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一章 星詠みの目覚め
第28話 美少女は教え導く存在である
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特区を眼下に、ミハヤは懺悔するかのように言った。
「――昨日のダンジョンで失敗したの。それはもう色々と」
ソルシエラは答えない。
しかし、彼女が話を聞いていることは理解できた。
「私には大好きな人がいる。それと同じくらいに大嫌いな奴も。……そのどちらに対しても、私は向き合えなかった」
膝をかかえ、顔をうずめる。
少しでも、この世界から消えていたかったからだ。
「大好きな人……トウラクって言うの。聞いたことないかしら、御景学園で一年生で生徒会に入った探索者」
「さあ。外の世界の事はわからないわ」
「そっか。でも、いつかきっとトウラクの名前を聞く日が来るよ。アイツは、強い。強くなった。……私じゃ、もう隣にはいられないくらいに」
双葉ミハヤにとって牙塔トウラクは幼馴染であり、守るべき対象であった。
誰かの為に傷つく彼は、決して自らの身体を顧みない。
ならば、そんな彼を自分が守るしかない。
そう思っていたのだ。
「いじめに首を突っ込んで、自分がわざわざターゲットになる。そういう奴なのよ」
「難儀な生き方をしてそうね、その人」
「私もそう思う。そして今はもっと大きな何かに巻き込まれている。アイツは、それを拒否しなかった。自分にしか出来ないとわかったら、躊躇なんてしなかった」
トウラクの歪ともいえる自己犠牲の精神は、ミハヤにとっては見慣れたものだった。
だから、今回も守れると思ってしまった。
「それで結局無茶をして。自分の力を使い果たしてダンジョンでぶっ倒れた。日頃の疲れもあったんでしょうね。生徒会活動も忙しかったから」
個人単位での悪意や悲劇から、ミハヤはこれまで彼を守ってきた。
それが精一杯だった。
彼の訓練が過度にならない様に付き合い、管理もした。
生徒会活動も付き合った。
おろそかにしていた食事も、きちんととらせた。
今までの様に、彼を守った。
けれど、それだけだった。
「……アイツが倒れた時、頭が真っ白になってさ。ダンジョンの主を前にしても全然動けなかったんだ。これからどうするべきか、じゃなくて一体何が間違っていたのか、そればっかり頭に浮かんで」
もしも彼女が十全な状態であったのなら、主は片付けることができただろう。
しかし、そうはならなかった。
牙塔トウラクは無理をして倒れ、ミハヤの思考はその時点で止まってしまった。
「そんな時、アイツが現れた」
「アイツ?」
「そう。最低で、傲慢で、それなのに何を考えているのかわからない奴。……ケイって言ってもわかるわけないか」
「……そうね。わからないわ。でも、その口振りからして碌な人間じゃなさそう」
ソルシエラの言葉に、ミハヤは苦笑する。
「私も、少し前まではそう考えていたんだけど、わからなくなった。そのケイって奴はね、私とトウラクを助けたのよ。主と私たちの間に割って入って、腕を犠牲にしてまで」
昨日の出来事だ。
尚更記憶にハッキリと焼き付いている。
今までの彼からは考えられないほどに必死な表情。
自分たちを守るために感情をむき出しにしてくれたケイの姿は、今まで一度も目にしたことがあるわけがなかった。
「ケイは、ずっとトウラクを虐めていた。那滝家と、牙塔家ってのもあるんでしょうね。私には詳しくはわからないけど。今までずっと虐めて、時にはダンジョンに閉じ込めて殺そうとして――でも、助けてくれた」
那滝ケイという男の行動は、ある日を境に矛盾が多くなっている。
それが、ミハヤの考えだった。
「貴女の怪我ほど酷いものじゃないけど、彼も右腕に大きな怪我を負った。……その時も、こうしてあげるべきだった」
わかっていた。
自分は助けられたのだと。
今まで自分達に危害を加えてきた人間に、助けられたのだ。
「私にはもう何が正しいのかわからない。トウラクに対して何が出来るのかも、ケイが本当は何を考えているのかも、何もわからない。わ、たし、わたしだけが……取り残されていく」
気が付けば、涙があふれていた。
それすらも情けなかった。
「今まで通りに、トウラクをケイから守った! 守った気になっていた! ……本当は分かっていたのに。不安だったから。私の世界が、存在意義が失われていくのが嫌だったから……!」
泣き声を押し殺す。
誰にも見つからないように隠れる幼子のように、身を縮めて。
「私……どうしたらいいんだろう」
