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一章 星詠みの目覚め
第26話 美少女でなければ享受できない幸せがある
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こんにちは、フェクトム総合学園二人目の怪我人です!
腕は医者に見せたら「あーはいはい」って感じで包帯をグルグルに巻かれました!
中二病みたいでクソかっこいいです! あ、でももう少し包帯が靡く巻き方の方が良い気もするな……。
「まさか、お前もここに来るとはな」
「ですねー」
俺はミズヒ先輩の言葉に苦笑いを浮かべて頷く。
俺達は、二人仲良く保健室に寝かされていた。
大きな学園ならば、医療科や、傷を治す事が可能な能力を持つ生徒がいるのだが、ここはフェクトム総合学園。
質も量も問えないし、そもそも何もない。
保健室とは名ばかりの、比較的清潔なベッドと救急箱があるだけの簡素な部屋で俺達はここで寝かされていた。
俺、怪我しているの右腕だけなんだけどなぁ。
「昨日は随分と活躍したそうじゃないか。私の代わりに、ありがとう」
「いえいえ。トアさんの方が俺なんかよりもずっと活躍してました。俺は見ての通りですよ」
包帯の巻かれた腕をヒラヒラと振ってみせる。
「痛くはないのか?」
「大丈夫です。医者にも、探索者なら一週間もすれば傷痕も残らないだろうって」
「そうなのか……昨晩トアが泣きじゃくってここに来た時は一大事だと思ったぞ」
「ミロク先輩も血相変えて来ましたからね……」
昨日は、トウラク君達を助けた後は病院へ直行。
腕に包帯を巻かれた所まではよかったものの、トアちゃんはそんな俺をかなーり心配してしまい、学園に戻るころには涙ボロボロだった。
美少女を泣かせるとは、TS願望者の風上にも置けない。
「別に、寮に戻っても良かったんですけどね」
「ははは、心配なんだろう。それに、その傷が癒える前に無茶をしないように見ておきたかったんじゃないか」
「それ、ミズヒ先輩もですよね」
「そうだ。正直、助けてほしい。ケイ、お前の武装でこの手錠を斬れ」
そう言って、ミズヒ先輩はベッドに繋がれた右腕の手錠を見せた。
なにをしたらこんな拘束されるんだろう。
「嫌ですよ。ミロク先輩に怒られたくありませんし」
「むぅ。仕方ない。ダイブギア無しで、魔力を練る練習でもするか」
ダイブギアも没収されてる……。
この人、たぶんあの後も逃げ出そうとしたんだろうな。
「大人しくするという選択肢は?」
「朝の七時だぞ。ここから夜まで大人しくしていたら気が狂う」
学生なんだから勉強したら?
といっても、俺も実際に暇だ。
ダイブギアはそのままだし、手錠もないが下手に動くような事はしない。
だって、それがバレたらどうなるかの見本が横にいるから。
「お腹も減った……。そろそろ固形物を食べたい……」
「今日は食べられるんじゃないですかね」
「そうか? そうだといいのだが」
ミズヒ先輩は、悲しそうにお腹を鳴らす。
こんなにしょんぼりしたミズヒ先輩は初めて見た……。
と、保健室の扉が開く音が聞こえた。
見れば、お盆を持ったミロク先輩がニコニコと笑って立っている。
「おはようございます、二人とも」
「おはようございますミロク先輩」
「ミロク、おはよう。そして後生だ、ゼリー以外の物をくれ。肉とかモヤシとか」
ミズヒ先輩の中でモヤシと肉って同列なんだ……。
「ふふっ、そう言うと思いまして、今日はモヤシと豚肉の炒め物ですよ」
「……ッ! ありがとう……!」
そこまで?
俺だけ、食生活のレベルがまだフェクトム総合学園に適応しきれていない気がする。
「はい、ケイ君も」
「ありがとうございます」
俺の前にお盆が置かれる。
食パンと、モヤシと豚肉の炒め物……食い合わせはどうなんだこれ。
「ついさっき、バイト先で期限切れの食パン貰ったんですよー」
嬉しそうにそういうミロク先輩に、ミズヒ先輩はさらに感謝する。
ミロク先輩は朝早くに色々とバイトをしているらしい。
学生が多いこの都市では、学生が働くということに対する敷居が低いらしくバイトをしている生徒はかなり多い。
探索者としての報酬だけで食っていけるのは一握りだ。
待っててね、俺が美少女になったら原作とは関係ないダンジョンを片っぱしから攻略するから。
そして、巨万の富で俺達の百合園作るわよ。マジわよ。本気わよ。
「あれ、ケイ君食べないんですか?」
「え」
しまった、今後の輝かしい未来について考えていたらついうっかり。
冷める前に食べてしまおう。
「あ、そうでしたね! 利き腕が使えないのでしたね」
「え? いやそんなこ「これはうっかりしてました。うーん、誰かに食べさせて貰った方が良いですねー!」……え、え?」
何? 何か、始まろうとしてる?
