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三章 閃きジーニアス
第103話 翡翠シューター
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危ねええええええええ!
うおおおおおお!
マジでギリギリわよ!
『ふむ、セーフだねぇ』
コニエちゃんを背に、俺は大鎌を構える。
相対するのは、飢餓状態になったミユメちゃん。
が、もはや俺に恐れるものはない。
何故なら、全ての情報を盗み……いや、ハッキン……まあ、色々やって手に入れたからだ。
情報を得たミステリアス美少女は無敵である。
『言い換えも全部駄目だったねぇ。白昼堂々コソ泥とはソルシエラも堕ちたものだ』
美少女の為なら、この身を汚すことも厭わない。
美少女に対する愛があってこそミステリアス美少女は成立するのだ。
つまり、美少女がいる限りミステリアス美少女は負けない。
皆(美少女)の応援が、ソルシエラに力をくれるぞ! 映画館で、光るデモンズギアを振って応援だ!
『がんばえー』
それに今回はゲストでナナちゃんも来てくれたぞ!
電脳特化の能力はデータの塊みてえなもんばっか使うジルニアス学術院には、もはやメタみたいな存在だし頼もしいね。
調べている最中にわかったのだが、ナナちゃんがプロフェッサーの手の中にある間、博士はひっそり活動していた。
使ってみて実感したけど、こんなのがいたらそりゃ博士は動けないわ。
プロフェッサーの手元にこの子いるとか最悪だもん。
『シエルのおかげで情報が全て揃ったからねぇ。姉として鼻が高いよ』
『私を前に、全てのセキュリティは無意味です故。あの、それで姉上一つお願いがあるのですが』
俺の頭の中で、二人は勝手に会話を始めた。
あの、あんまり騒がないでね?
『言ってみたまえ』
『ケイとの意識の同調をさせてください。これでは、私は能力を十全に使うことが出来ません故』
『それは出来ない』
え、これってナナちゃんと意識繋がってないの?
一方的にこっちが聞こえるだけなの?
『いくら星詠みとは言え、君まで同調したら廃人になりかねない。こうして君を武器として扱えているだけで充分だよ』
『いえ、私の演算では特にそんな事は――』
『うるさいねぇ! ソルシエラの契約デモンズギアは私なんだよ! 後から来た幼女に出る幕はないねぇ!』
えぇ……ちょっと星詠みの杖君、言い過ぎだよ。
泣いちゃったらどうするの。
『いや、君のその美少女脳に汚染されてほしくないだけだが?』
こっそりと俺だけに、星詠みの杖君はそう告げた。
ああ、なるほど! っておい!
『とにかく、マスターからの命令は口頭か私を通して行われる。安心したまえ。同調が無くとも問題はない』
『そうですか……むぅ』
めっちゃ不服そうじゃーん。
『あと、もう一つ要望なのですが鎌じゃなくて元の形態に戻してほしいです。私は姉上のような鎌ではありません故』
『ソルシエラは鎌を使うんだよ。 それ以外の武器は解釈違いだねぇ!。見たまえ、翡翠色の鎌を持つソルシエラの姿を。これを見て美しいとは思わないかい?』
『……この狭い屋内で鎌を使うのは利点が――』
『チッ……これだからマジレスタイプは。いいから行くぞ』
ごめんね、ナナちゃん……。
星詠みの杖君って、ソルシエラへのこだわりが凄いから。
どうしてこうなったんだろうね……
『どの口が言っているんだろうねぇ』
■
ソルシエラの登場により、明らかに空気が一変した。
ミユメは本能的にその強さを理解したのか、飛び掛かることはせずに間合いを測るようにソルシエラの周りを移動する。
その間も、ソルシエラは微動だにせずカノンを見つめていた。
「博士のインストールは済んだのかしら? それがないと、私を相手に出来ないでしょう?」
「心外だなぁ。別にアレが無くても君の対処なんて出来るよ――等分された死」
新たにソルシエラの周りに黒い蝶が生み出される。
魔力を吸収する性質を持つ等分された死は、ソルシエラにとっては天敵ともいえる存在である――筈だった。
「芸がないのね。こういうのを馬鹿の一つ覚えって言うのかしら」
「……あはは。やっぱり面白いね。うん、気に食わないや」
