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二章 蒼星の少女

第68話 解決と幼女

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 戦争って言ってなかった……?
 ねえ、さっき戦争って言ってなかった?

『言っていたねぇ』

 え、御景学園と騎双学園が戦争すんの?
 物語を色々とすっ飛ばしてない?
 六波羅さんまだあっちにいるけど、マジで戦争すんの?

「彼等の事が気になるのか、ケイ」
「……いえ」

 トウラク君達というより原作が気になってます。
 これ大丈夫?

 まあ、その為にデータ盗んできたんだけどさ。
 それで帳尻があうレベル超えてない?

 ……まあ、いっかぁ!
 美少女助けられたし、これに勝る喜びなんてある訳がねえよなァ!

『開き直ったねぇ。まあ、戦場を駆けるミステリアス美少女も乙だと思っておけば良いじゃないか』

 確かにねぇ!
 戦争といっても、特区でダンジョンの攻略権利を掛けて争ったり、露骨に喧嘩したりするようになるだけだもんね。
 そう慌てる事じゃないよね!

 スーパーミステリアス美少女タイムによる疲れか、少し思考がマイナスになっていたようだ。
 切り換えて行こう。
 今はミロク先輩を助けたのだから、これは美少女的エンドロールである。

 後はフェクトム総合学園に帰ってハッピーエンドだぜ!

「もうすぐフェクトムのゲートだ」
「追ってきている騎双学園の生徒はいませんね……」

 そりゃ全部トウラク君たちが引き受けたからね。
 弱小に構ってる暇なんて無いよな。
 だって、御景学園との戦争だもん。

「良かったぁ、助かったぁ」

 トアちゃんがふにゃふにゃになりながらそう言った。
 よく頑張ったね……!
 
 俺達は急いでゲートを潜る。
 ここまで来ればもう、安心だ。

「ゲートを一時、停止する」

 ミズヒ先輩は、通り抜けてすぐにゲートを閉じた。
 これにより、フェクトムの自治区に入る事ができる生徒はいなくなる。
 まあ、転移とか使われたら話が変わってくるのだが、そこまでして追う価値は今の俺達にはないだろう。

「大丈夫でしたか、ナナちゃん」
「問題ありません。三度、舌を噛んだ程度です故」
「だ、大丈夫?」

 そうだぁ、なんかデモンズギアもついてきたんだったぁ……。
 これ取り戻す為に色々と送り込まれたりしない?
 まあ、その時に考えればいいか。

 既にこっちにはメッチャ強いミズヒ先輩がいるんだし! わはは!

「……あの、皆にもう一度きちんと謝罪をさせて下さい」

 お疲れ様ムードの中、ミロク先輩はそう言った。
 俺達は足を止めて、振り返る。

「私、自分が足を引っ張ってるんじゃないかってずっと不安でした。それで、あんな事で皆の役に立てると勘違いして……ごめんなさい。私、何も見えていませんでした!」
「ミロク先輩……」
「ミロクちゃん……」

 そうか……ミロク先輩は悩んでいたのか。
 確かに、美少女でいること自体に価値があると気が付くのは難しいからな。
 花が客観的に自分を美しいと思えるのか、という話だ。
 俺にとってはミロク先輩はミロク先輩であるというだけで意味があるのだが、本人は無力感に苛まれていたようだね。
 
『……私だったら、あの子をシエルの契約者にできますよ……?』

 やらせる訳ねえだろ、ふざけんな。
 できますよ、じゃねえんだよ。
 何下手に出てるふりして、ヤバいモン押し付けようとしてんだよ。

『でも、お姉さんと幼女の組み合わせって良くない?』

 …………いや、でも駄目なものは駄目だよ。
 絶対に禁止ね! もしもやったら、許さないからな。
 ミロク先輩まで過酷な戦いに巻き込んではいけない。

 あの人には皆の帰ってくる安息の地になってもらわねば。
 ほら、皆も同じ気持ちみたいだよ。

 ね、ミズヒ先輩。

「ミロク、歯を食いしばれ」
「ミズヒ先輩!?」
「ミズヒちゃん!?」

 そう言えばこの人、会ったら一発殴るとか言っていたような気がする……!
 え、アレって比喩じゃないの!?
 本気で殴る意思表明だったの!?

