かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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四章 騎双学園決戦

第117話 再会

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 俺のフェクトム総合学園での一日は基本的に、ダンジョン救援である。
 ミズヒ先輩やトアちゃんと組んで、日がな一日人助け。

 それが今までの日常であった。

 が、今は違う。

「はいこれが『ちょっとナカヨシ! ダンジョン君』っす」
「ありがとうございます!!! じゃあ行ってきます!!!!」
「待って待って、使い方聞いてないでしょ。おーい……行っちゃった」
「あはははっ、じゃあ説明書をアップロードしておくんで、道中にでも読んでくださいっす」

 窓からダイブしたヒカリちゃんは、光翼を展開してそのままゲートへと向かって行った。
 その光景を見て疲れた顔でため息をついたクラムちゃんと、楽し気なミユメちゃん。
 美少女がいっぱいだぁ!

 そのすぐ隣では、ジタバタ抵抗するトアちゃんをミズヒ先輩が訓練へと誘っていた。

「行くぞトア。こうして訓練に打ち込める時間が出来たのだ。今強くならなくていつ強くなる!」
「ふぇ、私もダンジョン攻略行きたいよぉ……」

 恐らく、ダンジョン攻略がしたいのではなくてミズヒ先輩の鬼特訓が嫌なだけである。

 俺も度々受けているが、那滝ケイモードだと意識が二回は飛ぶ。
 アレをひょいとこなせるのは、俺が知る限りヒカリちゃんだけだ。

 あの子は笑いながらミズヒ先輩に追従していた。潜在能力の塊である。

「じゃあ、私も行こうかな。そろそろ行かないと、ヒカリがあのまま特区に突っ込んでいくし。……ケイはどうするの?」

 ヒカリちゃんとは違って普通に生徒会室の扉へと向かったクラムちゃんは、振り返り俺に問い掛けた。

 そう、今の俺はやるべきことがなくてフワフワしているのである。

 人員に余裕ができたのでダンジョン救援に無理に行かなくても、良くなった。
 そして、ミユメちゃんが新たに機能を限定して作った『ちょっとナカヨシ! ダンジョン君』のおかげでダンジョンを見つけることも容易。

 仮に取り合いの決闘になってもクラムちゃんが決闘用のダンジョンコアを持参しているし、六波羅さんレベルじゃないとそう簡単には負けない。

 今、フェクトム総合学園があまりにも俺抜きで完結しているのだ。

 今まではやらなければいけないことが目の前にあったのでそれをこなせば良かったのだが、突然自由な選択肢が増えたのである。
 特訓するもよし、ダンジョン攻略もよし、今まで通りに救援でもいい、勿論女装でも構わない。

『最後のだけ違くないかい?』

 という事で、俺は今日の行動を決めあぐねていた。

「良かったら一緒に行く? ヒカリのストッパーも欲しいし」
「うーん、そうしようかな」

 こんな感じで、俺は今美少女のお供をすることが多い。
 最初に誘われた美少女に付いて行っているのである。

 これがミステリアス美少女の姿か?
 これじゃあ俺が主体性のないハーレム主人公みたいじゃないか!

「あ、ケイ君ここにいたんですねー」

 声のする方を見れば、ミロク先輩が此方を見ていた。
 にっこり笑ってちょいちょいと手招きをしながらミロク先輩は言う。

「少し手伝ってほしい事があるので、今いいですか? どうしてもケイ君にお願いしたいのですが」

 ほう、名指しか。
 であれば断る理由などない。別にやることもなかったしね。

「ごめん、ミロク先輩に呼ばれたからそっちに行くよ」
「……そっか。うん、わかった」

 クラムちゃんは頷くと、ひらひらと手を振って出て行った。
 その足元を蛙が元気に跳ねている。
 間違って爆破することが無いとわかっていてもちょっと怖い。

「じゃあ、ダンジョン攻略行ってくるから」
「はい、気をつけて行ってくださいねクラムちゃん」

 すれ違う時、ミロク先輩とクラムちゃんが目を合わせてニッコリと笑い合っていた。
 可愛いねぇ。美少女だねぇ。

 仲が良くて俺も嬉しいよ。

『牽制……? いや、流石にカプ脳すぎるか』

 何か適当ほざいている星詠みの杖君を放って、俺はミロク先輩の元へと向かう。
 トアちゃんの悲鳴と共に誰かが窓から出ていった気配があったが気にしない。

「それで、どうしましたかミロク先輩」
「実はケイ君にこれから来る企業との面談に付き合ってほしいのです」
「面談に……?」

 どうしてこんな美少女でもなんでもない人間を?
 ソルシエラになって参加してあげようか?

