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二章 蒼星の少女

第57話 接敵と焦燥感

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 こんにちは。
 潜入系ミステリアス美少女です。

 今は騎双学園のクソヤバビルに潜入しています。
 
『……今度、メガネも用意しておきたまえ。こういう時はメガネがあるとより映える』

 そんな事言っている場合だと思います?
 現在進行形で、俺達騎双学園に喧嘩売ってんのよ?

「ふむ……あの配信者のデータによるとこっちだ」

 ミズヒ先輩を先頭に、俺達はコソコソとビルの中を移動していた。
 浄化ちゃんのデータなかったらどうしてたんだろうこの人……。もしかして、正面突破か?

「改めて言っておくが、私達の今回の目的はミロクの奪還だ。ああ、その際ミロクを数発殴る許可も与えよう」
「「えっ」」
「あの馬鹿は一度、殴ってやらないとわからないらしい。まったく、こんな無茶をして誰が喜ぶと思っているんだ……」

 普段のミズヒ先輩の行動が脳内にいくつも浮かぶ。
 貴女も大概では???

 トアちゃんと目が合ったが、ほぼ同じ感想だったようで苦笑いをしていた。

 という訳で俺達の目的はミロク先輩を回収することである。
 美少女が騎双学園にいて良い事なんて絶対ないから。

 特に、プロフェッサーは駄目だ。もしも出会ったら細切れにしてやろう。

『おや、結局私を使うのかい?』

 もう片足突っ込んだからね。
 こうなればプロフェッサーは殺すしかないよ。
 アイツにどれだけの美少女が殺されたか……!
 俺は、守れなかった……!

 だからミロク先輩は守る。
 死んでも守るぞォ!

『うおおおお!』

 星詠みの杖君も元気いっぱいで何よりです。
 だけど、問題が一つ。

「警備兵が移動した。今だ、行くぞ」
「はい」
「うん」

 先頭にミズヒ先輩、真ん中に俺、そして殿がトアちゃん。
 挟まれているのでミステリアス美少女する隙がないでやんす。
 
 これ、俺は那滝ケイのままミロク先輩を奪還する感じ?
 生身の俺の弱さを理解していない感じ?

『一応はスーパーミステリアス美少女タイム中だろう。その服装でも身体能力は1.5割増しだ』

 焼け石に水ゥ……!
 無いよりはマシだけどね。

 ミロク先輩を助けるなら、一番手っ取り早いのは俺がソルシエラになって全てを破壊しながら目的地まで突撃することだ。
 
 しかしこれには問題も存在する。
 それは、この状態だとミステリアス美少女になるタイミングが無いという事と、ミステリアス美少女は真正面からバーサーカーしないという事だ。

 既に三日経過しているので、ミロク先輩がひ弱なら既に死んでる。
 正直、気が気じゃないので早くソルシエラになりたいです。

 ミロク先輩……。
 貴重なフェクトム総合学園のお姉さん枠……。

『君、こういう時は素直に心配したほうが良いよ。どうして救う相手を美少女的属性でしか捉えられないの?』

 付加価値を与えて助けたいという気持ちを強めているんだよ。
 これは必要な事なんだ。

 君だって、萎びたおっさんと美少女なら美少女の方がやる気が出るだろう。

『確かに。演算の速度が変わるねぇ』

 そう言う事。
 これはいわば、瞑想に近い。
 俺は精神を研ぎ澄まして美少女を救う事に対して真摯になっているんだ。

『成程……!』

 そして、美少女を救うなら当然俺も美少女にならなければならない。
 だから俺はソルシエラになる。

 でもなれないの。
 なんでかわかる?

 二人に前後を挟まれているから!
 美少女に! 前後を!
 幸せってこういう形なのかな!?
 教えて幸福論者!

『君、さては相当慌てているな? 言っていることがいつもよりも滅茶苦茶だぞ』

 慌ててないよ。
 ただ、ミロク先輩が心配だから脳がギュルンギュルン回っているだけだよ。

『空回りしている音だねぇ』

 は、っははは早く俺を、そ、ソルシエラにしてくれぇ!
 スーパーミステリアス美少女タイムでミロク先輩を助けるからぁ!

『正体をばらすとかは……?』

 できるわけねえだろ、なに言ってんだ。
 俺はミステリアス美少女と那滝ケイを両立させたままミロク先輩を助けるの!
 どっちもやるの!
 どっちもがいいの!

