任せておきなさい」
美少女を守りながらも、自分は裏の人間である事を強調するムーブ。
どうですか審査員長!
『素晴らしい。100点だ』
っしゃオラァ!
「……私だって、もうフェクトムの生徒だよ」
「え?」
クラムちゃんが俺の手首を握る。
そして、そのまま壁に俺の手首を押し付けた。
????????
『キタ! クラ×ソルキタ!』
「足手まといになるつもりはない。私も戦える……!」
壁に手をついて、クラムちゃんはそう言った。
か、顔が良い……!
『壁ドン! 200点!』
審査員長!? そんなぁ!?
『やはり受けだねぇ、ソルシエラは。はい、QED! デモンズギアの演算能力舐めんな!』
ははっ、まだまだ素人だな星詠みの杖君は。
この程度で攻め受けが決まるほど浅いキャラじゃないんだよソルシエラは。
お見せしよう、ミステリアス美少女を。
「ふふっ、必死な顔をして可愛い子ね」
「っ、私は本気で――」
唇にそっと指先を添える。
「熱くなりやすいのは、幼馴染の影響かしら」
クールな笑顔と共にそう言ってやれば、クラムちゃんは落ち着きを取り戻し手を離した。
あらやだ、痣になったらどうしましょ。
『え、終わり? ここからが本番だろう!? 』
一瞬の勢いだけで負けたらミステリアス美少女なんてやってられねえんだよ。
「けれど、そうね。そこまで言うなら、貴女にも手伝ってもらおうかしら」
「……っ、本当!?」
「ええ、本当よ」
俺はクラムちゃんの頭を撫でて微笑む。
「タイミングはこちらから知らせるわ。それまでは、この日常を楽しみなさいな」
「……そっか、わかった」
納得しうなずくクラムちゃんに「それじゃあ」と言って俺は去ることにした。
さて。
天使とかぶっちゃけ今はどうでもいい。
それよりも大事なのは。
『大事なのは!』
ヒノツチ文化大祭に向けた、新刊とASMRの収録だオラァ!
『ASMRに関してはまだダミーヘッドマイクは入手できていないから、あくまで脚本作りだけだが、今のうちからやっておかないと後で泣きを見る事になるからねぇ』
御景学園と騎双学園の領地戦を前に、俺にも負けられない戦いがあるのだ。
トウラクは指先に至るまで神経を研ぎ澄まし、一刀、また一刀と丁寧に素振りをしていく。
その姿は、ソルシエラと戦った時よりも洗練されているようだった。
「まだやってたのね。そろそろ終わりにしたら?」
声のした方を見れば、ミハヤがやや呆れ気味に見ていた。
「休憩してないでしょ?」
放り投げられたスポーツドリンクを、トウラクは礼と共に受け取る。
特訓を始めたのは昼過ぎだったが、窓の外は既に陽が沈んでいたようだ。
「……あはは、うん休憩忘れてたね」
「はぁ、こういう時相棒であるデモンズギアがきちんと管理してくれると良いのだけれど?」
ミハヤがジッと白い太刀を眺めると、それはやがて少女の姿へと変わった。
白い髪を揺らす幼い少女は、胸を張ってミハヤに言う。
「トウラクはこの程度で倒れたりしない。限界を超えてからが本番だから」
「そうだね、うん。限界、超えよう!」
「どうして二人の中にはブレーキが存在しないのかしら」
そうは言いつつも、自分がブレーキになれている事に喜びを隠せていないミハヤは「私がいないと駄目ね!」と言ってルトラにも飲み物を差し出す。
デモンズギアである彼女にはスポーツドリンクではなく、好みに合わせたリンゴジュースだ。
「ありがとう、ミハヤ。これで後72時間は戦える」
「領地戦まで時間もない……良し! この休憩が終わったらもう一度」
「今日はおしまい! はい、撤収準備!」
ぱんと手を叩いてそういうミハヤに、何か言いたげな二人は、互いに顔を見合わせて仕方がないとため息をついた。
「トウラク、星斬形態まであと少し。明日も頑張ろう」
「勿論! ミハヤ、明日は模擬戦をしたいんだけどいいかな」
「なんで既に明日の特訓の事を……」
トウラクは根っからの努力馬鹿ではあるが、最近はそれにより輪をかけて酷い。
原因は、一つ。
(ルトラの能力を解放した星斬形態。今のトウラクには、少しでも早く手にしたい力よね)
千界学園での出来事を経て、トウラクはルトラの力の片鱗に触れた。
自分たちの限界の先に、さらなる世界が広がっている。
その実感は、トウラクを訓練に駆り立てるには十分すぎるものだったのだ。
だが、だからこそ冷静に物事を俯瞰する立場のミハヤはその熱に飲み込まれてはいけない。
「残念だけど、明日は予定があるの」
「そうなんだ」
「ちなみに貴方達にも生徒会として仕事があるわよ」
ミハヤからタオルを受けとり、汗を拭きながらトウラクは首を傾げる。
「詳しい話はリンカから夕飯の時にでも聞きなさい」
「そうなんだ。わかった、ありがとう。……でも、なんだろうね仕事って。僕に回ってきたってことはまず間違いなく荒事なんだろうけど」
「学園都市なんて荒事ばっかりだから、わからない」
ルトラも分からないと、首を傾げる。
彼女にわかるのは、切断とご飯の事だけだ。
「そうね、私もよく知らないのだけれど確か、騎双学園の生徒会長が領地戦に出ないのがおかしいとかって言っていたわね」
「……確かに、アレは妙だった。栄枯の六波羅と並んで騎双学園のSランクであるはずなのに」
今回の領地戦は、騎双学園の今後を決める重要なものである。
