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二章 蒼星の少女
第59話 戦争と解放
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それは最小の数で行われる戦争であった。
剣戟の音がまるで曲を奏でるように響き渡る。
夜の中央区を、赤い光と銀の流星が縦横無尽に駆けまわっていた。
「はははっ、お前ガチの殺し合いもいけるクチじゃねェか!」
「楽しそうね。私には少し、この曲は退屈なのだけれど」
「ならお望み通り、もっと激しくしてやるよォ!」
激しさを増す戦いは、既にビルを離れ中央区全体に舞台を広げていた。
それもその筈。
Sランクとは、単一で学園以上の力を有する人型の怪物の肩書きである。
であるならば、Sランク同士の戦いはまさに戦争と呼ぶほかない。
「エイナァ、二度と幻覚なんぞに騙されねェように頼むぜェ!」
『はいっ。新たに感知の情報を更新したんで、大丈夫です……たぶん』
「おいおい、そこは自信をもって宣言しろよなァ。まあ、次は幻覚なんぞ見る前にコイツをぶっ潰してやるけどよォ!」
ビルの壁に足をつけて、六波羅は一気に跳躍する。
その反動で、彼の足元のビルは全てのガラスが割れて散った。
ガラスが降り注いだことにより、彼等の争いを見ていた野次馬達から悲鳴が上がる。
が、それは六波羅に取っては気分を上げるための一因にしかならないようだ。
「その野暮ったい服を切り刻んでやるよォ!」
「レディの扱いがなってないのね」
ビル上空に佇むソルシエラに、六波羅は一度の跳躍で肉薄すると腹部目がけて双剣を叩きつけた。
が、それは滑り込むように入れられた大鎌によって受け流される。
「チッ」
「全然ダメね。やり直し」
ソルシエラはお返しと言わんばかりに、六波羅を見ることもせず魔法陣を展開する。
それは収束砲撃を簡易再現した砲門だった。
「テメエも大概じゃねェか!」
空中に身を投げ出した六波羅は砲撃をエイナを使って防ぐ。
が、その砲撃の勢いのままに地面までおよそ三十メートルを一直線に落ちた。
今まで安全だと思っていた場所に六波羅が来たことにより悲鳴が上がり生徒たちが逃げ出す。
人の身体能力を超えた探索者達であっても、Sランク同士の争いは逃げる他ない。
「ははは、見ろよエイナ。こんなに服が汚れちまったなァ。久しぶりだ」
『だ、大丈夫ですか?』
「誰にモノ言ってんだ。たかだかビルの屋上付近から叩き落とされたくらいで人に傷がつくかよ」
『ええ……』
首を鳴らして、上を見る。
が、そこにはソルシエラの姿はなかった。
「あ?」
「――私、激しい曲が好みなの」
背後で冷たい声が聞こえた。
振り向く事無く、六波羅は勘のみで双剣を首元に当てる。
間もなく、甲高い音ともに六波羅の双剣がソルシエラの一撃を防いだ。
「おいおい、そんな見た目でロックが好みか? 人形みてェな恰好してんだから大人しく品の良いクラシックでも聞いてろよ」
「嫌よ、つまらないわ」
双剣が大鎌を上に弾き上げる。
振り向きざまに、六波羅は双剣を振りかぶった。
が、それをブラフとしてその勢いのまま蹴撃を放つ。
顎へと向かったそれは、ソルシエラの展開した障壁により寸前で防がれた。
「……成程ねェ」
六波羅はそのまま距離を詰める。
そして、双剣に蹴撃を交えた超近距離の戦闘へと移行した。
ソルシエラは、それを涼しい顔で避け時に障壁で防ぎながら応戦する。
まるで踊っているかのように一進一退の攻防を続ける二人だったが、最初に動いたのは六波羅だった。
「ほらほらァ、さっきまでの楽しい砲撃はどうしたんだよォ!」
彼の言葉に答えるかのように六波羅へと魔法陣が展開される。
が、それが起動するよりも速く彼は一歩さらに深く踏みこんだ。
放てばソルシエラ自身をも巻き込んでしまう超至近距離。
ソルシエラもそれを理解してすぐに魔法陣を消失させ、回避へと移行した。
後ろへと跳躍しようとするソルシエラだったが、それを読んでいたかのように六波羅は追従する。
「しつこい男は嫌われるわよ」
