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三章 閃きジーニアス
第97話 介入ブレイカー
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もしも自身の守るべき輝きが敵に回った時、一体どうするべきなのか。
その問いの答えを、俺はまだ持ち合わせていない。
「――ッ!」
「いいね、熱烈だ。もっと私を見てよ」
大鎌ではなく、短刀を那滝ケイの姿で振るう。
驚異的な動体視力と身体能力から放たれる一閃は、しかし一度も掠る事すらなく空を切っていた。
「使いなよ、星詠みの杖を」
「……貴女の言いなりになるのは癪なのだけれど」
「でも、その姿じゃ勝てないでしょ。大丈夫だよ、今ならソルシエラになってもルカさんにはバレないから。力、解放しちゃいな?」
何処まで行っても癪な奴だ。
こちらの事を知り尽くして、なおかつ飄々とした態度。
俺が何をしようが、余裕綽々。
何より気に入らないのは、カノンちゃんを殺すと言ったことだ。
許せねぇよなァ!?
『相棒、やるんだね』
俺の激情に呼応して、魔法陣が展開される。
四肢を包むように展開される紫色の魔法陣。
それは、端から制服だった物を漆黒のドレスへと変化させていた。
「星光はここに覚醒する」
星詠み――第二形態。
上昇した魔力と、効果を増した干渉能力がネームレスの周囲に魔法陣を展開。
そこから無数の銀色の鎖が発射された。
「うん、いいね」
ネームレスはひらひらと躱すと、そのまま空中へと跳んだ。
同時に、魔法陣を展開する。
「撃ち落としてあげるわ」
「ははっ、やってみなよ」
黒と銀の砲撃がぶつかり合う。
六波羅さんレベルでなければ間違いなく受け止めることなど不可能なのだが、やはりネームレスは容易く相殺して見せた。
が、そんな事は織り込み済みである。
「――ふふっ、後ろががら空きよ?」
砲撃と同時に転移をして、背後からの強襲。
短刀を勢いよく放り投げると同時に、周囲に展開した簡易砲撃陣を起動し、一斉に放つ。
「ははっ、凄いね。うん」
回避の選択肢を捨てたネームレスは障壁を張ることでその砲撃と短刀を防いだようである。
が、その上で俺は既に本命の収束砲撃の準備を完了させていた。
煙が晴れるよりも先に、銀の鎖によりネームレスを拘束する。
「……っ、転移も出来ないかぁ。私の転移魔法に干渉してるね?」
『少し大人げないが、こうでもしないと危ういからねぇ』
バーカ! ザマミロ!
俺が本気になればこんなもんなんだよぉ!
「他愛もないわ」
転移と拘束と収束と干渉能力を全てフル活用した息もつかせぬ連撃に、ネームレスは完全に手も足も出ていない。
よーし、ここから砲撃を放ってその外套もボロボロにしてやるぜぇ!
「星の輝きを知りなさい」
中庭上空いっぱいに広がった魔法陣から伸びた管が大鎌へと接続される。
俺は狙いを定めて引き金を引いた。
銀の光が中庭を満たす。
この光の前で防御などできるわけもない。
「……っ」
ネームレスは僅かに息をのんだようだった。
抵抗すら出来ず、次の瞬間にはネームレスは砲撃に飲み込まれる。
激しい轟音と巻き上がった砂。
中庭の芝生は捲れ上がって、木は壁際に倒れていた。
はい! 勝利!
ふー。ミステリアスには欠けるが、わからせは必要だからな!