それは、今まで培われてきた自己肯定の根本に対する疑問。
ミハヤという少女のこれまでに対する問い掛けであった。
それを見て、ソルシエラは息を一つ吐くと夜空を見上げた。
「星は、なんのために輝いていると思う?」
「……え?」
「ただの核融合反応でしかないのよ、星の輝きって。けれど、私たちはずっと昔から意味を見出してきた。星たちは、ただ意味もなく輝いているだけだというのに」
ソルシエラの言葉に、ミハヤは顔を上げる。
蒼い二つの目がミハヤを見ていた。
「どうか、そんなに難しく考えないで」
そう言って、ソルシエラは優しい顔で微笑むとミハヤの頭を撫でる。
「大切なのは、貴女がどうしたいか。何故、貴女はトウラクを守りたかったの? どうして、ケイを嫌いになったの?」
「私は……」
答えはすぐに見つかった。
「トウラクが、大好きだから。だから……!」
「なら、それでいいじゃない」
ソルシエラは、言葉を紡いでいく。
「その人の事が大好きなんでしょ? 好きな人の隣にいる事に資格なんている? 意義だとか、くだらないわ。学生なんだから、好きな人と一緒にいる事にいちいち理由なんて探す方がおかしいわよ」
「そう、かしら」
「そうよ。難しく考えすぎ。貴女は貴女のやりたいことをすればいいの。それでも不安なら――」
ソルシエラは突然立ち上がる。
そして、大きな魔法陣を展開した。
「これは……!?」
魔法陣の中心に立ち、ソルシエラはミハヤを見つめる。
「近い未来、学園都市を大きな厄災が襲う。これは、絶対的な運命」
「っ、それは本当なの」
「ええ。そして、その運命を覆す為に貴女の力が必要不可欠よ、双葉ミハヤ」
「……どうして、名前を?」
ソルシエラはミハヤを指さして笑った。
「既に、計画の中に貴女もいるからよ。私たち組織は、双葉ミハヤに大きな期待を寄せている。これが、私から貴女へ贈る意義」
蒼い眼が、ミハヤを見ている。
今までよりもずっと熱のこもった強い意志が宿っていた。
「断言する。貴女は原石よ。磨けば、今よりもずっと強くなるわ」
「……それは本当?」
「私、嘘は嫌いよ」
「そっか。……うん、ありがとう」
ミハヤは、頭を下げる。
そして、次に顔を上げた時にはどこか吹っ切れたような顔をしていた。
「答えらしいものが、見つかったわ」
「それは何よりよ」
「……ちなみに、その魔法陣は一体どういう効果があるのかしら」
「………………貴女の魔力に干渉して、能力の覚醒を促したわ。組織として干渉はあまり誉められたものじゃないけれど、まあこれくらいは許容範囲よ」
ソルシエラがそう言うと同時に、魔法陣は消失した。
「能力の覚醒……? そんな力が、あるなんて話は聞いたことがないわ。いや、でも確かにアレは……」
能力は、あくまで個人単位で完結する絶対的なルールである。
故に、他人が干渉することは不可能に等しい。
能力を持つことが、一つのステータスとなっているこの世界で、能力の覚醒を促す技術が本当に存在するのならば、それはどれだけ怖ろしい力であろうか。
(見た事もない魔法陣だった。どの学園が生み出した物でもない。既存の魔法式体系から逸脱したまったく新しい魔力の公式……!)
ソルシエラに目を奪われ、魔法陣を目にしたのは僅かな時間だった。
それでも、その短時間でその魔法陣に破綻がない事は理解できている。
ミハヤは天才ではなくとも、秀才であった。
現在、この学園都市で使われている魔法陣は、見ただけでおおよその理解ができる。
だからこそ、ソルシエラの言葉を信じることができた。
ソルシエラの展開した魔法陣は、何らかの効果が発動されている破綻のない完成系だ。
「そんなに難しい顔しないで。可愛い顔が台無しよ」
そう言って、ソルシエラは背を向ける。
もう、用はないだろうとその背中は語っていた。
「包帯、ありがとう。いつか、必ず借りは返すわ。それじゃ」
ソルシエラはビルの屋上から、軽い足音と共に飛び降りる。
ミハヤが慌てて下を覗き込むと、既にそこに彼女の姿はなかった。
「……私の方が大きな借りが出来たわ。ありがとう」
不意に、ミハヤの頬を夜風が撫でる。
今までは気が付かなかったが、今日は随分と優しい風が吹いているらしい。
先程まで隣にいた少女がやっていたように、空を見上げる。
空には、数えるのが馬鹿らしくなる程に無数の星が輝いていた。
「……よし」
一度、頬を叩く。
世迷い事と共に立ち止まる時間はもう終わりだ。
■
ミハヤちゃんが、死ぬほど悩んでいたので、必死に助言しちゃった……。
でも、悩みの半分がかませ役の出しゃばりが原因だったので、俺が処理するのは当然だよね!
