上 下
60 / 236
二章 蒼星の少女

第60話 突貫と第二形態

しおりを挟む
 六波羅さんがちゃんと強くて誇らしいよ。
 
 エイナは距離を無視して相手に必中する矢を放つ事ができる。
 これに六波羅さん本体の持つ無敵モードが追加されると手の付けようがない。

 だから、事前に無敵モードを使わせておく必要があったのだ。
 エイナだけなら、対処できそうだからね。

『とはいっても、スーパーミステリアス美少女タイムでなければ難しかっただろうねぇ。エイナはどうやら考えうる限りで最良の契約者を手に入れたようだ。充分に力を使いこなしている』

 流石は六波羅さんやでぇ……。

『どうするんだい? 充分にミステリアス美少女をしたのだからいい加減片付ける? その気があるなら終わらせるが』

 それは六波羅さんに失礼だろ!
 六波羅さんはなぁ、エイナちゃんのためになぁ……!

『勝手に自己完結して感極まって貰っては困る』

 倒して良いなら既に倒しているよ。
 正直、エイナちゃん狙いで永遠に砲撃を続ければ良いわけだし。
 矢だって、気合で耐える。

『気合で……?』
 
 美少女エイナちゃんと六波羅さんの合作の矢だぞ。
 ちょっと刺激的な形をした愛みたいなもんだろ。

 俺はそれを全身で受ける覚悟がある!

『ミステリアス美少女は絶対にそういう事はしないからな』

 わかってる。 
 だから、一度不利な状況っぽく見せて六波羅さんも立ててるんだろうが。
 全部、ミステリアス美少女としての筋書きだよ。

 六波羅さんは原作における最強格のキャラである。
 これから起こる様々な事件に対して「でもそれ六波羅さんで勝てるじゃん」とマジレスされるくらいには強い。

 そんなお方を例えミステリアス美少女と言っても一方的にボコボコにするわけにはいかない。というか、ボコボコにしても最後にはあの人勝ちそうだし。

 ならば、ここで俺が取るべき行動は何か。
 わかるかな、星詠みの杖君。

『うーん、また幻覚でもするかい? 次は本当に』

 え? 君、そういうのもいけるの?
 やば……。

 じゃなくて、ミステリアス美少女はそんな短期間で同じ搦手を二回も使わないんだよ。
 あくまでミステリアス美少女は多くの手札を持って、全ての事象に対してクールに対処しなければならない。
 同時に、六波羅さんの顔を立てる。

 ならば、ここは敵対勢力同士の衝突という形に落ち着けるのが良いだろう。

『敵対勢力……ああ、牙塔トウラクか』

 イエス、その通り。
 トウラク君から見れば、Sランク同士の戦いだ。
 主人公とは関係のない所でぶつかり合う最強同士……いいよね。
 
 これからトウラク君がこの強敵たちと戦うことになるのだという事を読者に知らしめる為のいわばお披露目回。

 勝つのは決まっているが最強議論で「でもアレは初見だったから負けただけで、次は六波羅さんが勝つだろ」という意見を出すように立ちまわる必要があるのだ。

『ふむ、具体的な方法は?』

 まず第二形態を用意します。

『待て待て待て待て、急に変なものを用意するな』
 
 変なものか。
 六波羅さんが初めてソルシエラを第二形態へと変化させるのだ。
 ソルシエラにより本気を出させた六波羅さんの実力が窺えるってものだろ。

 同時に、ミステリアス美少女の底の知れなさをアピール出来る。

『そうか……まあ、確かに?』
 
 というわけで第二形態っぽい雰囲気を出すことにしよう。
 まあ、いつものように口八丁手八丁で、後は魔法陣を豪華にして風起こしたり?

『いや、そんなことするくらいなら契約段階をフェーズ2に上げるさ。ちょっと待ちたまえ』

 待て待て待て待て。
 え? 本当にあるの?
 嘘とかでもなく?

『本来は無いが、君との契約状態がぐちゃぐちゃになっているからねぇ。こうして段階を踏んで上げないと力が解放されないんだ。二度手間だよ、まったく』

 なんかごめんなさい……。
 でも、それならいけそうわよ!

 ミステリアス美少女の第二形態をお披露目するわよ!

『あ!』

 どうした。

『マズい、私たちは一つミスを犯した』

 え、何?
 この完璧絶対無敵究極最強天才ミステリアス美少女がミスを犯した……?

『ああ……第二形態なのに、衣装がない……』

 …………ああああああああああ!
 やっべえ、そうだわ!
 せっかくミステリアス美少女の第二形態なのに、用意がないわよ!
 こんな事なら、昼に適当な衣装を買っておくんだったぁ!

『どうするんだ相棒。せっかく第二形態を披露しても見た目が変わらなきゃパッとしないぞ!』

 えー俺史上、最大のピンチです。
 六波羅さん相手に、新たな力を解放したという事にするならば衣装の変化はしたい。

 見た目が変わる第二形態と変わらない第二形態では、全然意味が違うのだ。

 今後戦うときも「アレは、六波羅との戦いで一度だけ見せた形態……!」とか言われるようにしたい。

 その為に衣装が必須だ。

『……相棒』

 言わずともわかっている。
 今から、用意するんだろ新衣装を……!