俺は警戒を怠らず、煙も瓦礫も全て魔力に転換して、第二射の用意を初めた。
奴もミステリアス美少女なら、まだ動けるかもしれない。
『おいおい、アレでまだ私達に勝てるならそれはもうイレギュラーなどという言葉で片付けられる存在ではないよ。私達の勝利だ』
流石にそうか。
『こっちと同じ魔法を使っているなら干渉も可能だ。見せびらかすように私特製の魔法を使ったのが仇になったねぇ^^』
得意げな星詠みの杖君の言葉通り、ネームレスは鎖に縛られたままぐったりしているようだった。
どうして外套はとれねえんだよ。
顔をハッキリ見せろや。
『恐らくはあの外套自体が聖遺物なのだろう。姿を隠蔽する効果を持つものなのだろうねぇ』
よーし、じゃあ第二射でその聖遺物を壊してやるわ。
その後、短刀でプスッとやってから麻痺させて尋問タイムだ。
「……ふふっ、やっぱり一撃で倒さないんだね」
「何が言いたいのかしら。もしかして泣いて謝る気になった?」
ネームレスは、拘束されているというのに笑った。
「君には私は殺せない、そうでしょ。ずっと優しかった君だから。その気になれば、いくらでも私を殺せるのに」
「知りたいことがいくつかあるから、生かしておいてるだけよ。用が済んだら、お望み通り殺してあげるわ」
「強がっちゃって……いや、本当に強いから君は一人で戦えるんだろうね。でも――君が一人である限り、私には勝てないよ」
ネームレスは指をぱちんと鳴らす。
その瞬間、拘束していた筈の鎖が、容易く切断された。
それだけではない。
俺の背後にあった魔法陣と、そこから伸びる管すらも無残に切り刻まれた。
『……おい、今のは』
星詠みの杖君が明らかに困惑した声を上げた。
その原因は理解している。
今しがた、彼女が放った斬撃にあった。
動作も何もない。
ただ斬るという事象のみが顕現したその力は。
「ルトラの、能力……?」
「流石にわかるかぁ。うん、これ以上手札は見せたくないね。今回はこれと君の魔法だけで行こうかな」
ネームレスはそう言うと、二つの魔法陣を展開。
そしてその中に手を入れると、大鎌と太刀を取り出した。
漆黒ではあるが、その形状はどちらも見慣れた物である。
『私と、ルトラ……? いや、違うな。本物であれば、この距離なら否応でもチャンネルが繋がる筈だ。これは一体……?』
「どうかな、お揃いだけど」
「気持ち悪いわね。どれだけ私の事が好きなのかしら」
「今、教えてあげるよ!」
ネームレスは武器を構えて、たんと、地面を蹴った。
その瞬間、距離が切断されて目の前にネームレスが現れる。
ははは、馬鹿め。
それはトウラク君の十八番だ!
原作を知る俺が、ルトラの恐ろしさを知らないわけがないだろう!
俺は、大鎌で太刀を受け止めて振り下ろされた大鎌の攻撃を半身傾けて躱す。
そして、近くまで来たネームレスの腕を掴んだ。
星詠みの杖君!
『いい幻覚を見せてあげようねぇ^^』
星詠みの杖より、幻覚が流し込まれる。
ネームレスは僅かに呻き声を上げたが次の瞬間には何かを切断する音と共に、後ろに跳んだ。
今、幻覚斬ってた?
やばくね? 普通に原作後半のトウラク君並みにルトラの能力使いこなしてんじゃん。
星斬形態じゃないだけまだマシだけどさ。
「もっと私と遊ぼうよ。ねえ、ソルシエラ!」
頭を抑えながらも、ネームレスは余裕そうに笑った。
言葉の端々から、感情の高ぶりが見て取れる。
なんだよコイツ……。
ミステリアス美少女というか、ぶっちぎりでイカれた女なだけじゃねえかよ……。
『相棒、君が殺す覚悟を持たない限り、彼女は永遠に挑んで来るよ。それに、あの口振りだとまだ何か隠し持ってる』
だよねぇ。
正直、今はネームレスを捕まえるよりも魔眼を優先したいのだが。
……うん! 星詠みの杖君! ここは撤退しよう!
