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三章 閃きジーニアス

第96話 収集ストラテジー

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 ミステリアス美少女ムーブで大切な物は何か。
 それ即ち情報と手数である。

 今の俺は、そのどちらとも圧倒的に足りていなかった。
 
『まさかこんな事になるなんて思わなかったからねぇ』

 騎双学園の時は原作知識が役に立った。
 原作キャラの癖や設定から逆算してミステリアス美少女ムーブができた。

 が、俺は今回の事について微塵も知らない。
 しかし、ここから全ての情報を収集していくとなれば時間がかかる。

 なので、俺は美少女的シックスセンスに頼って魔眼に情報を絞ることにした。

 カノンちゃんが研究しているという魔眼が、なんかいい感じにミユメちゃんと関わっている気がする。
 魔眼とかいう物騒なものを実験している時点で無関係な訳ないだろ。

 という訳で星詠みの杖君、魔眼を調べ尽くして、俺はミステリアス美少女ムーブをしようと思います。

『ふむ、では肝心の手数は? カノンは相性が悪い。それに君は忘れているかもしれないが、ネームレスがいるんだよ? 仮に、カノンとネームレスを同時に相手したら流石に厳しいねぇ』

 そうなんだよね。特にネームレスが一番頭を悩ませるんだよね。
 なんなんアイツ、マジで意味わかんない。

 ミユメちゃん狙いかと思ったら昨日は来ねえし。
 カノンちゃんと戦ってても姿が見えねえし。
 
 夢? ネームレスって俺の見てた夢だった?

『しっかりしたまえ』

 ネームレスは今のところは調べる手掛かりが無いので無視。
 俺は魔眼を調べて魔眼マスターになります。
 そして、ついでに魔眼が手に入りそうならソルシエラに実装します。

『現場の人間はいっつもそうだよねぇ。開発の事なんて無視してすぐになんでも実装しようとする』

 刻印とか演出とか全部好きにしていいよ。

『現場と開発は、強固な信頼関係の元に成り立っているんだねぇ♥』

 よーし!
 行くぞ、星詠みの杖君!

 零時までに全てを知って、物知り顔で行動してやろう!
 コニエちゃんの頭を撫でてお姉さんムーブをしよう!

『ロリに負けるソルシエラ概念……!?』

 お前ほんといい加減にしろよ。

「ケイ君、どうしたの?」
「え、ああ、なんでもないよ」

 完璧な計画を脳内で立てながら、俺は今トアちゃんと一緒に朝食をとっている最中である。
 と言っても俺はまだ夜食の分でお腹いっぱいなので、トースト一枚だ。

 せっかくのジルニアス学術院の朝の学食なのだからもっと色々と堪能したかったが、ミステリアス美少女はご飯にがっついたりしない。
 というか、普通にもう食べれない。

 そんな俺はクールにコーヒーを飲んでいたが、そんな俺の向かいに座ったトアちゃんは普通に朝の定食を食べていた。
 良く胃に入るね。

「今日はお昼頃にはもうここを出発する? 用がないならだけど」

 幽霊騒ぎも終わったしね、とトアちゃんは味噌汁を飲む。
 用というか、ここからが本番というか。

「まだ、何かあるの?」

 どうしようかと俺がうんうん唸っていると、トアちゃんの方から聞いてきた。
 丁度いい、俺がここに残るという事を伝えておこう。
 
「俺はあと一泊していくよ。実は、朝に賢いヤンキー先輩に絡まれてね、武装の整備をしてもらっているんだ」
「賢いヤンキー???」

 トアちゃんは混乱しながらも納得した。いや、考えるのを止めたのかもしれない。

 整備は勿論嘘だが、まあこう言えば信じてくれるだろう。

「だから、俺はもう少しだけゆっくりしていくよ。元々、ジルニアス学術院との交渉が長引くことも想定して、日程は長く確保しているでしょ?」
「うん。そうだね。まだ余裕はある」

 なら大丈夫だ。
 後は、トアちゃんである。

「トアちゃんはどうする? フェクトム総合学園に先に戻って報告しててもいいよ」
「……あー、どうしよっかな」

 無理強いはしない。
 トアちゃんが帰るなら、事情は話さず俺一人で解決しよう。
 もしも残るなら、ミユメちゃんの事は話す。

 コニエちゃんはソルシエラではなく那滝ケイにお願いしてきたのだ。
 であれば、那滝ケイの交友関係で片付けるのは道理である。
 本当にフェクトム総合学園に連れて帰るなら、トアちゃんにも関係があることだしね。
 