『ああ、そうだとも。昼に行った店を覚えているね?』

 勿論。
 
『あそこは電子マネーによる決済が行える。私が君のダイブギアとレジに同時に干渉して、爆速で会計を済ませよう』

 まさかの力技。
 でも、確かにミステリアス美少女は服を盗んだりしない。

『勿論、買い物の時間も書き換える。これにより、いつの間にか買われていた衣装という不思議な状況になるわけだ』

 ミステリアス美少女は買い物すらミステリアスに行うと、そういう事だな!

 よし、では今から俺は六波羅さんの矢を相手にしながらビルをぶち破ってダイナミック買い物を始める。
 
『買うものは演算で私が自動で拡張領域にしまい込む。君はただあの店のエリアを通り抜けるだけで良い』

 なんて頼もしい相棒なんだ……!
 
『ヒノツチPayのキャッシュバックキャンペーンもきちんと対応してあげるからねぇ^^』

 財布にも優しい。
 
 これで心置きなく買い物出来るぜ!

「…………っ」
「おいおい、逃げるのかよォ!」

 ぴゅーと飛んだ俺を見て、六波羅さんは声を上げながら矢を放ってくる。
 俺は無数のビルの間を縫うように進み、旋回し、一本ずつ砲撃で相殺していく。

 一直線にビルに突っ込むと、露骨すぎるしここは何度か遠回りをして……、今です!

 既に六波羅さんがエイナを解放した時に付近のビルの窓ガラスは割れている。
 俺達のいたビルも例外ではなかった。

「っ」
「無駄だ。矢はテメエを必ず貫く」

 ガラスが割れ、枠だけになった場所へと、俺は減速せずに入り込む。
 動体視力が爆上げ中なので、こんな狭い場所もホイホイ潜れちゃうのだ。
 なんなら周りを見渡す余裕すらある。

 あ、このペンダント良いね。
 最後の一個みたいだし買っちゃお。星詠みの杖君、これもこれもー!

『仕方ないねぇ。無駄遣いは推奨しないのだが……はい、買い物は完了したよ。そのまま向こう側に行ってくれ』

 通過した時間は一秒程だろうか。
 しかし、俺は確かに買い物を終えているようだった。残高もたぶん減ってる。
 星詠みの杖君……いくらの服買ったんだろう。

『後で、たくさんダンジョン救援しようねぇ^^』

 おい高いの買っただろお前ェ!

『はっはっは、ミステリアス美少女が安い服買うわけないだろう! そういうギャップ萌えのユーモアはSNSにありがちなキャラ崩壊四コマでしかありえない!』

 君、また勝手にダイブギアに干渉してネットサーフィンしたでしょ?
 急にそういう俗物系の例えとか出すの止めてよね。

 すげえ納得したけどさ。
 
『というわけで、今から拡張領域に入れた新衣装を早着替えできるように新たに魔法式をデザイン込みで組み直すから少し待っていたまえ』
 
 はーい。

 それじゃ、六波羅さんの上でもくるくる飛んでますかね。
 
 俺はビルを抜けてすぐに急上昇。
 追ってくる矢を撃ち抜いて、そのまま六波羅さんを見下ろせる位置へと戻った。

「まさか、逃げ疲れて降伏しにきたのかァ?」
「そんな訳ないじゃない」
「ま、そりゃそうか。今更そんなのしらけるしなァ」

 六波羅さんは矢を再び放ってくる。
 その数、20。
 一秒に放たれたとは思えない圧倒的な数に対して、俺は横に五つの魔法陣を展開して矢を全て迎撃した。

 二つの高密度の魔力がぶつかり合う事で、今日何度目になるかわからない激しい爆発が起こる。

「ははっ、いいねェ」
「……」

 俺は無表情で六波羅さんを見つめた。
 ちなみに何も考えていない。

『よっし、出来たよ! 後は好きにやってくれたまえ』

 流石、仕事が早いね。

 ならば、こちらも行くとしようか!

「っ!」
「来るか、ソルシエラァ!」

 俺は六波羅さんへと向かって飛ぶ。

 迎撃の為に放たれた矢を撃ち落としながら急接近して、俺はわざと大振りに六波羅さんへと切りかかった。

「――当たらねェよ、そんなぬるい攻撃」
「っ」

 大鎌の攻撃を六波羅さんはその場で低く飛んで回避する。
 そして、着地する事無く体を捻りながら俺へと矢を放った。

「お返しだ」

 回避も迎撃も不可能な距離。
 俺は全力で魔力による障壁を作り上げて矢から身を守った。

「誰が一本だけって言ったよォ!」

 矢がさらに放たれる。
 一度、防御にリソースを割けばその分だけ迎撃がおろそかになる。
 やがて、俺は無数の矢によって障壁を破られようとしていた。

「……」
「だんまりかァ? なら、これで終いだァ!」

 最後に一際強く魔力が込められた矢が放たれた。

 今までで一番大きな輝きを放つ矢は、俺へのトドメとしては相応しいだろう。

 そう、あくまで今は六波羅さんのターン。
 六波羅さんの強さを立てるシナリオである。

 ここまでは優勢にさせておいて構わない。

「っ!?」

 最後の一矢により、障壁ごと激しい爆発が起きる。
 というか、起こした。

 辺りを黒煙が包み込み、視界が一時的に制限される。

『風、行きまーす。5、4、3、2……』

 相棒の声がカウントダウンを始める。

 今までは六波羅さんの見せ場。
 
 ここからは、スーパーミステリアス美少女タイムだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...