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一章 星詠みの目覚め
第36話 美少女なら、運命の一つくらい覆してみせる
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一際強い風が吹いた。
大気中の魔力が操作され滅茶苦茶な流れを作り出し、辺りに空気の渦を生み出しているのだ。
魔力を通した自然への干渉。
それを可能とする凶星は、トウラク達の頭上で光り輝いていた。
名をソルシエラ。
この学園都市の頂点として君臨する八人目のSランク。
その能力は、万物に対する絶対的な干渉能力である。
「星は、常に貴方達を見ている」
巻き起こる風に、塵や瓦礫が宙へと舞う。
目を開けているのがやっとの状態で、トウラクはルトラを構えなおした。
しかし、そんな彼の行動など気にも留めない様子で、ソルシエラはウロボロスを見下ろしている。
「……貴女に、そんな姿は似合わないわ」
魔法陣がさらに強い輝きを放つ。
同時に彼女の周りに複数の新たな魔法陣が展開された。
まるで星座のようにも見える妙な文字配列の魔法陣群は、全てがウロボロスを捉えている。
「縛り上げろ」
ソルシエラの言葉に従うように、魔法陣からいくつもの銀色の鎖が放出される。
それは意志を持つかのようにウロボロスに絡みつくと、一秒足らずでその巨体を縛り上げてしまった。
あれだけ暴れまわっていた怪物は、ただ一人の手によって完全に無力化されたのである。
「……ルトラ、あの子を倒すとしたら何振り必要かな」
『無理。既に一万通りの戦闘パターンを演算した。けれど、良くて五振り。それ以上は、攻撃すらできない』
「そうか」
自分の半身と化した少女からの言葉に、トウラクは思考を切り換える。
(撤退を第一にする。怪物と戦っている場合じゃないな)
状況は一変した。
これより先は怪物退治ではない。天災からの撤退戦だ。
「ミハヤ、どうやら僕は五手は持つらしい。その間に隙を見つけて撤退しよう。御景学園に繋がる簡易ゲートは持っているよね」
それは本来、リンカを回収し即座に撤退するための物だった。
座標を指定しての移動を可能とするゲートは、高額でこの一つしかない。
トウラクはそれを使う事を迷わずに選んだ。
それだけの脅威であると、彼の勘が叫んでいたのだ。
「ゲートは持っているわ。……けど、使うのは今じゃない」
そう言ってミハヤはトウラクの前に立つと、空を見上げた。
その顔には笑みが浮かんでいる。
「ソルシエラ、久しぶりね」
親し気に呼び掛けるミハヤを見て、トウラクはギョッとした。
そして、ソルシエラとミハヤを交互に見て、ルトラに問い掛ける。
「……知り合いなの?」
『知らない。私は知り合いたくもない』
ルトラは明らかに不機嫌な様子だ。
しかし、そんな彼女の意志に反するかのように、ソルシエラは気が付けばトウラク達の目の前に移動している。
「っ!? ……いつの間に」
予備動作も、音も、風も無かった。
まるで世界が彼女のために距離を縮めたとすら思えてしまう高速移動。
ソルシエラは、ふわりとその場に着地すると冷たい表情のまま口を開いた。
「元気そうね、ミハヤ」
「ええ。貴女のおかげでね。……ありがとう。ずっと、お礼を言いたかった」
「別に、そんなの気にしていないわ。全ては星の定め。本当の意味で私に出来ることなど何もない」
突き放す様な態度のソルシエラ。
しかし、ミハヤはそれが彼女の優しさだと知っている。
あの夜に見せた優しい笑みが、彼女の本当の姿だと理解しているのだ。
「ソルシエラ、力を貸して。あの怪物を殺すために」
ソルシエラは静かに、首を横に振った。
「あの子は殺されるべきではない。私は、その定めを変えにきた」
そう答える彼女の背後では、鎖を解こうと抵抗するウロボロスが何度も吠えていた。
どう見ても、殺すべき対象である。
しかし、ミハヤはそれを聞いて冷静に言った。
