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三章 閃きジーニアス
第81話 宵闇ミラーマッチ
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「ど、どういう状況なんすかこれ……」
空無ミユメは困惑していた。
ミズヒの為にSランクのダイブギアを作っていた彼女だったが突如として現れた二人によって何かに巻き込まれたのだ。
(片方は知ってるっす。ルカさんが言ってたソルシエラ。それでもう片方は……)
生徒会室。決して広くはないこの場所は戦いに適さない。
その為か、ソルシエラは転移魔法を即座に起動した。
生徒会室全体を覆う巨大な魔法陣により、その場にいた三人全員が転移する。
「うん、訓練場か。また壊していいの?」
「……のぞき見が趣味なのね。気持ち悪い」
「え、え? なんで私まで巻き込まれてんすかー!」
訓練場の少し離れた場所に転移したミユメに対して、二人が同時に魔力障壁を展開する。
それは、互いに食いあうようにしてより強固な障壁へと変化した。
その様子を見て、ミユメは無意識に思考を被害者から傍観者へと変化させる。
(これは……もしかして私の閃きの元になるんじゃないっすかねー!)
存外、神経が太い彼女だった。
「勝ったほうが、あの子を貰えるってことでいいの?」
「そうね。貴女が勝てるのなら、だけど」
仮面の少女は、その言葉を聞いて肩をすくめる。
戦場であるというのに気の抜けた振る舞いに、対してソルシエラは妖艶な笑みを浮かべて大鎌を構えた。
「「――ッ」」
駆け出したのは同時。
しかし、攻撃を仕掛けたのはソルシエラであった。
「遅いわね。退屈なステップで欠伸が出ちゃう」
たん、と軽快な足音と共にソルシエラは仮面の少女に肉薄すると大鎌を振り下ろす。
魔力を込めた鋭利な一撃。
仮面の少女は、それを左腕に展開した魔力障壁を盾のように使い受け流す。
地面に大鎌が突き刺さると同時に、仮面の少女の蹴撃がソルシエラへと迫る。
「野蛮ね」
「ははっ、押しが強い方が好きな癖に」
ソルシエラは意趣返しのように、障壁を展開して受け流した。
それから間髪入れずに、下方に砲撃の魔法陣を展開。
パチンと、指がなった瞬間に仮面の少女へと魔力砲撃が放たれた。
「わあ、危ない危ない」
体を逸らして、仮面の少女が避ける。
そして次に前を見た時には既にソルシエラの姿はなかった。
「ん? ……おおっと、これは」
四方から現れた銀の鎖が仮面の少女の手足を拘束する。
仮面の少女は力を込めるが、鎖はびくともしない。
「もう終わり? 私はもっと楽しみたいんだけど。ねえ、ソルシエラ」
仮面の少女が見上げる先には銀色の星が輝いている。
砂煙すらも魔力へと変換する特殊な魔法式からなる比類なき収束砲撃。
その気になれば辺り一帯を消滅させることが可能なそれを、限定的に展開して狙いを仮面の少女一人に定めていた。
銃口を向けながら、ソルシエラは微笑む。
「生憎と、先約がいるのよ。今度は私から誘ってあげるから、名前を聞かせてもらっても良いかしら」
「あらら、振られちゃった。そうだね、私の名前……うーん、ネームレスかな」
「ふざけているの?」
「まさか。本気だよ」
「つまらない冗談ね」
引金が引かれる。
高密度の魔力砲撃は、ネームレスへと直撃すると激しい砂煙を辺りに巻き起こした。
(す、すごい。互角かと思ったけれど、勝っちゃったっす。これがソルシエラ……)
ミユメの前で行われた戦闘は、ジルニアス学術院の生徒からすれば値千金であった。
実際に起動している魔法式と、その運用方法。
すぐに拡張領域からメモを取り出したミユメは、今起きたことを詳細に記録し始める。
「こ、これはルカさんも喜ぶっすよー」
「――へえ良かったね。あ、私の魔法はいいの?」
「え?」
魔力障壁の中、背後にネームレスがいた。
仮面をしていなければ息がかかっていたであろう距離で、ネームレスはおかしそうに笑う。
「びっくりした? 私も使えるんだよね、転移魔法」
「なっ」
叫び声を上げようとしたミユメの頭を、ネームレスが右腕で掴み上げる。
「今回の目的はミユメちゃんだからさ。まあ、さくっと目標達成だよね」
「何を……がぁっ!?」
バチリと、脳がスパークするような感覚。
その瞬間に、奥底に封じられていた筈の記憶が蘇った。
「お前……! ネームレスか!」
「ずっとそう言ってるじゃん。おかしい事言うね。会うのは二度目、元気してたかな?」
脳に、何かが刷り込まれていく感覚。
ミユメには覚えがあった。
(思い出した……! 私は、自分で発明品を思いついたんじゃない。こいつに設計図を打ち込まれていたんだ!)