俺は終身名誉美少女(自称)
立つ鳥以上に、跡を濁さない美少女だ……!
「やっぱり出しゃばりすぎるのはよくないな。反省反省」
俺はあくまでこの世界で美少女として美少女とキャッキャウフフしたいだけだ。
原作に介入しようなどと言うつもりは毛頭ない。
ただ、ね?
ミハヤちゃんに頼られたら、ね?
魔法陣で元気づけることも出来たし、大丈夫だとは思う。
別にあの魔法陣はカッコイイだけだから、意味なんて本当はないけどね。それでも元気になってくれたら嬉しい。
どうせ、夏が終わる頃にはインフレってレベルじゃねえ能力覚醒イベント入るし、それまでは頑張ってくれ!
草葉の陰から、女装して応援してるよ……!
「さて、今日はこれくらいにしておくか」
女装も堪能できた。
まさかミハヤちゃん相手に、謎の組織の美少女ロールプレイをかませるとは思わなかったぜ。
しっかりと衣装をダイブギアにしまい込んで、俺は寄り道せずに真っすぐフェクトム総合学園に帰る。
後は、ミズヒ先輩を回収してベッドに戻るだけだ。
と、思っていたのが三十分前。
フェクトム総合学園の裏ゲートから、こっそりと帰宅した俺の目の前にあるものが転がってきた。
それは、ふわふわお布団で簀巻きにされたミズヒ先輩である。
「ミズヒ先輩……!?」
「ケイ、すまない。私たちの負けだ」
キリッとした表情で、ミズヒ先輩はそう言った。
「――やっぱり、こっちから帰ってきたんですねー。お外で訓練なんて、用心深いというか、なんというか」
背後から声が聞こえる。
俺は両手を上げて投降した。
女装したまま戻ってこなくてよかったぜ……!
「……はんせいしてます」
「ふふふっ、そうですか。でも私も今、非常に怒っていますので……二人とも覚悟してください」
翌日から、俺の左手にも手錠が追加された。
「――昨日のダンジョンで失敗したの。それはもう色々と」
ソルシエラは答えない。
しかし、彼女が話を聞いていることは理解できた。
「私には大好きな人がいる。それと同じくらいに大嫌いな奴も。……そのどちらに対しても、私は向き合えなかった」
膝をかかえ、顔をうずめる。
少しでも、この世界から消えていたかったからだ。
「大好きな人……トウラクって言うの。聞いたことないかしら、御景学園で一年生で生徒会に入った探索者」
「さあ。外の世界の事はわからないわ」
「そっか。でも、いつかきっとトウラクの名前を聞く日が来るよ。アイツは、強い。強くなった。……私じゃ、もう隣にはいられないくらいに」
双葉ミハヤにとって牙塔トウラクは幼馴染であり、守るべき対象であった。
誰かの為に傷つく彼は、決して自らの身体を顧みない。
ならば、そんな彼を自分が守るしかない。
そう思っていたのだ。
「いじめに首を突っ込んで、自分がわざわざターゲットになる。そういう奴なのよ」
「難儀な生き方をしてそうね、その人」
「私もそう思う。そして今はもっと大きな何かに巻き込まれている。アイツは、それを拒否しなかった。自分にしか出来ないとわかったら、躊躇なんてしなかった」
トウラクの歪ともいえる自己犠牲の精神は、ミハヤにとっては見慣れたものだった。
だから、今回も守れると思ってしまった。
「それで結局無茶をして。自分の力を使い果たしてダンジョンでぶっ倒れた。日頃の疲れもあったんでしょうね。生徒会活動も忙しかったから」
個人単位での悪意や悲劇から、ミハヤはこれまで彼を守ってきた。
それが精一杯だった。
彼の訓練が過度にならない様に付き合い、管理もした。
生徒会活動も付き合った。
おろそかにしていた食事も、きちんととらせた。
今までの様に、彼を守った。
けれど、それだけだった。
「……アイツが倒れた時、頭が真っ白になってさ。ダンジョンの主を前にしても全然動けなかったんだ。これからどうするべきか、じゃなくて一体何が間違っていたのか、そればっかり頭に浮かんで」
もしも彼女が十全な状態であったのなら、主は片付けることができただろう。
しかし、そうはならなかった。
牙塔トウラクは無理をして倒れ、ミハヤの思考はその時点で止まってしまった。
「そんな時、アイツが現れた」
「アイツ?」
「そう。最低で、傲慢で、それなのに何を考えているのかわからない奴。……ケイって言ってもわかるわけないか」
「……そうね。わからないわ。でも、その口振りからして碌な人間じゃなさそう」
ソルシエラの言葉に、ミハヤは苦笑する。
「私も、少し前まではそう考えていたんだけど、わからなくなった。そのケイって奴はね、私とトウラクを助けたのよ。主と私たちの間に割って入って、腕を犠牲にしてまで」
昨日の出来事だ。