『いいのかい?』
捕まえたいけど、どうにも無理っぽい。
それに、あっちも俺を殺すのが目的じゃないようだしね。
殺気が感じられないというか、俺と同じ魔法が使えるならもっと色々とできるでしょ。
それでもネームレスは能動的に動こうとしない。
となると、これって。
「私の足止めのつもりかしら?」
「……まあ、流石にわかるか」
そうなるよな。
俺の事を知っている風な割には、カノンちゃんを殺そうとか持ちかけて来たり、俺の攻撃に受動的にしか能力を使用しないし。
露骨に足止めしてるよ。
何に対しての足止めか知らねえけどさ。
ただ、何かに間に合わなくなるってんならその前にさっさとこのストーカー女から逃げるぞ!
「貴女と遊んでいる暇はないの」
「魔眼を調べたいからでしょ? もう少しだけ付き合ってよ。大丈夫、あと少しだから」
「嫌よ」
バレたら全然隠す気がないなコイツ。
うん、さっさと逃げよう。
「くだらない人形遊びは一人でやっていなさいな」
俺は冷たくそう言い放ち、転移魔法を展開する。
が、その瞬間に転移魔法は、音を立てて切断された。
「もっと遊ぼうよ。そうだな、思い出話に花を咲かせる?」
「戯言を貴女との思い出なんてある訳ないでしょう?」
「……はは、それもそうだね。なら、ここから作っていこう」
もうやだ。
手玉に取られるのやだ!
ミステリアス美少女やりたい!!!!
わよ!!!!
『あー、相棒が壊れちゃった』
転移魔法も起動できねえし、なんだよマジで。
ルトラの斬撃が使えるなら、さっきの俺のミステリアス美少女コンボも邪魔されるじゃん。
ルトラとソルシエラを使えるの反則だろ反則!
こっちを殺そうともしねえし、終わらない負けイベとかバグにも程があるわ!
「さてさて、それじゃあ第二ラウンドいってみようか」
ネームレスはやる気満々に駆け出してきた。
その一刀一刀は鋭く、重い。
が、全て俺が対処できる前提で放たれている。
逃げる暇など与えないと、彼女の太刀筋がそう言っていた。
倒そうとすればソルシエラの魔法で対処。
逃げようとしてもルトラで斬撃キャンセル。
もう無理です……。
原作知識が意味をなしていない……。
『……ふむ、では賭けとなるが私から提案が――』
星詠みの杖君が何かを言いかけたその時だった。
ネームレスと俺の間に、赤い閃光が堕ちてくる。
収束砲撃とよく似たそれは、地面を抉り大きな爆発を生み出した。
今度は何ー!?
『む、このエネルギーは……』
「――いいねェ。雁首揃って楽しそうじゃねェか」
気だるげで、しかし猛獣を思わせる声。
爆発の中心から現れた姿は、少なくとも今会いたい者のソレではない。
「り、リーダー、様子見しようって……」
「言ったかァ? はは、言ったかもなァ! でもよォ、こんなご馳走を前に待てが出来るかって話だろうがァ!」
双剣を持つその青年を見て、俺は泣きそうになるのをぐっと堪えて言った。
「六波羅……なんの用かしら」
「おいおい、嫌そうな顔するなよ。殺し合った仲だろうが」
だから嫌なんだよ!
「今、貴方まで相手にするつもりはないのだけれど」
ネームレスに続いて、六波羅さんまでもがここに集結していた。
ソルシエラ、ネームレス、六波羅さんって、なにここ?
ここだけ強さインフレしてない?
『たまたまこの学区にエイナがいたようだねぇ。それはバレるよ』
俺が双剣を見つめると、双剣がカタカタと震えて少女の声が聞えてきた。
「ひえっ、ごめんなさい姉様! でも、リーダーが行こうっていうから……あわよくばって」
全然謝罪する気持ちないじゃん。
漁夫の利狙いじゃねえか!
仕方ねえ、こうなったら三人で三つ巴の乱戦と洒落込むしかねえよ!