ミユメは自身の事をそこそこの秀才だと思っている。
事実、設計図さえあればその通りに作ってしまえるだろう。
が、それはあくまで設計図があるからだった。
自分から思いついた物ではない。
そうなるようにと、閃きの元を与えられていたのである。
「うーん、今回はもう少しあげようかな。大丈夫大丈夫、遅いか早いかの違いしかないから。他にはえーっと」
情報が脳の中へと流し込まれていく。
ネームレスが明るい調子でさらに情報を流し込もうとしたその時だった。
「私を欺こうとするなんて、ふふっ、面白いわ……貴女」
魔力障壁が力づくで破られた。
二人分の強固な障壁を裂いて、ソルシエラが飛び込んでくる。
その大鎌は、今までよりも鋭い一撃となってネームレスへと迫った。
「ああ、時間切れか」
ネームレスはジャンプをして、その一撃を避ける。
そして、初めてソルシエラへ向けて魔法陣を展開した。
「今はまだ貴女には勝てないからさー、気に障ったらごめんね?」
「気が変わったわ。私ともっと躍りましょう?」
「あー、怖い怖い。やっぱり君が敵に回ると厄介だ」
ネームレスの魔法陣から、砲撃が放たれる。
(あれは……ソルシエラと同じ?)
ミユメは、それがソルシエラが放ったものと魔法式が全く同じであると看破した。
星の輝きを飲み込むような黒い光が、ソルシエラへと迫る。
「くだらない猿真似ね」
ソルシエラはそれを片手で防ぐと、大鎌の銃口を再びネームレスへと向けた。
「へぇ、じゃあ最後に撃ち合いでもしようか」
ネームレスが魔法陣を展開し、その中へと手を入れる。
そして何かを取り出そうとして、気が付いたように手を止めた。
「……やめた。どうやら気が付かれたみたいだし」
ネームレスはそう言うと同時に、さらに高く飛翔する。
そのすぐ後、彼女のいた場所を焔が通り抜けた。
「流石にこれだけ騒いだら来るか」
「……照上ミズヒ」
暗闇に、焔が灯される。
まるで意思をもったかのような不定形の焔は、主の周囲を蛇のようにうねり旋回していた。
「――またソルシエラか。もういっその事、この学園に来ないか」
ミズヒは、平然とその場に足を踏み入れる。
それだけの資格を有した強者としての佇まいである。
彼女はソルシエラを見て、それからネームレスを見上げて首を傾げた。
「……誰だ、あれ」
「私が聞きたいくらいね。貴女のお友達じゃないの?」
「知るか。怪しい知り合いなんてお前だけで充分だ」
ミズヒはそう言って、ミユメを庇うように立った。
既に演算能力を失ったダイブギアが端から熱で溶けていく中、ミユメを一瞥する。
「大丈夫か」
「……は、はい。こ、これは――」
「問題ない」
状況を説明しようとしたミユメに、ミズヒはそう言った。
「どっちを相手取れば良いかは、理解している」
そう言って、ミズヒは銃をネームレスへと向ける。
その行動に、ソルシエラは呆れたように息を吐き、ネームレスは「わお」とおどけてみせた。
「ソルシエラの行動には理があり、善意が存在する。故に、ソルシエラと戦うお前が私の敵となるのが道理だ」
「……貴女、お人好しというか根が真面目ね」
「ははっ、それはソルシエラお前もだろう」
笑うミズヒはソルシエラを警戒する様子はない。
「流石、仲良しコンビ。うーん、良い絵だ」
ネームレスは満足そうにそう言って、手で枠を作り頷く。
その姿は戦いの最中であるという事をまるで感じさせない。
「……気をつけなさい。あの子、多少はやるみたいよ」
「面白い。私とソルシエラ相手にどこまで持つか見ものだな」
桜庭ラッカの偽物と対峙した時以来、再び一時的な共闘関係が結ばれる。
目標はネームレスの打倒。
その為に、二人が動き出そうとしたその時だった。
「あー、いやいやもう戦わないよ。こっちも時間切れだし」
二人の背後から、黒い鎖が飛び出してくる。
「これは……」
「ッ、小癪な!」
拘束しようと向かってくるそれを砲撃で撃ち落とし、焔で焼却する。
一秒にも満たない時間だった。
が、その刹那は余りにも長い。
「じゃあね。楽しかったよ、ソルシエラ」
既に転移魔法は起動していた。
ソルシエラとミズヒは同時に、間に合わないことを察する。
「待て! 貴様の目的はなんだ!」
魔法陣の中に消えていくネームレスを前に、ミズヒが叫ぶ。