というか、別に手のひらは問題なく動くんだし、箸くらいは使えるのだが。
確かに、包帯で巻かれている分動かしづらいが問題ないのだが?
「ケイ」
そう説明しようとした瞬間、ミズヒ先輩が俺の名前を呼ぶ。
見てみれば、もっしゃもっしゃと口を動かしながら入り口の方を顎で指していた。
俺は入り口を見る。
そこには、ぷるぷる震えながら立つトアちゃんがいた。
大丈夫? 顔真っ赤で泣きそうになってない?
「た、食べれないんじゃ、し、仕方にゃいでしゅね! わっ、わたしが、たべっ、食べさせて上げましゅよ!」
口元マシュマロで出来てる?
噛むを通り越してそういう言語になってるんだけど。
「わあ、ケイ君ラッキーですね。たまたま、お箸をもったトアちゃんが通りがかってくれて。これで、朝ごはん食べられますね」
「そんなラッキーあります????」
あるんだなぁ。
いやねえよ。
「……昨日のことをまだ気にしてるみたいなんです。ケイ君には申し訳ないんですけど、少しトアちゃんの為に我慢してくれませんか?」
耳元で、ミロク先輩は申し訳なさそうにそう言った。
そう言う事ならしょうがない!
美少女のメンタルケアの為に一肌脱ぐとしようか!
「わー、たしかにラッキーだぁー。トアさんがいてくれて、たすかったー」
「で、では、失礼します……!」
トアちゃんは俺のベッドに腰を下ろす。
そして、食パンを俺に差し出した。いや、箸つかわねえのかよ。
「ど、どうぞ」
「トアちゃん、こういう時は『あーん』って言うんですよ」
「成程……! ありがとうミロクちゃん。それじゃあ、あーん」
「あ、あーん」
なにこれ。
付き合いたてのカップルかな?
俺は何もかかっていないし、焼かれてもいない食パンをもっちゃもっちゃと食べる。
うん! 素朴だねぇ!
「あの、モヤシの方を頂いても……?」
「わっ、わかりました! はい、あーん!」
「あーん」
それ一々言うのしんどくない?
大丈夫そ?
ちなみに俺は大丈夫じゃないよ?
だって、美少女から『あーん』して貰っているからね。
それは――大罪だろう。
美少女に『あーん』をして貰えるのは美少女だけ。
そんな事は、物心がついた子供が一番最初に知る常識だ。
それを破った者は、死後に地獄で亡者共に腐った臓腑を開陳することになる。それでもまだ軽い方か。
俺が美少女だったのなら、これくらいは当たり前に享受するし、なんならこっちからも『あーん』するのだが、今の俺は薄汚れたかませ役。
本来は、こんなに美少女達に囲まれてはいけない存在なのだ。
美少女に、早く美少女にさせてくれ!
『■■■■■』
だからってお前は使わねえよ! 代償あるんだろ?
『……』
今日も俺の中に巣食うものは元気そうだ。
いいのかそれで。
「お、美味しいですか?」
「はい。美味しいですよ。ありがとうございます」
「良かった……」
安堵から、ようやくトアちゃんの表情が和らぐ。
やっぱり、罪悪感からの行動だったようだ。
美少女に最も近い俺だからこそ美少女の心理は手に取るようにわかる。
ここで、自分に惚れたと勘違いするのは素人だ。
そういう奴はまん〇タイムき〇らを千回読め。その後、美少女ゲーを1ルート百周しろ。
これは、トアちゃんなりに俺という存在を受け入れようとしてくれているだけなのだ。
勘違いして距離を縮めてはいけない。
「あ、あのっ!」
「はい」
「私たち、その、同級生だし、敬語とか、止めませんか?」
ね?
これは、交流が幼馴染しかなかった引っ込み思案系美少女が、一歩勇気を持って踏み出したイベントなんだよ。
そして、そういうのに対応するのは本来はクールな美少女であるべきなんだ!
謎の美少女転校生ソルシエラに、最初は怖がっていたトアちゃんだったが、とあることをきっかけに二人の距離は急速に縮まっていく。
そういうやつがいいんだよ!
『■■……』
なにをドン引きしてんだ!
