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二章 蒼星の少女

第72話 消去と本題

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 マジで幻覚見せられるじゃん……怖……。

『言っただろう。人間の脳に干渉するなんて今の私には造作もないねぇ』

 久しぶりに君を怖いと感じたよ。

「私は……夢を見ていたのか……!」
「随分と良い夢を見ていたようね。ふふっ、貴方みたいな人は好きよ。何をしても許されるから」
「ひっ」

 俺はプロフェッサーの顎をくいっと上げて目を覗きこむ。
 プロフェッサーの瞳に反射する俺は、素晴らしくミステリアスだ。

「そう怯えないで。貴方の英雄譚の終わりを華々しく飾り付けして上げるって言っているのよ?」

 逃げ出そうと藻搔こうが、鎖が縛って逃げれない。
 光翼とかもあるみたいだけど、んな物でミステリアス美少女に勝てる訳が無い。
 でも光翼かぁ……ちょっと俺も欲しいなぁ。

『うーん、検討してみようか。ただ君は光翼のイメージじゃないからなぁ』

 難しい所わよ。
 あんまり見た目に盛りすぎると、性能重視のキメラ装備プレイヤーみたいになっちゃう。
 俺は統一感を持たせて、ミステリアスに立ちまわりたいのだ。

 と、今はそんな事を会議している場合じゃないね。

「さて、始めましょうか」

 俺はプロフェッサーの額に人差し指を当てる。
 人差し指の先から、小さな青紫色の魔法陣が展開してプロフェッサーの頭を覆った。

 はい、準備オッケーです!

『それじゃあ、美少女の脳をクリーニングしようねぇ』

「な、何をするつもりだ……!」
「リンカーネイションシステムへの干渉」
「っ!? なぜ、お前がそれを……!」

 原作で見た。

「便利よね。魂を別の器に移し替えるなんて。そうまでして生きたいなんて、本当に人間らしい。愛おしくて、哀れな人」
「お前に何がわかる! 私の頭脳が無ければ、世界を救うことなど出来ないんだぞ!」

 うるさいわ。
 世界はトウラク君が救うの!
 もしも原作崩壊で救えなかったとしても、その時は俺が責任をとるからいいの!

「世界を救うのは貴方では無い。貴方如きでは、世界を救う重責に耐えられないわ」
「なっ、舐めるなよクソガキィ! 私がどれだけ貢献してきたのか――ぎぃっ!?」

 魔法陣が起動し、プロフェッサーの表情が苦悶に歪む。
 僅かに動かせる手足が小刻みに震え、その苦しみから解放されようと必死だ。

「な、にをしている」
「貴方の魂に干渉しているのよ」

 俺の言葉に、プロフェッサーの目が見開かれる。
 まるで信じられないものを見たかのように、血走った眼が俺を見ていた。

「う、うそだ。リンカーネイションシステムを作るのにどれだけの時間と犠牲があったと思っている……!? そう簡単に魂に干渉できる筈がない!」
「目の前の事実を受け入れないなんて。本当に救えない人」

 こうして話している間も、プロフェッサーの魂は消去されている。
 されているよね? ……なんか、全然実感がないんだけど。
 これっていつ終わるの?

「やめろ、私が消えて行く……!」
「……ふふっ、怯えた顔の方が素敵ね」

 終わったら合図とかある?
 プロフェッサーが消えてもずっとこの体勢だったら恥ずかしいんだけど。

『ちゃんと教えるから大丈夫だ。安心したまえ』

 あ、助かるねぇ。

「あ、ああ……消えて、きえ、ぁ」

 プロフェッサーの身体は絶え間なくガタガタと震えている。
 俺はそれを見下ろしながら、キメ顔でフッと笑った。

『あ、終わったねぇ。抵抗も無かったし、防御プログラムとか組み込んでないとは。不用心だ』

 普通は魂にそんなセキュリティソフトみたいなのは入れないよ。

「さて、これでひとまずプロフェッサーの処理は終わったわ」
「本当に……死んだんですか?」
「ええ」

 椅子の上ではぐったりとした様子のプロフェッサーだったモノが俯いている。
 確か、ヒカリちゃんだっけ?
 うーん、プロフェッサーのあの幻覚から考えるに、浄化ちゃんとヒカリちゃんは仲良しらしい。
 
 やっぱり、体を残して正解だったな!
 調子に乗って、一刀両断しなくて良かった。

『調子に乗って、砲撃をぶっ放さなくて良かった』

 俺達は思慮深いミステリアス美少女だ。
 だからこそ、常に目の前の問題にフレキシブルに対応できる。

「……ありがとうございました。これで、ヒカリを眠らせることができる」

 鎖から解放し、ヒカリちゃんの体を浄化ちゃんが抱きかかえようとする。
 俺はその手をそっと掴んだ。

「え?」

 ミステリアス美少女オーラをドバドバ垂れ流しながら、俺は空いた左手で浄化ちゃんの涙を優しく拭う。
 美少女に涙は似合わないぜ。

『美少女が泣くのは心苦しいからねぇ』

 星詠みの杖君の言う通りだ。
 さらに言えば、どうやら浄化ちゃんとヒカリちゃんは喧嘩別れをしてしまったらしい。
 それでこんな終わり方は、あんまりである。
 
『あ! ここ遊園地で習った所だ!』

 お、星詠みの杖君もしかして分かっている?

