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三章 閃きジーニアス

第94話 行動デターミネーション

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 これをほのぼのスピンオフと断定したのだは誰だ!!!!!

 俺だったわ。
 マジごめん……。

「おい、お前名前は」
「……那滝ケイです」
「あ? 那滝だぁ? ってことは那滝家の関係者か」
「一応は」

 言えない。
 本家から縁を切られた三男だなんて。

「アタシは三辰《みたつ》コニエってんだ。コニエ先輩って呼べ」
「あ、はい」
「それにしても那滝家ねぇ。……おう、そこのベンチ座れや」
「はい……」
 
 コニエちゃんは俺をベンチに座らせると、自分もどっかりと座って俺の顔をジロジロと見つめている。
 あの……近いです。メンチきってるわけじゃないですよね?

「学年」
「一年です」
「どの学園所属だ」
「フェクトム総合学園です」
「そうか。フェクトムって言えば、最近デモンズギアを拾ったとか、Sランクに認定された奴がいるとか、話題に事欠かなねえ所だな?」

 肩に腕を回して、コニエちゃんは無理矢理俺を引き寄せる。

「騎双学園にも喧嘩売るような根性がある学園だってのはアタシも知ってる。……よぉし」

 コニエちゃんは獰猛な笑みを浮かべている。
 あ、既視感があると思ったけど、これ六波羅さんタイプだわ。

「……うん、ぎりぎり合格だ」
「え?」
「さっきは悪かったな。返答次第ではぶっ殺そうと思ったけど、うん。名家の生まれで学園は今はまだカスだが、これからだ。それに面も良い」

 俺の事を採点しながら、コニエちゃんは頷く。
 なんか、娘の彼氏を見る父親みたいだぁ。

「ミユメをここに連れ戻さなければ完璧だったよ、お前。ミユメがいなければアタシも気兼ねなく戦争できると思ったんだけどなぁ」
「あの……ミユメちゃんとどういう関係なんですか」
「お前、ミユメは優秀だと思うか?」

 質問に答えてよぉ……。

「はい。実際、俺の先輩のダイブギアを作ってくれる事になっています。ダイブギアの整備も素人目に見ても手際が良い。有体に言えば、天才でしょうか」

 俺の言葉に、コニエちゃんは満足げに頷く。

「だな、アイツは天才だ。どの学園に言っても、最前線で活躍できるし重宝されるだろう」
「あの……それでミユメちゃんに一体何が……」
「じゃあ、アイツの性格はどうだ。一緒にいて胸糞悪くなるか?」

 質問……俺の質問……。

「いいえ。俺はまだ会って数日ですが、とても良い子だと思います。誰にでも分け隔てなく、そして元気がある。見ていると、こっちまで元気を貰えますよ」
「そうだよなぁ」

 陽は既にジルニアス学術院の自治区を余すことなく照らし出している。
 ジルニアス学術院の生徒たちの朝は早いのか、辺りからは既に人々の動き出した音や気配が感じられた。

 この辺りも、間もなく生徒たちの往来が激しくなるだろう。

「アイツは賢い。頼まれれば大抵のものは作れるし、それを鼻にかけるようなクソッタレでもねえ。一年生だから、これからの伸びしろもあるだろう。他の学園からすれば、願ってもねえ人材だ」

 コニエちゃんの言葉に、俺は彼女が何を言いたいのかを理解した。
 
「……フェクトム総合学園にミユメちゃんを入れろと?」
「悪くねえ話だろ」
「理由がわかりません」
「堅苦しい奴だなぁ。宝くじに当たったとでも思っとけよ」

 呆れたようにそう言って、しかしコニエちゃんは次の瞬間には頭を下げていた。
 突然の事に一瞬何が起きたかわからなかったが、俺は慌てて頭を上げる様に頼む。

「ちょっと、やめてくださいよ!」
「頼む」

 コニエちゃんは頭を上げない。

「アイツを、フェクトム総合学園に連れて行ってくれ」
「理由は話してくれないんですか」
「ミユメの周りには同情や哀れみじゃなくて、対等な関係の友達がいてほしいんだ。アタシのエゴだが、どうか通させてくれ。アンタらが被害を被る様な事はこのアタシが命にかえてもさせねえ」