そして隙を狙って、転移魔法を起動するわよ!
『了解した。あくまで最優先するべきはこの場からの離脱という事だね』
俺は大鎌を構える。
そして二人を相手にしようとしたその時だった。
「さて、遊ぶとするかァ」
そう言って、六波羅さんは俺に背を向けた。
丁度、ネームレスと向かい合う形である。
え、六波羅さん?
「……どういうつもりかしら」
「コイツは俺の獲物だ。そう決めた。だから、てめェは消えろよ」
ろ、六波羅さぁん!
「少し戦いを見ていたがァ……まともに殺す気がねェんだろコイツの事を。殺したくねえのか、それともコイツに構っている時間がねェのか。転移魔法を使った辺り後者かァ?」
どっちもです六波羅さん。
でも、ありがとう六波羅さん!
六波羅さん♥!
『……エイナは普通に私達も倒そうとしていなかったかい?』
エイナちゃんはそういうところあるから。
けど、何か知らないけどラッキー!
六波羅さんがジルニアス学術院にいる意味はわからんし、藪蛇で考えたくもないが助かったことに変わりはない。
「……この借りはいつか返すわ」
「おう、本気の殺し合いで返してくれや」
それは嫌。
俺は転移魔法陣を展開する。
同時にネームレスがルトラの斬撃を使おうとしたが、六波羅さんが攻撃を仕掛けた事により中断された。
今だ、星詠みの杖君!
『うおおおお、ミステリアス美少女退避!』
いつもの転移よりも簡易的な魔法に包まれた俺は、魔力で出来た羽を辺りに散らしてその場から姿を消した。
星詠みの杖君、君いつの間にこんな転移魔法実装したの?
『カノン相手に逃げられなかったのがムカついてねぇ。距離と座標を限定する代わりに速度を上げた簡易バージョンを作っていたのさ。羽を辺りに散らして、パッと消えるの、良くない?』
良い……。
『まあ、お披露目する隙もなく全部切断されていたんだけどね! 心底腹が立つねぇ!』
まぁまぁ、こうして成功したんだからいいじゃないか。
転移した場所は、あの場所からは近い教室のようだった。
こうしてはいられない。
急ぐぞ、星詠みの杖君。
魔眼を調べるんだ。ネームレスが干渉してきた辺り、大当たりだぞ!
『そうだねぇ。でも、時間がないとはどういう事なのだろうか』
その辺も調べながら考えるぞ!
俺は、早速魔眼を調べるために行動を開始した。
その問いの答えを、俺はまだ持ち合わせていない。
「――ッ!」
「いいね、熱烈だ。もっと私を見てよ」
大鎌ではなく、短刀を那滝ケイの姿で振るう。
驚異的な動体視力と身体能力から放たれる一閃は、しかし一度も掠る事すらなく空を切っていた。
「使いなよ、星詠みの杖を」
「……貴女の言いなりになるのは癪なのだけれど」
「でも、その姿じゃ勝てないでしょ。大丈夫だよ、今ならソルシエラになってもルカさんにはバレないから。力、解放しちゃいな?」
何処まで行っても癪な奴だ。
こちらの事を知り尽くして、なおかつ飄々とした態度。
俺が何をしようが、余裕綽々。
何より気に入らないのは、カノンちゃんを殺すと言ったことだ。
許せねぇよなァ!?
