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一章 星詠みの目覚め

第30話 美少女と遊園地に行くなら自分も美少女であるのが前提条件

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 こんにちは!
 バイト美少女(偽)です!

 まだ、美少女見習いだけど頑張るっす!
 押忍! 雄!

「ケイ君、着れました?」
「はい。結構、動きやすいんですねこれ」

 俺は今、絶賛労働の喜びを享受している最中である。
 つまり、遊園地で着ぐるみのバイトだ。

「探索者の身体能力なら、そうらしいんですけど。一般人にはかなり動かしづらい部類らしいですよ?」
「へぇ。ただのクマの形なのに動かしづらいんですね」

 俺は左右にステップを踏んで見せる。
 美少女ロールプレイに慣れた俺にとっては、遊園地のクマのロールプレイも余裕だ。

 俺は風船を持ったミロク先輩の隣で、ポップでキュートな動きをする役である。
 いざ外に出て観衆の目に晒されれば、すぐに子供達がやってきた。

 ほら、将来の美少女達。集まれー^^

「おねえちゃんありがと!」
「ふふっ、楽しんでくださいねー」

 風船を手渡して、ミロク先輩はいつもの様に素敵なスマイルを子供に送る。
 それ、小さな男子にやったら色々と壊れるので止めた方が良いですよ。美少女の笑みって半ば兵器ですから。

「くまさーん!」
「わくわくヒノツチランドにようこそヒノ! 楽しんでいって欲しいヒノ!」

 その点俺はただのクマだヒノ!
 性癖を歪めるような心配はないヒノ!

 だから野郎はこっちに集まれ。
 少女はミロク先輩の方に行ってね。

 それにしても、初めて着ぐるみのバイトなんてしたが、大量に押し寄せる子供達を相手にすることを考えると体力的には探索者の方が向いているかもしれない。

 ミロク先輩も、この遊園地のスタッフの可愛い衣装がよく似合っている。
 ……成程、黒タイツか。
 新たなミステリアス衣装に採用してもいいかもしれない。

『■■■■』

 いや、白はイメージと違うよ君。
 だって、まだソルシエラは心に闇を抱えた状態なんだから。

 白っぽい衣装は心の隙間を埋めるようなイベントを二回くらい挟んでその後に着るものだから。
 ソルシエラみたいなのが序盤から着てちゃ駄目よ。

「……ケイ君?」

 子供達が去っていったのを見計らって、ミロク先輩が声を掛けてきた。
 しまった、星詠みの杖と談義に夢中になっていた。

「なんでもないヒノ」
「役に入りきるなんて、意外と、こういうのも合うんですねー」
「任せるヒノ!」

 ロールプレイなら俺に任せろ。
 
「とはいえ、無理はしないでくださいね? もう少しで、別の広場に移動ですし」
「頑張るヒノ!」

 今日は夕方までのシフトである。
 それ以降は、別で担当が入るらしい。
 
 まあ、こんなヤバい場所に夜までいる訳にはいかねえしな。

 俺は知っている。
 この『わくわくヒノツチランド』の地下に、ダンジョンと人間を掛け合わせた融合昇華体、通称ウロボロスの実験施設があることを。

 昼間は遊園地として稼働し、深夜になると訪れた人々から吸収した魔力を元に非合法な実験を進めているのだ。

 勿論、トウラク君御一行の敵のいる場所の一つである。

 俺としてはこんなやべえ場所で三か月近く働いていたミロク先輩が心配でならないのだが、この学園都市で完全にクリーンな場所を探す方が難しいのでしょうがないと言えばしょうがない。

 俺のバイト先のコンビニも、裏メニューでダンジョンコアの取引とかしてたみたいだし。

 なので、俺に出来ることは危なそうな事に巻き込まれないように注意する。
 そして原作に関わらない、だ。

 原作に関わると、その瞬間に危なそうな事にも巻き込まれちゃうからね。
 ここは原作を知っている俺がミロク先輩を守らないと。

「あ、そう言えば夕方からは好きなように周って良いって言ってましたよ。ケイ君が初めてバイトに来てくれたからですかね」
「うれしいヒノ~」

 複雑だ。
 遊園地は好きだし、好意を無下にもできない。
 何より、この感じ、ミロク先輩も一緒に周るやつだ。

 美少女と遊園地?
 なら当然、その相手も美少女じゃないといけないのでは?

 野郎が美少女と一緒に遊園地来ていいわけねえだろうがよ!
 もしそんな不届き者見かけたら俺がこのフワフワ着ぐるみおててでぶん殴ってやるよ!

 って、話をすればすぐに見つけたァ!
 野郎と美少女が組み合わさって良い訳が無いヒノー!!
 しかも、美少女2に対して野郎1だとォ!?

 ハーレムは百合しか認めないヒノォ!

「――この子にも、一つくれないかしら」
「はい、どうぞー」

 彼女らは、ミロク先輩へと近づくと風船を一つ要求する。

 ミロク先輩は微笑ましいものを見るような笑みと共に、風船を一つ差し出した。

 ん??????
 なんか、このトリオ見覚えあるな……。

 爽やか黒髪イケメンに、水色ハーフアップツイン、そして、銀髪ロリ娘……。

「ありがと。ところで……これは斬ってもいいやつ?」
「駄目だよ、ルトラ」

 んぎゃああああああ!
 また原作主人公御一行だあああああ!

 なんでぇ……。
 もう原作の方からこっちに来てるじゃんかぁ!

 早くない!?
 時系列的に、もう少し後にここに来る筈じゃない!?