蝶がソルシエラへと飛来すると同時にミユメが飛び掛かった。
魔力の吸収と、物理的な攻撃が一度にソルシエラに襲い掛かる。
本来では対処不能の攻撃。
しかし、ソルシエラは冷徹な笑みを浮かべて一歩踏み出した。
そして、翡翠色の鎌を軽く一振りする。
杖のように扱われた鎌は、淡い光を放つと辺りに稲妻を走らせた。
次の瞬間。
「……は? なにそれ、知らないんだけど」
稲妻が辺り一帯を駆け抜け、蝶が次々と地面に堕ちていく。
カノンは即座に、等分された死との接続が切れたことを理解した。
が、わかったのはそれだけ。
かの博士をもってしても、等分された死を無力化したプロセスが読めなかったのである。
「嘘、等分された死が一方的に負けた……?」
「あら、いい表情するじゃない」
驚き固まるカノンを見て、ソルシエラは笑う。
そのすぐ、傍まで迫っていたミユメは腕を勢いよく振り下ろす。
鉄すら軽々と引き裂く鋭利な爪による一撃。
しかし、ソルシエラは見ることなく、半歩進んで回避する。
そして、勢いのまま前に来たミユメの片腕を掴み捕まえると鎌の柄で突いた。
「――!」
衝撃に数歩下がるミユメに悠然と近づいたソルシエラは、また一撃、一撃と攻撃を的確に当てていく。
今までの砲撃による攻撃から一転、完全な物理による攻撃はミユメを着実に追いつめていた。
カノンは慌てて追加の蝶を生み出す。
「等分された死!」
「無駄だと気が付かないのかしら。蝶の羽ばたきでは、星には届かないわ」
ソルシエラに近づいた蝶が、次々と堕ちていく。
触れる事すら叶わないその様は、まるで本当に星を相手にしているかのようだ。
「――」
吠えて攻撃したミユメを前に、ソルシエラは鎌の柄を床に突き刺すとそれをポールのように使い、蹴撃を放つ。
そして、鎌を突き刺したまま手放すとさらにミユメとの距離を詰めた。
が、それでも拳は握られない。
代わりに放たれたのは、再び強力な蹴り。
「少し、遊びましょうか」
まるで踊るかのようにスカートが舞い、一撃、一撃と蹴りが放たれる。
動作一つ一つがシームレスに繋がり、一つのダンスとして完成しているようにも見えた。
ミユメは抵抗すら許されずにその攻撃を受ける事しか出来ない。
「ミユメちゃんを虐めるなァ!」
怒りと共に等分された死が向かってくるが、地面に突き刺さった大鎌より放たれる雷が一匹たりとも逃すことなく撃ち落とす。
その光景を見て、カノンは発狂したように頭を掻きむしった。
「なんなんだよソレ! ずるじゃん! 反則じゃん!」
「駄々をこねるなんて情けない。お姉さんなのでしょう? なら、こんな時でも笑いなさいな」
そう言って、ソルシエラはたんっと軽いステップで回し蹴りをミユメに放った。
ソルシエラの白く細い脚から放たれた強力無比な一撃がミユメの顎を捉えて、脳を揺らす。
生物であれば例外なく倒れるその一撃に、ミユメは膝から崩れ落ちた。
「あら、もうダンスの相手がいなくなってしまったわね。お転婆が過ぎたかしら?」
茶化すようにそう言って、ソルシエラは再び鎌を手に取る。
そして、蝶を踏み潰しながらカノンへと近づいていった。
「ソルシエラァ……!」
「怖い顔ね。ユメが見たらどうするのよ」
それは、明確にカノンの中の境界線を超える発言だった。
「殺す」
「やってみなさい、お姉ちゃん」
挑発的に、ソルシエラは笑う。
カノンの怒りに応えるように、今までとは比べ物にならない数の蝶が召喚された。
その全てが、魔力を吸収する探索者殺しの能力を持つ凶悪な兵器である。
「死ねっ! もう教授も博士も知らない! ここでお前は殺す!」
「まるで子供ね」
弾丸のように飛んでくる無数の等分された死を前に、ソルシエラは翡翠色の大鎌の柄を向けた。
側面からグリップが飛び出し、ソルシエラはそれを握る。
彼女が愛用する砲撃のスタイルだ。
同時に、足元に魔法陣が展開された。
「あれは……」
ルカが声を上げる見覚えのある魔法式は、ソルシエラの得意とする収束砲撃である。
それを見て、カノンは笑顔を浮かべた。
「あはは! 馬鹿なの? 等分された死に収束砲撃が効くわけないじゃん!」
「それはどうかしら」
(いや、魔法式の一部が違う……! アレは、収束砲撃から派生した新たな砲撃式!)
