上 下
78 / 236
三章 閃きジーニアス

第77話 追放テンプレート

しおりを挟む
 ジルニアス学術院について、実は俺はよく知らない。

 原作でジルニアス学術院は四大校の中でもトウラク君が直接話に絡まなかったからである。
 ジルニアス学術院の生徒がちょくちょく出てきて、イカレタ発明品を置いていくことはあっても舞台として取り上げられることは無かった。

 だから、俺は目の前の美少女について何も知らない。

 救援はミズヒ先輩のおかげで簡単だった。
 元々、そこまでの難易度ではない低ランクのダンジョンという事もあるのだろう。

 その場に一人だけいたその美少女は、俺達へと勢いよく頭を下げる。
 
「――ありがとうっす。おかげで助かったっす!」

 茶髪セミロングで大きい胸。
 パッと見どこにでも居そうな美少女だが、その口調が余りにも濃すぎた。
 君、ネームドだったりしない?

「無事で良かった。それにしても一人か? いくらDランクのダンジョンといえど、一人では危ないだろう」

 ミズヒ先輩の言う通り、複数人で攻略するのがダンジョンの基本である。
 最低でも二人。
 一人で行動など、Aランクからやることだ。

 それにしても困ったな。
 まだジルニアス学術院の生徒と会う予定は無かったんだけど。
 
 いや、まずは新たな美少女に出会えたことに感謝だな。

「それは事情があって……あ、その前にまずは私の自己紹介っすね」

 美少女はそう言うと、人懐っこい笑みを浮かべた。

「私、空無からなし ミユメっす! ジルニアス学術院整備科の一年生で、趣味は開発。基本的にはダイブギアの修理とかしてるっす」

 空無ミユメ……そんな。こんな美少女は俺のデータに無いぞ……!

『君のデータ割と穴だらけじゃないか』

 うるせえ。
 それにしても、美少女だね。
 うーん、キャラとしては後輩キャラか。
 同学年だが、キャラの絡みとしては強い。

 ソルシエラと組み合わせるとしたら、クールな主と元気な助手で絵面も良い。
 決めた。
 この子に色々と融通してもらおう。
 例えTSマシンをこの子が作れなくても、作れる知り合いを紹介してくれるようにお願いしようか。

 美少女なんだし、知り合いも多いだろ。そんでもって、その知り合いも美少女であれ。

「整備科……? ますます一人でいる理由がわからないな」

 確かに、ミズヒ先輩の言う通りわからない。
 なんでだろうね。整備科だけど強いっていう訳でもなさそうだし。

「いやぁ、それが私……このダンジョンの攻略中にパーティーから追放されちゃって」

 どこか恥ずかし気に、悲観した様子もなくミユメちゃんはそう言った。
 追放……?

 え、現代ダンジョンで追放されるタイプの人……?
 まるで主人公みたいだねぇ。

「わざわざ、ダンジョン内で……」

 ミズヒ先輩の険しい表情を見て、俺も察する。
 確かに、おかしい。

 というか、それ殺そうとしてない?
 俺、すっごく身に覚えがあるんだけど。
 この体の前の持ち主がまさにその先駆者だったんだけど。

「まあ、端的に言ってしまえば殺そうとしたんすよね、私を。いやぁ、急にダンジョンの奥地に置いて行かれたから焦ったっすよー。ダイブギアがあって助かったっす」
「……そうか。間に合ってよかった」

 なんとも言えない表情のミズヒ先輩。
 そして俺も何を言えば言いのかわからない。

 だって、この子殺されかけたんだよ?
 それもパーティーを追放されて。

 美少女にする仕打ちじゃねえだろ。

「もうBランクの探索者になれたから私のダイブギア整備はいらないらしいんすよ。誰がダイブギアのシステムを改造してあげたのか思い出して欲しいっす! 役立たずの整備師なんて言われて、流石に怒ってるっすよー!」

 ん?
 なんか、俺の思ってた美少女と違うぞ?

 つまり、君はパーティーの強化に物凄く貢献していたけど、そのありがたみを忘れた奴らに馬鹿にされて追放されたって事?