『クソガキかな? ――っと、気をつけたまえ。たぶん、見つかったねぇ』

 星詠みの杖が突然真面目にそう言った。
 俺はその言葉を信じてミズヒ先輩の手を掴み止める。
 薄暗い廊下で、俺達は停止した。

「どうした?」
「ケイ君?」
「……何か、来ます」

 これ、言ってみたかったんだよねぇ。
 うーん、感慨深い。

 それで、何が来るんです?

『この感じ、妹だねぇ。うーん……恐らくはエイナかな? 今から本気で隠れるから、あとは頼んだよ。スーパーミステリアス美少女は私無しでも十五分は続くから何とかしたまえ』

 え。

「二人とも、下がって下さい」
「どういう事だ「いいから!」……わかった」

 俺は短刀を召喚して構える。

 薄暗い廊下の奥から、足音が聞こえてきた。

 まるで気楽に、ただ散歩しているかのようで。
 しかし、猟犬の息遣いのようにも聞こえる。

 それは、俺達の前に姿を表すと獰猛な笑みを浮かべて言った。

「――よォ、やっぱりまた会ったな、那滝ケイ」
「……こっちは会いたくなかったがな」

 赤い髪に双剣のデモンズギア。
 そんな特徴をもった人間は学園都市に一人しかいない。

 学園都市のSランク探索者、六波羅さんである。

「いやぁ、エイナが侵入者を感知したって言うから来てみれば……面白そうなことしてんじゃねェか。まさか、三人だけでカチコミか?」
「だとすればどうする」

 俺の問いに六波羅さんは双剣を構えて笑った。

「決まってんだろ、喧嘩だ喧嘩ァ! こんなクソみてえな場所で俺が見回りやってんのもお前と戦いたかったからだしなァ!」
「ッ!」

 気が付けば、目の前に剣が迫っている。
 俺はそれを短刀で床に受け流して振り下ろしたままの態勢の六波羅さんの腹部に蹴撃を放つ。

「っははは、いいねぇ。元気で。きっちり俺の相手してくれよなァ!」

 マズいってぇ!
 六波羅さんに会ったらもう終わりだよぉ。

 だからトウラク君が原作イベントを開始するのを待った方がよかったんだってぇ!

『おいおい、エイナごときに私が負けると思っているのかい? あんな雑魚、すぐに葬ってやるさHAHAHAHA!』

 なんで自ら進んでかませ役っぽい事言ってんだよ!
 というか見つかるから引っ込んでろ! 

 俺はミロク先輩を助けに行きたいだけなのに。
 これじゃあ、ソルシエラになるしかないじゃん!

 ……あ、そうだ。

「……ミズヒ先輩、ここは俺に任せて先に行ってください」
「ケイ!? だが、相手はSランク探索者だぞ! いくらお前の回避をもってしても」
「だから、早くミロク先輩を連れ帰ってきて下さい。それまでは絶対に持ちこたえますから」

 俺の言葉にミズヒ先輩は逡巡した様子だった。
 が、意外にもトアちゃんがその背を押した。

「行こう、ミズヒちゃん。ケイ君は絶対に約束を守ってくれるよ」
「トア……ああ、わかった」

 ミズヒ先輩は頷くと、トアちゃんと共に駆け出した。
 さらば。
 次に俺に会うとき俺はミステリアス美少女になっているでしょう。

 さて、後は六波羅さん相手に戦争だな。

「待って貰って悪いな。騎双学園は礼儀知らずばかりだと思っていた」
「いいんだ。俺は本気のお前とやりたいからなァ。雑魚を守っていて本気が出せねェなんて言われちゃ悲しいしよ。それに、アイツらは一般の警備兵でも何とかなるだろ」
「どうだろうな。二人は中々に手ごわいぞ」

 六波羅さんは興味がなさそうに首をぐるぐると回している。
 聞けよ! 美少女の話をしているんだぞォ!

「もう待ちくたびれたから始めるとすっか。俺は待ては嫌いなんだよォ!」
「……来い」

 短刀を構える。
 
「「――ッ」」

 駆け出したのは、ほぼ同時。

 男装ミステリアス美少女状態の俺と六波羅さんの第一ラウンドがここに始まった。
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