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一章 星詠みの目覚め
第23話 美少女を覗く時、美少女もまたこちらを覗いている
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「――気落ち悪い執念ね。正解よ、ストーカーさん」
そう言って、目の前の少女は呆れたように息を吐いた。
先程までの礼儀正しい少年『那滝ケイ』の仮面の裏にある本性。
それこそがこの都市におけるイレギュラー。
Sランク番外序列――ソルシエラ。
「那滝ケイは男であるという先入観をうまく利用したみたいですけど、私には通じませんよ。その学籍でさえ偽装なのでしょう?」
「……よくわかっているじゃない」
言葉とは裏腹に、ソルシエラは興味無さげにそう吐き捨てた。
まるで、こちらが気が付いていたことなど想定内だったとでも言っているかのようだ。
(ようやく正体を暴いたんです。絶対に逃がしませんよ……!)
綺羅螺クラムにとってそれは千載一遇のチャンスだったと言えるだろう。
相手は学園都市において話題沸騰中のSランク。
そして、デモンズギア計画に対する敵対者。
味方に引き入れることが出来れば何よりも心強い。
「それで、私に何か用? 手短にお願いするわ」
まるで、周囲を飛ぶ羽虫を払うかのように鬱陶しそうな表情のソルシエラに対して、クラムは臆せず言った。
「そうですね。なら単刀直入にお願いします。――騎双学園を潰すのを手伝って下さい」
「嫌よ」
短い返事。
それは、この上なく彼女の気持ちを表したものだった。
しかし、それで引き下がるクラムではない。
「……騎双学園の非合法な実験は知っているでしょう。貴女が追っているデモンズギアもその一つな筈です」
「そうね」
「騎双学園は六波羅を使って新たにデモンズギアを入手しました。フェクトムの実験施設にいた個体です」
クラムの言葉に、ソルシエラは頷く。
「これで、騎双学園はデモンズギアを二つ所持している事になる」
「そうです。二つ目の適合者が見つかってしまえば、騎双学園は他校に向けて戦争を仕掛けるでしょう。そうなる前に止めないと」
僅かな沈黙があった。
クラムを見たまま、考えるようにして黙り込んだソルシエラはやがて息を吐きだすように言う。
「……私は今は動かないわ」
「何故ですか。デモンズギアの怖ろしさは知っているでしょう!?」
理解ができない。
ソルシエラがデモンズギアについて知っていることは理解していた。
ならば、騎双学園という学園都市の汚点がデモンズギアを二つも所有するのは許されるわけがない。
クラム視点からすれば、断る理由などある筈がないのだ。
「まだ、その時ではないからよ」
「……ソルシエラ、貴女は何を知っているんですか」
「貴女の知らない全て、そしてこれから起こる厄災についてよ」
そう言ってソルシエラは視線を空へと移した。
彼女が何を思ってそのような言葉を口にしたのか、それがわからないクラムには何かを言う資格はなかった。
「まだ、動く時ではない。全ては星のめぐり合わせ。機会が来れば、自ずと理解するわ」
「……そんな言葉で納得しろと?」
「しなくてもいい。けれど、理解はして。今、貴女が動いた所で奴らには勝てない」
目線を合わせることなく、ソルシエラはそう断言した。
それでも、クラムは食い下がる。
「でも、貴女がいれば」
その言葉に、ソルシエラは初めて感情をハッキリと露にした。
呆れたような、失望したような、そんな突き放す様な眼をクラムへと向けている。
「本当に、脅威がそれだけだと思っているのかしら。……目の前の事にとらわれ過ぎて大局を見ていないのね、貴女って」
(っ、この人、私の事まで知っている!? 一体、どこから情報を……)
ソルシエラの言葉は暗にクラムの本当の目的を指摘していた。
騎双学園という悪を打倒するというお題目を掲げた影で為そうとしている真の目的であり、悲願。
それが、看破されているのである。
(私の言葉が全部薄っぺらいものだったから、ソルシエラはこんなにも)
学園都市の治安を守るためという大義が、仮初のものであるとソルシエラは知っていた。