引っ込み思案×クール美少女だ! 理解しろ!
「ケイ君、どうかな?」
「……わかった。うん、これからはそうさせて貰おうかな。改めて、よろしくねトアさん」
「うん! じゃあ、えっと、トア『さん』ってのも無しで」
マジ?
呼び捨ては駄目だな。俺は美少女じゃねえし。
「じゃあ、トアちゃんでいいかな?」
「私も、ケイ君って呼ぶ……ってそれじゃ、な、何も変わっていないか」
そう言って、トアちゃんはこちらに笑いかける。
俺もそれに笑顔で返した。
うーん、今日だけで随分と罪が重なったなぁ。
■
罪を犯してしまったものはしょうがない。
一度も二度も変わらねえ。
というわけで、俺は新たに脱走という罪を犯そうと思います。
朝ごはんに続き、昼、夜と『あーん』をされた俺はもはや大罪人。
なら、脱走くらいはもう安いものよ。
「ミズヒ先輩、起きてますか」
「……ああ」
ベッドが隣なので、抜けだせばすぐにミズヒ先輩にバレる。
ならば、どうするか?
簡単だ。
ミズヒ先輩もこっち側に引き入れてしまえばいい。
「それじゃ、始めましょうか」
俺は起き上がって、武装を展開する。
今宵の短刀は、月の光を受けて妖しく光り輝いていた。
それを握りしめて、ミズヒ先輩を拘束する手錠を、両断。
自由になったミズヒ先輩は起き上がって、俺にサムズアップをした。
「ありがとう、ケイ。持つべきものは向上心のある後輩だな」
「いえいえ。俺も、尊敬できる先輩がいてありがたい限りです」
そっと、二人で病衣のまま窓から脱出する。
一階なので、飛び降りることもなくすんなりと脱出に成功した。
「それでは、私は深夜の訓練と洒落込むことにしよう。ダイブギアがないこの状態、むしろ魔力制御の練習にはうってつけだ」
「俺も、訓練してきます。もう、心配をかけさせたくないので」
「いい心掛けだな」
「では」
「ああ」
俺達は頷くと、それぞれの目的地に駆け出した。
ミズヒ先輩は訓練場。
そして俺はフェクトム総合学園の裏口。
そう、これから俺は外に出る。
「せっかく包帯をしているんだ……使わない手はないよなぁ!」
これより!
深夜女装~傷を負ってしまった美少女ver~を開始する!!
腕は医者に見せたら「あーはいはい」って感じで包帯をグルグルに巻かれました!
中二病みたいでクソかっこいいです! あ、でももう少し包帯が靡く巻き方の方が良い気もするな……。
「まさか、お前もここに来るとはな」
「ですねー」
俺はミズヒ先輩の言葉に苦笑いを浮かべて頷く。
俺達は、二人仲良く保健室に寝かされていた。
大きな学園ならば、医療科や、傷を治す事が可能な能力を持つ生徒がいるのだが、ここはフェクトム総合学園。
質も量も問えないし、そもそも何もない。
保健室とは名ばかりの、比較的清潔なベッドと救急箱があるだけの簡素な部屋で俺達はここで寝かされていた。
俺、怪我しているの右腕だけなんだけどなぁ。
「昨日は随分と活躍したそうじゃないか。私の代わりに、ありがとう」
「いえいえ。トアさんの方が俺なんかよりもずっと活躍してました。俺は見ての通りですよ」
包帯の巻かれた腕をヒラヒラと振ってみせる。
「痛くはないのか?」
「大丈夫です。医者にも、探索者なら一週間もすれば傷痕も残らないだろうって」
「そうなのか……昨晩トアが泣きじゃくってここに来た時は一大事だと思ったぞ」
「ミロク先輩も血相変えて来ましたからね……」
昨日は、トウラク君達を助けた後は病院へ直行。
腕に包帯を巻かれた所まではよかったものの、トアちゃんはそんな俺をかなーり心配してしまい、学園に戻るころには涙ボロボロだった。
美少女を泣かせるとは、TS願望者の風上にも置けない。
「別に、寮に戻っても良かったんですけどね」
「ははは、心配なんだろう。それに、その傷が癒える前に無茶をしないように見ておきたかったんじゃないか」
「それ、ミズヒ先輩もですよね」
「そうだ。正直、助けてほしい。ケイ、お前の武装でこの手錠を斬れ」
そう言って、ミズヒ先輩はベッドに繋がれた右腕の手錠を見せた。
なにをしたらこんな拘束されるんだろう。
「嫌ですよ。ミロク先輩に怒られたくありませんし」
「むぅ。仕方ない。ダイブギア無しで、魔力を練る練習でもするか」
ダイブギアも没収されてる……。
この人、たぶんあの後も逃げ出そうとしたんだろうな。
「大人しくするという選択肢は?」
「朝の七時だぞ。ここから夜まで大人しくしていたら気が狂う」
学生なんだから勉強したら?