すると、ネームレスは一度だけ振り返って言った。
「くだらない運命を変える事、かな。運命って嫌いなんだよね」
軽い調子で、陽気で、しかし怖ろしいほどに冷たい声。
それ以上の問いを許さないと言わんばかりに、ネームレスは消えてしまった。
辺りには、静寂のみが残されている。
ミズヒはソルシエラを見て、銃を消失させた。
その姿を見て、ソルシエラもまた応えるように大鎌を魔法陣の中に放り投げる。
「すまない、おかげでミユメを助けられた」
「別に助けたつもりはないわ。私もこの子に用があったのよ」
そう言うと、ソルシエラはミユメを指さす。
「貴女の持つその頭脳、使いどころを見極めなさい。貴女の作り出す物はイレギュラーになりうる。下手に動かれると目ざわりなのよ」
突き放す様な言い方だ。
が、ミズヒもミユメもその言葉に強い反感を見せることはなかった。
(まあ、たぶん普通に心配して忠告してくれているだけだな。うん)
ミズヒは既に、何となくだがソルシエラの言葉の真意を理解し始めていた。
そしてミユメはと言うと……。
「それが……今までの発明品、全部私の考えたものじゃなかったっす。さっきのネームレスとかいう奴が、私の脳に埋め込んだ物だったっす……」
「何、そうなのか!?」
それは、ミユメという少女に対する認識を根底から覆すものであった。
「Sランクのダイブギアも、ナカヨシ! ダンジョン君も……他にもトランスアンカーとか超々高性能魔力式ダミーヘッドマイクとか、全部全部あのネームレスの知識なんすよ!」
「そうなのか……いや、待て後半のおかしくないか」
「そう、おかしいんすよ! 私は、自分の手で生み出してなかった……!」
ミズヒは小声で「いや、そう言う事じゃない……」と呟く。
ソルシエラは、そのやり取りを黙ってみていたが、やがて妖しい笑みを浮かべた。
「――やはりそうだったのね」
「知っているのかソルシエラ」
「ええ。全て、とはいかないけれど」
「教えてくれ。私はもうSランクなんだ。情報があれば対抗出来るかもしれない」
ソルシエラは少し悩んだ様子だったが、やがて「そうね」といって言葉を続けた。
「ジルニアス学術院は、そう……随分と昔から禁忌を犯していた。……知識を他人へと書き加え、人工的に天才を作り出す計画よ」
「そんな事が……!」
「本当よ? 少し前まで計画は凍結していた筈だけれど、そう……また動き出したのね。人類は、いつも間違いを犯す」
ソルシエラはそう言って息を吐く。
俯いた顔からは表情は窺えない。
「この件には関わるのを止めなさい」
ミズヒの心を読んだかのように、ソルシエラはそう言った。
「な、何故だ!」
「貴女はフェクトム総合学園の柱ともいえる存在なのでしょう? 今は、学園の再建に注力しなさい。あれは……私の獲物よ」
そう言うと、ソルシエラは転移魔法を起動させてその中へと足を踏みいれた。
「待ってくれ! もう少しだけ詳しい情報を――」
「これ以上は、何も話せないわね」
それは、足手まといであることを言外に伝えていた。
Sランクとなり、概念に対して干渉が可能になったミズヒでさえ、関わることを許されていない闇がある。
「ソルシエラ……お前は一体どれだけの事を知っているんだ」
その問いに答える者は居なかった。
空無ミユメは困惑していた。
ミズヒの為にSランクのダイブギアを作っていた彼女だったが突如として現れた二人によって何かに巻き込まれたのだ。
(片方は知ってるっす。ルカさんが言ってたソルシエラ。それでもう片方は……)
生徒会室。決して広くはないこの場所は戦いに適さない。
その為か、ソルシエラは転移魔法を即座に起動した。
生徒会室全体を覆う巨大な魔法陣により、その場にいた三人全員が転移する。
「うん、訓練場か。また壊していいの?」
「……のぞき見が趣味なのね。気持ち悪い」
「え、え? なんで私まで巻き込まれてんすかー!」
訓練場の少し離れた場所に転移したミユメに対して、二人が同時に魔力障壁を展開する。
それは、互いに食いあうようにしてより強固な障壁へと変化した。
その様子を見て、ミユメは無意識に思考を被害者から傍観者へと変化させる。
(これは……もしかして私の閃きの元になるんじゃないっすかねー!)