『面談ぶっ壊す気かい?』

 ソルシエラでカッコよく交渉してみたいだろ。
 問題があるとすれば、俺がアホすぎてそういう場に立つと馬鹿がバレるって事かな?

「確かに俺は那滝家ではありますが、そこまで名前に効力はないと思いますよ?」
「ふふっ、大丈夫です。那滝家だからではなく、ケイ君だからお願いしているんですよ。あの時、一緒に遊園地にいたケイ君だから」
「遊園地……」

 忘れもしない。
 ミロク先輩とのデート。
 リンカちゃんの救出。
 そして、初のスーパーミステリアス美少女タイム。

 俺にとってあの日あの場所での出来事は色あせる事のない思い出なのだ。

「覚えています。忘れる方が無茶ってくらいには濃い一日でしたから」

 俺の言葉にミロク先輩はどこか嬉しそうに頷いた。

「そうですね。また今度行きましょうね」
「はい勿論」

 今度は沢山美少女がいるからすっごく楽しいね!
 俺も勿論美少女になるから、裁判はしないでね!

『……む』

 なんで不満そうなんだよ。

「なら、今から会う子も覚えていますよね」
「え?」








 お金に若干の余裕が出来た我が校は、応接室を補修した。
 壁にも天井にも穴が無いし、机とソファは新品である。

 
 そんな応接室のフカフカソファに俺とミロク先輩は座っていた。
 その真正面には美しいお姉さんと、見覚えのあるキッズがいる。

「あの子の事、覚えていますか?」

 ミロク先輩がそっと耳打ちしてきた。
 俺は頷く。

 忘れるものか。
 性癖をバキバキに破壊された少年だろう君は。

 久しいね、元気だったかい?

「えっと君は「ありがとうございました!」……えー、んん?」

 お姉さんに頭を下げられて、俺は固まる。
 ミロク先輩は慌てて、頭を上げるように言っていた。

「や、やめてくださいヒナミ社長!」
「社長!?」

 俺は思わず声を上げる。
 え、社長さん!?  お金持ちの凄い人!?

「私はまだ社長なんて呼ばれるほどの人間じゃないので……」
「いやいやいや」

 前の世界での社長も凄いことだが、この鏡界のルトラの世界では社長という地位はより高い。
 世界中の国家が力をなくし、多くの企業によって実質的に運営されている今、社長とは雲の上の存在なのだ。
 企業の規模に関わらず、この世界での社長である時点で失礼な態度をとるわけにはいかない。

 星詠みの杖君、俺は場合によっちゃこのヒナミ社長の足を舐めるぞ!
 ペロペロ^^

『舐めたいだけでは?』

 そんな変態じゃないよ俺。
 仕方なくだよ。

「社長がそんなに頭を簡単に下げないでください。俺達も困ってしまいます」
「ですが、あなた達には弟を助けて頂いたので……!」
「弟?」

 ヒナミ社長に促されて、隣にいたキッズが口を開く。

神宮寺じんぐうじソウゴです……こ、こんにちは」
「あ、どうもこんにちは」
「ふふっ、こんにちは」

 緊張しているのか、声が上ずっている。
 それにさっきからこっちをチラチラ見ているし……これは見事に性癖をぶっ壊せたようだ。

『少年が可哀そう。ただただ可哀そう』

 なんて事を。
 こんなミステリアス美少女に子供の頃に出会っているなんて、まるでラノベ主人公の幼少期みたいで良いだろう。
 俺があの子の立場なら喜んでいるぞ。

『それは君が特殊なだけでは?』

 まさかぁ。

「ヒノツチランドでお二人に助けていただいたとこの子から聞きまして……両親に代わり、恩を返さなければと。…………あっ、生きてますからね! 父も母も!」

 一瞬空気がシリアスになったのを察したヒナミ社長がわたわたと手を振り、付け足す。
 良かった……。

「私は今、入院している両親の代わりと言いますか社長代理なんです。だから、その……そんなに畏まらないで頂けると……齢も近いですし」

 道理で若い社長だと思った。
 気軽にベンチャーで! なんて出来る世界じゃないからな、ここ。
 
 こんな無害そうなお姉さんだが、たぶん失礼な態度をとれば、企業からすぐに笑えないレベルの報復が来るだろう。
 やっぱ足舐めようぜ!

