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二章 蒼星の少女
第66話 逃走と計画
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実験記録の回収も完了!
既に皆逃げ出して、もぬけの殻だったぜ!
『ははは、こんな杜撰なセキュリティで私を防げるわけがないだろう! データは全部貰っていこうねぇ^^』
星詠みの杖君の助けもあって、俺は無事に御景学園へ献上するデータを手に入れた。
後は、先輩方と合流するだけである。
俺は最初にミズヒ先輩達と別れた場所にたどり着いた。
六波羅さんがそれはもう暴れ散らかしたので、瓦礫でぐちゃぐちゃになっている。
うーん、この辺かな?
『それじゃあスーパーミステリアス美少女は解除するとしようか。後は君が那滝ケイとして頑張るといい』
パッと衣装が散り、俺は元の制服に戻る。
六波羅さんとの戦いで所々が破れているがこれでは足りない。
もっと激しい戦闘があったように演出しなければ。
ビリビリと、制服をいい感じに裂いて、瓦礫でちょいちょいと傷を作る。
ははは、今はこの痛みすら心地よい。
そして最後に壁にもたれかかって俯くように座れば完璧だ。
これで俺は激戦を潜り抜けた事になるだろう。
『む、そろそろ来るねぇ。……ん? あれ、なんか多いような』
そりゃミロク先輩の分もあるんだから、行きより数は多いでしょ。
ははは、星詠みの杖君さぁしっかりしてくれよなぁ。
おっちょこちょいな星詠みの杖君を揶揄いながら待っていると、やがて俺の方へと複数の足音が聞こえてきた。
「――ケイ!」
ミズヒ先輩の声だ。
だが、ここで返事をしてはいけない。
今までは気絶していた感じにして、起こして貰わなきゃ。
「しっかりしろ!」
肩を揺らされ、俺は今まさに目覚めた様に眼を開いた。
「……っ、ぁ、ミズヒ先輩」
「大丈夫か、ケイ!」
「はい。……な、なんとか」
そう言って顔を上げる。
うおっ、ミズヒ先輩が近い!
顔が良い……。
「六波羅相手によく持ちこたえたな」
「と、途中で、ソルシエラが乱入して……それでなんとか」
「……そうか、ここにもソルシエラが来たんだな」
俺は頷く。
それから後ろの二人を見た。
俺が無事で安心した表情のトアちゃんと、自分のせいで傷ついたのだと罪悪感を感じていそうな顔のミロク先輩がそこにはいた。
「ケイ君」
ミロク先輩は、俺を見ると頭を下げた。
「すみませんでした。私、一人で勝手に無茶して、皆を巻き込んで……」
「そんな、謝罪なんていいですよ!」
謝罪など不要である。
むしろ、あんな良い物をただで見てごめんなさいと、こっちが言うべきなのだ。
そうして頭を上げる様に言おうとしたその時だった。
「頭をあげ――」
ミロク先輩が頭を下げた事で、彼女の背中にしがみついていたソレと眼が合う。
不思議そうに顔を覗かせている翡翠色の髪の幼女がそこにいた。
…………ん!?!?!?!?!
『あっ、シエル……』
だよね!?
あれって、さっきいたデモンズギアだよね?
え、なんで連れてきたの!?
既にフェクトム総合学園にはとんでもねえデモンズギアが一機あるのに、どうして増やしたの!?
『えへへ、照れるねぇ』
今は誉めてねえよ!
厄ネタカウントで言ってんだよ!
しかもよりによって俺が知らないデモンズギアだし……。
というか、ミロク先輩が触っちゃってるじゃない!
「み、ミロク先輩! そ、その後ろの……!」
「ああ、ナナちゃんの事ですか」
ミロク先輩は平気そうに笑って、ナナちゃんと呼ぶその子を俺に見せてきた。
「この子は……まあ、色々あって連れてきました」
「えぇ……」
絶対に駄目だよぉ。
だって、デモンズギアだよそれ?
