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二章 蒼星の少女

第67話 戦争と手助け

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 四大校。
 それは、学園都市において時に国家すら凌ぐ権力を持つ最高峰の力を有する学園の総称である。
 御景学園、騎双学園、千界学園、ジルニアス学術院。
 この四つの学園は、現代ダンジョンによって多くの聖遺物、そして探索者を保有する最小の国家とすら呼べるだろう。

 故に、四大校同士は争う事を避けるのが、暗黙の了解である。
 巨大な学園同士の争いは、学園都市の存在を揺るがしかねないからだ。
 
 もしも、争いがひとたび起これば、それは今までの均衡が崩れる事を意味する。

「……御景学園が、ウチになんのようだ」

 騎双学園風紀委員会、副委員長である叉上チアキは乱入した相手が御景学園の生徒であると知ると、残った風紀委員全員の行動を停止させた。
 相手の攻撃が読めないため下手に動く事ができないのもそうだが、それ以上に御景学園の生徒と戦うという構図が良くない。

「アタシの目的はソッチの弱小学園の生徒なんだが? 確か、フェクトム総合学園だったか? そいつらは中央区の重要な実験施設に侵入した疑いがあるんだ。拘束させて貰う」
「それはできない相談だね」

 黒髪の男子生徒は人の良い笑みを浮かべて白い太刀を構える。
 それが答えだった。

「わかってんのか。ここでアタシらがやり合えば学園同士の均衡が崩れる。こっちもアンタの所に侵攻する口実が手に入るんだぞ」
「最初っからそのつもりよ。それに、大義名分はこちらにあるわ」

 男子生徒の隣にいた少女はそう言って、ダイブギアを操作して一つの書類をウィンドウに展開した。

「これは騎双学園が違法な人体実験を行っていた証拠よ。他校から生徒を誘拐して人体実験をするなんて、流石に調子に乗り過ぎよね?」
「……ちっ、上がしくじったのかよ」

 チアキにはそれが何か詳しい事はわからない。 
 が、上で行われている非合法な何かが明るみに出たのだという事は理解した。

「だが、それでアンタらが動く意味がわからねえな。いつから御景学園は警察気取りなんだ? そんな奴らを庇って何になるんだよ」

 騎双学園の悪事は今に始まった事ではない。
 他学園は、糾弾する事はあっても直接介入する事は今までなかった。
 そうするだけの口実を作らせないように立ちまわってきたからだ。

 チアキの言葉に、待ってましたと言わんばかりに少女は笑う。

「アンタらは今回の件でウチの生徒も襲ったでしょう? 喧嘩売ってきたのはソッチが先なんだから」

 そう言って、指さされた方向には蒼銀の髪の男子生徒がいた。
 制服からして、フェクトム総合学園の生徒だろう。

「……は?」
「そこの那滝ケイは、御景学園の生徒よ。今はフェクトム総合学園の生徒だけど、、本当にに、まだウチの学籍データもあるのよねー。いやぁ、まいったまいった。消去し忘れたらしいわー」
「お前ら、まさか……」

 チアキはすぐに何が起きたかを理解した。
 フェクトム総合学園の生徒であると同時に、御景学園の生徒でもある青年の存在。

 そんな人間を自治区内で攻撃したらどうなるのか。

「アイツを口実に戦争を始める気か!?」
「そういう事」

 パンと、チアキの傍にいた風紀委員が撃ち抜かれ倒れる。

「最初は動くことはできなかったけれど、プロフェッサーの偉そうな音声データとウチの那滝ケイを助けるという口実がある今は違う。そうでしょう、生徒会役員さん」
「うん、そうだね。じゃあ、改めて――生徒会会計、牙塔トウラクだ。今より、御景学園は騎双学園との四大校同盟を破棄する」
「自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
「わかっているよ。いずれ、君たちは倒さなければいけないとは思っていたんだ。それに、生徒会長も納得してくれた」

 トウラクは太刀を構える。
 
 チアキは慌てて槍を構えるが、次の瞬間には自分以外の風紀委員は全員が地面に倒れ伏していた。
 衝撃も、風も、何もない。
 ただ、一度風を切る音が聞こえただけだ。
 それだけで、風紀委員会は壊滅したのである。