存外、神経が太い彼女だった。
「勝ったほうが、あの子を貰えるってことでいいの?」
「そうね。貴女が勝てるのなら、だけど」
仮面の少女は、その言葉を聞いて肩をすくめる。
戦場であるというのに気の抜けた振る舞いに、対してソルシエラは妖艶な笑みを浮かべて大鎌を構えた。
「「――ッ」」
駆け出したのは同時。
しかし、攻撃を仕掛けたのはソルシエラであった。
「遅いわね。退屈なステップで欠伸が出ちゃう」
たん、と軽快な足音と共にソルシエラは仮面の少女に肉薄すると大鎌を振り下ろす。
魔力を込めた鋭利な一撃。
仮面の少女は、それを左腕に展開した魔力障壁を盾のように使い受け流す。
地面に大鎌が突き刺さると同時に、仮面の少女の蹴撃がソルシエラへと迫る。
「野蛮ね」
「ははっ、押しが強い方が好きな癖に」
ソルシエラは意趣返しのように、障壁を展開して受け流した。
それから間髪入れずに、下方に砲撃の魔法陣を展開。
パチンと、指がなった瞬間に仮面の少女へと魔力砲撃が放たれた。
「わあ、危ない危ない」
体を逸らして、仮面の少女が避ける。
そして次に前を見た時には既にソルシエラの姿はなかった。
「ん? ……おおっと、これは」
四方から現れた銀の鎖が仮面の少女の手足を拘束する。
仮面の少女は力を込めるが、鎖はびくともしない。
「もう終わり? 私はもっと楽しみたいんだけど。ねえ、ソルシエラ」
仮面の少女が見上げる先には銀色の星が輝いている。
砂煙すらも魔力へと変換する特殊な魔法式からなる比類なき収束砲撃。
その気になれば辺り一帯を消滅させることが可能なそれを、限定的に展開して狙いを仮面の少女一人に定めていた。
銃口を向けながら、ソルシエラは微笑む。
「生憎と、先約がいるのよ。今度は私から誘ってあげるから、名前を聞かせてもらっても良いかしら」
「あらら、振られちゃった。そうだね、私の名前……うーん、ネームレスかな」
「ふざけているの?」
「まさか。本気だよ」
「つまらない冗談ね」
引金が引かれる。
高密度の魔力砲撃は、ネームレスへと直撃すると激しい砂煙を辺りに巻き起こした。
(す、すごい。互角かと思ったけれど、勝っちゃったっす。これがソルシエラ……)
ミユメの前で行われた戦闘は、ジルニアス学術院の生徒からすれば値千金であった。
実際に起動している魔法式と、その運用方法。
すぐに拡張領域からメモを取り出したミユメは、今起きたことを詳細に記録し始める。
「こ、これはルカさんも喜ぶっすよー」
「――へえ良かったね。あ、私の魔法はいいの?」
「え?」
魔力障壁の中、背後にネームレスがいた。
仮面をしていなければ息がかかっていたであろう距離で、ネームレスはおかしそうに笑う。
「びっくりした? 私も使えるんだよね、転移魔法」
「なっ」
叫び声を上げようとしたミユメの頭を、ネームレスが右腕で掴み上げる。
「今回の目的はミユメちゃんだからさ。まあ、さくっと目標達成だよね」
「何を……がぁっ!?」
バチリと、脳がスパークするような感覚。
その瞬間に、奥底に封じられていた筈の記憶が蘇った。
「お前……! ネームレスか!」
「ずっとそう言ってるじゃん。おかしい事言うね。会うのは二度目、元気してたかな?」
脳に、何かが刷り込まれていく感覚。
ミユメには覚えがあった。
(思い出した……! 私は、自分で発明品を思いついたんじゃない。こいつに設計図を打ち込まれていたんだ!)