「あ、そろそろですね」
ん? ミロク先輩? アタッシュケースを開いてどうしたの?
……ミロク先輩!? なんで注射器を取り出したのミロク先輩!?
「えい」
「えっ」
ミロク先輩はそれを慣れた様に腕に突き刺した。
そして、これまた慣れた様に液体を注入し終えると、アタッシュケースを閉じる。
「……え? え、え?」
「私も最初は驚いた。が、もう三回も見せられたら慣れた」
「私はまだ……。注射って怖いし……」
俺がデータ盗んでいる間に何があったんだよ。
「ケイ君にもいずれ説明します。今は、この子もフェクトム総合学園の生徒であるとだけ理解してください」
「……成程、わかりました」
まあ、美少女が増えるなら良いか……。
「ナナちゃん、簡単に自己紹介できますか?」
ミロク先輩の言葉に、ナナちゃんは首をかしげる。
というか、どうしてナナちゃん呼びなんですか。シエルでしょ、その子の本名。
「必要ですか? あの人は私の事は知っているため不要です故」
え?
ナナちゃんは俺を見て、すっと眼を細める。
「姉上、久しぶりです。先程は挨拶もできませんでした故……」
「は?」
その場の空気が固まった。
全員の視線がこちらを向いている。
『あ、バレてるねぇ』
どうすんだよ!
何この正体バレ!? すっごいダサいよ?
うおおお、言い訳をしなければァ!
「……姉上っていうのはソルシエラの事かな」
「はい。私にとっての姉は、原初の一機であるソルシエラだけです故」
「……俺は違うよ。それは、あれだ、ああ、少し前にソルシエラがここに来て戦ったんだよ」
俺は眼をぐるぐるに、脳をギュルンギュルン回転して口を開く。
「その時に、沢山の砲撃魔法を放っていてね。その近くにいたから彼女の魔力を浴びてしまったんだ。君が勘違いしているのはそういう事なんじゃないかな?」
再び、その場に沈黙が訪れる。
どうだ、いけたか?
「……びっくりしたぁ。そうだよね! そもそもケイ君はここで気を失っていたんだもんね」
純真無垢なトアちゃんが最初にホッとした様子で言った。
それに釣られるように他の二人も表情を和らげる。
星詠みの杖君! 今のうちに隠れて隠れて!
『あとはがんばってー』
他人事だと思って適当な事を……。
「確かに、さっきソルシエラが乱入してきたと言っていたな」
「はい……。どうやら、狙いは六波羅の持つデモンズギアだったようで。俺を置いて二人はすぐに外へと出ていってしまいましたが」
俺はすかさずミズヒ先輩の話に乗り、壁に空いた穴を指さす。
それから、ナナちゃんが言葉を続ける隙を与えずに立ち上がって言った。
「で、ですので今の騎双学園はかなり滅茶苦茶になっています! 今のうちに脱出しましょう!」
「……ですが姉う「脱出しましょう! ええっと、ナナちゃんだっけ? これからよろしくね!」……はい」
「うん、そうだね。早く逃げよう!」
俺の言葉に、トアちゃんが頷く。
こういう時、真っ先に意見に賛成してくれるから本当にチョロ……じゃなくて助かるねぇ。
■
騎双学園の中央区は、観光客もそこそこ来ることから外へのゲートが近い。
一度、ゲートを出てしまえばあとは学園都市ヒノツチの自治区である。
戦闘禁止区でもアリアンロッドでも逃げ込んでしまえばそれで良い。
という事で、そこまで逃げ切ることが出来るのかが問題である。