「そう言っていただけるとこちらとしてもありがたいです。何せ、今まで企業のまともな支援なんてありませんでしたから。この対応がどれだけ合っているのか……」

 ミロク先輩はそう言ってニコニコと笑う。
 この人、笑ってるけど頭がフル回転しているんだろうなー。

 がんばえー。

『君も頑張りたまえよ』

「こうしてお礼を言えただけでも満足ですよ! そ、それでですね、私の設立した部署でですね、エンタメに力を入れた新規事業を提案したいのですが――」

 ヒナミ社長はそう言って慣れない手つきで資料を机に広げていく。
 その資料を手に取り、ミロク先輩は興味深そうに読み始める。

 俺はぶっちゃけ興味が無いので、ソウゴ君で遊ぶことにした。

「……ミロク先輩、俺はソウゴ君にこの学園の案内して来て良いですか?」
「勿論です。流石、分かっていますね」

 小声で、ミロク先輩はそう返してくる。
 資料を必死に広げているヒナミ社長を見たまま、小声で言葉を続ける。

「将を射んとする者は……って奴です。ソウゴ君はお願いしますね」
「はい」

 成程、俺はどうやら最初からソウゴ君用に呼ばれたようだ。
 同性なら、より簡単に気に入ってもらえるという算段なのだろう。

 ならば、その期待に応えなければならない。
 よし! 女性の好みを今回で完全に滅茶苦茶にしてやろう!

『期待に応えるのにどうしてそうなるんだ』

 気の良い兄ちゃんよりも、初恋のお姉さんの方が今後の人生でしめるウェイトが大きい。
 俺は最善の選択をしているだけだよ。

 任せて下さいミロク先輩!
 きっちりミステリアス美少女してきますから!

『不安しかない』

「ソウゴ君、お姉さんがお話している間、お兄さんと散歩でもしようか。この学園を案内してあげるよ」
「……っ!? う、うん!」

 ソウゴ君は何度も頷いている。
 ははは、見たまえ星詠みの杖君。自尊心が満たされるねぇ。

『神宮寺ソウゴ……君の前にいるのは女装趣味の美少女化願望持ちの変態だ。気付いてくれ……!』

 気付かせるわけないだろ!
 性癖をねじりにねじってやるよォ!

「じゃあ、行こっか」
「うん!」

 俺の手を取ったソウゴ君は、ぱあっと嬉しそうな笑顔を浮かべる。
 
「それじゃあ、ミロク先輩後はお願いします」
「はい、任せてください」
「ソウゴ、お兄さんの言う事をきちんと聞いてくださいね」
「うん、大丈夫! 絶対にいい子にする!」

 そう言ってヒナミ社長に手を振ったソウゴ君と共に俺は応接室を後にする。
 扉が閉じるその時まで、俺は良いお兄さんの仮面を崩さなかった。




 散歩といっても特に見るものが無いのがこのフェクトム総合学園である。
 なので、俺は今は使われていない校舎をソウゴ君と一緒にうろついていた。

「久しぶりだね、ソウゴ君。お兄さんの事を覚えているかな?」
「うん」
「そっかそっか……覚えてるかぁ」

 暫く歩いて、俺は足を止める。
 ボロボロの廊下は穴の開いた天井から、日が差し込んでいた。

 天然のスポットライトとなったその場所に俺はわざと立つ。
 その顔に浮かべるのは、今までとは違うミステリアス美少女レベルの高い笑み。

 はい! 星詠みの杖君、今です!

『風、いきまーす』

 若干やる気のなさそうな声と共に、風が俺の髪を僅かに揺らす。
 
「改めて久しぶり、ソウゴ君」

 ここからが、ミステリアス初恋タイムだ。
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