「うーん、まだ切れるのはCランクまでだね」
「っ、くそ何をしたんだ……、こんな、こんなぁ!」

 半狂乱になったチアキが叫ぶ。 そして突撃しようとしたその時だった。

「駄目ですよ。落ち着いて落ち着いてー」

 いつの間にかそこにいた、少女がチアキの肩を叩く。
 突然の事に体を震わせたチアキはその少女の顔を見て、安堵した。

「キラク委員長!」
「はいはい、チアキの大好きな風紀委員長の、キラクですよー」

 長い黒髪が月夜に美しく輝く様は、大和撫子を体現したかのような彼女の佇まいに相応しい。
 チアキの頭を撫でると、キラクはトウラクを見て優雅に笑った。

「あっちがドンパチやりたいって言ってんだから、遠慮せずに殺せばいいんですよ。言葉で納得させようなんて、甘ちゃんですね」
「キラク委員長!?」
 
 キラクはダイブギアから一本の薙刀を顕現させると舞うように構える。

「そもそも私も気に入らなかったんですよねー、御景学園。どうやら、牙塔一族の出来損ないを生徒会に入れたらしいじゃないですか」
「……キラク姉さん」
「薄い血の繋がりだけで姉呼びしないでくれます? 分家の失敗作風情が」
「あれ? キラク委員長、本当に戦うんですか? だって、そうしたらアタシらマジで戦争っすよ?」

 キラクはチアキを見て、ニッコリと笑う。

「間もなく、風紀委員の本隊も到着します。楽しくなりそうですね」
「嫌ぁ……六波羅先輩がいないといっつもこうなるぅ……」

 泣きそうな顔のチアキと、嬉しさが抑えきれていないキラクを見てトウラクは背後にいるフェクトム総合学園の生徒たちへと言った。

「聞いた通り、今から御景学園と騎双学園の戦いになる。君たちの行いはこの大きな争いの中で有耶無耶になるだろう」
「……ありがとう、助かった」

 ミズヒの言葉に、トウラクは背を向けたまま頷く。

「……これなら、助けたことにはならないよね。ケイ君」

 ケイは何も答えない。
 ただ、一度トウラクとミハヤを見ると、仲間をゲートへと促し、自分もその向こうへと消えていった。

「よし、行ったわね」
「……ケイ君に、勝手なことしたって嫌われるかな」
「は? 何? アンタ、アイツの事が気になってんの? 私がいるのに?」

 キッと睨まれて、トウラクはデモンズギアの契約者としての身体能力をフルに活用して目を逸らす。

「いや、そんなんじゃないよ。ただ……助けるような行動はあの子を傷つけるような気もして」
「考えすぎでしょ。そもそも、ソルシエラとかいう御大層な名前で六波羅とドンパチやってる時点でそんなの気にする奴じゃないでしょ、アイツ」
「……そうかなぁ」
「そうそう。それにしても……また揶揄いそびれたわ。あのゴスロリ衣装は趣味ですかって」
「絶対止めてね? フェクトム総合学園の皆には正体を隠しているみたいだし」
「じゃあ、いない所で揶揄ってやろ」

 いたずらっ子のように笑ったミハヤは、そのまま不意打ち気味にキラクへと一撃を放った。
 が、銃弾はキラクの眼前で停止すると、地面に軽い音を立てて転がる。

「聞いてた通り、面倒な能力ね」
「自分の周囲の加速と減速を操る能力だ。気をつけて、ミハヤ。あの人は牙塔の一族でも上位に位置する」

 キラクはニコニコと笑って、薙刀を構える。

「あら、上位だなんてそんな。牙塔の家に生まれたからには意地でも最強を名乗るものですよ。ほら、チアキも」
「……ええい、もう知らねえ! やってやらァ!」

 やけくそに槍を構えたチアキは、真っ先に駆け出した。

「僕が先陣を斬る。ミハヤは援護を」
「任せなさい!」

 御景学園と騎双学園。
 二つの巨大校の争いは、こうして始まった。
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