といっても、俺も実際に暇だ。
ダイブギアはそのままだし、手錠もないが下手に動くような事はしない。
だって、それがバレたらどうなるかの見本が横にいるから。
「お腹も減った……。そろそろ固形物を食べたい……」
「今日は食べられるんじゃないですかね」
「そうか? そうだといいのだが」
ミズヒ先輩は、悲しそうにお腹を鳴らす。
こんなにしょんぼりしたミズヒ先輩は初めて見た……。
と、保健室の扉が開く音が聞こえた。
見れば、お盆を持ったミロク先輩がニコニコと笑って立っている。
「おはようございます、二人とも」
「おはようございますミロク先輩」
「ミロク、おはよう。そして後生だ、ゼリー以外の物をくれ。肉とかモヤシとか」
ミズヒ先輩の中でモヤシと肉って同列なんだ……。
「ふふっ、そう言うと思いまして、今日はモヤシと豚肉の炒め物ですよ」
「……ッ! ありがとう……!」
そこまで?
俺だけ、食生活のレベルがまだフェクトム総合学園に適応しきれていない気がする。
「はい、ケイ君も」
「ありがとうございます」
俺の前にお盆が置かれる。
食パンと、モヤシと豚肉の炒め物……食い合わせはどうなんだこれ。
「ついさっき、バイト先で期限切れの食パン貰ったんですよー」
嬉しそうにそういうミロク先輩に、ミズヒ先輩はさらに感謝する。
ミロク先輩は朝早くに色々とバイトをしているらしい。
学生が多いこの都市では、学生が働くということに対する敷居が低いらしくバイトをしている生徒はかなり多い。
探索者としての報酬だけで食っていけるのは一握りだ。
待っててね、俺が美少女になったら原作とは関係ないダンジョンを片っぱしから攻略するから。
そして、巨万の富で俺達の百合園作るわよ。マジわよ。本気わよ。
「あれ、ケイ君食べないんですか?」
「え」
しまった、今後の輝かしい未来について考えていたらついうっかり。
冷める前に食べてしまおう。
「あ、そうでしたね! 利き腕が使えないのでしたね」
「え? いやそんなこ「これはうっかりしてました。うーん、誰かに食べさせて貰った方が良いですねー!」……え、え?」
何? 何か、始まろうとしてる?
というか、別に手のひらは問題なく動くんだし、箸くらいは使えるのだが。
確かに、包帯で巻かれている分動かしづらいが問題ないのだが?
「ケイ」
そう説明しようとした瞬間、ミズヒ先輩が俺の名前を呼ぶ。
見てみれば、もっしゃもっしゃと口を動かしながら入り口の方を顎で指していた。
俺は入り口を見る。
そこには、ぷるぷる震えながら立つトアちゃんがいた。
大丈夫? 顔真っ赤で泣きそうになってない?
「た、食べれないんじゃ、し、仕方にゃいでしゅね! わっ、わたしが、たべっ、食べさせて上げましゅよ!」
口元マシュマロで出来てる?
噛むを通り越してそういう言語になってるんだけど。
「わあ、ケイ君ラッキーですね。たまたま、お箸をもったトアちゃんが通りがかってくれて。これで、朝ごはん食べられますね」
「そんなラッキーあります????」
あるんだなぁ。
いやねえよ。
「……昨日のことをまだ気にしてるみたいなんです。ケイ君には申し訳ないんですけど、少しトアちゃんの為に我慢してくれませんか?」
耳元で、ミロク先輩は申し訳なさそうにそう言った。
そう言う事ならしょうがない!
美少女のメンタルケアの為に一肌脱ぐとしようか!
「わー、たしかにラッキーだぁー。トアさんがいてくれて、たすかったー」
「で、では、失礼します……!」
トアちゃんは俺のベッドに腰を下ろす。
そして、食パンを俺に差し出した。いや、箸つかわねえのかよ。
「ど、どうぞ」
「トアちゃん、こういう時は『あーん』って言うんですよ」
「成程……! ありがとうミロクちゃん。それじゃあ、あーん」
「あ、あーん」
なにこれ。
付き合いたてのカップルかな?
俺は何もかかっていないし、焼かれてもいない食パンをもっちゃもっちゃと食べる。
うん! 素朴だねぇ!