 この人、任侠に生きてる?
 美少女なのに、生き方が一本筋通し過ぎているというか。

「アイツを、ただ一人の空無ミユメとして見てくれないか?」

 本気の声だった。
 力強く、しかし俺に縋っているようにも聞こえた。

 その姿を見て、俺は悟る。

「貴女が、ミユメちゃんとパーティーを組んでいた人なんですね」
「……ああ、そうだ。私が追放した」

 そうする必要があった、とコニエちゃんは付け足した。

 何か事情があるのだろうが、いくつもわからないことがある。
 悪意を感じない分、余計に素直に頷くことができなかった。

「どうして、ダンジョンに置いていったんですか。下手をすれば死ぬ可能性だってあった」

 ミユメちゃんを逃がすという言葉の割とその行動には矛盾が生じている気がする。
 が、俺の言葉を聞いてコニエちゃんは頭を上げると「そんな事か」と言った。

「ミユメには、自分のピンチに起動するシステムが埋め込まれてる」

 コニエちゃんは頭をトントンと叩きながら言葉を続ける。

「人工的に作られた生存本能って言った方がいいか。別にロボットってわけじゃねえもんな。だから、仮にダンジョンで誰かに助けられなくても、アイツが自力で脱出するのは時間の問題だった。そこから何処に拾われるかは賭けだったがな」

 コニエちゃんの言葉が本当だとすると、ミユメちゃんは非戦闘員ではなく戦える存在であるらしい。
 ん? ネームレスの時普通によわよわじゃ無かった?

「あ? どうした」
「その……生存本能が働くと強くなるんですよね。どういった風に……?」

 言いたくないのだろうか、コニエちゃんは暫く考えてパッと目を開けた。

「なんか、カッコよくなる。これは強ぇぞ! ってわかる感じに」
「えぇ……」

『細かい情報を与えないという事は、これも本当は彼女からして見れば言いたくない事なんだろうねぇ』

 コニエちゃんは今、情報を最低限開示した状態で俺から信頼されようとしている。
 ゴールはミユメちゃんをフェクトム総合学園に入れる事だろう。

 美少女が入るのは歓迎だが、ミユメちゃん周りで何か悲劇があるのなら排除しておきたい。

「ミユメちゃんをフェクトム総合学園に入れるのは構いませんよ。うちの先輩二人も、結構気に入っているというか、結構露骨に勧誘していましたから」
「本当か? ありがとう、恩に着る」
「けれど、ミユメちゃんの事は話してください」
「……それは」
「コニエ先輩!」

 俺は彼女の性格に倣って真っすぐに見つめる。
 伝われ、俺の美少女愛!

「フェクトム総合学園はどんなミユメちゃんでも受け入れます。同情も、哀れみもしない。対等な仲間として」

 嘘のないストレートな言葉が通じたのか、コニエちゃんは背筋を伸ばして俺を見つめ返してきた。
 
「……本当か」
「はい。仲間を助けるために騎双学園に喧嘩売る様な学園ですよ?」

 ミステリアス美少女なめんな。
 それとこっちにはミズヒ先輩いるんだぞ!!!!

「そうか。……そうだな、わかった」

 コニエちゃんは、覚悟を決めた様子で頷くと俺に一枚の紙を握らせてきた。
 それから、俺にしか聞こえない小さな声で言う。

「その紙にある場所に、今日の零時丁度に来い。お前の連れと、ミユメも一緒に」
「はい。……けど、なんで紙を?」
「データだと、カノンに見られる可能性がある。時間的にも、ここで事情を話すことは出来ねえ。人混みの中に博士が混じる可能性が高い。次会った時、纏めて話す」

 早口でそう捲し立てると、コニエちゃんは立ち上がった。
 それから、俺を一瞥することもなく人が多くなってきた大通りへと消えていった。

 コニエちゃん……。
 次に会った時事情を話すとか、夜の待ち合わせとか。
 もう自殺行為だよその行動。
 死亡フラグじゃん……。

『追うかい?』

 いや、彼女の言葉が本当なら人の多い場所は危ない。
 コニエちゃんを信じよう。

「……気合、入れ直すか」

 絶対に良くない事が起きている。
 ミユメちゃん周りで、相当規模の大きい悲劇が。

 星詠みの杖君、気分を切り換えるぞ。
 これはもうミステリアス美少女で博士に一泡とか言っていられなくなったわ。

『そうだねぇ。それに、ミユメを助けるならいずれにせよカノンをどうにかする事にかわりはないようだ』

 ほのぼのスピンオフの気分はここまでだ。
 というか、鏡界のルトラで死人がいっぱい出るのにスピンオフだけほのぼのな訳がなかったわ。

「行こう、情報収集だ」

 まだよくわからんが、美少女を助けるために頑張るぞ!
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