その際に懸念すべき点は、騎双学園の治安維持のために存在する二つの存在だ。
一つは、執行官の肩書きを持つ六波羅さん。
あの人は、学園都市が直々に与えた権力によって、自己判断で他校の生徒であろうと捕まえられるし、他の学園区域での活動も認められている。
正直、この人が一番厄介。なので丁寧に対処したのだ。
麻痺毒がなかったらたぶん今頃復活して俺達を追いかけてきているだろう。
そして二つ目は騎双学園風紀委員会。
これは自治区内でのみ力を持つ治安維持組織である。
ゲートを抜ければこっちのもんだ。
つまり現状、俺達の障害となるのはこの風紀委員会だけであった。
そして、今まさにその風紀委員会に追われています。
助けてください。
「足を止めるな!」
「はい!」
俺達は、騎双学園の区内を爆走している際中である。
騒ぎを聞き駆けつけた風紀委員会が俺達を見つけるのにそう時間がかかる訳もなく、すぐに見つかって追われていた。
「ナナちゃん、舌を噛まないでくださいね!」
「問題ありません。私は単体でもある程度の戦闘が可能です故。このような揺れにも対処がかびゅっ……噛みました故」
「だ、大丈夫?」
トアちゃんが心配そうに声を掛ける。
意外と余裕あるなこの人たち。
流石は探索者だ。
スポーツ選手顔負けのお化けスタミナに、自動車と並走できる速度と鬼ごっこレベルが高い。
「ひいっ、撃ってきたぁ!」
が、こっちが探索者ならあっちも探索者である。
しかも、探索者同士のいざこざの解決をする風紀委員会。
実力はある。なんなら、俺の眼には原作キャラの一人である風紀委員会の副委員長の姿が見えている。
トウラク君達なら問題ないだろうけど、今の俺達には厄介極まりない。
「……燃やすか?」
「足止め自体が狙いの可能性もあります。ここは走るべきです」
「そ、それにミズヒちゃんもう限界でしょ? あんなのそうポンポン使えない筈だし」
「むぅ」
不満げな様子だったが、ミズヒ先輩は渋々納得してくれた。
うんうん、いざとなったら俺がソルシエラになるしね。
それと、フェクトム総合学園と騎双学園での戦争は流石に分が悪い。
今はまだ非合法な実験から仲間を連れ戻したという大義名分や、ソルシエラの出現で有耶無耶になっているが、風紀委員会と本気でやり合ったらそれは騎双学園に口実を与えてしまう。
つまり、逃げるしかないのだ。
「……そうだな。予定を狂わせるわけにもいかん」
ミズヒ先輩はそう呟く。
ん? 何か、俺の知らないところで始まってる?
最近、俺の知識役に立ってなくない?
俺がミズヒ先輩に問い掛けようとしたその時だった。
『そうそう、予定通り。無駄な行動は止めてよねー』
どこからか声が聞こえた。
いや、正確にはミズヒ先輩のダイブギアからだ。
ミズヒ先輩は、走りながらダイブギアを操作するとウィンドウを横に展開させる。
そこに見覚えのある顔が出現した。
「いつから私達の会話を聞いていたんだ、リンカ」
リンカは俺達を見て『やだなぁ、まるで盗み聞きしていたみたいに』と笑う。
『辺り一帯の監視カメラにハッキ……まあ、ちょっと細工をしましてね? 情報を逐次集めていた訳よ。それでたまたま音声を拾ったからさ』
ハッキングって言った? 騎双学園の物にハッキングしかけたの?