「……それは、組織がそう判断したの?」
「違うわ。組織は、あくまでウロボロスの排除を命じた。それ以外は、私の意志」
そう言って、ソルシエラはトウラク達の前に魔法陣を展開した。
警戒して構えたトウラクだったか、次の瞬間にはその魔法陣に目を見開いていた。
「……リンカ?」
魔法陣に映し出されたのは怪物。
しかし、その中央によく見知った少女の姿があった。
驚くトウラクとミハヤを見て、ソルシエラは口を開く。
「アレはウロボロス。ダンジョンと人間の融合昇華体。その本質は世界への浸食をコントロールし、人類側の兵器とすること……と、今はどうでもいいわね。重要なのは」
「リンカがウロボロスに取り込まれているという事、だね」
トウラクの言葉に、ソルシエラは頷く。
そして、トウラクの持つルトラを指さした。
「ここからは成功体第四号ルトラの力が必要」
「ルトラが?」
『トウラク、絶対やだ。スクラップにされる。ボイコットしよう』
全力で嫌悪感を露にするルトラを放って、ソルシエラは言葉を続けた。
「貴方には今、二つの運命がある」
氷のように冷たい眼が、トウラクを射抜く。
心の奥を見抜かれているかのような鋭い眼光。
「一つは、ルトラを渡してこの場から立ち去ること。そうすれば、後はあのウロボロスは私が対処する。リンカという少女の無事も約束する」
それは全ての責任をソルシエラへと押し付ける、無力な子供としての道。
何よりも安全で、どうしようもないほどに生温い運命だ。
「もう一つは、ルトラの契約者として私と共に戦う事。貴方の稚拙な剣の腕では、リンカを殺すことになるかもしれない。自分のエゴの為に、あの子の命を賭ける事になるでしょうね」
それは、全てを自分で背負う修羅の道。
どんな悲劇も不幸も困難も、全てをこの身一つで斬り払う必要がある。
強さが、何よりも必要だった。
そしてそれこそが。
「なら、僕はルトラの契約者として剣を振るおう」
何よりも、トウラクという人間を表した運命だった。
「覚悟はあるの?」
「ある。僕は、この手で多くの人を救いたい。僕にしか出来ないからじゃない。僕がやりたいから。リンカを救って、次こそは本当の友達になりたいから。だから、戦うんだ」
トウラクは言葉と共に、ソルシエラを真正面から見据える。
最初に言葉を発したのは、ソルシエラだった。
「……はあ、お人好しね。貴方は」
呆れたような笑みを作ると、ミハヤを見て「いつもこうなのかしら」と問いかける。
ミハヤは、まるで自分の事のように嬉しそうに「そうよ。素敵でしょ」と返した。
「わかったわ。なら、ここからは同じ戦場を駆ける友として扱う。泣き言は許さない」
ソルシエラは、そう言ってトウラク達に背を向けるとウロボロスへと大鎌を構えた。
ミハヤとトウラクは互いに顔を見合わせて頷くと、その隣に立つ。
「それで、僕は何をしたらいい」
「ルトラでウロボロスとリンカの接続を切りなさい」
『中心のコアに直接斬撃を当てさえすれば、出来ると思う』
ルトラの補足で、トウラクは自身の目標を設定する。
今までのような遠距離での斬撃ではなく、触手を掻い潜っての直接の本体攻撃。
根本から戦闘難易度が違う。
トウラクの戦闘経験が、それは不可能であると言っている。
が、その不可能を覆してしまう存在がすぐそばにいた。
「私とミハヤで道を作る。お膳立てはしてあげるわ」
「女の子二人にエスコートしてもらえるんだから、光栄に思いなさい」
ミハヤは銃を構え、ソルシエラは鎌を構える。
それは、本来ではあり得ない景色だった。
正体不明の怪物とすら謳われる少女が、自分たちと共に戦うというのだ。
「それじゃ、始めましょうか」
ソルシエラの言葉の直後、ウロボロスを縛っていた鎖が砕けた。
ウロボロスは、今まで以上に荒れ狂って辺りを滅茶苦茶にしている。
そこに、少女の理性は存在していない。
「……今助けるから」
トウラクは決意と共にそう口にする。
こうして、奇妙な共闘は幕を開けた。
■
ヨシ、鎖もバッチリのタイミングで壊れたな!