尚更記憶にハッキリと焼き付いている。
今までの彼からは考えられないほどに必死な表情。
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「ケイは、ずっとトウラクを虐めていた。那滝家と、牙塔家ってのもあるんでしょうね。私には詳しくはわからないけど。今までずっと虐めて、時にはダンジョンに閉じ込めて殺そうとして――でも、助けてくれた」
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それが、ミハヤの考えだった。
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わかっていた。
自分は助けられたのだと。
今まで自分達に危害を加えてきた人間に、助けられたのだ。
「私にはもう何が正しいのかわからない。トウラクに対して何が出来るのかも、ケイが本当は何を考えているのかも、何もわからない。わ、たし、わたしだけが……取り残されていく」
気が付けば、涙があふれていた。
それすらも情けなかった。
「今まで通りに、トウラクをケイから守った! 守った気になっていた! ……本当は分かっていたのに。不安だったから。私の世界が、存在意義が失われていくのが嫌だったから……!」
泣き声を押し殺す。
誰にも見つからないように隠れる幼子のように、身を縮めて。
「私……どうしたらいいんだろう」
それは、今まで培われてきた自己肯定の根本に対する疑問。
ミハヤという少女のこれまでに対する問い掛けであった。
それを見て、ソルシエラは息を一つ吐くと夜空を見上げた。
「星は、なんのために輝いていると思う?」
「……え?」
「ただの核融合反応でしかないのよ、星の輝きって。けれど、私たちはずっと昔から意味を見出してきた。星たちは、ただ意味もなく輝いているだけだというのに」
ソルシエラの言葉に、ミハヤは顔を上げる。
蒼い二つの目がミハヤを見ていた。
「どうか、そんなに難しく考えないで」
そう言って、ソルシエラは優しい顔で微笑むとミハヤの頭を撫でる。
「大切なのは、貴女がどうしたいか。何故、貴女はトウラクを守りたかったの? どうして、ケイを嫌いになったの?」
「私は……」
答えはすぐに見つかった。
「トウラクが、大好きだから。だから……!」
「なら、それでいいじゃない」
ソルシエラは、言葉を紡いでいく。
「その人の事が大好きなんでしょ? 好きな人の隣にいる事に資格なんている? 意義だとか、くだらないわ。学生なんだから、好きな人と一緒にいる事にいちいち理由なんて探す方がおかしいわよ」
「そう、かしら」
「そうよ。難しく考えすぎ。貴女は貴女のやりたいことをすればいいの。それでも不安なら――」
ソルシエラは突然立ち上がる。
そして、大きな魔法陣を展開した。
「これは……!?」
魔法陣の中心に立ち、ソルシエラはミハヤを見つめる。
「近い未来、学園都市を大きな厄災が襲う。これは、絶対的な運命」
「っ、それは本当なの」
「ええ。そして、その運命を覆す為に貴女の力が必要不可欠よ、双葉ミハヤ」
「……どうして、名前を?」
ソルシエラはミハヤを指さして笑った。
「既に、計画の中に貴女もいるからよ。私たち組織は、双葉ミハヤに大きな期待を寄せている。これが、私から貴女へ贈る意義」
蒼い眼が、ミハヤを見ている。
今までよりもずっと熱のこもった強い意志が宿っていた。
「断言する。貴女は原石よ。磨けば、今よりもずっと強くなるわ」
「……それは本当?」
「私、嘘は嫌いよ」
「そっか。……うん、ありがとう」
ミハヤは、頭を下げる。
そして、次に顔を上げた時にはどこか吹っ切れたような顔をしていた。
「答えらしいものが、見つかったわ」
「それは何よりよ」
「……ちなみに、その魔法陣は一体どういう効果があるのかしら」
「………………貴女の魔力に干渉して、能力の覚醒を促したわ。組織として干渉はあまり誉められたものじゃないけれど、まあこれくらいは許容範囲よ」
ソルシエラがそう言うと同時に、魔法陣は消失した。
「能力の覚醒……? そんな力が、あるなんて話は聞いたことがないわ。いや、でも確かにアレは……」
能力は、あくまで個人単位で完結する絶対的なルールである。
故に、他人が干渉することは不可能に等しい。
能力を持つことが、一つのステータスとなっているこの世界で、能力の覚醒を促す技術が本当に存在するのならば、それはどれだけ怖ろしい力であろうか。
(見た事もない魔法陣だった。どの学園が生み出した物でもない。既存の魔法式体系から逸脱したまったく新しい魔力の公式……!)