「……私はいつでも大丈夫です。来てください」
「分かった、いくぞ」

 パンと、頬を張る音が夜の校舎前に響く。
 本気でビンタしたという事実にドン引きする俺とトアちゃんに、ミズヒ先輩は振り返った。

「さ、お前たちにも権利があるぞ」
「「いやいやいやいや」」

 俺達は揃って首を振る。
 いけないよ。これはいけない。
 美少女をビンタとか、罪とかいうレベルじゃないから。

「わ、私は遠慮しとこうかな」
「俺も断固拒否します。充分です」
「……だ、そうだ。私もこれで手打ちとする。もうこの件はこれで終わりだ」

 ミズヒ先輩はそう言って笑った。
 ああ、この人は根が少年漫画なんだ……。

 殴り合って河原で友達が出来るタイプの人だ。
 六波羅さんと気が合うんじゃないすかね。

「ミズヒ……。はい、これからもよろしくお願いしますね、皆さん!」

 ミロク先輩はそう言っていつも通りにふわりと笑う。
 これでようやく一件落着といった所だろうか。
 トアちゃんも安心したのか、眼に涙を浮かべてミロク先輩に抱き着いている。
 うんうん、いい光景だ……。

 これはエンドスチルだねぇ。
 はい、フェクトム総合学園の問題は解決!

 …………とはいかないんですねぇ、これが。

「じゃあ、改めてナナちゃんの紹介もしましょうかね」
「私はシエル:バージョン7。デモンズギア成功体第二号です故」
「これがデモンズギア……改めて見ると本当に人と変わらないな」
「触っちゃだめ、なんだよね?」

 恐る恐る問いかけるトアちゃんに、ミロク先輩が頷く。

「現状、触れることができるのは私だけですね。それも、この注射がある限りの話ですが」

 アタッシュケースを見せて、ミロク先輩はそう言った。
 
 そう、このシエルが問題なのである。

 弱小学園がデモンズギアを持っているという情報はすぐに学園都市中を駆け巡ることになるだろう。
 そうすれば今まで以上に色んな学園からちょっかいを掛けられる事になる。
 俺とミズヒ先輩でも手が回らなくなる可能性が高い。

 そうなる前に、どこか巨大な学園の庇護下に入る必要があるのだ。
 
『まさか、その為に実験記録を?』

 その通り。
 原作の軌道修正という意味合いもあるが、それ以上にフェクトム総合学園を御景学園の傘下に入れてもらう為の交渉材料なのだ。
 出来れば、姉妹校に……。

「ふむ……デモンズギアの事も考えなければならないな。が、今日はもう難しい事は考えたくない。疲れた、少し遅いが夕飯にしよう」

 ミズヒ先輩も気が付いたようだが、面倒くさくなって投げ出したようだ。
 そんなミズヒ先輩の言葉に賛同するようにミロク先輩とトアちゃんは頷く。

 んじゃ、まあご飯でも食べますかねぇ。

「今日は私が作りますよ。今まで居なかった分、美味しいもやし炒めを作っちゃいます!」

 やったぁ、美少女の手料理だぁ!





 夜、色々な事があったせいで疲労困憊の皆はすぐに寝てしまったようだ。

「……よし」

 俺は起き上がり、眠気を追い払う為に頬を叩く。
 ここから一仕事あるわよ!
 御景学園との交渉わよ!

『いくわよ!』

 わよ!

 そっと寮を後にした俺は、ゲート近くに来て気が付いた。
 あ、ゲート閉じてるんだった。
 失敗失敗☆

『お茶目さんだねぇ。まだ、寝ぼけているのかい?』

 スーパーミステリアス美少女タイムの反動が今来ているみたいで眠いです。
 そもそも、俺の部屋で転移魔法使えば良かったね。
 星詠みの杖君、転移魔法の準備お願い。

『それでは転移しようか……ん? おや、この気配は』

 星詠みの杖に言われて、俺もすぐに気が付いた。
 翡翠色の髪の幼女が一人、俺達を見ているからだ。

 え? モコモコパジャマ着てる!? きゃわわ!
 誰かのお古かなぁ!? かわいいねぇ!