『わざわざ壊さなくても良かったのに……』
うるさいやい!
どこの世界に、拘束されたまま倒されるボスがいるってんだ。
こういうのは、美少女の流儀に則って勝つんだよぉ!
『もうやだこの契約者』
何故か後悔している星詠みの杖を放って、俺は駆け出す。
まるで一人だけ倍速映像であるかのように、先行した俺は、大鎌で触手を切り裂く。
見て見て、美少女が華麗に鎌を振るってるよ!
可愛いね!
『可愛い……? 客観的って言葉を知っているかい?』
いつもの俺の思考の話かな?
俺は客観的に、自分が美少女として最大限に目立てるように鎌を振るう。
あとついでに、トウラク君とミハヤちゃんをサポートする。
主人公一行様に怪我でもあったら大変だからね。
守るよ、美少女であるこの俺……いや、私が!
『性別を変えたって教えたのは逸ったか? ……いや、でも確かに教えた事で魔力量は爆発的に増加している』
うるせえ、今から主人公一行様と一緒に美少女として美少女を救うんだよぉ! その美少女的行動がわからないとは君はそれでも美少女の相棒か?
『美少女、美少女うるさいなぁ!? 大体なんだ、さっきの言動は。星とか、組織とか。私はそんなものは知らないぞ』
んなもん俺が知るか!
『えぇ……』
それっぽい事言って、俺は美少女として一目置かれたいんだよぉ!
そして他の美少女とイチャイチャしたい。
出来れば、朝から晩まで、くんずほぐれつしたい。
そのために、リンカちゃんを救う。
なにがなんでも救う。
原作をぶっ壊してでもだァ!
『また何か変な事を言ってる……』
吾切リンカは、原作において一番最初に死ぬレギュラーキャラである。
連載当初から登場し、明るいキャラから人気もあったのだが、作品の方向性を示すようにぶっ殺された。
その後、レギュラーでも平気で殺されるという事実に、俺を含めた読者は戦々恐々としたのだ。
俺は原作を愛している。
この世界はトウラク君によって救われるべきだし、その為には不用意な干渉は避けるべきだ。
リンカちゃんの死もまた、トウラク君を強くする要因でもある。
ここで俺はリンカちゃんを見捨てるべきだった。
けれど。
美少女になっちゃったから……。
美少女ってなにしても許されるから……。
だから、原作で死ぬ美少女も救っちゃうよねぇ!
「トウラク、道は開けた。後は、貴方の仕事」
「行きなさい、トウラク!」
「ああ」
俺とミハヤちゃんの美少女コンビで、触手を切り裂き、そしてウロボロスのコアへと続く一本道を作り上げる。
今更心配になってきた。
本当に、ルトラでいけるんすか?
『大丈夫さ。ルトラなら斬りたいと願ったものは斬れる。勿論、私たち以外はね』
流石ミステリアス美少女!
ルトラ相手でも平気だぜ!
いえーい!
『いえーい!』
星詠みの杖がそう言うなら安心だぜ!
俺の心配を他所に、トウラク君はルトラを構えてウロボロスへと突っ込んでいった。
頑張れトウラク君……!
正直、自分が斬った怪物がリンカちゃんだと知った時の君の絶望顔もそれはそれで大好きだったのだが、それはまた今度代役を用意するからね♥
ソルシエラでやろうね♥
『おい、私を巻き込むなよ?』
いえーい!
