かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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三章 閃きジーニアス

第93話 早朝エンカウント

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 朝、まだ学生が目覚めるには早い時間帯から、俺は既に校舎をうろついていた。
 今回は普通に那滝ケイとしての散歩である。

 ジルニアス学術院を見れる機会が訪れるとは思わなかったので、今のうちに堪能しておこうと思ったのだ。

 というわけで、一睡もしていないミステリアス美少女です!
 ずっとカノンちゃん警戒で起きていました、おはようございます!

『元気だねぇ』

 二回も美少女とご飯食べたからね。
 トアちゃんとミユメちゃんがどっちもメッチャ食うから、見ているだけでお腹いっぱいだったよ。
 特にトアちゃん。
 あの……貴女は二度目でしたよね……?

「――あ、ケイ。おはようございます!」

 朝日がまだビルの向こうに見える早朝。
 白んできた空を眺めていると、元気な声が聞こえてきた。

 声のした方を見れば、ミユメちゃんが手を振りながらこちらに駆けてきている。
 夜食を共にして、実に四時間ぶりの再会だがミユメちゃんは俺を見つけて随分と嬉しそうだった。

「おはよう、ミユメちゃん」
「ケイは朝が早いっすね」
「初めて来た場所で、どうにも落ち着けなくて」

 俺は自販機でコーヒーを二本買い、その一本をミユメちゃんに渡す。
 ミユメちゃんは素直に礼を言って受け取ってくれた。
 
 美少女と早朝にコーヒー……俺は生を実感している。
 その内、真夜中のお茶会の実績も解除したいな。

『その為にも早く、君の部屋の一部をミステリアス美少女風にしないとねぇ』

 真夜中に気まぐれで美少女を呼んで、めっちゃ美味しい紅茶を振舞うミステリアス美少女……。
 すげえ良い……自分に惚れそう。

「どうっすか、ジルニアス学術院は。良い所でしょ?」

 ミユメちゃんは、そう言って笑った。
 その笑顔はどこか得意げで、無邪気だ。

「……ああ、強盗も戦争もない。朝に聞こえるのが風と鳥のさえずりだなんて、俺には贅沢すぎるかな」
「一体どんな場所にいたんすか今まで」
「少し前まで騎双学園でごたごたがあってさ」

 騎双学園と聞いて、ミユメちゃんは「あー」と納得した様子だ。

「あんな場所と比べたらそりゃそうなりますよ。ははは……大変っすよね、騎双学園って」
「そうだね」

 言えない。
 この学園も魔眼とか、イカれた博士とか色々と厄ネタがあるという事を。
 そんでもって、ミユメちゃんのお姉ちゃんが元凶であるという事も。

 もしかして、ミユメちゃんのスピンオフって、ゆるふわ日常四コマじゃない……?
 絵柄を緩くして、中身がエグイタイプの作品……?
 
「私、パーティーから追放されて……この学院が嫌いになったかもって不安だったっす。この場所は、私の人生の全てだから」

 本土での事は不思議と殆ど覚えていないから、とミユメちゃんはそう付け足した。

「だから、この学院が嫌いになったら私は今までの思い出全てが嫌な出来事になってしまう。そう思ってた」
「でも、違ったんだね」

 ミユメちゃんは頷く。
 その顔は、やはり笑顔だった。

「私、この学院が大好きっす。お姉ちゃんもルカさんも、皆。私をパーティーから追放した子たちも、何だかんだ嫌いにはなれないっすね」

 そこまで言って、ミユメちゃんは恥ずかしさを誤魔化すように缶コーヒーを飲み干した。
 その顔が赤いのは、日が昇り始めたせいという事にしておこう。

「ありがとうございます。ダンジョンで助けてくれて。一緒に、この学院に来てくれて。あのまま死んでいたら、私はジルニアス学術院を嫌いになってしまう所でした」

 空になった缶コーヒーを見下ろしながら、ミユメちゃんは俺にだけ聞こえる静かな声でそう言った。
 
「俺の方こそ、ありがとう。こうしてジルニアス学術院に来ることができて良かった」

 まだ見ぬ美少女達と出会わせてくれて、ありがとう。
 俺の方が感謝の念はデカいと思う。

「後で、トアちゃんにもお礼を言わないとっすね」

 そう言って、ミユメちゃんは立ち上がる。
 彼女は、綺麗なフォームで缶を投げると音一つ立てずにゴミ箱の中へといれた。

「ゴミ箱の淵にすら当たらない完璧な放物線。凄くないっすか?」

 その顔は、完全なドヤ顔であり挑発的だ。
 ふむ、面白い。その挑戦受けてたとう。

 俺もコーヒーを一気飲みして、缶を空にする。
 そして、立ち上がりゴミ箱に狙いを定めた。

 星詠みの杖君! 行くぞ!

