上 下
24 / 232
一章 星詠みの目覚め

第24話 美少女だって想定外の事態はある

しおりを挟む
 途中で変な輩と配信者に絡まれたが、結果としては楽しかった。

 まさか、あそこまで俺の言葉を信じてくれるとは浄化ちゃんはチョロい奴だぜ……。

「あ、見えました」

 トアちゃんはそう言って、空を指さす。
 雨が振り続ける荒廃した大地の上を泳ぐ様に飛び続ける一体の蛇がそこにはいた。

 時代が時代なら神様として祀られていそうだ。

「アレが、今回のダンジョンの主」
「そ、そうみたいですね」

 俺達は、今推定Dランクのダンジョンを探索していた。

 探索と言っても、一面が荒廃した大地なので、少しの距離を歩いただけにすぎない。

 せっかく決闘を経て探索の権利を勝ち取ったのだから、攻略はしたい所だが、さてさて。

「……飛んでるから、俺の剣は当たらないですね」
「で、ですよね。うーん、困りました……」

 俺は、一応短刀を蛇に向けて放り投げる。
 一般人が投げるよりはマシな速度で飛んだ短刀は、しかし結局蛇に届く前に落下した。

 落下地点で短刀を拾い上げて、上を見あげる。

 そもそも短刀を投げられたことにも気が付いていないのか、蛇は気持ちよさそうに泳いでいた。
 なんだこいつ。

「……あの、よ、良ければ私が撃ちましょうか?」
「ああ、お願いできます?」
「は、はいっ!」

 トアちゃんは何度もうなずく。
 遠距離攻撃が可能なトアちゃんだが、こっちからお願いすると怖がっちゃいそうで出来なかったんだよね。自分から、言ってくれて助かるわー。

「わ、私は、さっきの決闘も、あの人たちに絡まれた時だって助けられてばかりなので、ここでお役に立たないと……!」

 決闘で三人を消し炭に変えたの君だけどね。
 充分に役に立っていると思う。というか、俺の方が役に立っていない気がする。

 結局、俺は男装(女装)で遊んでただけだし……。

「そ、それじゃ撃ちますので、離れてください」
「あ、はーい」

 俺は少し離れた場所で、短刀を一応構えたままトアちゃんを見る。

 辺りには蛇以外の魔物もいない。
 本当に、攻略難易度が低いダンジョンだ。そしてこういうダンジョンは、あまり売値が良くない。

 雨が振り続けているのも陰鬱で嫌になる。

 トアちゃんは、重砲を空に向けて構えると、息を大きく吐いた。

「――第一術式、解放。定格出力『アルテミス』への移行を開始」

 雨の音に混じって辺りに武装の駆動音が響き渡る。

 重砲の至る所から、蒸気が吹きあがり、熱により雨粒を蒸発。
 トアちゃんの周囲が、霧のように白くなっていく。

「第二術式、連結。第三から第五までを限定解除。収束開始――」

 武装がその唸りを激しくする。
 同時に、至る所に展開される魔法陣。
 
 それは、収束砲撃を撃つ際に必要になる無数の演算システムであり、使用者にかかる負担を肩代わりするものだ。

 ふむ、こうしてみると俺のソルシエラとは違うな。

 ……魔法陣とか、出したほうがカッコいいか。

『■■■■』

 あ、出せるの?
 じゃあ、オプションで魔法陣を追加しようかなー。

 魔力を使った技には、カッコよくて派手な魔法陣を無駄に展開する感じで。

『■■■■■■■■■■■■■』

 へー、魔法陣のデザイン自分で決められるんだ。
 どうしよっかなー。

 ……もしかして俺に売られまいとしてプレゼンしてる?

『……』

 待てコラ、逃げるな。

 ……まあいい。
 魔法陣はどうしよっかなー。

 色は、紫かなぁ。いや、深い蒼も捨てがたいなぁ。

「発射」
「うおっ!?」

 俺の思考を遮るように、黄金の光が空へと立ち昇る。

 雨を蒸発させながら突き進む光は、そのまま蛇の身体の中心を捉えた。
 銃弾を超える高速の魔力砲撃を空を飛ぶ程度の蛇に避けられるはずがなく、あっけなく消し炭になる。

 光は、勢いが衰えることを知らずに、そのまま雨雲をぶち破り無理矢理辺りを快晴にした。

 威力が、おかしい。

「ま、魔石とか残るように威力を、お、抑えてみたけど……どうでしょうか」

 雨に混じって、確かに魔石がいくつか落下してきていた。

「……え、これで?」
「あ、あう……だめ、でしたか」
「いやいやいや、駄目じゃないです。完璧です。ありがとうございます!」

 今にも泣き出しそうなトアちゃんに俺は必死に頭を下げる。
 これで、威力を抑えているの?
 