「……ちなみに、空無さん。そのダイブギアのシステムって君が定期的にダイブギアの整備しなかったら機能しなくなったりします?」

『どうしたんだ急にそんなピンポイントな事を聞いて』

 いや、ちょっと気になることがあって。
 もしも俺の予想が正しいのなら、この子はただの美少女じゃない。

「ミユメでいいし、敬語もなしっすよー。それにしても、よくわかったっすね。そうっすよ。そもそもダイブギアはリアルタイムで持ち主の体を参照してるんすから、一日ごとに必ず誤差が生まれるっす。だから、毎日の整備は欠かせないんすよね」
「その事はパーティーにはきちんと説明したの?」

 ミユメちゃんは、首を横に振って「言っても理解しないっすから」と言った。
 ジルニアス学術院の生徒が理解をしないとか、それでいいのか。

 だが、これで一つの可能性が浮かんだ。

 この子が、追放系テンプレ主人公の可能性である。

「それがどうかしたっすか?」
「いや、なんでもない」

 境界のルトラ本編で、ジルニアス学術院のストーリーが無いのは知っていた。
 だから油断していた。
 
 ソシャゲもあったんだし、スピンオフが俺の知らないところで生まれてもおかしくないよなぁ。
 原作者はスピンオフなら騎双学園かクローマ音楽院だと言っていたが、明らかにこの子の纏う主人公力が高すぎる。
 そうかぁ、ジルニアス学術院のスピンオフかぁ。

 そうなると俺達は間違いなく――

「イレギュラーだな」
「え? イレギュラー?」
「ああ、こっちの話だよ。ごめん」

 つまりこういう事だ。

【ジルニアス学術院の追放者~私の組んだ特殊プログラムが無いと君たちは強くなれないっすけど、もうどうでもいいっすよね。こっちは好きにやらせてもらうっす~】
 である。

 こんな所でまさか主人公美少女様と出会うとは。
 ありがたやありがたや……!

 このストーリーって本当はどうなる予定だったんだろう。
 誰かがこの窮地を救ったのか、それともミユメちゃんが何かを閃いて窮地を脱したのか。

「ちなみに、このまま誰も来なかったらどうなってたの?」
「死んでたっすね。脱出もできそうにないし、ダンジョン主は倒せないし」
「誰か、助けてくれる人に心当たりは?」
「うーん、別に?」

 うーん、どっちが正史かわからんな。

「ケイ、急にそんな事を聞いてどうしたんだ」
「……少し気になったので」

 いかんいかん。
 こんな所で聞かなくても良い事だったな。
 取り敢えず今はこの子と一緒に行動して、スピンオフストーリーっぽい所を見つけたらフワッと軌道修正して、スルッと消えるのが良さそうだ。

 後、せっかくだしTSマシンを作れる人とかも紹介してもらおう。

「ミズヒ先輩、一度フェクトム総合学園にこの人と帰りませんか? 彼女が生きているとわかったら、またすぐに彼女をここに置いていった奴らが仕掛けてくるかもしれません」
「確かにそうだな」

 この方は美少女主人公様である。
 丁重に扱わなければならない。

 恐らく、俺達がなんらかのイベントなりフラグなりをへし折ってしまっている。
 代案を見つけるまでは共に行動しなければ。

『なんかゴチャゴチャ言っているけど、新しい美少女と少しでも長くいたいだけだよね?』

 クール×元気娘!

『隠す気ないねぇ』

 後で、ソルシエラで接触してみたーい^^
 原作関わってないなら少しくらい接触しても平気やろ、わはは。

 大丈夫大丈夫、きちんと最後にはこの子のストーリーに戻すから。
 俺、そういうのたくさん読んでいるから話の流れを見極めるのには自信があるんだ。

「というわけで、ミユメちゃんさえ良ければ一度フェクトム総合学園に来ないか?」
「いいんすか? 私、何もお礼はできないっすよ?」
「大丈夫だ。私たちは狭量な学園ではないからな」
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔するっす」

 ミユメちゃんはそう言ってぺこりと頭を下げる。
 うーん、確かにこうして見ると可もなく不可もなくな髪型と髪色だ。

 主人公というか、キャラクリの最初のテンプレというか……本当に見れば見る程主人公だな、この子。

 ジルニアス学術院のスピンオフってことはメインストーリーには深く絡まないだろうし、話の規模は小さいだろうな。

 美少女同士が集まった開発系ゆるふわ話だったらどうしよう。
 話を初っ端からへし折った俺が大戦犯になっちゃう。

 ミユメちゃんに関わったことが罪になっちゃう。

『それなら照上ミズヒも同じ罪を背負うんじゃないのかい?』
 
 あの人は美少女だからいいんだよ何言ってんだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...