『相棒、やるんだね』
俺の激情に呼応して、魔法陣が展開される。
四肢を包むように展開される紫色の魔法陣。
それは、端から制服だった物を漆黒のドレスへと変化させていた。
「星光はここに覚醒する」
星詠み――第二形態。
上昇した魔力と、効果を増した干渉能力がネームレスの周囲に魔法陣を展開。
そこから無数の銀色の鎖が発射された。
「うん、いいね」
ネームレスはひらひらと躱すと、そのまま空中へと跳んだ。
同時に、魔法陣を展開する。
「撃ち落としてあげるわ」
「ははっ、やってみなよ」
黒と銀の砲撃がぶつかり合う。
六波羅さんレベルでなければ間違いなく受け止めることなど不可能なのだが、やはりネームレスは容易く相殺して見せた。
が、そんな事は織り込み済みである。
「――ふふっ、後ろががら空きよ?」
砲撃と同時に転移をして、背後からの強襲。
短刀を勢いよく放り投げると同時に、周囲に展開した簡易砲撃陣を起動し、一斉に放つ。
「ははっ、凄いね。うん」
回避の選択肢を捨てたネームレスは障壁を張ることでその砲撃と短刀を防いだようである。
が、その上で俺は既に本命の収束砲撃の準備を完了させていた。
煙が晴れるよりも先に、銀の鎖によりネームレスを拘束する。
「……っ、転移も出来ないかぁ。私の転移魔法に干渉してるね?」
『少し大人げないが、こうでもしないと危ういからねぇ』
バーカ! ザマミロ!
俺が本気になればこんなもんなんだよぉ!
「他愛もないわ」
転移と拘束と収束と干渉能力を全てフル活用した息もつかせぬ連撃に、ネームレスは完全に手も足も出ていない。
よーし、ここから砲撃を放ってその外套もボロボロにしてやるぜぇ!
「星の輝きを知りなさい」
中庭上空いっぱいに広がった魔法陣から伸びた管が大鎌へと接続される。
俺は狙いを定めて引き金を引いた。
銀の光が中庭を満たす。
この光の前で防御などできるわけもない。
「……っ」
ネームレスは僅かに息をのんだようだった。
抵抗すら出来ず、次の瞬間にはネームレスは砲撃に飲み込まれる。
激しい轟音と巻き上がった砂。
中庭の芝生は捲れ上がって、木は壁際に倒れていた。
はい! 勝利!
ふー。ミステリアスには欠けるが、わからせは必要だからな!
俺は警戒を怠らず、煙も瓦礫も全て魔力に転換して、第二射の用意を初めた。
奴もミステリアス美少女なら、まだ動けるかもしれない。
『おいおい、アレでまだ私達に勝てるならそれはもうイレギュラーなどという言葉で片付けられる存在ではないよ。私達の勝利だ』
流石にそうか。
『こっちと同じ魔法を使っているなら干渉も可能だ。見せびらかすように私特製の魔法を使ったのが仇になったねぇ^^』
得意げな星詠みの杖君の言葉通り、ネームレスは鎖に縛られたままぐったりしているようだった。
どうして外套はとれねえんだよ。
顔をハッキリ見せろや。
『恐らくはあの外套自体が聖遺物なのだろう。姿を隠蔽する効果を持つものなのだろうねぇ』
よーし、じゃあ第二射でその聖遺物を壊してやるわ。
その後、短刀でプスッとやってから麻痺させて尋問タイムだ。
「……ふふっ、やっぱり一撃で倒さないんだね」
「何が言いたいのかしら。もしかして泣いて謝る気になった?」
ネームレスは、拘束されているというのに笑った。
「君には私は殺せない、そうでしょ。ずっと優しかった君だから。その気になれば、いくらでも私を殺せるのに」
「知りたいことがいくつかあるから、生かしておいてるだけよ。用が済んだら、お望み通り殺してあげるわ」
「強がっちゃって……いや、本当に強いから君は一人で戦えるんだろうね。でも――君が一人である限り、私には勝てないよ」
ネームレスは指をぱちんと鳴らす。
その瞬間、拘束していた筈の鎖が、容易く切断された。
それだけではない。
俺の背後にあった魔法陣と、そこから伸びる管すらも無残に切り刻まれた。
『……おい、今のは』
星詠みの杖君が明らかに困惑した声を上げた。
その原因は理解している。
今しがた、彼女が放った斬撃にあった。
動作も何もない。
ただ斬るという事象のみが顕現したその力は。
「ルトラの、能力……?」
「流石にわかるかぁ。うん、これ以上手札は見せたくないね。今回はこれと君の魔法だけで行こうかな」
ネームレスはそう言うと、二つの魔法陣を展開。
そしてその中に手を入れると、大鎌と太刀を取り出した。
漆黒ではあるが、その形状はどちらも見慣れた物である。
『私と、ルトラ……? いや、違うな。本物であれば、この距離なら否応でもチャンネルが繋がる筈だ。これは一体……?』
「どうかな、お揃いだけど」
「気持ち悪いわね。どれだけ私の事が好きなのかしら」
「今、教えてあげるよ!」
ネームレスは武器を構えて、たんと、地面を蹴った。
その瞬間、距離が切断されて目の前にネームレスが現れる。
ははは、馬鹿め。
それはトウラク君の十八番だ!