「昔からこういう質なんだ。悪いな」
再び双剣がソルシエラへと振り下ろされる。
その瞬間、再び魔法陣が展開された。
(さっきの砲撃とは魔法式が違ェな)
一秒にも満たない僅かな時間で、六波羅は魔法陣が異なることを理解する。
(これ、見覚えが――まさかッ)
「エイナァ!」
魔法陣が起動する寸前で、六波羅は叫ぶ。
同時に魔法陣が光り輝いた。
それはまるで目くらましのようにも見えるが、その正体が幻覚を見せる光であることは既に自分の身をもって知っている。
『だ、大丈夫です。今回は、防げました』
「よォし。……だが、また距離が離れちまった」
幻覚を警戒した行動は、そのままソルシエラが動く為の隙となった。
転移魔法によって移動したソルシエラは既に六波羅を見下ろす位置でいくつもの魔法陣を展開している。
『リーダーぁ……』
「あ? 心配すんな。あんなの喰らっても大したことねェよ。それより……勝てるぞ。この戦い」
六波羅は獰猛な笑みを浮かべて双剣を構えた。
『え? お姉様に勝てるんですかぁ!? 私、じゃあ辞世の句を考えなくていいんですね』
「んな事にリソース割いてんじゃねェよ馬鹿。アイツ、強いがそれだけだ。戦い方は素人のソレだぜ」
多くの強者と戦ってきた勘が、告げている。
ソルシエラは生まれながらの強者故に、その強さは完成されていない。
「強いから工夫する意味がねえ。次の手を考えて動く必要がねえ。当然だよな。蟻を踏み潰すのに、技量や思考が必要になることなんざねェんだから」
大量に展開される魔法を前に、六波羅は動かない。
「嫌になるなァ、生まれながらに強い奴ってのは」
次々と起動していく魔法陣。
その中央で、ソルシエラは大鎌の柄の先端を六波羅へと向けて言った。
「星の輝きを知りなさい」
「堕としてやるよ、そんな星」
銀色の閃光が放たれる。
同時に、六波羅を囲むように存在していた大量の魔法陣からも同様の砲撃が放たれた。
かつてウロボロスすら屠って見せた破滅の光を前に、六波羅はただ頭を乱雑に掻く。
そして笑った。
「エイナ、そろそろ捉えただろ」
『はい、リーダー』
赤い光が瞬く。
迫る銀色の光を押しのけるようにそれは輝きを強めていき、最後には全ての収束砲撃を霧散させた。
衝撃で辺りを激しい風が吹き荒れ、周囲のビルの全ての窓ガラスが割れる。
捲れ上がったアスファルトの中心で一人、六波羅はただソルシエラを見上げていた。
「いやァ、久しぶりだぜこの感覚」
六波羅の周囲を魔力が赤い風となって渦巻いていく。
「やっぱ、デモンズギア相手にするならこっちもデモンズギアじゃねェとなァ!」
持っていた双剣の柄を六波羅は一つに繋げた。
かちりと小気味の好い音ともに、双剣が形を変えていく。
それは、六波羅の身長ほどもある大弓だった。
「理事会から限定的には解放していいって言われてんだ。だったらよォ、出し惜しみなんてしちゃァ、失礼だよなァ!」
『――星穿ちへのモード移行完了。い、いつでもいけますよ、リーダー』
大弓に赤い弦が張られる。
六波羅は手の中に魔力を収束させ、それを矢のようにつがえた。
「まずはご挨拶だ」
手が離されると同時に、赤い矢が放たれる。
魔力を凝縮して造られた高密度のエネルギー体であるソレを、ソルシエラは大鎌で受け流すように掬い取って上空へと放った。
が、しかし。
「無駄だ」
「っ!?」
空中へとほうり出された筈の矢が意思を持ったかのように軌道を変えて再びソルシエラへと飛来する。
ソルシエラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに魔法陣からの砲撃で相殺した。
その様子を見て、六波羅は「そうするしかねェよな」と呟く。
「エイナは一度捉えた奴は絶対に逃さねェ。回避なんて、ンなしらける事は許してたまるかよ」
『お姉様相手に押してる……!? い、いけますよリーダーぁ!』
「はしゃぐのは勝ってからにしとけ」
そう言って六波羅は再び弦を引く。
放たれた矢は、ソルシエラへと飛来していき砲撃によって破壊された。
「今から、テメエは俺の矢を一つずつ相手する事になる。回避なんてさせねェ」