「計画は順調だ。最初に想定していたプランAで問題ないだろう」
『うんうん、見てたよ。君がボロボロになった時はどうしようって思ったけどね。トウラクなんて、今すぐに行くって言って止めるの大変だったんだから』
「心配かけた」
『ははは、私は心配してないよ。助けるって決めたんでしょう? ならやり遂げるってわかってたから』
リンカとミズヒ先輩は同時にふっと微笑む。
これは何? という視線をトアちゃんに送ると、彼女も安心したように笑っている。
それを見て、俺とミロク先輩はただポカンとするしかなかった。
「ミズヒ先輩……これはどういう事ですか」
「今回のミロク奪還作戦は、協力者がいた。いや、協力者というよりは協力した学園というべきか」
『そうそう。久しぶりだね、那滝ケイ君』
「…………久しぶり」
メッチャ圧かけられてる。
やばい、メッチャこっち見てる。
『私たちは、一つの取引をした。互いに得をするグッドな取引をね。それで完璧に計画を遂行するために各々に役割りを与えたんだ』
「私たちの役目はミロクを救い出す事。あるいは、あの場所にたどり着くこと。だが、今回は想定する中でも最良の結果を得られた。……ソルシエラがいなければ危うかったがな」
『ああ、アレは想定内の変数だったよ。ソルシエラが干渉するのは予想できた』
そう言ってリンカはわざとらしくニッコリと笑う。
ひぃ、またこっち見てるぅ。
『君たちは完璧に役割りを果たしてみせた。後は、こっちの番。……そうだよね、二人とも』
リンカの言葉に、一発の銃声が答えた。
撃ち抜かれた風紀委員が、一人地面に崩れ落ちる。
突然の反撃に彼等は足を止めて警戒するが、その風紀委員の殆どが次の瞬間にその場に倒れた。
まるで意識でも失ったかのように、崩れ落ちる風紀委員達。
その光景には見覚えがある。
意識に対する切断干渉。
彼が最も得意とする相手を傷つけずに勝つ手段。
「――ああ、ここからが僕達の仕事だ」
俺達を守るように、二つの影が降り立つ。
使い捨ての転移魔法だろうか。
俺達を見ていたからこそのタイミングでやってきたその背に、俺は見覚えがあった。
「……トウラク、ミハヤ」
「ケイ君待たせたね」
「別に、待っていたような顔じゃないけどね。でも、その驚いた顔、気分が良いわ」
牙塔トウラクと双葉ミハヤ。
後に、御景学園の最高戦力と呼ばれる二人は、まるで友を助けるかのようにその場に現れた。
なんで?????
既に皆逃げ出して、もぬけの殻だったぜ!
『ははは、こんな杜撰なセキュリティで私を防げるわけがないだろう! データは全部貰っていこうねぇ^^』
星詠みの杖君の助けもあって、俺は無事に御景学園へ献上するデータを手に入れた。
後は、先輩方と合流するだけである。
俺は最初にミズヒ先輩達と別れた場所にたどり着いた。
六波羅さんがそれはもう暴れ散らかしたので、瓦礫でぐちゃぐちゃになっている。
うーん、この辺かな?
『それじゃあスーパーミステリアス美少女は解除するとしようか。後は君が那滝ケイとして頑張るといい』
パッと衣装が散り、俺は元の制服に戻る。
六波羅さんとの戦いで所々が破れているがこれでは足りない。
もっと激しい戦闘があったように演出しなければ。
ビリビリと、制服をいい感じに裂いて、瓦礫でちょいちょいと傷を作る。
ははは、今はこの痛みすら心地よい。
そして最後に壁にもたれかかって俯くように座れば完璧だ。
これで俺は激戦を潜り抜けた事になるだろう。
『む、そろそろ来るねぇ。……ん? あれ、なんか多いような』
そりゃミロク先輩の分もあるんだから、行きより数は多いでしょ。
ははは、星詠みの杖君さぁしっかりしてくれよなぁ。
おっちょこちょいな星詠みの杖君を揶揄いながら待っていると、やがて俺の方へと複数の足音が聞こえてきた。
「――ケイ!」
ミズヒ先輩の声だ。
だが、ここで返事をしてはいけない。
今までは気絶していた感じにして、起こして貰わなきゃ。
「しっかりしろ!」
肩を揺らされ、俺は今まさに目覚めた様に眼を開いた。
「……っ、ぁ、ミズヒ先輩」
「大丈夫か、ケイ!」
「はい。……な、なんとか」
そう言って顔を上げる。
うおっ、ミズヒ先輩が近い!