仮にこの戦いで勝利すれば、逆転とまではいかずとも今後について有利に交渉を進められる筈だ。
それなのに、騎双学園の生徒会長は参加していない。
「あの人はデモンズギアの能力の特性故に、使用は制限されている。12秒の無敵も単一では最強だが集団戦向きではない。彼一人では、どうあっても戦況は覆らないよ」
「まあ、ユキヒラ生徒会長とあの人って相性が互いに最悪だからね」
未来を都合の良い物に確定する能力は、攻めを信条とする六波羅に対して有効だ。
さらに追い打ちを掛ける様にデモンズギア使いのトウラクと、フェクトム総合学園から助っ人に来るSランク。
御景学園の布陣は盤石である。
「試合ならともかく、領地戦ならあの人の足止めだけをしていれば良い。その間に、片が付く」
これはあくまで集団戦。
数、質ともに有利であるこの戦いは、気味が悪いほどに御景学園の勝利が確約されていた。
だからこそ。
「だからこそ、僕もおかしいとは思っていた。騎双学園の生徒会長の能力があれば、勝率は一気に跳ねあがる。参加する前提で、最初は作戦を組み上げていたのに」
「それについても、心当たりがあるってリンカが言っていたわ」
「心当たりか……」
「そうそう、確か――」
■
「――騎双学園の生徒会長は、きっと天使を狙っている」
クラムちゃんはシリアス顔でそう言った。
夕飯食べてニコニコ満足して自室に戻ろうとしている最中にクラムちゃんに呼び止められたのだ。
ショタの性癖をぶっ壊した後の飯はいつもよりも美味しかったです。
ソウゴ君、後でお泊りイベントもやろうね♥
一年生全員と一緒に泊まって多種多様な美少女に脳を焼かれろ♥
『逃げてくれソウゴ君。出来るだけ遠くに』
というか天使を狙ってるってマジ?
そんな描写原作じゃなかったけど。
「あら、貴女もわかっているのね」
「その口振り、流石に知っていたか。やっぱりソルシエラは凄いや」
「あまりこの学園でその名前を口にしないで。誰が聞いているかわからないもの」
最近、人が多いので夜も普通に誰かに出会う。
深夜も行動する組が来たおかげで、俺は現在ミステリアス美少女をしにわざわざ別学区のはずれまで行っているのだ。
「それにしても、天使を貴女も知っていたなんてね。流石は、暴露系人気配信者様って所かしら?」
俺はそう言ってクラムちゃんにミステリアスな笑みを浮かべる。
「ふふっやめてよ。もう私は浄化ちゃんじゃないんだから」
恥ずかしそうに笑うクラムちゃん。
可愛いねぇ。
「天使の存在は、騎双学園の違法研究所を潰して回っているときに知ったんだ。それに出現時期も。私が領地戦に出なかったのは、生徒会長の企みを阻止するため。貴女もそうでしょう?」
「ええ、勿論」
『もう呼吸するように嘘をつくじゃないか』
嘘はミステリアス美少女を輝かせるアクセサリーだよ。
「じゃあ、一緒に生徒会長を止めよう――」
俺はクラムちゃんの髪を撫でる。
そしてフッと微笑んだ。
「貴女はもう日の当たる場所を歩いて良いのよ? 私に任せておきなさい」
美少女を守りながらも、自分は裏の人間である事を強調するムーブ。
どうですか審査員長!
『素晴らしい。100点だ』
っしゃオラァ!
「……私だって、もうフェクトムの生徒だよ」
「え?」
クラムちゃんが俺の手首を握る。
そして、そのまま壁に俺の手首を押し付けた。
????????
『キタ! クラ×ソルキタ!』
「足手まといになるつもりはない。私も戦える……!」
壁に手をついて、クラムちゃんはそう言った。
か、顔が良い……!
『壁ドン! 200点!』
審査員長!? そんなぁ!?
『やはり受けだねぇ、ソルシエラは。はい、QED! デモンズギアの演算能力舐めんな!』
ははっ、まだまだ素人だな星詠みの杖君は。
この程度で攻め受けが決まるほど浅いキャラじゃないんだよソルシエラは。
お見せしよう、ミステリアス美少女を。
「ふふっ、必死な顔をして可愛い子ね」
「っ、私は本気で――」
唇にそっと指先を添える。
「熱くなりやすいのは、幼馴染の影響かしら」
クールな笑顔と共にそう言ってやれば、クラムちゃんは落ち着きを取り戻し手を離した。
あらやだ、痣になったらどうしましょ。
『え、終わり? ここからが本番だろう!? 』
一瞬の勢いだけで負けたらミステリアス美少女なんてやってられねえんだよ。
「けれど、そうね。そこまで言うなら、貴女にも手伝ってもらおうかしら」
「……っ、本当!?」
「ええ、本当よ」
俺はクラムちゃんの頭を撫でて微笑む。
「タイミングはこちらから知らせるわ。それまでは、この日常を楽しみなさいな」
「……そっか、わかった」
納得しうなずくクラムちゃんに「それじゃあ」と言って俺は去ることにした。
さて。
天使とかぶっちゃけ今はどうでもいい。
それよりも大事なのは。
『大事なのは!』
ヒノツチ文化大祭に向けた、新刊とASMRの収録だオラァ!
『ASMRに関してはまだダミーヘッドマイクは入手できていないから、あくまで脚本作りだけだが、今のうちからやっておかないと後で泣きを見る事になるからねぇ』
御景学園と騎双学園の領地戦を前に、俺にも負けられない戦いがあるのだ。
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