「私も残ろうかな。まだ食べてないやつあるし」

 うーん、グルメで残るのかぁ。
 事情を話しづらいなぁ……。

 言うけどさ……。

「本当に残るんだね、トアちゃん」
「え、うん」
「そうか」

 俺はトアちゃんを見て、静かに告げた。

「ごめん、さっきの整備の話全部嘘」
「え」
「別の理由で残ろうと思ってたんだ」

 トアちゃんは、眼をぱちくりさせて首を傾げる。

「ヤンキー先輩は、嘘……?」
「いや、それは本当」
「?????」

 混乱するトアちゃんの前に並んだ皿が空なのを確認して、俺は席を立つ。
 そして、周囲には聞こえない声で言った。

「ここでは話せない。一緒に来てくれないかな」
「え、うん」

 俺はトアちゃんと一緒に人気のない場所へと向かった。






「――つまりミユメちゃんをフェクトム総合学園に迎え入れるってこと?」

 誰もいない中庭で、俺の話を聞いたトアちゃんは、そう話をまとめた。
 
「そうだよ。その為に今日の零時に合流する」
「事情が分からないんだよね……? それが嘘って可能性もあるんじゃないかな」

 トアちゃんは意外と冷静にそう言った。
 俺は肯定しながらも、首を横に振る。

「そうかもしれない。けれど、信じたいと思った。あの人……コニエ先輩は凄く真っすぐな目だったから。きっと、本当にミユメちゃんの事が心配なんだよ」
「ケイ君が行くなら……うん、わかった。私も行く」

 やはりと言うべきか、トアちゃんは付いてくるようだ。
 俺はトアちゃんをただ守るべき存在ではなく、頼もしい仲間として、美少女的先輩として認識している。
 だからこそ、ここで彼女の意思を否定して帰す理由はなかった。

「ありがとう。集合場所はさっき話した通り、第三校舎の屋上。誰にも気が付かれないように行動する必要がある」

 コニエちゃんに貰ったメモの内容を確認する。
 余談だが、コニエちゃんは意外と丸っこい文字だった。かわいい。

「わかった。大人数で動く訳にはいかないだろうし、ミロクちゃんには事情を説明してもしもの時のために待機だけしてもらうね」
「そうだね、ありがとう」

 ここで何も考えずにミズヒ先輩とかぶち込んだら何が起きるか分かったものじゃない。
 フェクトム総合学園の生徒会長であるミロク先輩も同じだ。
 強大な力と肩書きは余計な騒ぎを起こす引き金になりかねない。

 ここは、あくまで一年生の俺達だからこそ自由に動けるのである。
 
「それじゃあ、俺は時間まで色々と探ってくるよ。トアちゃんは念のためミユメちゃんの傍にいて守ってあげてくれないかな?」
「うん。でも、大丈夫? ケイ君一人って……」
「大丈夫だよ。けれど、もしも俺がその場に来なかったらその時はコニエ先輩に従ってくれ。コニエ先輩は見ればわかる。ツインテールの小さな子だ」

 俺の言葉に、トアちゃんは真面目に頷いた。
 よし、ならば行動開始だ!

「トアちゃん、それじゃあ始めよう。お互いに、怪我のないように」
「うん」

 トアちゃんはミユメちゃんがいるであろう本校舎へと向かっていった。
 ……それじゃあ俺も行こうかね。

 とりあえず、怪しそうな研究室片っぱしから開けてくぞ!
 
『データを全部頂こうねぇ^^』

 俺はトアちゃんとは正反対の方向へと歩き出す。
 中庭には相変わらず人の気配はない。
 
 だから、その声が聞こえて来るはずがなかった。

「朝から元気だね」

 背後、振りむいた先には黒い外套を羽織ったミステリアス美少女の姿。
 ベンチに座り、足を組んで空を見上げている彼女の姿はまるでその場所だけが切り取られているかのように浮いていた。

 朝にそんな外套だと周りから浮きますよ。

『どの口が言っているんだ君』

 だから俺は基本は夜なんだろうが。それか屋内。

「お前は――ネームレスだったか、ミズヒ先輩が戦ったとかいう」

 俺はあくまで那滝ケイとしてそう言った。
 すると、ネームレスはおかしそうに肩を揺らして笑う。

 くつくつと笑って、次の瞬間にはこちらを見ることもせずに魔法陣を展開した。
 見覚えのある収束砲撃の即席陣である。

「ッ!?」

 回避は不可能。
 取れる手段は防御しかない。

 引き上げられた動体視力が、思考時間を拡張する。
 障壁を展開した俺の脳内では、疑問が生じていた。

 そもそも、なぜネームレスは俺に不意打ちしたのか。
 収束砲撃というソルシエラと同じ攻撃を、わざと防御の選択肢を取ることが可能な状況で。
 俺を殺すなら、話しかける前に撃てばいい。

 そうしなかったという事はこれは挑発に他ならない。
 彼女は、俺が攻撃を防げると知ったうえで砲撃を放ったのだ。

「いやぁ、アレを防ぐか……やっぱりすごいね、ソルシエラは」

 障壁を張って攻撃を防いだ俺を見て、ネームレスはハッキリとその名を口にした。
 やっぱり、この人正体知ってるんだけど……!?

「気持ち悪いわね。ストーカーに名前を変えたらどうかしら」

 俺は姿は変えず、しかしソルシエラとして返す。

「そんなに睨まないでよ。ほら、いつもの姿にならないの? 私、那滝ケイも好きだけど、ソルシエラの方が好みなんだよね。なかせるならそっちの姿じゃなきゃ」
「貴女の趣味に付き合う暇はないのよ」
「つれないなぁ。……じゃ、本題といこう。この悲劇の舞台の幕を下ろすために、力を貸してほしいんだ」

 軽薄に、そして道化師のような大げさな物言い。
 ベンチに座ったまま、ネームレスはフードの奥で笑ったようだった。

「一緒に、空無カノンを殺さない?」

 そう言う彼女の魂は、爛々と輝いていた。
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