顔が良い……。
「六波羅相手によく持ちこたえたな」
「と、途中で、ソルシエラが乱入して……それでなんとか」
「……そうか、ここにもソルシエラが来たんだな」
俺は頷く。
それから後ろの二人を見た。
俺が無事で安心した表情のトアちゃんと、自分のせいで傷ついたのだと罪悪感を感じていそうな顔のミロク先輩がそこにはいた。
「ケイ君」
ミロク先輩は、俺を見ると頭を下げた。
「すみませんでした。私、一人で勝手に無茶して、皆を巻き込んで……」
「そんな、謝罪なんていいですよ!」
謝罪など不要である。
むしろ、あんな良い物をただで見てごめんなさいと、こっちが言うべきなのだ。
そうして頭を上げる様に言おうとしたその時だった。
「頭をあげ――」
ミロク先輩が頭を下げた事で、彼女の背中にしがみついていたソレと眼が合う。
不思議そうに顔を覗かせている翡翠色の髪の幼女がそこにいた。
…………ん!?!?!?!?!
『あっ、シエル……』
だよね!?
あれって、さっきいたデモンズギアだよね?
え、なんで連れてきたの!?
既にフェクトム総合学園にはとんでもねえデモンズギアが一機あるのに、どうして増やしたの!?
『えへへ、照れるねぇ』
今は誉めてねえよ!
厄ネタカウントで言ってんだよ!
しかもよりによって俺が知らないデモンズギアだし……。
というか、ミロク先輩が触っちゃってるじゃない!
「み、ミロク先輩! そ、その後ろの……!」
「ああ、ナナちゃんの事ですか」
ミロク先輩は平気そうに笑って、ナナちゃんと呼ぶその子を俺に見せてきた。
「この子は……まあ、色々あって連れてきました」
「えぇ……」
絶対に駄目だよぉ。
だって、デモンズギアだよそれ?
「あ、そろそろですね」
ん? ミロク先輩? アタッシュケースを開いてどうしたの?
……ミロク先輩!? なんで注射器を取り出したのミロク先輩!?
「えい」
「えっ」
ミロク先輩はそれを慣れた様に腕に突き刺した。
そして、これまた慣れた様に液体を注入し終えると、アタッシュケースを閉じる。
「……え? え、え?」
「私も最初は驚いた。が、もう三回も見せられたら慣れた」
「私はまだ……。注射って怖いし……」
俺がデータ盗んでいる間に何があったんだよ。
「ケイ君にもいずれ説明します。今は、この子もフェクトム総合学園の生徒であるとだけ理解してください」
「……成程、わかりました」
まあ、美少女が増えるなら良いか……。
「ナナちゃん、簡単に自己紹介できますか?」
ミロク先輩の言葉に、ナナちゃんは首をかしげる。
というか、どうしてナナちゃん呼びなんですか。シエルでしょ、その子の本名。
「必要ですか? あの人は私の事は知っているため不要です故」
え?
ナナちゃんは俺を見て、すっと眼を細める。
「姉上、久しぶりです。先程は挨拶もできませんでした故……」
「は?」
その場の空気が固まった。
全員の視線がこちらを向いている。
『あ、バレてるねぇ』
どうすんだよ!
何この正体バレ!? すっごいダサいよ?
うおおお、言い訳をしなければァ!
「……姉上っていうのはソルシエラの事かな」
「はい。私にとっての姉は、原初の一機であるソルシエラだけです故」
「……俺は違うよ。それは、あれだ、ああ、少し前にソルシエラがここに来て戦ったんだよ」
俺は眼をぐるぐるに、脳をギュルンギュルン回転して口を開く。
「その時に、沢山の砲撃魔法を放っていてね。その近くにいたから彼女の魔力を浴びてしまったんだ。君が勘違いしているのはそういう事なんじゃないかな?」
再び、その場に沈黙が訪れる。
どうだ、いけたか?