「あの、モヤシの方を頂いても……?」
「わっ、わかりました! はい、あーん!」
「あーん」
それ一々言うのしんどくない?
大丈夫そ?
ちなみに俺は大丈夫じゃないよ?
だって、美少女から『あーん』して貰っているからね。
それは――大罪だろう。
美少女に『あーん』をして貰えるのは美少女だけ。
そんな事は、物心がついた子供が一番最初に知る常識だ。
それを破った者は、死後に地獄で亡者共に腐った臓腑を開陳することになる。それでもまだ軽い方か。
俺が美少女だったのなら、これくらいは当たり前に享受するし、なんならこっちからも『あーん』するのだが、今の俺は薄汚れたかませ役。
本来は、こんなに美少女達に囲まれてはいけない存在なのだ。
美少女に、早く美少女にさせてくれ!
『■■■■■』
だからってお前は使わねえよ! 代償あるんだろ?
『……』
今日も俺の中に巣食うものは元気そうだ。
いいのかそれで。
「お、美味しいですか?」
「はい。美味しいですよ。ありがとうございます」
「良かった……」
安堵から、ようやくトアちゃんの表情が和らぐ。
やっぱり、罪悪感からの行動だったようだ。
美少女に最も近い俺だからこそ美少女の心理は手に取るようにわかる。
ここで、自分に惚れたと勘違いするのは素人だ。
そういう奴はまん〇タイムき〇らを千回読め。その後、美少女ゲーを1ルート百周しろ。
これは、トアちゃんなりに俺という存在を受け入れようとしてくれているだけなのだ。
勘違いして距離を縮めてはいけない。
「あ、あのっ!」
「はい」
「私たち、その、同級生だし、敬語とか、止めませんか?」
ね?
これは、交流が幼馴染しかなかった引っ込み思案系美少女が、一歩勇気を持って踏み出したイベントなんだよ。
そして、そういうのに対応するのは本来はクールな美少女であるべきなんだ!
謎の美少女転校生ソルシエラに、最初は怖がっていたトアちゃんだったが、とあることをきっかけに二人の距離は急速に縮まっていく。
そういうやつがいいんだよ!
『■■……』
なにをドン引きしてんだ!
引っ込み思案×クール美少女だ! 理解しろ!
「ケイ君、どうかな?」
「……わかった。うん、これからはそうさせて貰おうかな。改めて、よろしくねトアさん」
「うん! じゃあ、えっと、トア『さん』ってのも無しで」
マジ?
呼び捨ては駄目だな。俺は美少女じゃねえし。
「じゃあ、トアちゃんでいいかな?」
「私も、ケイ君って呼ぶ……ってそれじゃ、な、何も変わっていないか」
そう言って、トアちゃんはこちらに笑いかける。
俺もそれに笑顔で返した。
うーん、今日だけで随分と罪が重なったなぁ。
■
罪を犯してしまったものはしょうがない。
一度も二度も変わらねえ。
というわけで、俺は新たに脱走という罪を犯そうと思います。
朝ごはんに続き、昼、夜と『あーん』をされた俺はもはや大罪人。
なら、脱走くらいはもう安いものよ。
「ミズヒ先輩、起きてますか」
「……ああ」
ベッドが隣なので、抜けだせばすぐにミズヒ先輩にバレる。
ならば、どうするか?
簡単だ。
ミズヒ先輩もこっち側に引き入れてしまえばいい。
「それじゃ、始めましょうか」
俺は起き上がって、武装を展開する。
今宵の短刀は、月の光を受けて妖しく光り輝いていた。
それを握りしめて、ミズヒ先輩を拘束する手錠を、両断。
自由になったミズヒ先輩は起き上がって、俺にサムズアップをした。
「ありがとう、ケイ。持つべきものは向上心のある後輩だな」
「いえいえ。俺も、尊敬できる先輩がいてありがたい限りです」
そっと、二人で病衣のまま窓から脱出する。
一階なので、飛び降りることもなくすんなりと脱出に成功した。
「それでは、私は深夜の訓練と洒落込むことにしよう。ダイブギアがないこの状態、むしろ魔力制御の練習にはうってつけだ」
「俺も、訓練してきます。もう、心配をかけさせたくないので」
「いい心掛けだな」
「では」
「ああ」
俺達は頷くと、それぞれの目的地に駆け出した。
ミズヒ先輩は訓練場。
そして俺はフェクトム総合学園の裏口。
そう、これから俺は外に出る。
「せっかく包帯をしているんだ……使わない手はないよなぁ!」
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