『おい!』
なんか煩い星詠みの杖を放って、俺はふわっと宙に浮く。
今更だけど、浮けるようになってる。
……これ、スカートの中見られてもいいように下着も変えなきゃ駄目だな。
『下着は女装セットに入っていなかったから据え置きだ。今度から気をつけたまえ』
はい……すみません。美少女としての自覚が足りませんでした……。
『こういう時だけ真面目に反省するんだ……』
俺はソルシエラに合うパンツを考えながら、次のミステリアス美少女ムーブの為に行動を開始した。
派手に行こうぜー!
『あ、マジでアレをぶっ放すんだね。私は別に構わないが』
大気中の魔力が操作され滅茶苦茶な流れを作り出し、辺りに空気の渦を生み出しているのだ。
魔力を通した自然への干渉。
それを可能とする凶星は、トウラク達の頭上で光り輝いていた。
名をソルシエラ。
この学園都市の頂点として君臨する八人目のSランク。
その能力は、万物に対する絶対的な干渉能力である。
「星は、常に貴方達を見ている」
巻き起こる風に、塵や瓦礫が宙へと舞う。
目を開けているのがやっとの状態で、トウラクはルトラを構えなおした。
しかし、そんな彼の行動など気にも留めない様子で、ソルシエラはウロボロスを見下ろしている。
「……貴女に、そんな姿は似合わないわ」
魔法陣がさらに強い輝きを放つ。
同時に彼女の周りに複数の新たな魔法陣が展開された。
まるで星座のようにも見える妙な文字配列の魔法陣群は、全てがウロボロスを捉えている。
「縛り上げろ」
ソルシエラの言葉に従うように、魔法陣からいくつもの銀色の鎖が放出される。
それは意志を持つかのようにウロボロスに絡みつくと、一秒足らずでその巨体を縛り上げてしまった。
あれだけ暴れまわっていた怪物は、ただ一人の手によって完全に無力化されたのである。
「……ルトラ、あの子を倒すとしたら何振り必要かな」
『無理。既に一万通りの戦闘パターンを演算した。けれど、良くて五振り。それ以上は、攻撃すらできない』
「そうか」
自分の半身と化した少女からの言葉に、トウラクは思考を切り換える。
(撤退を第一にする。怪物と戦っている場合じゃないな)
状況は一変した。
これより先は怪物退治ではない。天災からの撤退戦だ。
「ミハヤ、どうやら僕は五手は持つらしい。その間に隙を見つけて撤退しよう。御景学園に繋がる簡易ゲートは持っているよね」
それは本来、リンカを回収し即座に撤退するための物だった。
座標を指定しての移動を可能とするゲートは、高額でこの一つしかない。
トウラクはそれを使う事を迷わずに選んだ。
それだけの脅威であると、彼の勘が叫んでいたのだ。
「ゲートは持っているわ。……けど、使うのは今じゃない」
そう言ってミハヤはトウラクの前に立つと、空を見上げた。
その顔には笑みが浮かんでいる。
「ソルシエラ、久しぶりね」
親し気に呼び掛けるミハヤを見て、トウラクはギョッとした。
そして、ソルシエラとミハヤを交互に見て、ルトラに問い掛ける。
「……知り合いなの?」
『知らない。私は知り合いたくもない』
ルトラは明らかに不機嫌な様子だ。
しかし、そんな彼女の意志に反するかのように、ソルシエラは気が付けばトウラク達の目の前に移動している。
「っ!? ……いつの間に」
予備動作も、音も、風も無かった。
まるで世界が彼女のために距離を縮めたとすら思えてしまう高速移動。
ソルシエラは、ふわりとその場に着地すると冷たい表情のまま口を開いた。
「元気そうね、ミハヤ」
「ええ。貴女のおかげでね。……ありがとう。ずっと、お礼を言いたかった」
「別に、そんなの気にしていないわ。全ては星の定め。本当の意味で私に出来ることなど何もない」
突き放す様な態度のソルシエラ。
しかし、ミハヤはそれが彼女の優しさだと知っている。
あの夜に見せた優しい笑みが、彼女の本当の姿だと理解しているのだ。
「ソルシエラ、力を貸して。あの怪物を殺すために」
ソルシエラは静かに、首を横に振った。
「あの子は殺されるべきではない。私は、その定めを変えにきた」
そう答える彼女の背後では、鎖を解こうと抵抗するウロボロスが何度も吠えていた。