「お久しぶりです、姉上」

 シエルはそう言って、頭を下げる。
 ああ、今はナナちゃんか。

「今回は、妹たちの粛清でもないご様子。なぜ、起動したのでしょうか。私には状況が理解できていません故」
「……そうね」

 俺はすぐに思考をミステリアス美少女に変える。
 そして、いつものゴスロリ衣装へと変身した。

「貴女はまだ、人間ですね? 姉上の侵食が進んでいません故、自我を感じます」

『どうやら私と話したがっているようだねぇ。私の言葉をそのまま伝えてくれるかい?』

 あ、はい。
 じゃあ、前にやった0号モードで行きましょう。

「――確かに、その通りだ。今、私と彼女は共存状態にあるからねぇ」

 俺は魔力をドバドバ漏らしながらそう告げる。
 この魔力の多さを見よ、どうだ本当に表に星詠みの杖が出てきているみたいだろう?
 燃費が悪いけどな、このモード。

「共存ですか?」
「ああ。今回、私はある厄災に対抗するために目覚めた。女王の棺としての本来の目的を果たすためにねぇ」

 え、そんなのあるんすか。

『いや、知らないねぇ』

 適当言ってんじゃねえぞ!

『どの口が言っているのか聞かせてほしいねぇ!』

「厄災ですか。となると、鏡界の侵食が遂に本格的に始まったという事ですね。デモンズギアはアレに対抗するための存在です故」
「そ、そうだねぇ。流石はシエル、演算は姉妹の中で随一だ」
「ふんす! ……ですが、何故姉上まで? 私たち六機で足りる計画では?」

 ど、どうするんだ星詠みの杖君。
 君の妹はマジレスが強いぞ……!

「…………実は、鏡界の侵食が想定より早くてねぇ。イレギュラーが発生する可能性が高いんだ。だから、先んじて目覚めたというわけさ」

 いけたか?

『納得してくれないと困るねぇ。まさか、変態にたたき起こされてミステリアス美少女してるなんて言えないし……』

「成程、納得しました故」

 この子、もしかして割と頭がゆるゆる?

『純粋と言ってくれたまえ。これでも電脳戦なら私と同等かそれ以上なんだ』

 へぇ、そうなんだ。
 ナナちゃんも納得してくれたし、後は適当に丸め込んで解決だな。

「今、フェクトム総合学園に潜伏しているのはイレギュラーがどこで起きても良いように見張るためなんだ。一般生徒という仮面は動きやすいからねぇ。だから、私は那滝ケイとして行動する。君も、那滝ケイとして接してくれると助かるよ」
「わかりました。貴女は那滝ケイです故」
「あ、那滝ケイは男で認識されているからよろしく」
「何故ですか? 潜伏するだけなら女子生徒でも良いのでは?」
「…………いざこの学園を去る時に、性別の情報すら残さない為だねぇ。わかってくれるね?」

 ナナちゃんは暫く考えて頷いた。

「確かに、演算によるとその方が追われにくいです故。流石姉上」
「うんうん、もう聞きたいことはないかな? ないね? それじゃあ、私のマスターに変わろうねぇ」

 星詠みの杖君、俺に押し付けたよね?

『今までも喋っていたのは君なんだから変わりないだろう。後はもう、那滝ケイで頼む』

 星詠みの杖君の代わりに、俺はすっと表情を変えて口を開いた。

「話は出来たかしら」
「はい。えっと、今は那滝ケイですか」
「そうよ。でも、この姿ならソルシエラの方が適切ね」
「成程。わかりました。今後はそう呼びます故」

 ナナちゃんはぺこりと頷く。
 そして、俺を見て首を傾げた。

「今から、どちらに行かれるのですか?」
「少し、やり残した事があるのよ」
「私も手伝いましょうか? 演算でのサポートも、戦闘も可能です故」
「大丈夫よ、ありがとう」

 俺はナナちゃんの頭を優しく撫でる。
 ナナちゃんは困惑した様子だったが、されるがままになっていた。

「……なぜ、頭を撫でるのですか?」
「そうしたいから。それに、貴女はもうフェクトム総合学園の仲間なのでしょう。なら、仲良くしましょうね」

 俺の言葉にナナちゃんは再び首を傾げる。

「仲間ですか」
「そうよ。今はわからなくても、いずれわかるわ。あの場所は、暖かい。そう……私には勿体ないくらいに」

 ちょいとミステリアス美少女の要素も入れて、俺はふっと悲しそうに目を伏せて笑う。
 それから、ナナちゃんが何かを言う前に背を向けて転移魔法陣へと踏み出した。

「それじゃあ、行ってくるわ。絶対に誰にも言ってはいけないから」
「はい。わかりました」

 ナナちゃんの言葉に「いい子ね」と俺はお姉さん風をビュンビュンに吹かせながら魔法陣を潜った。

 よーし、御景学園に行くぞぉ!
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