ならば、今までのクラムの言葉は彼女にどのように聞こえていたのだろうか。
「……っ」
悔しさや、自分の取り繕っていたものが剥がれていく気恥ずかしさ、あてのない怒りが混ざり合って気が付けばクラムは拳を握りしめていた。
ソルシエラはそれを見て、仕方ないとでも言いたげに息を吐く。
「……その時が来たら、貴女も呼んであげる。それでいいかしら」
「っ、……本当ですか」
助けられた。
こちらを見透かされた上で、わざと話に乗ったのだとクラムは理解していた。
同時に、クラム一人を加えたところでソルシエラの考える計画が揺るがないという事も。
「ええ。別に、ずっと先の話でもないもの。騎双学園を崩壊させるのは」
「まさか、既に騎双学園を潰す計画が……!?」
「そうよ」
当然のことのように、ソルシエラは頷いた。
「彼等はデモンズギアを本来の目的から逸脱した使い方をしようとしている。あれは人類の生存のためのもの。武器は正しく使われてこそ真価を発揮するわ」
「貴女はデモンズギアについてどれだけの事を知っているんですか……!?」
クラムの問いに、再びソルシエラは視線を合わせて言った。
「全てよ」
「……っ」
今までよりもずっと冷たく澄んだ瞳。
まるで首元に氷の刃を突き立てられているかのように鋭利で、海底に沈められたように息苦しい。
ただ眼を合わせているだけなのに、これ程までに魂が震えるものなのだろうか。
「あれらは元々、一つの現象に対抗するために作られた人造神話の具現。この世界が生み出した、最初の希望」
ソルシエラは言葉を紡ぐ。
一切の戸惑いも淀みもなく、まるでこの世の全てを知っているかのようだ。
「故に、私たちはずっとデモンズギアを監視してきた」
「私、たち?」
「そうよ。私たち」
そこまで言って、ソルシエラは少し思案してから首を横に振った。
「……いえ、止めておきましょうか。貴女は騎双学園を潰したいだけ。そうでしょう?」
ソルシエラは、クラムの髪をそっと梳く。
冷たく怖ろしい筈なのに、妙に優しく思いやりのある不思議な手つきだった。
それから、ソルシエラはふっと微笑む。
今までの彼女からは想像もできない程に、優しい笑みだ。
「これ以上深淵を覗き込む必要はない」
「ソルシエラ……貴女はいえ、貴女たちは一体何を考えているんですか」
クラムから、一歩離れる。
その瞬間、確かに周りの魔力量が爆発的に膨れ上がった。
(っ!? これは一体!?)
ソルシエラの魔力が高まっているのが感じ取れる。
本来、探索者は魔力を体外へと放出することはない。
故に周囲に魔力を放出する行為自体に、昔から意味が存在した。
それは、自身の実力を示すこと。
魔力量という絶対的な強さの指標は、言葉よりも雄弁にその者の実力を語る。
であればこそ、ソルシエラのそれはクラムに対する自身の実力の開示だった。
(この魔力量を完全に制御している……!? だって、これは生徒会長なんて比じゃない。もっと、強大で怖ろしい……!)
深淵とは何か。
それをクラムは理解した。
彼女こそが、深淵であり学園都市の闇だったのだ。
「私たちの目的は最初からただ一つ――人類の救済よ」
謳うように彼女は告げる。
英雄譚の一幕のように、美しく髪を払う動作。
先程まで短かった筈の髪は、緩やかなウェーブのかかる美しい蒼銀の長髪に変化していた。
「その姿……」
クラムは息をのむ。
美しく、そして怖ろしい姿だった。
(魔力によって自身の身体を強制的に操作した? 確かに理論上は可能ですが、それを顔色一つ変えずにやってのけるとは。怖ろしく巧い魔力制御、これなら周囲の人間が気が付かないのも納得です)
クラムの中で、ソルシエラは既にSランクを超越した怪物へと認識が格上げされていた。
仲間に引き入れたい強力な探索者から、決して怒りを買ってはいけない未知なる怪物へと。
「あら、何を驚いているの?」
言葉が詰まって、まともに話すことすらできない。
クラムは気圧されていた。
圧倒的な量の魔力放出と、それを自在に操る手腕。
ソルシエラの正体を掴んだと喜んでいた自分がどれだけ矮小な存在だったか。
(私は、彼女と同じ目線で話ができていると思っていた。けれど、違った)
「……はぁ」
失望したようなため息。
失望した。
一体、何に?