『君、プライドとかないの?』

 ここでスッと入れたほうがカッコいいだろうが。
 
『そうは言ってもねえ、私にどうしろってんだ』

 なんか、上手く物を投げる魔法式とかないの?

『ある訳ないだろ魔法舐めんな』

 普通に怒られてしまった。
 じゃあいいよ俺の力だけで成し遂げるから。

『私が体を使えたらいいんだけれどねぇ』

 その時はもう乗っ取られてるけどな!
 
 よぉし、俺の那滝ケイとしての底力を見せてやるぜ!

「――っ」

 俺は缶をゴミ箱に投擲する。
 風を読み、距離を計算した上で描かれる完璧な放物線は、そのままゴミ箱へと向かっていき――通り過ぎた。

「あっ」
「あははっ、私の勝ちっすね!」
「これも天才がなせる技だとでも言うのか……!」
「ここの出来が違うっすから」

 わざとらしく悔しがる俺に、ミユメちゃんは自分の頭をトントンと小突いて見せる。
 それから、どちらからという事もなく同時に吹き出した。

 この距離感の美少女今までいなかったかもしれん!
 今、めっちゃ楽しいわ!

 ソル×ミユありじゃんね!

『すぐ掛け算に持っていくの悪い癖だよ』

 どの口が言ってんだよマジで。
 
「それじゃ、コーヒーありがとうございました!」

 何処かへ向かう途中だったのだろう。
 ミユメちゃんは駆け足で、本校舎へと向かって行った。
 忙しいねぇ。

「ああ、またね」

 ゴミ箱へと向かっていきながら俺は手をひらひらと振る。
 いやぁ、朝から美少女に会えたから今日はいい事が待っていそうだぜ!

『博士に対して何か策を講じなければいけない事を忘れていないかい?』

 忘れるかよ。
 ミステリアス美少女に二度の敗北は許されないぞ。

 勝つための策を、あるいは新たな力を手に入れなければならない。
 リベンジマッチは近いと俺の勘が囁いているぜ!

『……ふむ、では一つ私から提案なのだが――』

 星詠みの杖君が何かを言おうとしたその時だった。
 缶を拾うために屈んだ俺の前に影が差す。

 この影……美少女のシルエットだな。

『なに言ってんだコイツ』

 影の方を見上げればそこには、ちっこい生徒が立っていた。
 ほら美少女だ。
 
 オレンジ髪ツインテロリ娘だ。

『本当だ。かわいいねぇ^^』

 ジルニアス学術院に来てから美少女にしか会ってないな!
 もしかしてここって美少女しか入れない場所なのか!?
 美少女以外に一人も会ってないぞ!

『ダンジョン攻略スキップ部』

 ……知らない人たちですね会ったことも聞いたこともないです。

 それよか今は目の前の美少女である。
 うんうん、可愛いねぇ。

「おい」

 俺は缶を模範となれるようにゴミ箱へとしっかり捨ててから、笑顔を向けた。

「おはよう。お兄さんになにか用かな?」
「18だ」
「え」
「私は18歳だ」

 腕を組んで、俺を見上げて睨みつけるロリ娘は慣れた様子で言った。
 俺はすぐに頭を下げる。
 
「すみませんでした! 先輩ッ!」
「え、ああ、いや別にそこまで怒ってねえから」

 ぶっきらぼうに言うロリ娘先輩。
 しかし、先輩であり美少女でもあるなら俺は平伏するのみである。

「……チッ、まだ下心ありでアイツに近づいてたって方がやりやすいな」

 ロリ娘先輩は、そう言うと俺の方へとさらに近づいてさらに睨みつけてきた。
 俺はその迫力に思わず息を呑む。

 心の底から怒っている事がわかった。
 この人は、他の誰でもない俺に対して相当怒っている。

「てめえ、何処のどいつか知らねえけどさ」

 襟元を掴まれて、無理矢理屈んだ姿勢を取らせされる。
 怒りに満ちた目で真っ直ぐに俺を見つめたまま、発言すら許さずに彼女はこう言った。

「なんでアイツをこの学院に連れ戻しやがった」
「え?」

 何か一つでも間違えば、このまま俺を殺すのではないかという激情が感じ取れる声色。
 俺は突然の事に呆気にとられるばかりだ。

「アタシたちが、どんだけ苦労してアイツを……ミユメを逃がしたと思ってんだ……!」

 ジルニアス学術院、二日目。
 昇る朝日と共に、俺は何かに完全に巻き込まれたことを察した。
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