 確かに原作だと、色々あって月に出現したダンジョンを入り口ごと収束砲撃でぶっ壊す回があるけど。
 改めて、収束砲撃ってヤバいなぁ。

 じゃあ、俺の撃ってるソルシエラってなんなんだよ。
 威力が強いから、俺も収束砲撃だと思ってたんだけど違う可能性が出てきたな。

「……ケイ君、どうかしましたか?」
「いえ、ありがとうございます。それじゃ、魔石とコアを回収しましょうか」

 俺は率先して回収に向かう。

 今回の攻略は何もしていない。
 意味なし魔法陣の事を考えていただけなので、ここくらいは働かせてほしい。

「てっ、手伝います」

 いい子だなぁ。

 俺はトアちゃんと一緒にせっせと魔石を集める。

 この後は魔石を売って、ダンジョンのコアはミロク先輩に預けて任務完了だ。

「今日も、お肉買って帰れそうですね」
「二日連続で、お肉……!」

 キラキラとした目で、トアちゃんが頷く。
 平和だぁ。

 そんなトアちゃんを見てほっこりしていたその時だった。

 俺とトアちゃんのダイブギアが同時に鳴り響いた。

 それは、救援を知らせる通知音。
 救援要求生徒が近くにいる場合にのみ鳴る緊急度の高いものである。

「トアさん、もう少しだけお仕事できますか」
「はい。が、頑張ります!」

 トアちゃんはそう言って地面に置いていた重砲を持ち上げる。

 コアは回収、魔石も全部拾ったので後は救援に向かうだけなのだが。

「……ん? 座標がここになってる」

 マップを見て、俺は首を傾げる。
 どうやら俺達のいる辺りで、救援を求める人がいるらしい。

 が、荒野を見渡してもそんな生徒らしい影はないし……あれ、この校章って御景学園だな。
 というか、生徒の名前――。

「双葉ミハヤ……!?」

 げぇ!? 原作メインヒロイン様ぁ!?

 そうなると話が変わってくる。
 変に原作に巻き込まれると危ないので、ここは帰らせてもらおう。
 そうしよう。

「トアさん、ここは他の探索者に――」

 その時だった。

 周囲の景色が、まるでかき混ぜるように歪む。
 荒野も、雨雲も全てが無かったかのように世界が書き換えられていく。

「こっ、これってなんですかぁ!」
「他のダンジョンの浸食です。強力なダンジョンが、他のダンジョンを飲み込む事が稀にあるんですよ」

 ダンジョンの入り口とは別に、ダンジョン同士の距離感は実にちぐはぐはものだ。

 隣同士に出現しても、決して交わることがない物もあれば、遠く離れていても混ざり合うものある。
 救援の信号が俺達のいる場所と重なっていたのは恐らくはこのダンジョンと原作ヒロイン様のいるダンジョンがかなり近かったのだろう。
 
 そのためダンジョンを攻略しコアの状態にした結果、このダンジョンの抵抗力がなくなり、浸食を許したのだ。

「これは、洞窟ですか?」
「ですね。結晶が輝いているので、明かりには困らなそうですが」

 あっという間に、俺達は荒野から洞窟へと移動していた。
 ってこれ、原作でもあったダンジョンだわ。

 確か、ルトラの使い方がまだ手探り状態で無茶したトウラク君が敗北する回だったか。
 あの時は、デモンズギア持ちの先輩である六波羅さんが気まぐれで助けてくれたんだよね。

 それにしても、描写されていなかったけど救難信号出してたんだ。へー。
 ま、六波羅さんが助けに来てくれるだろうし大丈夫か。

 ……六波羅さん、原作とは違う動き方してる可能性ない?

 デモンズギアも二つあるし……お仕事の優先順位とか変わっている可能性があるくない?。
 これ、ヤバくない?

「……行きましょう、トアさん」
「あ、はい」

 一応。
 一応ね、確認をしよう。

 たぶん大丈夫だけどね。
 六波羅さんいるけどね(願望)

 そんな事を考えながら、背中に汗びっしょりで俺達は洞窟の奥へと足を踏みいれた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

月額ダンジョン~才能ナシからの最強~

山椒
ファンタジー
世界各地にダンジョンが出現して約三年。ダンジョンに一歩入ればステータスが与えられ冒険者の資格を与えられる。 だがその中にも能力を与えられる人がいた。与えられたものを才能アリと称され、何も与えられなかったものを才能ナシと呼ばれていた。 才能ナシでレベルアップのために必要な経験値すら膨大な男が飽きずに千体目のスライムを倒したことでダンジョン都市のカギを手に入れた。 面白いことが好きな男とダンジョン都市のシステムが噛み合ったことで最強になるお話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...