いや、そもそも――なぜソルシエラは話をしたのか。
(正体がバレたならば、普通は処理する筈。彼女なら、いくらでも私を殺すチャンスがあった)
それでもそうしなかったのは何故か。
クラムという少女が自分の正体を突き止めたところで取るに足らない存在だからだろうか。
ならば何故。
何故、デモンズギアについて話したのか。
何故、背後に存在する強大な組織を示唆したのか。
何故、今もまだ何かを待ちわびるかのような眼をしているのか。
(私の全てを見透かしている。その上で、ソルシエラは様々な事を教えてくれた。なら、もう取り繕う必要なんかない)
それが自惚れでないのならば、それが勘違いでないのならば。
ソルシエラは、綺羅螺クラムという少女の中に何かを見出したことになる。
クラムは他人に誇ることなど一切ない。
それでも、自身を突き動かす仄暗い熱だけは確かに持っていた。
「――私は」
後は、その熱を口にするだけでいい。
「それでも、構いません。例え、深淵だろうが騎双学園を潰せるなら。……いえ、私の復讐を果たせるならそれでいい」
大義など所詮は嘘。
全ては、復讐の為に。
ただ一人の少女のために、クラムはここにいる。
「そう。多少は期待できそうね、貴女」
目が合った。
今までのような一方的なものではない。
確かにこの瞬間だけは対等だと理解できた。
それが、何を意味するのかも。
間もなく、クラムのダイブギアに一つの連絡先が追加された。
「……これは」
「時が来たら知らせるわ」
それ以上の事を口にすることは無かった。
やがて、少しおどおどとした声が聞こえてきた。
ふと隣を見れば、既に髪は短く戻っておりいつも通りの那滝ケイの姿に戻っている。
(これがソルシエラ……)
月宮トアを見て、優し気な笑みを浮かべるその顔はまるで嘘がないかのようだった。
そう言って、目の前の少女は呆れたように息を吐いた。
先程までの礼儀正しい少年『那滝ケイ』の仮面の裏にある本性。
それこそがこの都市におけるイレギュラー。
Sランク番外序列――ソルシエラ。
「那滝ケイは男であるという先入観をうまく利用したみたいですけど、私には通じませんよ。その学籍でさえ偽装なのでしょう?」
「……よくわかっているじゃない」
言葉とは裏腹に、ソルシエラは興味無さげにそう吐き捨てた。
まるで、こちらが気が付いていたことなど想定内だったとでも言っているかのようだ。
(ようやく正体を暴いたんです。絶対に逃がしませんよ……!)
綺羅螺クラムにとってそれは千載一遇のチャンスだったと言えるだろう。
相手は学園都市において話題沸騰中のSランク。
そして、デモンズギア計画に対する敵対者。
味方に引き入れることが出来れば何よりも心強い。
「それで、私に何か用? 手短にお願いするわ」
まるで、周囲を飛ぶ羽虫を払うかのように鬱陶しそうな表情のソルシエラに対して、クラムは臆せず言った。
「そうですね。なら単刀直入にお願いします。――騎双学園を潰すのを手伝って下さい」
「嫌よ」
短い返事。
それは、この上なく彼女の気持ちを表したものだった。
しかし、それで引き下がるクラムではない。
「……騎双学園の非合法な実験は知っているでしょう。貴女が追っているデモンズギアもその一つな筈です」
「そうね」
「騎双学園は六波羅を使って新たにデモンズギアを入手しました。フェクトムの実験施設にいた個体です」
クラムの言葉に、ソルシエラは頷く。
「これで、騎双学園はデモンズギアを二つ所持している事になる」
「そうです。二つ目の適合者が見つかってしまえば、騎双学園は他校に向けて戦争を仕掛けるでしょう。そうなる前に止めないと」
僅かな沈黙があった。
クラムを見たまま、考えるようにして黙り込んだソルシエラはやがて息を吐きだすように言う。
「……私は今は動かないわ」
「何故ですか。デモンズギアの怖ろしさは知っているでしょう!?」
理解ができない。
ソルシエラがデモンズギアについて知っていることは理解していた。
ならば、騎双学園という学園都市の汚点がデモンズギアを二つも所有するのは許されるわけがない。
クラム視点からすれば、断る理由などある筈がないのだ。
「まだ、その時ではないからよ」
「……ソルシエラ、貴女は何を知っているんですか」
「貴女の知らない全て、そしてこれから起こる厄災についてよ」
そう言ってソルシエラは視線を空へと移した。
彼女が何を思ってそのような言葉を口にしたのか、それがわからないクラムには何かを言う資格はなかった。