原作を知る俺が、ルトラの恐ろしさを知らないわけがないだろう!
俺は、大鎌で太刀を受け止めて振り下ろされた大鎌の攻撃を半身傾けて躱す。
そして、近くまで来たネームレスの腕を掴んだ。
星詠みの杖君!
『いい幻覚を見せてあげようねぇ^^』
星詠みの杖より、幻覚が流し込まれる。
ネームレスは僅かに呻き声を上げたが次の瞬間には何かを切断する音と共に、後ろに跳んだ。
今、幻覚斬ってた?
やばくね? 普通に原作後半のトウラク君並みにルトラの能力使いこなしてんじゃん。
星斬形態じゃないだけまだマシだけどさ。
「もっと私と遊ぼうよ。ねえ、ソルシエラ!」
頭を抑えながらも、ネームレスは余裕そうに笑った。
言葉の端々から、感情の高ぶりが見て取れる。
なんだよコイツ……。
ミステリアス美少女というか、ぶっちぎりでイカれた女なだけじゃねえかよ……。
『相棒、君が殺す覚悟を持たない限り、彼女は永遠に挑んで来るよ。それに、あの口振りだとまだ何か隠し持ってる』
だよねぇ。
正直、今はネームレスを捕まえるよりも魔眼を優先したいのだが。
……うん! 星詠みの杖君! ここは撤退しよう!
『いいのかい?』
捕まえたいけど、どうにも無理っぽい。
それに、あっちも俺を殺すのが目的じゃないようだしね。
殺気が感じられないというか、俺と同じ魔法が使えるならもっと色々とできるでしょ。
それでもネームレスは能動的に動こうとしない。
となると、これって。
「私の足止めのつもりかしら?」
「……まあ、流石にわかるか」
そうなるよな。
俺の事を知っている風な割には、カノンちゃんを殺そうとか持ちかけて来たり、俺の攻撃に受動的にしか能力を使用しないし。
露骨に足止めしてるよ。
何に対しての足止めか知らねえけどさ。
ただ、何かに間に合わなくなるってんならその前にさっさとこのストーカー女から逃げるぞ!
「貴女と遊んでいる暇はないの」
「魔眼を調べたいからでしょ? もう少しだけ付き合ってよ。大丈夫、あと少しだから」
「嫌よ」
バレたら全然隠す気がないなコイツ。
うん、さっさと逃げよう。
「くだらない人形遊びは一人でやっていなさいな」
俺は冷たくそう言い放ち、転移魔法を展開する。
が、その瞬間に転移魔法は、音を立てて切断された。
「もっと遊ぼうよ。そうだな、思い出話に花を咲かせる?」
「戯言を貴女との思い出なんてある訳ないでしょう?」
「……はは、それもそうだね。なら、ここから作っていこう」
もうやだ。
手玉に取られるのやだ!
ミステリアス美少女やりたい!!!!
わよ!!!!
『あー、相棒が壊れちゃった』
転移魔法も起動できねえし、なんだよマジで。
ルトラの斬撃が使えるなら、さっきの俺のミステリアス美少女コンボも邪魔されるじゃん。
ルトラとソルシエラを使えるの反則だろ反則!
