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三章 閃きジーニアス

第88話 遭遇インパクト

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 食べてすぐに寝ると太る。
 ミステリアス美少女は太ってはいけないので、俺が夜中の散歩に出るのは当然の事だった。

 幽霊騒動を解決した俺達は、カノンちゃんからご飯を奢ってもらった後、用意してもらった部屋で眠る事になった。

 勿論、俺とトアちゃんの部屋は違う。
 俺がミステリアス美少女なら、月明かりの差し込む部屋でトアちゃんの顎をクイッとして上げてもいいのだが、生憎とこの体はまだ業を背負っている。

 トアちゃんは早々に眠ってしまったようだし、カノンちゃんはカノンちゃんでレポートを書くと言ってラボに籠ってしまった。

 つまり、完全に自由な時間となったわけである。
 
「時は来た……」

 俺は今、ジルニアス学術院第二校舎の一番高い所にいた。
 風に揺れる銀の髪、そして黒い衣装。

 そう、今の俺はソルシエラである。

 こうして、別の学校の敷地内でキチンとミステリアス美少女をするのは初めてではないだろうか。
 いつも邪魔が入ったり、そもそもソルシエラとしてカチコミしかけたりと、純粋に趣味に没頭できていない。

 今日は、存分に楽しませてもらうとしよう。

『スーパーミステリアス美少女は感知される可能性が高い。今回は、普通のミステリアス美少女タイムで頼むよ』

 任せろ。
 久しぶりに、俺の女装力が試される時だ。

 俺は髪をふぁさっ……とやってジルニアス学術院を見下ろす。
 
「ついに、奴らが動き出したのね……」

 かっこいい……!
 ミステリアス美少女してるよぉ!

 この意味深な感じ、やっぱりミステリアス美少女はこうでなくちゃ!
 ネームレスとかいう同業者には負けてられないよな!

『今日はどういうプランなんだい?』

 ふふふ、今日はねせっかくこんな場所にいるんだから、秘密の研究を探りに来たミステリアス美少女するわよ。
 適当な資料をみて「やはり、そういう事なのね」とか言っちゃうわよ!

『成程、がっつり不法侵入だね』

 ミステリアス美少女が許可得て部屋に入る方が不自然だろうが。

 真夜中の実験室で、資料を片手に大きな水槽を眺めるソルシエラ。
 単騎で潜入し、秘密を探る暗部の人間としての美しさがあるわよ!
 というわけで、行くぞォ!

 俺は、わざと背から落下する。
 そして華麗に空中で身を翻し、音もなく着地した。
 ちょっと怖かった……。

『ここは中庭のようだね。まだ下があるがどうだい』

 何処に落下したかわからなかったが、ここは校舎の三階にある中庭のようだ。
 管理がよくなされた芝生にベンチと、昼間は美少女達の憩いの場所なのだろうが、今は俺一人。

 ベンチの端をそっと指先でなぞり、俺は腰を下ろす。
 ……うーん、やっぱりミステリアス美少女が座るならこっちじゃないな。

 古ぼけた洋風の椅子とかが似合う。

『服装も近未来という訳じゃないからねぇ。こういう場所では浮くだろうが、だからこその異物感がよりソルシエラという存在を映えさせてくれるねぇ』

 わかってるねぇ。
 という訳で、さっさと中に入りましょ。
 オッケー、星詠みの杖。鍵を開けて。

『すみません、よく聞き取れませんでした』

 頭の中なのに聞き取れるとかないだろ。

 俺は中庭から校舎へと続く扉に手をかざす。
 一秒ほどで、ロックが解除されて扉が開いた。

 さて、さっきのイカれた部活みたいに真夜中行動している奴に遭遇するかもしれないから気をつけていこう。

『忍びの心だねぇ』

 本校舎じゃなくて第二校舎なのは、少しでも身バレのリスクを抑えたためである。
 トアちゃんやカノンちゃんがいる本校舎でわざわざミステリアス美少女タイムをしてバレては意味がない。
 あと、ルカちゃん。
 あの子に見つかったら逃げられない気がする。

「……っ」

 俺は、明かりの灯った教室を見つけて、身を隠す。
 徹夜も平気でするというジルニアス学術院の連中は、今の時間帯でも校舎に残っているようだ。

 意味深ワードをまき散らしたいので、こういう近くに人がいて喋れない場所は駄目だね。
 なるべく人がいない薄暗い場所に行こう。

 よーし、星詠みの杖君、どんどん進もうか!