今までずっとソルシエラの魔法式を見てきたルカだからこそ気が付いた。
殆どが同じ構成をしているが、所々が新たに書き加えられている。
翡翠色の魔法式が、まるで補助するように追加されていたのだ。
「弾は一つで充分ね」
ソルシエラの手の中で魔力が収束していく。
収束した魔力が形を成し変化したのは、一発の銃弾だ。
翡翠を削り出して作り上げたかのような、美しい銃弾である。
同時に大鎌の一部が開き、ソルシエラはその中に一発の銃弾を装填する。
そして、いつものように構えをとった。
「貫いてあげる」
引金が引かれた。
その瞬間、一閃が貫く。
雷が走ったとでも言うべき翡翠色の閃光が、等分された死を貫いて真っすぐにその先――カノンの頭を撃ち抜いていた。
知覚すら許されない刹那の出来事である。
「次は本体で来ることね。臆病者さん」
「っ、そ、る、しえらぁ!」
撃ち抜かれた箇所からカノンの身体を構成していた等分された死が機能を停止して地面に落ちていく。
それを皮切りに、その場を飛んでいた等分された死が機能を停止していった。
舞い落ちていく蝶の中心で、ソルシエラはただ一人静かに息を吐く。
そして、踵を返した。
向かう先には、障壁の中で佇むコニエだったものがいる。
「ふふっ、こんな悲劇に一人で挑むだなんて愚かね。愚かで愛おしいわ」
障壁を解除し、ソルシエラはコニエの頭を撫でる。
そして、彼女へと魔法陣を展開した。
翡翠色に染まった幾何学模様の魔法陣に、ルカは目を見開く。
「またですか……!? 見たことがない……完全に新たな魔法式……!」
ソルシエラの魔法式は、今まで基礎は統一されていた。
干渉という前提の元に組まれていた魔法だったのだが、目の前のそれは全く違う。
「少しの間、眠りなさいな」
優しい声だった。
コニエはまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
優しく抱き留めたソルシエラは、労わるようにそっと床に寝かした。
全てが終わったかに思われた直後。
「――」
ソルシエラの背後には、既に回復して起き上がったミユメの姿。
ミユメは口を大きく開けて腕を振り上げて背後から奇襲を仕掛けた。
「っ!? 後ろ!」
「はぁ……」
ソルシエラは立ち上がるも、回避しない。
それどころか、奇襲に対して背を向けたまま口を開いた。
「後は頼んだわよ――那滝ケイ」
ミユメの腕が、ソルシエラに直撃する。
同時に、黒い羽が辺りに舞いソルシエラの姿が消えた。
ソルシエラの持つ、第二の転移魔法である。
「――!?」
空を切った感触にミユメは困惑する。
その頭上、転移魔法から姿を現わしたのは、短刀を構えた那滝ケイ――。
「ッ!」
重力の乗った一撃が、ミユメの肩に刺さる。
痛みから、咄嗟に反撃しようとしたミユメだったが、体が末端から痺れていき次第に動かなくなっていく。
「無駄だよ。この麻痺毒は特別だ、誰も逃れることは出来ない」
ケイは冷静にそう吐き捨て、短刀を引き抜く。
そして、痺れて倒れ込むミユメを受け止めた。
ミユメは、痺れる喉を無理矢理震わせて声を発する。
「け、い?」
「……ああ、そうだよ。今は、眠るんだ」
ケイの声に安堵したのか、ミユメは目を閉じる。
意識を失った影響だろうか。
怪物の身体から、蒸気があふれ出す。
そして、視界が晴れる頃にはミユメの姿は元の人間へと戻っていた。
変身時に服が破れさり裸になっていた彼女に、ケイは自分の制服の予備を取り出して被せる。
そして、トアを見て緊張が解けたように息を吐いて言った。
「ごめんね、待った?」
うおおおおおお!