大鎌を構えたソルシエラを前に、六波羅はまるで獲物を見るかのような目で笑った。
「今度は俺のチョイスで一曲踊ろうぜ」
剣戟の音がまるで曲を奏でるように響き渡る。
夜の中央区を、赤い光と銀の流星が縦横無尽に駆けまわっていた。
「はははっ、お前ガチの殺し合いもいけるクチじゃねェか!」
「楽しそうね。私には少し、この曲は退屈なのだけれど」
「ならお望み通り、もっと激しくしてやるよォ!」
激しさを増す戦いは、既にビルを離れ中央区全体に舞台を広げていた。
それもその筈。
Sランクとは、単一で学園以上の力を有する人型の怪物の肩書きである。
であるならば、Sランク同士の戦いはまさに戦争と呼ぶほかない。
「エイナァ、二度と幻覚なんぞに騙されねェように頼むぜェ!」
『はいっ。新たに感知の情報を更新したんで、大丈夫です……たぶん』
「おいおい、そこは自信をもって宣言しろよなァ。まあ、次は幻覚なんぞ見る前にコイツをぶっ潰してやるけどよォ!」
ビルの壁に足をつけて、六波羅は一気に跳躍する。
その反動で、彼の足元のビルは全てのガラスが割れて散った。
ガラスが降り注いだことにより、彼等の争いを見ていた野次馬達から悲鳴が上がる。
が、それは六波羅に取っては気分を上げるための一因にしかならないようだ。
「その野暮ったい服を切り刻んでやるよォ!」
「レディの扱いがなってないのね」
ビル上空に佇むソルシエラに、六波羅は一度の跳躍で肉薄すると腹部目がけて双剣を叩きつけた。
が、それは滑り込むように入れられた大鎌によって受け流される。
「チッ」
「全然ダメね。やり直し」
ソルシエラはお返しと言わんばかりに、六波羅を見ることもせず魔法陣を展開する。
それは収束砲撃を簡易再現した砲門だった。
「テメエも大概じゃねェか!」
空中に身を投げ出した六波羅は砲撃をエイナを使って防ぐ。
が、その砲撃の勢いのままに地面までおよそ三十メートルを一直線に落ちた。
今まで安全だと思っていた場所に六波羅が来たことにより悲鳴が上がり生徒たちが逃げ出す。
人の身体能力を超えた探索者達であっても、Sランク同士の争いは逃げる他ない。
「ははは、見ろよエイナ。こんなに服が汚れちまったなァ。久しぶりだ」
『だ、大丈夫ですか?』
「誰にモノ言ってんだ。たかだかビルの屋上付近から叩き落とされたくらいで人に傷がつくかよ」
『ええ……』
首を鳴らして、上を見る。
が、そこにはソルシエラの姿はなかった。
「あ?」
「――私、激しい曲が好みなの」
背後で冷たい声が聞こえた。
振り向く事無く、六波羅は勘のみで双剣を首元に当てる。
間もなく、甲高い音ともに六波羅の双剣がソルシエラの一撃を防いだ。
「おいおい、そんな見た目でロックが好みか? 人形みてェな恰好してんだから大人しく品の良いクラシックでも聞いてろよ」
「嫌よ、つまらないわ」
双剣が大鎌を上に弾き上げる。
振り向きざまに、六波羅は双剣を振りかぶった。
が、それをブラフとしてその勢いのまま蹴撃を放つ。
顎へと向かったそれは、ソルシエラの展開した障壁により寸前で防がれた。
「……成程ねェ」
六波羅はそのまま距離を詰める。
そして、双剣に蹴撃を交えた超近距離の戦闘へと移行した。
ソルシエラは、それを涼しい顔で避け時に障壁で防ぎながら応戦する。
まるで踊っているかのように一進一退の攻防を続ける二人だったが、最初に動いたのは六波羅だった。
「ほらほらァ、さっきまでの楽しい砲撃はどうしたんだよォ!」
彼の言葉に答えるかのように六波羅へと魔法陣が展開される。
が、それが起動するよりも速く彼は一歩さらに深く踏みこんだ。
放てばソルシエラ自身をも巻き込んでしまう超至近距離。
ソルシエラもそれを理解してすぐに魔法陣を消失させ、回避へと移行した。
後ろへと跳躍しようとするソルシエラだったが、それを読んでいたかのように六波羅は追従する。
「しつこい男は嫌われるわよ」
「昔からこういう質なんだ。悪いな」
再び双剣がソルシエラへと振り下ろされる。
その瞬間、再び魔法陣が展開された。
(さっきの砲撃とは魔法式が違ェな)
一秒にも満たない僅かな時間で、六波羅は魔法陣が異なることを理解する。