『邁進わよ』

 俺はクールに美しく歩く。

 大鎌はしまい込み、窓際を一人儚げに。
 誰かがこの姿を見てしまった時に、心を奪われるように。

 それが美少女なら、全力でミステリアス美少女優位百合に持ち込み、そうでないなら性癖を歪める。
 今の俺は、思春期の少年少女に対する性癖デストロイヤー。

 近づく奴は、モブキャラ原作キャラ関係なく歪めるわよー^^

『モブ女生徒×ソルシエラ本ください』

 なんでモブ生徒にも負けてんだよ。
 あと、俺は本は描いてねえよ。

『……ふむ、なら描いてみるのはどうだろうか。君のファンは公式からソルシエラの供給がされずに飢えている。何か与えてやるのも君の努めではないかな』

 それは一理あるな。
 ソルシエラ名義でやるのは馬鹿みてえだから、匿名でソルシエラに関する何かを作ってもいいかもしれない。

『ちなみに君は画力のほどはどうなんだい?』

 美少女なら上手く書けるわよ。
 それ以外は無理わよ。

『ふむ、ならばそれ以外は私が描こう。デジタルが主流の時代でよかったねぇ』

 星詠みの杖君がいるなら俺のソルシエラ本も現実になるね。
 そうなると、ヒノツチ文化大祭とかがいいだろうか。
 フェクトム総合学園の売り上げにもなっていいかもね。

 他にも何か作りたいなぁ。

『一つ、提案がある』

 聞こう、同志よ。

『ミユメが言っていたのだが、どうやら彼女はダミーヘッドマイクを作れるようだ。それも、高性能なやつ。どうだろうか、これで一つソルシエラASMRというのは』

 ASMR……そういうのもあるのか……!

『勿論、ソルシエラの雰囲気を真似たという体で行う。タイトルはそうだな……~ミステリアスな少女に優しく耳を虐められるASMR~とかどうだろうか。絶妙にパチモン臭をだしていこう』

 具体的だな。
 ……君、また勝手にネットサーフィンしただろ。

『購入後にレビューを書くとポイントが貰えるんだよねぇ』

 買ってんじゃねえよ! それ俺の金じゃねえか! 
 え、じゃあ俺はASMRを買ったことになってるの?
 バレたら恥ずかしいんだけど。

『何を恥ずかしがることがある。R-18は買っていないから胸を張りたまえ。というか、もしもバレてもそこからフェクトム総合学園の彼女らがやってくれる展開があるかもしれないだろう?』

 だーめだこの子。そういうの聞きすぎてあり得ないこと言い始めた。
 いいかい、星詠みの杖君。
 あれは滅多に現実には起きないんだよ。

 もしも起きても、俺がギルティになるだけだよ。

『そんな罪、背負ってやるさ』

 覚悟凄いな。
 まあ、確かに背負うだけの価値はあるけども。

『と、いうわけでASMRとソルシエラ本を出したいねぇ。ASMRを最初にネットで販売して、知名度を上げてからヒノツチ文化大祭でASMRと内容がリンクしている本を出そう』

 いやに堅実だね……。

『モブ女×ソルシエラは今回は諦めよう。まずは、君のファンの需要を満たすためにソルシエラ優位でいこう。それから徐々に捻じ曲げていこうねぇ』

 絶対許さないからな。
 俺は、ソルシエラとしてミステリアスにクールに立ちまわるんだよ。
 仲間になった瞬間にチョロくなるようなヒロインと一緒にされても困る。

 ほら、今の俺をご覧よ。
 こうして暗がりで一人、物憂げにあるく姿。
 ミステリアスでクールだろ。

「……やはり、あの計画が」

 意味深に呟いて、俺は適当な部屋の扉に手を掛ける。
 ん、開かねえな。

 星詠みの杖君!