マジでギリギリわよ!
『ふむ、セーフだねぇ』
コニエちゃんを背に、俺は大鎌を構える。
相対するのは、飢餓状態になったミユメちゃん。
が、もはや俺に恐れるものはない。
何故なら、全ての情報を盗み……いや、ハッキン……まあ、色々やって手に入れたからだ。
情報を得たミステリアス美少女は無敵である。
『言い換えも全部駄目だったねぇ。白昼堂々コソ泥とはソルシエラも堕ちたものだ』
美少女の為なら、この身を汚すことも厭わない。
美少女に対する愛があってこそミステリアス美少女は成立するのだ。
つまり、美少女がいる限りミステリアス美少女は負けない。
皆(美少女)の応援が、ソルシエラに力をくれるぞ! 映画館で、光るデモンズギアを振って応援だ!
『がんばえー』
それに今回はゲストでナナちゃんも来てくれたぞ!
電脳特化の能力はデータの塊みてえなもんばっか使うジルニアス学術院には、もはやメタみたいな存在だし頼もしいね。
調べている最中にわかったのだが、ナナちゃんがプロフェッサーの手の中にある間、博士はひっそり活動していた。
使ってみて実感したけど、こんなのがいたらそりゃ博士は動けないわ。
プロフェッサーの手元にこの子いるとか最悪だもん。
『シエルのおかげで情報が全て揃ったからねぇ。姉として鼻が高いよ』
『私を前に、全てのセキュリティは無意味です故。あの、それで姉上一つお願いがあるのですが』
俺の頭の中で、二人は勝手に会話を始めた。
あの、あんまり騒がないでね?
『言ってみたまえ』
『ケイとの意識の同調をさせてください。これでは、私は能力を十全に使うことが出来ません故』
『それは出来ない』
え、これってナナちゃんと意識繋がってないの?
一方的にこっちが聞こえるだけなの?
『いくら星詠みとは言え、君まで同調したら廃人になりかねない。こうして君を武器として扱えているだけで充分だよ』
『いえ、私の演算では特にそんな事は――』
『うるさいねぇ! ソルシエラの契約デモンズギアは私なんだよ! 後から来た幼女に出る幕はないねぇ!』
えぇ……ちょっと星詠みの杖君、言い過ぎだよ。
泣いちゃったらどうするの。
『いや、君のその美少女脳に汚染されてほしくないだけだが?』
こっそりと俺だけに、星詠みの杖君はそう告げた。
ああ、なるほど! っておい!
『とにかく、マスターからの命令は口頭か私を通して行われる。安心したまえ。同調が無くとも問題はない』
『そうですか……むぅ』
めっちゃ不服そうじゃーん。
『あと、もう一つ要望なのですが鎌じゃなくて元の形態に戻してほしいです。私は姉上のような鎌ではありません故』
『ソルシエラは鎌を使うんだよ。 それ以外の武器は解釈違いだねぇ!。見たまえ、翡翠色の鎌を持つソルシエラの姿を。これを見て美しいとは思わないかい?』
『……この狭い屋内で鎌を使うのは利点が――』
『チッ……これだからマジレスタイプは。いいから行くぞ』
ごめんね、ナナちゃん……。
星詠みの杖君って、ソルシエラへのこだわりが凄いから。
どうしてこうなったんだろうね……
『どの口が言っているんだろうねぇ』
■
ソルシエラの登場により、明らかに空気が一変した。
ミユメは本能的にその強さを理解したのか、飛び掛かることはせずに間合いを測るようにソルシエラの周りを移動する。
その間も、ソルシエラは微動だにせずカノンを見つめていた。
「博士のインストールは済んだのかしら? それがないと、私を相手に出来ないでしょう?」
「心外だなぁ。別にアレが無くても君の対処なんて出来るよ――等分された死」
新たにソルシエラの周りに黒い蝶が生み出される。
魔力を吸収する性質を持つ等分された死は、ソルシエラにとっては天敵ともいえる存在である――筈だった。
「芸がないのね。こういうのを馬鹿の一つ覚えって言うのかしら」
「……あはは。やっぱり面白いね。うん、気に食わないや」
蝶がソルシエラへと飛来すると同時にミユメが飛び掛かった。
魔力の吸収と、物理的な攻撃が一度にソルシエラに襲い掛かる。
本来では対処不能の攻撃。