「じゃあ、こっちのクマは斬っていい?」
「もっと駄目だよ!?」
「……わくわくヒノツチランドにようこそヒノー。お嬢さんが斬れるような物はないヒノー、まじで」
「…………確かに、を斬るのは止めた方がよさそう」

 俺は、身体をかがめてルトラにそう注意する。
 マジで止めろ。

 揉め事を起こすな。
 君の起こす揉め事はそのまま原作イベントに繋がりかねない。

 そしてそれはそれとして……初めまして! ルトラちゃん!

 こうして見ると小っちゃくて可愛いねぇ!
 お姉さん(自己申告)が特別にキャンディーをあげようねぇ。

「良い子にはキャンディーを配っているヒノー」
「貰っていいの?」
「どうぞヒノ」
「……ありがと」

 俺がキャンディーを渡すと、ルトラちゃんは無表情で礼を言った。
 が、これは表情がうまく作れないだけなので、内心はたぶん喜んでいる。
 俺にはわかるぞぉ!

「あ、キャンディー配るのまだやってるんだ。私も小さい頃貰ったわ」
「僕は初めて知ったかも」

 ルトラちゃんを見ながら、ミハヤちゃんとトウラク君がそう感想をこぼす。
 このクマがキャンディー配るの、結構続いているんだ……。
 道理でポケットの多い着ぐるみだと思ったわ。

「二人もどうぞヒノ」
「え、いいの? ありがとうございます」
「じゃあ、頂こうかしら」

 二人にキャンディーを渡しながら、俺はキュートな動きと共に聞いた。

「今日は三人でお出かけヒノ?」
「……そうだね。ルトラが、遊園地に行きたいって言ったから」

 よかった、普通のお出かけだったみたいだ。
 ルトラちゃんがお出かけ好きだからね。

「そうヒノか! 楽しんで欲しいヒノねぇ! ヒーノヒノヒノ!」
「こんな笑い方だったかしら……」

 なーんだ。
 今日が、たまたま『この遊園地の実験施設をぶっ壊す』イベントの日かと思っちゃったよぉ。

 安心安心。

「それじゃ、楽しんでヒノ~!」

 ちなみに、そのイベントでは悪の組織を裏切ったサブヒロインが見せしめでウロボロスとの融合をさせられることになる。

 仮に、今日がその日ならバイトどころではなくなるし、俺はこの着ぐるみのままミロク先輩を抱えて逃げなければならない。 

 まあ、違うなら普通にバイトするだけだが。

 さーて、気を取り直して未来の美少女に夢の時間をお届けするヒノよー^^







 貰った飴を観察したミハヤは、それを自然な動作でダイブギアの前にかざした。
 
「……大丈夫そうね」
「え、何か入っているのこの飴」

 既に口に入れてしまったトウラクはミハヤの行動に固まる。

「別にこれには問題なかったわ。けれど、この遊園地が魔力の蒐集に使われているならこういった物にも細工がしてある可能性はあるでしょう?」
「確かに……」

 トウラクは、先程入り口で会ったクマの着ぐるみを思い出す。
 陽気な動きで子供たちに人気のようだった。

「考えたくはないな。あのお姉さんとクマも悪い奴だなんて」
「大半は雇われの一般人と学生でしょ」

 そう言うと、ミハヤは飴を口に放り込んだ。

「さっさとリンカを見つけて連れ戻すわよ。あの馬鹿、置手紙でさよならとか絶対に許さないから」
「……うん、そうだね」

 ミハヤの言葉を聞いて、トウラクは頷く。

(ミハヤ、前よりもさらに頼もしくなったな)

 トウラクが倒れた日以来、ミハヤは心身ともに目覚ましい成長を遂げている。
 訓練を共にするトウラクが何よりもそれを実感していた。

「……何、じっと見てるのよ」
「え? ああ、ミハヤが傍にいてくれて良かったなーって思ったんだ」
「ああそう。安心しなさい、これからもずっと傍にいてあげるから」

 そう言ってミハヤはトウラクとルトラの手を握ると、有無を言わさず歩き出す。
 トウラクは慣れた様に従い、ルトラはそもそも何も思っていないかのように手を引かれた。

(僕も、もっと強くならないと)

 ケイの助言に従い、ルトラの本来の能力を引き出す訓練は佳境に差し掛かっていた。
 あるいは、この先の実戦で物にする可能性もあるだろう。

 彼が覚醒するのは時間の問題だった。

「トウラク、ミハヤ」

 不意に、ルトラが名前を呼んだ。
 飴を貰って以降、黙り込んでいたルトラが突然声を上げたことにより足が自然と止まる。

「どうしたのルトラ」
「ここでの戦い、死ぬ気で挑まなければならない。常に最悪の事態を想定してほしい」

 いつも通りの淡々とした抑揚のない話し方。
 しかし、その言葉に何処か焦りと恐怖が滲んでいる事に二人は気が付いていた。

「……何か、感じるの?」

 ルトラは静かに首を横に振る。

「感じる、ではない。私は、既に一番会いたくない奴に出会ってしまった」

 そう言って、ルトラは自分たちが今まで歩いてきた道を振り返った。
 視線の向こうには、先程まで着ぐるみがいた広場。
 今は、記念撮影をする観光客で溢れているようだ。

 ルトラは僅かに、眉を顰めて言う。

「もしも、彼女と戦うなら。それは、間違いなく決戦になる」

 着ぐるみは、既にどこかに消え去った後のようだった。
 
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