『任せたまえよ』

 星詠みの杖君を前に電子ロックは無意味である。
 まあ、物理的ロックなら俺が破壊するが。
 つまり、俺達を前に隠し通せるものなど無いわけだ。

「……ここは」

 俺は中へと入って、呟く。
 緑色の液体で満たされた巨大な水槽が目の前にあった。

 たぶん生徒の研究のやつだろうけど、夜中に見ると凄くヤバイ研究感があって良いね。

 よっし、じゃあこれを見ながら適当に呟こうぜ!
 
「これは禁忌である筈……。人って本当に愚かね」

 壁際のテーブルに投げ捨てられるように置かれていたファイルを手に取り、広げる。

 これだけでもカッコいいねぇ。
 ちなみになんの研究なんだろうか。

 俺はファイルに綴じられた研究資料と思しきそれを見た。



【聖遺物番号:××××
 
 特異指定収容プロトコル:魔眼及び、■■■■■の特別な収容は必要ありません。しかしながら、摂取する情報、そして情報媒体は博士によって管理する必要があります。
 また、魔眼を用いた能動的実験は博士により禁止されています】
 

「魔眼……やはりそういう事なのね」

『おや、何か知っているのかな?』

 いや別に?
 なんかカッコいいなって思ったから。

 それにしても魔眼かぁ……!
 俺も欲しいね魔眼。

 星詠みの杖君ってそういう機能はないの?

『目を光らせるだけなら出来るねぇ。あと、目の中にちっさい魔法陣を展開したりとか』

 魔眼っぽいねえ!
 うわー、今から魔眼持ちって事にしてもいいかな。

 魔眼持ってるミステリアス美少女っていいよね。

『片目だけに宿すタイプが好みだねぇ』

 わかってるじゃないの。
 
 ミステリアス美少女は、常に相手の上をいかなければならない。ビビらせる要素は沢山持っておくべきだ。

 ちなみに今も展開できるの、その魔眼っぽいやつ。

『勿論だ。魔法式によって周囲の魔力を収束して発光するから魔力の消費もない優れモノだねぇ』

 なら俺今からカッコよく決めるからさ、魔眼出してよ。

『任せたまえよ』

 俺はファイルを片手でパタンと閉じて、息を吐く。
 まるで、研究がくだらないとでも言いたげな様子のまま水槽へと歩いていき、そしてガラスにそっと手を這わせた。

『今、頑張って展開してます』

 ありがとう。でも、実感ねえや。
 これ、見れないんだね、俺は。

「魔眼なんて、人類には過ぎたものでしょうに。……ねえ、アナタもそうは思わない?」

 はい、ここで髪をふぁさってしながら首だけで振り返る!
 これが禁忌とされる魔眼を識る者のムーブですよ。

「あはは、やっぱり気付いていたんだねー」
「……!?!?」

 暗闇から、声が聞こえる。
 俺はミステリアス美少女なので悲鳴は出さなかった。えらい。

 え、幽霊?
 マジ幽霊!?

 星詠みの杖君、幽霊って収束砲撃で倒せる感じ?

『辺り一帯を丸ごと消し飛ばせばいけるんじゃないかい?』

 んな適当な。

「それにしても驚いたよ。うん、まさか魔眼が二つもあったとは」

 目の前の暗闇が、蠢きだす。
 舞うように翻り、飛翔し、羽ばたくそれは真っ黒な蝶の群れであった。

「こんばんは、ソルシエラ……いや」

 蝶の中心から、一人の少女が現れる。

「――那滝ケイって呼んだ方が良いかな」

 その姿に、俺は見覚えがあった。
 空無ミユメの姉であり、自称大天才――空無カノン。

 この場にいるはずのない彼女は、俺を見て笑っていた。

 え? なんで?

 
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