しかし、ソルシエラは冷徹な笑みを浮かべて一歩踏み出した。
そして、翡翠色の鎌を軽く一振りする。
杖のように扱われた鎌は、淡い光を放つと辺りに稲妻を走らせた。
次の瞬間。
「……は? なにそれ、知らないんだけど」
稲妻が辺り一帯を駆け抜け、蝶が次々と地面に堕ちていく。
カノンは即座に、等分された死との接続が切れたことを理解した。
が、わかったのはそれだけ。
かの博士をもってしても、等分された死を無力化したプロセスが読めなかったのである。
「嘘、等分された死が一方的に負けた……?」
「あら、いい表情するじゃない」
驚き固まるカノンを見て、ソルシエラは笑う。
そのすぐ、傍まで迫っていたミユメは腕を勢いよく振り下ろす。
鉄すら軽々と引き裂く鋭利な爪による一撃。
しかし、ソルシエラは見ることなく、半歩進んで回避する。
そして、勢いのまま前に来たミユメの片腕を掴み捕まえると鎌の柄で突いた。
「――!」
衝撃に数歩下がるミユメに悠然と近づいたソルシエラは、また一撃、一撃と攻撃を的確に当てていく。
今までの砲撃による攻撃から一転、完全な物理による攻撃はミユメを着実に追いつめていた。
カノンは慌てて追加の蝶を生み出す。
「等分された死!」
「無駄だと気が付かないのかしら。蝶の羽ばたきでは、星には届かないわ」
ソルシエラに近づいた蝶が、次々と堕ちていく。
触れる事すら叶わないその様は、まるで本当に星を相手にしているかのようだ。
「――」
吠えて攻撃したミユメを前に、ソルシエラは鎌の柄を床に突き刺すとそれをポールのように使い、蹴撃を放つ。
そして、鎌を突き刺したまま手放すとさらにミユメとの距離を詰めた。
が、それでも拳は握られない。
代わりに放たれたのは、再び強力な蹴り。
「少し、遊びましょうか」
まるで踊るかのようにスカートが舞い、一撃、一撃と蹴りが放たれる。
動作一つ一つがシームレスに繋がり、一つのダンスとして完成しているようにも見えた。
ミユメは抵抗すら許されずにその攻撃を受ける事しか出来ない。
「ミユメちゃんを虐めるなァ!」
怒りと共に等分された死が向かってくるが、地面に突き刺さった大鎌より放たれる雷が一匹たりとも逃すことなく撃ち落とす。
その光景を見て、カノンは発狂したように頭を掻きむしった。
「なんなんだよソレ! ずるじゃん! 反則じゃん!」
「駄々をこねるなんて情けない。お姉さんなのでしょう? なら、こんな時でも笑いなさいな」
そう言って、ソルシエラはたんっと軽いステップで回し蹴りをミユメに放った。
ソルシエラの白く細い脚から放たれた強力無比な一撃がミユメの顎を捉えて、脳を揺らす。
生物であれば例外なく倒れるその一撃に、ミユメは膝から崩れ落ちた。
「あら、もうダンスの相手がいなくなってしまったわね。お転婆が過ぎたかしら?」
茶化すようにそう言って、ソルシエラは再び鎌を手に取る。
そして、蝶を踏み潰しながらカノンへと近づいていった。
「ソルシエラァ……!」
「怖い顔ね。ユメが見たらどうするのよ」
それは、明確にカノンの中の境界線を超える発言だった。
「殺す」
「やってみなさい、お姉ちゃん」
挑発的に、ソルシエラは笑う。
カノンの怒りに応えるように、今までとは比べ物にならない数の蝶が召喚された。
その全てが、魔力を吸収する探索者殺しの能力を持つ凶悪な兵器である。
「死ねっ! もう教授も博士も知らない! ここでお前は殺す!」
「まるで子供ね」
弾丸のように飛んでくる無数の等分された死を前に、ソルシエラは翡翠色の大鎌の柄を向けた。
側面からグリップが飛び出し、ソルシエラはそれを握る。
彼女が愛用する砲撃のスタイルだ。
同時に、足元に魔法陣が展開された。
「あれは……」
ルカが声を上げる見覚えのある魔法式は、ソルシエラの得意とする収束砲撃である。
それを見て、カノンは笑顔を浮かべた。
「あはは! 馬鹿なの? 等分された死に収束砲撃が効くわけないじゃん!」
「それはどうかしら」
(いや、魔法式の一部が違う……! アレは、収束砲撃から派生した新たな砲撃式!)