どう見ても、殺すべき対象である。
しかし、ミハヤはそれを聞いて冷静に言った。
「……それは、組織がそう判断したの?」
「違うわ。組織は、あくまでウロボロスの排除を命じた。それ以外は、私の意志」
そう言って、ソルシエラはトウラク達の前に魔法陣を展開した。
警戒して構えたトウラクだったか、次の瞬間にはその魔法陣に目を見開いていた。
「……リンカ?」
魔法陣に映し出されたのは怪物。
しかし、その中央によく見知った少女の姿があった。
驚くトウラクとミハヤを見て、ソルシエラは口を開く。
「アレはウロボロス。ダンジョンと人間の融合昇華体。その本質は世界への浸食をコントロールし、人類側の兵器とすること……と、今はどうでもいいわね。重要なのは」
「リンカがウロボロスに取り込まれているという事、だね」
トウラクの言葉に、ソルシエラは頷く。
そして、トウラクの持つルトラを指さした。
「ここからは成功体第四号ルトラの力が必要」
「ルトラが?」
『トウラク、絶対やだ。スクラップにされる。ボイコットしよう』
全力で嫌悪感を露にするルトラを放って、ソルシエラは言葉を続けた。
「貴方には今、二つの運命がある」
氷のように冷たい眼が、トウラクを射抜く。
心の奥を見抜かれているかのような鋭い眼光。
「一つは、ルトラを渡してこの場から立ち去ること。そうすれば、後はあのウロボロスは私が対処する。リンカという少女の無事も約束する」
それは全ての責任をソルシエラへと押し付ける、無力な子供としての道。
何よりも安全で、どうしようもないほどに生温い運命だ。
「もう一つは、ルトラの契約者として私と共に戦う事。貴方の稚拙な剣の腕では、リンカを殺すことになるかもしれない。自分のエゴの為に、あの子の命を賭ける事になるでしょうね」
それは、全てを自分で背負う修羅の道。
どんな悲劇も不幸も困難も、全てをこの身一つで斬り払う必要がある。
強さが、何よりも必要だった。
そしてそれこそが。
「なら、僕はルトラの契約者として剣を振るおう」
何よりも、トウラクという人間を表した運命だった。
「覚悟はあるの?」
「ある。僕は、この手で多くの人を救いたい。僕にしか出来ないからじゃない。僕がやりたいから。リンカを救って、次こそは本当の友達になりたいから。だから、戦うんだ」
トウラクは言葉と共に、ソルシエラを真正面から見据える。
最初に言葉を発したのは、ソルシエラだった。
「……はあ、お人好しね。貴方は」
呆れたような笑みを作ると、ミハヤを見て「いつもこうなのかしら」と問いかける。
ミハヤは、まるで自分の事のように嬉しそうに「そうよ。素敵でしょ」と返した。
「わかったわ。なら、ここからは同じ戦場を駆ける友として扱う。泣き言は許さない」
ソルシエラは、そう言ってトウラク達に背を向けるとウロボロスへと大鎌を構えた。
ミハヤとトウラクは互いに顔を見合わせて頷くと、その隣に立つ。
「それで、僕は何をしたらいい」
「ルトラでウロボロスとリンカの接続を切りなさい」
『中心のコアに直接斬撃を当てさえすれば、出来ると思う』
ルトラの補足で、トウラクは自身の目標を設定する。
今までのような遠距離での斬撃ではなく、触手を掻い潜っての直接の本体攻撃。
根本から戦闘難易度が違う。
トウラクの戦闘経験が、それは不可能であると言っている。
が、その不可能を覆してしまう存在がすぐそばにいた。
「私とミハヤで道を作る。お膳立てはしてあげるわ」
「女の子二人にエスコートしてもらえるんだから、光栄に思いなさい」
ミハヤは銃を構え、ソルシエラは鎌を構える。
それは、本来ではあり得ない景色だった。
正体不明の怪物とすら謳われる少女が、自分たちと共に戦うというのだ。
「それじゃ、始めましょうか」
ソルシエラの言葉の直後、ウロボロスを縛っていた鎖が砕けた。
ウロボロスは、今まで以上に荒れ狂って辺りを滅茶苦茶にしている。
そこに、少女の理性は存在していない。
「……今助けるから」
トウラクは決意と共にそう口にする。
こうして、奇妙な共闘は幕を開けた。
■
ヨシ、鎖もバッチリのタイミングで壊れたな!