ミユメは自身の事をそこそこの秀才だと思っている。
事実、設計図さえあればその通りに作ってしまえるだろう。
が、それはあくまで設計図があるからだった。
自分から思いついた物ではない。
そうなるようにと、閃きの元を与えられていたのである。
「うーん、今回はもう少しあげようかな。大丈夫大丈夫、遅いか早いかの違いしかないから。他にはえーっと」
情報が脳の中へと流し込まれていく。
ネームレスが明るい調子でさらに情報を流し込もうとしたその時だった。
「私を欺こうとするなんて、ふふっ、面白いわ……貴女」
魔力障壁が力づくで破られた。
二人分の強固な障壁を裂いて、ソルシエラが飛び込んでくる。
その大鎌は、今までよりも鋭い一撃となってネームレスへと迫った。
「ああ、時間切れか」
ネームレスはジャンプをして、その一撃を避ける。
そして、初めてソルシエラへ向けて魔法陣を展開した。
「今はまだ貴女には勝てないからさー、気に障ったらごめんね?」
「気が変わったわ。私ともっと躍りましょう?」
「あー、怖い怖い。やっぱり君が敵に回ると厄介だ」
ネームレスの魔法陣から、砲撃が放たれる。
(あれは……ソルシエラと同じ?)
ミユメは、それがソルシエラが放ったものと魔法式が全く同じであると看破した。
星の輝きを飲み込むような黒い光が、ソルシエラへと迫る。
「くだらない猿真似ね」
ソルシエラはそれを片手で防ぐと、大鎌の銃口を再びネームレスへと向けた。
「へぇ、じゃあ最後に撃ち合いでもしようか」
ネームレスが魔法陣を展開し、その中へと手を入れる。
そして何かを取り出そうとして、気が付いたように手を止めた。
「……やめた。どうやら気が付かれたみたいだし」
ネームレスはそう言うと同時に、さらに高く飛翔する。
そのすぐ後、彼女のいた場所を焔が通り抜けた。
「流石にこれだけ騒いだら来るか」
「……照上ミズヒ」
暗闇に、焔が灯される。
まるで意思をもったかのような不定形の焔は、主の周囲を蛇のようにうねり旋回していた。
「――またソルシエラか。もういっその事、この学園に来ないか」
ミズヒは、平然とその場に足を踏み入れる。
それだけの資格を有した強者としての佇まいである。
彼女はソルシエラを見て、それからネームレスを見上げて首を傾げた。
「……誰だ、あれ」
「私が聞きたいくらいね。貴女のお友達じゃないの?」
「知るか。怪しい知り合いなんてお前だけで充分だ」
ミズヒはそう言って、ミユメを庇うように立った。
既に演算能力を失ったダイブギアが端から熱で溶けていく中、ミユメを一瞥する。
「大丈夫か」
「……は、はい。こ、これは――」
「問題ない」
状況を説明しようとしたミユメに、ミズヒはそう言った。
「どっちを相手取れば良いかは、理解している」
そう言って、ミズヒは銃をネームレスへと向ける。
その行動に、ソルシエラは呆れたように息を吐き、ネームレスは「わお」とおどけてみせた。
「ソルシエラの行動には理があり、善意が存在する。故に、ソルシエラと戦うお前が私の敵となるのが道理だ」
「……貴女、お人好しというか根が真面目ね」
「ははっ、それはソルシエラお前もだろう」
笑うミズヒはソルシエラを警戒する様子はない。
「流石、仲良しコンビ。うーん、良い絵だ」
ネームレスは満足そうにそう言って、手で枠を作り頷く。
その姿は戦いの最中であるという事をまるで感じさせない。
「……気をつけなさい。あの子、多少はやるみたいよ」
「面白い。私とソルシエラ相手にどこまで持つか見ものだな」
桜庭ラッカの偽物と対峙した時以来、再び一時的な共闘関係が結ばれる。
目標はネームレスの打倒。
その為に、二人が動き出そうとしたその時だった。
「あー、いやいやもう戦わないよ。こっちも時間切れだし」
二人の背後から、黒い鎖が飛び出してくる。
「これは……」
「ッ、小癪な!」
拘束しようと向かってくるそれを砲撃で撃ち落とし、焔で焼却する。
一秒にも満たない時間だった。
が、その刹那は余りにも長い。
「じゃあね。楽しかったよ、ソルシエラ」
既に転移魔法は起動していた。