「……びっくりしたぁ。そうだよね! そもそもケイ君はここで気を失っていたんだもんね」
純真無垢なトアちゃんが最初にホッとした様子で言った。
それに釣られるように他の二人も表情を和らげる。
星詠みの杖君! 今のうちに隠れて隠れて!
『あとはがんばってー』
他人事だと思って適当な事を……。
「確かに、さっきソルシエラが乱入してきたと言っていたな」
「はい……。どうやら、狙いは六波羅の持つデモンズギアだったようで。俺を置いて二人はすぐに外へと出ていってしまいましたが」
俺はすかさずミズヒ先輩の話に乗り、壁に空いた穴を指さす。
それから、ナナちゃんが言葉を続ける隙を与えずに立ち上がって言った。
「で、ですので今の騎双学園はかなり滅茶苦茶になっています! 今のうちに脱出しましょう!」
「……ですが姉う「脱出しましょう! ええっと、ナナちゃんだっけ? これからよろしくね!」……はい」
「うん、そうだね。早く逃げよう!」
俺の言葉に、トアちゃんが頷く。
こういう時、真っ先に意見に賛成してくれるから本当にチョロ……じゃなくて助かるねぇ。
■
騎双学園の中央区は、観光客もそこそこ来ることから外へのゲートが近い。
一度、ゲートを出てしまえばあとは学園都市ヒノツチの自治区である。
戦闘禁止区でもアリアンロッドでも逃げ込んでしまえばそれで良い。
という事で、そこまで逃げ切ることが出来るのかが問題である。
その際に懸念すべき点は、騎双学園の治安維持のために存在する二つの存在だ。
一つは、執行官の肩書きを持つ六波羅さん。
あの人は、学園都市が直々に与えた権力によって、自己判断で他校の生徒であろうと捕まえられるし、他の学園区域での活動も認められている。
正直、この人が一番厄介。なので丁寧に対処したのだ。
麻痺毒がなかったらたぶん今頃復活して俺達を追いかけてきているだろう。
そして二つ目は騎双学園風紀委員会。
これは自治区内でのみ力を持つ治安維持組織である。
ゲートを抜ければこっちのもんだ。
つまり現状、俺達の障害となるのはこの風紀委員会だけであった。
そして、今まさにその風紀委員会に追われています。
助けてください。
「足を止めるな!」
「はい!」
俺達は、騎双学園の区内を爆走している際中である。
騒ぎを聞き駆けつけた風紀委員会が俺達を見つけるのにそう時間がかかる訳もなく、すぐに見つかって追われていた。
「ナナちゃん、舌を噛まないでくださいね!」
「問題ありません。私は単体でもある程度の戦闘が可能です故。このような揺れにも対処がかびゅっ……噛みました故」
「だ、大丈夫?」
トアちゃんが心配そうに声を掛ける。
意外と余裕あるなこの人たち。
流石は探索者だ。
スポーツ選手顔負けのお化けスタミナに、自動車と並走できる速度と鬼ごっこレベルが高い。
「ひいっ、撃ってきたぁ!」
が、こっちが探索者ならあっちも探索者である。
しかも、探索者同士のいざこざの解決をする風紀委員会。
実力はある。なんなら、俺の眼には原作キャラの一人である風紀委員会の副委員長の姿が見えている。
トウラク君達なら問題ないだろうけど、今の俺達には厄介極まりない。
「……燃やすか?」
「足止め自体が狙いの可能性もあります。ここは走るべきです」
「そ、それにミズヒちゃんもう限界でしょ? あんなのそうポンポン使えない筈だし」
「むぅ」
不満げな様子だったが、ミズヒ先輩は渋々納得してくれた。
うんうん、いざとなったら俺がソルシエラになるしね。
それと、フェクトム総合学園と騎双学園での戦争は流石に分が悪い。
今はまだ非合法な実験から仲間を連れ戻したという大義名分や、ソルシエラの出現で有耶無耶になっているが、風紀委員会と本気でやり合ったらそれは騎双学園に口実を与えてしまう。
つまり、逃げるしかないのだ。
「……そうだな。予定を狂わせるわけにもいかん」
ミズヒ先輩はそう呟く。
ん? 何か、俺の知らないところで始まってる?