今までずっとソルシエラの魔法式を見てきたルカだからこそ気が付いた。
殆どが同じ構成をしているが、所々が新たに書き加えられている。
翡翠色の魔法式が、まるで補助するように追加されていたのだ。
「弾は一つで充分ね」
ソルシエラの手の中で魔力が収束していく。
収束した魔力が形を成し変化したのは、一発の銃弾だ。
翡翠を削り出して作り上げたかのような、美しい銃弾である。
同時に大鎌の一部が開き、ソルシエラはその中に一発の銃弾を装填する。
そして、いつものように構えをとった。
「貫いてあげる」
引金が引かれた。
その瞬間、一閃が貫く。
雷が走ったとでも言うべき翡翠色の閃光が、等分された死を貫いて真っすぐにその先――カノンの頭を撃ち抜いていた。
知覚すら許されない刹那の出来事である。
「次は本体で来ることね。臆病者さん」
「っ、そ、る、しえらぁ!」
撃ち抜かれた箇所からカノンの身体を構成していた等分された死が機能を停止して地面に落ちていく。
それを皮切りに、その場を飛んでいた等分された死が機能を停止していった。
舞い落ちていく蝶の中心で、ソルシエラはただ一人静かに息を吐く。
そして、踵を返した。
向かう先には、障壁の中で佇むコニエだったものがいる。
「ふふっ、こんな悲劇に一人で挑むだなんて愚かね。愚かで愛おしいわ」
障壁を解除し、ソルシエラはコニエの頭を撫でる。
そして、彼女へと魔法陣を展開した。
翡翠色に染まった幾何学模様の魔法陣に、ルカは目を見開く。
「またですか……!? 見たことがない……完全に新たな魔法式……!」
ソルシエラの魔法式は、今まで基礎は統一されていた。
干渉という前提の元に組まれていた魔法だったのだが、目の前のそれは全く違う。
「少しの間、眠りなさいな」
優しい声だった。
コニエはまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
優しく抱き留めたソルシエラは、労わるようにそっと床に寝かした。
全てが終わったかに思われた直後。
「――」
ソルシエラの背後には、既に回復して起き上がったミユメの姿。
ミユメは口を大きく開けて腕を振り上げて背後から奇襲を仕掛けた。
「っ!? 後ろ!」
「はぁ……」
ソルシエラは立ち上がるも、回避しない。
それどころか、奇襲に対して背を向けたまま口を開いた。
「後は頼んだわよ――那滝ケイ」
ミユメの腕が、ソルシエラに直撃する。
同時に、黒い羽が辺りに舞いソルシエラの姿が消えた。
ソルシエラの持つ、第二の転移魔法である。
「――!?」
空を切った感触にミユメは困惑する。
その頭上、転移魔法から姿を現わしたのは、短刀を構えた那滝ケイ――。
「ッ!」
重力の乗った一撃が、ミユメの肩に刺さる。
痛みから、咄嗟に反撃しようとしたミユメだったが、体が末端から痺れていき次第に動かなくなっていく。
「無駄だよ。この麻痺毒は特別だ、誰も逃れることは出来ない」
ケイは冷静にそう吐き捨て、短刀を引き抜く。
そして、痺れて倒れ込むミユメを受け止めた。
ミユメは、痺れる喉を無理矢理震わせて声を発する。
「け、い?」
「……ああ、そうだよ。今は、眠るんだ」
ケイの声に安堵したのか、ミユメは目を閉じる。
意識を失った影響だろうか。
怪物の身体から、蒸気があふれ出す。
そして、視界が晴れる頃にはミユメの姿は元の人間へと戻っていた。
変身時に服が破れさり裸になっていた彼女に、ケイは自分の制服の予備を取り出して被せる。
そして、トアを見て緊張が解けたように息を吐いて言った。
「ごめんね、待った?」
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この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
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メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
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