ソルシエラに目を奪われ、魔法陣を目にしたのは僅かな時間だった。
それでも、その短時間でその魔法陣に破綻がない事は理解できている。
ミハヤは天才ではなくとも、秀才であった。
現在、この学園都市で使われている魔法陣は、見ただけでおおよその理解ができる。
だからこそ、ソルシエラの言葉を信じることができた。
ソルシエラの展開した魔法陣は、何らかの効果が発動されている破綻のない完成系だ。
「そんなに難しい顔しないで。可愛い顔が台無しよ」
そう言って、ソルシエラは背を向ける。
もう、用はないだろうとその背中は語っていた。
「包帯、ありがとう。いつか、必ず借りは返すわ。それじゃ」
ソルシエラはビルの屋上から、軽い足音と共に飛び降りる。
ミハヤが慌てて下を覗き込むと、既にそこに彼女の姿はなかった。
「……私の方が大きな借りが出来たわ。ありがとう」
不意に、ミハヤの頬を夜風が撫でる。
今までは気が付かなかったが、今日は随分と優しい風が吹いているらしい。
先程まで隣にいた少女がやっていたように、空を見上げる。
空には、数えるのが馬鹿らしくなる程に無数の星が輝いていた。
「……よし」
一度、頬を叩く。
世迷い事と共に立ち止まる時間はもう終わりだ。
■
ミハヤちゃんが、死ぬほど悩んでいたので、必死に助言しちゃった……。
でも、悩みの半分がかませ役の出しゃばりが原因だったので、俺が処理するのは当然だよね!
俺は終身名誉美少女(自称)
立つ鳥以上に、跡を濁さない美少女だ……!
「やっぱり出しゃばりすぎるのはよくないな。反省反省」
俺はあくまでこの世界で美少女として美少女とキャッキャウフフしたいだけだ。
原作に介入しようなどと言うつもりは毛頭ない。
ただ、ね?
ミハヤちゃんに頼られたら、ね?
魔法陣で元気づけることも出来たし、大丈夫だとは思う。
別にあの魔法陣はカッコイイだけだから、意味なんて本当はないけどね。それでも元気になってくれたら嬉しい。
どうせ、夏が終わる頃にはインフレってレベルじゃねえ能力覚醒イベント入るし、それまでは頑張ってくれ!
草葉の陰から、女装して応援してるよ……!
「さて、今日はこれくらいにしておくか」
女装も堪能できた。
まさかミハヤちゃん相手に、謎の組織の美少女ロールプレイをかませるとは思わなかったぜ。
しっかりと衣装をダイブギアにしまい込んで、俺は寄り道せずに真っすぐフェクトム総合学園に帰る。
後は、ミズヒ先輩を回収してベッドに戻るだけだ。
と、思っていたのが三十分前。
フェクトム総合学園の裏ゲートから、こっそりと帰宅した俺の目の前にあるものが転がってきた。
それは、ふわふわお布団で簀巻きにされたミズヒ先輩である。
「ミズヒ先輩……!?」
「ケイ、すまない。私たちの負けだ」
キリッとした表情で、ミズヒ先輩はそう言った。
「――やっぱり、こっちから帰ってきたんですねー。お外で訓練なんて、用心深いというか、なんというか」
背後から声が聞こえる。
俺は両手を上げて投降した。
女装したまま戻ってこなくてよかったぜ……!
「……はんせいしてます」
「ふふふっ、そうですか。でも私も今、非常に怒っていますので……二人とも覚悟してください」
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