こっちを殺そうともしねえし、終わらない負けイベとかバグにも程があるわ!
「さてさて、それじゃあ第二ラウンドいってみようか」
ネームレスはやる気満々に駆け出してきた。
その一刀一刀は鋭く、重い。
が、全て俺が対処できる前提で放たれている。
逃げる暇など与えないと、彼女の太刀筋がそう言っていた。
倒そうとすればソルシエラの魔法で対処。
逃げようとしてもルトラで斬撃キャンセル。
もう無理です……。
原作知識が意味をなしていない……。
『……ふむ、では賭けとなるが私から提案が――』
星詠みの杖君が何かを言いかけたその時だった。
ネームレスと俺の間に、赤い閃光が堕ちてくる。
収束砲撃とよく似たそれは、地面を抉り大きな爆発を生み出した。
今度は何ー!?
『む、このエネルギーは……』
「――いいねェ。雁首揃って楽しそうじゃねェか」
気だるげで、しかし猛獣を思わせる声。
爆発の中心から現れた姿は、少なくとも今会いたい者のソレではない。
「り、リーダー、様子見しようって……」
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「おいおい、嫌そうな顔するなよ。殺し合った仲だろうが」
だから嫌なんだよ!
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ソルシエラ、ネームレス、六波羅さんって、なにここ?
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全然謝罪する気持ちないじゃん。
漁夫の利狙いじゃねえか!
仕方ねえ、こうなったら三人で三つ巴の乱戦と洒落込むしかねえよ!
そして隙を狙って、転移魔法を起動するわよ!
『了解した。あくまで最優先するべきはこの場からの離脱という事だね』
俺は大鎌を構える。
そして二人を相手にしようとしたその時だった。
「さて、遊ぶとするかァ」
そう言って、六波羅さんは俺に背を向けた。
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「……どういうつもりかしら」
「コイツは俺の獲物だ。そう決めた。だから、てめェは消えろよ」
ろ、六波羅さぁん!
「少し戦いを見ていたがァ……まともに殺す気がねェんだろコイツの事を。殺したくねえのか、それともコイツに構っている時間がねェのか。転移魔法を使った辺り後者かァ?」
どっちもです六波羅さん。
でも、ありがとう六波羅さん!
六波羅さん♥!
『……エイナは普通に私達も倒そうとしていなかったかい?』
エイナちゃんはそういうところあるから。
けど、何か知らないけどラッキー!
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「……この借りはいつか返すわ」
「おう、本気の殺し合いで返してくれや」
それは嫌。
俺は転移魔法陣を展開する。
同時にネームレスがルトラの斬撃を使おうとしたが、六波羅さんが攻撃を仕掛けた事により中断された。
今だ、星詠みの杖君!
『うおおおお、ミステリアス美少女退避!』
いつもの転移よりも簡易的な魔法に包まれた俺は、魔力で出来た羽を辺りに散らしてその場から姿を消した。
星詠みの杖君、君いつの間にこんな転移魔法実装したの?
『カノン相手に逃げられなかったのがムカついてねぇ。距離と座標を限定する代わりに速度を上げた簡易バージョンを作っていたのさ。羽を辺りに散らして、パッと消えるの、良くない?』
良い……。
『まあ、お披露目する隙もなく全部切断されていたんだけどね! 心底腹が立つねぇ!』
まぁまぁ、こうして成功したんだからいいじゃないか。
転移した場所は、あの場所からは近い教室のようだった。
こうしてはいられない。
急ぐぞ、星詠みの杖君。
魔眼を調べるんだ。ネームレスが干渉してきた辺り、大当たりだぞ!
『そうだねぇ。でも、時間がないとはどういう事なのだろうか』
その辺も調べながら考えるぞ!
俺は、早速魔眼を調べるために行動を開始した。
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そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
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