『ああ、もちろんだとも。美少女の最期は――』

「最期は幸福で無くてはならない」
「……え」

 喧嘩したまま死ぬなんて、そんな悲しい終わり方は嫌だ!
 俺はハッピーエンドが良いんだよ!
 美少女に似合うバッドエンドとか悲劇は、こっちで地産地消するから。

『それはそれで問題なので、一度ゆっくり話し合おうねぇ』

 なんだ、星詠みの杖君はハッピーエンド至上主義になったのかい?

『巻き込まれるのが嫌だと言っているのだが?』

 遠慮すんなって。
 大丈夫。そのうち、ボロボロに傷ついた自分を客観的に見て興奮できるようになるからさ。

『君、急にアクセル踏むの止めないか? 置いていかないで欲しいんだが』

 星詠みの杖君には後で美少女的バッドエンド集を教えるとして、今は目の前の事に集中しなければならない。

 俺は、ヒカリちゃんを床に寝かせて無意味に複数の魔法陣を辺りに展開する。
 いっぱい魔法陣があると、凄い事しそう感があっていいよね。

「何をするんですか」
「決まっているでしょう、この体を本来の持ち主に返すのよ」
「……え、それって」

 敢えて、目を合わせる事はしない。
 こんな感じで普通に人を助けるのはミステリアス美少女的にはギリギリのラインだからね。
 ヒーロー美少女なら違和感ないけど、ミステリアス美少女は人助けに解釈違いが発生しやすいから。

『君はなにと戦ってるんだ』

 己の中の美少女と、だよ。

「リンカーネイションシステムは実に興味深いわ。この玩具で、少し遊んであげる」
 
 まあ、別にリンカーネイションシステムを使う訳じゃないんですけどね。
 なんか難しそうだし。

 俺がやるのはもっとシンプルな方法だ。

 所で、ヒカリちゃんは見つかった?

『ああ、いたよ。プロフェッサーを消去し終えて、三回スキャンしてようやく僅かな魂の反応を感知できた。しつこいようで悪いが……君は本当にこれを見つけたのか?』

 当たり前だろ。
 美少女の魂ってのは眩いものなんだ。
 どれだけ摩耗し、すり減っても、その輝きを俺が見逃がす筈もない。

 最初はプロフェッサーを怒りに任せてしばこうとしていた俺だったが、転移した後に気が付いた。
 あれ? なんか、美少女を感じるぞ?  ってね。
 そう思い、プロフェッサーを観察して確信したのだ。
 まだ、美少女の魂は死んじゃいないと。

『本当にわからなかった……。私でもわからないのに、なんで分かったんだろう……』

 そりゃ、美少女に対する愛よ。
 愛が気付かせてくれたんだ。
 素晴らしいね。

 というわけで、俺としてはここからが本番である。

 俺は巨大な魔法陣を床に展開する。
 いつもは収束砲撃の為に使うそれを、今回は一人の少女に全て接続した。

『摩耗した魂を魔力で補う。理論上は可能だ』

 じゃあ大丈夫だな!
 理論上は可能って言葉は大体成功フラグだし!

 勝ったな、女装してくる。

『君のせいで、たった今プラマイゼロになったんだが』

 青紫色の光が、部屋全体を照らし始めた頃を見計らって俺は浄化ちゃんの目を見て笑う。

「――人は星に願うのでしょう?」

 風を起こして、凄まじい事が起きる前触れみたいな演出をしながら俺は自分の目を薄ぼんやりと光らせる。
 これで、人外感がアップするわね。
 
 実質死者の蘇生みたいなものだし、ミステリアス美少女の底知れなさを演出したい。
 ここ数日何故か、悲しい運命を背負った美少女ポイントだけ加算されてたからな。

 この辺できちんとミステリアス美少女であることをアピールしておこう。

「この私に願いなさい。気まぐれに、叶えてあげるかもしれないわよ」
「本当にヒカリが生き返るの……!?」
「さあ、どうかしらね」

 たぶん出来ます。
 いや、絶対に出来ます!

『やっぱ悪党殺すより美少女を蘇らせる方がテンション上がるわ』

 ほら、星詠みの杖君もこう言ってるし大丈夫大丈夫!

「……わかった、貴女に願う」

 浄化ちゃんは絞り出すように、そう言った。
 険しい表情してるけど、感極まってるの?
 駄目だよ、ハッピーエンドなんだから笑って笑って!

「代償に何を支払っても構わない。だから、ヒカリを……私の大切な人を助けて」
「? ええ、いいわよ」

 なんか言っていることが半分わからなかったけど、とりあえず了承する。
 別にお金とらないわよ。
 無料で助けるわよ!

『わよ^^』

 ということで、ここからが本日のスーパーミステリアス美少女タイムだ!
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