最近、俺の知識役に立ってなくない?
俺がミズヒ先輩に問い掛けようとしたその時だった。
『そうそう、予定通り。無駄な行動は止めてよねー』
どこからか声が聞こえた。
いや、正確にはミズヒ先輩のダイブギアからだ。
ミズヒ先輩は、走りながらダイブギアを操作するとウィンドウを横に展開させる。
そこに見覚えのある顔が出現した。
「いつから私達の会話を聞いていたんだ、リンカ」
リンカは俺達を見て『やだなぁ、まるで盗み聞きしていたみたいに』と笑う。
『辺り一帯の監視カメラにハッキ……まあ、ちょっと細工をしましてね? 情報を逐次集めていた訳よ。それでたまたま音声を拾ったからさ』
ハッキングって言った? 騎双学園の物にハッキングしかけたの?
「計画は順調だ。最初に想定していたプランAで問題ないだろう」
『うんうん、見てたよ。君がボロボロになった時はどうしようって思ったけどね。トウラクなんて、今すぐに行くって言って止めるの大変だったんだから』
「心配かけた」
『ははは、私は心配してないよ。助けるって決めたんでしょう? ならやり遂げるってわかってたから』
リンカとミズヒ先輩は同時にふっと微笑む。
これは何? という視線をトアちゃんに送ると、彼女も安心したように笑っている。
それを見て、俺とミロク先輩はただポカンとするしかなかった。
「ミズヒ先輩……これはどういう事ですか」
「今回のミロク奪還作戦は、協力者がいた。いや、協力者というよりは協力した学園というべきか」
『そうそう。久しぶりだね、那滝ケイ君』
「…………久しぶり」
メッチャ圧かけられてる。
やばい、メッチャこっち見てる。
『私たちは、一つの取引をした。互いに得をするグッドな取引をね。それで完璧に計画を遂行するために各々に役割りを与えたんだ』
「私たちの役目はミロクを救い出す事。あるいは、あの場所にたどり着くこと。だが、今回は想定する中でも最良の結果を得られた。……ソルシエラがいなければ危うかったがな」
『ああ、アレは想定内の変数だったよ。ソルシエラが干渉するのは予想できた』
そう言ってリンカはわざとらしくニッコリと笑う。
ひぃ、またこっち見てるぅ。
『君たちは完璧に役割りを果たしてみせた。後は、こっちの番。……そうだよね、二人とも』
リンカの言葉に、一発の銃声が答えた。
撃ち抜かれた風紀委員が、一人地面に崩れ落ちる。
突然の反撃に彼等は足を止めて警戒するが、その風紀委員の殆どが次の瞬間にその場に倒れた。
まるで意識でも失ったかのように、崩れ落ちる風紀委員達。
その光景には見覚えがある。
意識に対する切断干渉。
彼が最も得意とする相手を傷つけずに勝つ手段。
「――ああ、ここからが僕達の仕事だ」
俺達を守るように、二つの影が降り立つ。
使い捨ての転移魔法だろうか。
俺達を見ていたからこそのタイミングでやってきたその背に、俺は見覚えがあった。
「……トウラク、ミハヤ」
「ケイ君待たせたね」
「別に、待っていたような顔じゃないけどね。でも、その驚いた顔、気分が良いわ」
牙塔トウラクと双葉ミハヤ。
後に、御景学園の最高戦力と呼ばれる二人は、まるで友を助けるかのようにその場に現れた。
なんで?????
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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