『わざわざ壊さなくても良かったのに……』
うるさいやい!
どこの世界に、拘束されたまま倒されるボスがいるってんだ。
こういうのは、美少女の流儀に則って勝つんだよぉ!
『もうやだこの契約者』
何故か後悔している星詠みの杖を放って、俺は駆け出す。
まるで一人だけ倍速映像であるかのように、先行した俺は、大鎌で触手を切り裂く。
見て見て、美少女が華麗に鎌を振るってるよ!
可愛いね!
『可愛い……? 客観的って言葉を知っているかい?』
いつもの俺の思考の話かな?
俺は客観的に、自分が美少女として最大限に目立てるように鎌を振るう。
あとついでに、トウラク君とミハヤちゃんをサポートする。
主人公一行様に怪我でもあったら大変だからね。
守るよ、美少女であるこの俺……いや、私が!
『性別を変えたって教えたのは逸ったか? ……いや、でも確かに教えた事で魔力量は爆発的に増加している』
うるせえ、今から主人公一行様と一緒に美少女として美少女を救うんだよぉ! その美少女的行動がわからないとは君はそれでも美少女の相棒か?
『美少女、美少女うるさいなぁ!? 大体なんだ、さっきの言動は。星とか、組織とか。私はそんなものは知らないぞ』
んなもん俺が知るか!
『えぇ……』
それっぽい事言って、俺は美少女として一目置かれたいんだよぉ!
そして他の美少女とイチャイチャしたい。
出来れば、朝から晩まで、くんずほぐれつしたい。
そのために、リンカちゃんを救う。
なにがなんでも救う。
原作をぶっ壊してでもだァ!
『また何か変な事を言ってる……』
吾切リンカは、原作において一番最初に死ぬレギュラーキャラである。
連載当初から登場し、明るいキャラから人気もあったのだが、作品の方向性を示すようにぶっ殺された。
その後、レギュラーでも平気で殺されるという事実に、俺を含めた読者は戦々恐々としたのだ。
俺は原作を愛している。
この世界はトウラク君によって救われるべきだし、その為には不用意な干渉は避けるべきだ。
リンカちゃんの死もまた、トウラク君を強くする要因でもある。
ここで俺はリンカちゃんを見捨てるべきだった。
けれど。
美少女になっちゃったから……。
美少女ってなにしても許されるから……。
だから、原作で死ぬ美少女も救っちゃうよねぇ!
「トウラク、道は開けた。後は、貴方の仕事」
「行きなさい、トウラク!」
「ああ」
俺とミハヤちゃんの美少女コンビで、触手を切り裂き、そしてウロボロスのコアへと続く一本道を作り上げる。
今更心配になってきた。
本当に、ルトラでいけるんすか?
『大丈夫さ。ルトラなら斬りたいと願ったものは斬れる。勿論、私たち以外はね』
流石ミステリアス美少女!
ルトラ相手でも平気だぜ!
いえーい!
『いえーい!』
星詠みの杖がそう言うなら安心だぜ!
俺の心配を他所に、トウラク君はルトラを構えてウロボロスへと突っ込んでいった。
頑張れトウラク君……!
正直、自分が斬った怪物がリンカちゃんだと知った時の君の絶望顔もそれはそれで大好きだったのだが、それはまた今度代役を用意するからね♥
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はい……すみません。美少女としての自覚が足りませんでした……。
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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