(これ、見覚えが――まさかッ)
「エイナァ!」
魔法陣が起動する寸前で、六波羅は叫ぶ。
同時に魔法陣が光り輝いた。
それはまるで目くらましのようにも見えるが、その正体が幻覚を見せる光であることは既に自分の身をもって知っている。
『だ、大丈夫です。今回は、防げました』
「よォし。……だが、また距離が離れちまった」
幻覚を警戒した行動は、そのままソルシエラが動く為の隙となった。
転移魔法によって移動したソルシエラは既に六波羅を見下ろす位置でいくつもの魔法陣を展開している。
『リーダーぁ……』
「あ? 心配すんな。あんなの喰らっても大したことねェよ。それより……勝てるぞ。この戦い」
六波羅は獰猛な笑みを浮かべて双剣を構えた。
『え? お姉様に勝てるんですかぁ!? 私、じゃあ辞世の句を考えなくていいんですね』
「んな事にリソース割いてんじゃねェよ馬鹿。アイツ、強いがそれだけだ。戦い方は素人のソレだぜ」
多くの強者と戦ってきた勘が、告げている。
ソルシエラは生まれながらの強者故に、その強さは完成されていない。
「強いから工夫する意味がねえ。次の手を考えて動く必要がねえ。当然だよな。蟻を踏み潰すのに、技量や思考が必要になることなんざねェんだから」
大量に展開される魔法を前に、六波羅は動かない。
「嫌になるなァ、生まれながらに強い奴ってのは」
次々と起動していく魔法陣。
その中央で、ソルシエラは大鎌の柄の先端を六波羅へと向けて言った。
「星の輝きを知りなさい」
「堕としてやるよ、そんな星」
銀色の閃光が放たれる。
同時に、六波羅を囲むように存在していた大量の魔法陣からも同様の砲撃が放たれた。
かつてウロボロスすら屠って見せた破滅の光を前に、六波羅はただ頭を乱雑に掻く。
そして笑った。
「エイナ、そろそろ捉えただろ」
『はい、リーダー』
赤い光が瞬く。
迫る銀色の光を押しのけるようにそれは輝きを強めていき、最後には全ての収束砲撃を霧散させた。
衝撃で辺りを激しい風が吹き荒れ、周囲のビルの全ての窓ガラスが割れる。
捲れ上がったアスファルトの中心で一人、六波羅はただソルシエラを見上げていた。
「いやァ、久しぶりだぜこの感覚」
六波羅の周囲を魔力が赤い風となって渦巻いていく。
「やっぱ、デモンズギア相手にするならこっちもデモンズギアじゃねェとなァ!」
持っていた双剣の柄を六波羅は一つに繋げた。
かちりと小気味の好い音ともに、双剣が形を変えていく。
それは、六波羅の身長ほどもある大弓だった。
「理事会から限定的には解放していいって言われてんだ。だったらよォ、出し惜しみなんてしちゃァ、失礼だよなァ!」
『――星穿ちへのモード移行完了。い、いつでもいけますよ、リーダー』
大弓に赤い弦が張られる。
六波羅は手の中に魔力を収束させ、それを矢のようにつがえた。
「まずはご挨拶だ」
手が離されると同時に、赤い矢が放たれる。
魔力を凝縮して造られた高密度のエネルギー体であるソレを、ソルシエラは大鎌で受け流すように掬い取って上空へと放った。
が、しかし。
「無駄だ」
「っ!?」
空中へとほうり出された筈の矢が意思を持ったかのように軌道を変えて再びソルシエラへと飛来する。
ソルシエラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに魔法陣からの砲撃で相殺した。
その様子を見て、六波羅は「そうするしかねェよな」と呟く。
「エイナは一度捉えた奴は絶対に逃さねェ。回避なんて、ンなしらける事は許してたまるかよ」
『お姉様相手に押してる……!? い、いけますよリーダーぁ!』
「はしゃぐのは勝ってからにしとけ」
そう言って六波羅は再び弦を引く。
放たれた矢は、ソルシエラへと飛来していき砲撃によって破壊された。
「今から、テメエは俺の矢を一つずつ相手する事になる。回避なんてさせねェ」
大鎌を構えたソルシエラを前に、六波羅はまるで獲物を見るかのような目で笑った。
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