ソルシエラとミズヒは同時に、間に合わないことを察する。
「待て! 貴様の目的はなんだ!」
魔法陣の中に消えていくネームレスを前に、ミズヒが叫ぶ。
すると、ネームレスは一度だけ振り返って言った。
「くだらない運命を変える事、かな。運命って嫌いなんだよね」
軽い調子で、陽気で、しかし怖ろしいほどに冷たい声。
それ以上の問いを許さないと言わんばかりに、ネームレスは消えてしまった。
辺りには、静寂のみが残されている。
ミズヒはソルシエラを見て、銃を消失させた。
その姿を見て、ソルシエラもまた応えるように大鎌を魔法陣の中に放り投げる。
「すまない、おかげでミユメを助けられた」
「別に助けたつもりはないわ。私もこの子に用があったのよ」
そう言うと、ソルシエラはミユメを指さす。
「貴女の持つその頭脳、使いどころを見極めなさい。貴女の作り出す物はイレギュラーになりうる。下手に動かれると目ざわりなのよ」
突き放す様な言い方だ。
が、ミズヒもミユメもその言葉に強い反感を見せることはなかった。
(まあ、たぶん普通に心配して忠告してくれているだけだな。うん)
ミズヒは既に、何となくだがソルシエラの言葉の真意を理解し始めていた。
そしてミユメはと言うと……。
「それが……今までの発明品、全部私の考えたものじゃなかったっす。さっきのネームレスとかいう奴が、私の脳に埋め込んだ物だったっす……」
「何、そうなのか!?」
それは、ミユメという少女に対する認識を根底から覆すものであった。
「Sランクのダイブギアも、ナカヨシ! ダンジョン君も……他にもトランスアンカーとか超々高性能魔力式ダミーヘッドマイクとか、全部全部あのネームレスの知識なんすよ!」
「そうなのか……いや、待て後半のおかしくないか」
「そう、おかしいんすよ! 私は、自分の手で生み出してなかった……!」
ミズヒは小声で「いや、そう言う事じゃない……」と呟く。
ソルシエラは、そのやり取りを黙ってみていたが、やがて妖しい笑みを浮かべた。
「――やはりそうだったのね」
「知っているのかソルシエラ」
「ええ。全て、とはいかないけれど」
「教えてくれ。私はもうSランクなんだ。情報があれば対抗出来るかもしれない」
ソルシエラは少し悩んだ様子だったが、やがて「そうね」といって言葉を続けた。
「ジルニアス学術院は、そう……随分と昔から禁忌を犯していた。……知識を他人へと書き加え、人工的に天才を作り出す計画よ」
「そんな事が……!」
「本当よ? 少し前まで計画は凍結していた筈だけれど、そう……また動き出したのね。人類は、いつも間違いを犯す」
ソルシエラはそう言って息を吐く。
俯いた顔からは表情は窺えない。
「この件には関わるのを止めなさい」
ミズヒの心を読んだかのように、ソルシエラはそう言った。
「な、何故だ!」
「貴女はフェクトム総合学園の柱ともいえる存在なのでしょう? 今は、学園の再建に注力しなさい。あれは……私の獲物よ」
そう言うと、ソルシエラは転移魔法を起動させてその中へと足を踏みいれた。
「待ってくれ! もう少しだけ詳しい情報を――」
「これ以上は、何も話せないわね」
それは、足手まといであることを言外に伝えていた。
Sランクとなり、概念に対して干渉が可能になったミズヒでさえ、関わることを許されていない闇がある。
「ソルシエラ……お前は一体どれだけの事を知っているんだ」
その問いに答える者は居なかった。
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なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
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こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
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