「まだ、動く時ではない。全ては星のめぐり合わせ。機会が来れば、自ずと理解するわ」
「……そんな言葉で納得しろと?」
「しなくてもいい。けれど、理解はして。今、貴女が動いた所で奴らには勝てない」
目線を合わせることなく、ソルシエラはそう断言した。
それでも、クラムは食い下がる。
「でも、貴女がいれば」
その言葉に、ソルシエラは初めて感情をハッキリと露にした。
呆れたような、失望したような、そんな突き放す様な眼をクラムへと向けている。
「本当に、脅威がそれだけだと思っているのかしら。……目の前の事にとらわれ過ぎて大局を見ていないのね、貴女って」
(っ、この人、私の事まで知っている!? 一体、どこから情報を……)
ソルシエラの言葉は暗にクラムの本当の目的を指摘していた。
騎双学園という悪を打倒するというお題目を掲げた影で為そうとしている真の目的であり、悲願。
それが、看破されているのである。
(私の言葉が全部薄っぺらいものだったから、ソルシエラはこんなにも)
学園都市の治安を守るためという大義が、仮初のものであるとソルシエラは知っていた。
ならば、今までのクラムの言葉は彼女にどのように聞こえていたのだろうか。
「……っ」
悔しさや、自分の取り繕っていたものが剥がれていく気恥ずかしさ、あてのない怒りが混ざり合って気が付けばクラムは拳を握りしめていた。
ソルシエラはそれを見て、仕方ないとでも言いたげに息を吐く。
「……その時が来たら、貴女も呼んであげる。それでいいかしら」
「っ、……本当ですか」
助けられた。
こちらを見透かされた上で、わざと話に乗ったのだとクラムは理解していた。
同時に、クラム一人を加えたところでソルシエラの考える計画が揺るがないという事も。
「ええ。別に、ずっと先の話でもないもの。騎双学園を崩壊させるのは」
「まさか、既に騎双学園を潰す計画が……!?」
「そうよ」
当然のことのように、ソルシエラは頷いた。
「彼等はデモンズギアを本来の目的から逸脱した使い方をしようとしている。あれは人類の生存のためのもの。武器は正しく使われてこそ真価を発揮するわ」
「貴女はデモンズギアについてどれだけの事を知っているんですか……!?」
クラムの問いに、再びソルシエラは視線を合わせて言った。
「全てよ」
「……っ」
今までよりもずっと冷たく澄んだ瞳。
まるで首元に氷の刃を突き立てられているかのように鋭利で、海底に沈められたように息苦しい。
ただ眼を合わせているだけなのに、これ程までに魂が震えるものなのだろうか。
「あれらは元々、一つの現象に対抗するために作られた人造神話の具現。この世界が生み出した、最初の希望」
ソルシエラは言葉を紡ぐ。
一切の戸惑いも淀みもなく、まるでこの世の全てを知っているかのようだ。
「故に、私たちはずっとデモンズギアを監視してきた」
「私、たち?」
「そうよ。私たち」
そこまで言って、ソルシエラは少し思案してから首を横に振った。
「……いえ、止めておきましょうか。貴女は騎双学園を潰したいだけ。そうでしょう?」
ソルシエラは、クラムの髪をそっと梳く。
冷たく怖ろしい筈なのに、妙に優しく思いやりのある不思議な手つきだった。
それから、ソルシエラはふっと微笑む。
今までの彼女からは想像もできない程に、優しい笑みだ。
「これ以上深淵を覗き込む必要はない」
「ソルシエラ……貴女はいえ、貴女たちは一体何を考えているんですか」
クラムから、一歩離れる。
その瞬間、確かに周りの魔力量が爆発的に膨れ上がった。
(っ!? これは一体!?)
ソルシエラの魔力が高まっているのが感じ取れる。
本来、探索者は魔力を体外へと放出することはない。
故に周囲に魔力を放出する行為自体に、昔から意味が存在した。
それは、自身の実力を示すこと。
魔力量という絶対的な強さの指標は、言葉よりも雄弁にその者の実力を語る。
であればこそ、ソルシエラのそれはクラムに対する自身の実力の開示だった。
(この魔力量を完全に制御している……!? だって、これは生徒会長なんて比じゃない。もっと、強大で怖ろしい……!)
深淵とは何か。
それをクラムは理解した。
彼女こそが、深淵であり学園都市の闇だったのだ。
「私たちの目的は最初からただ一つ――人類の救済よ」
謳うように彼女は告げる。
英雄譚の一幕のように、美しく髪を払う動作。
先程まで短かった筈の髪は、緩やかなウェーブのかかる美しい蒼銀の長髪に変化していた。
「その姿……」
クラムは息をのむ。
美しく、そして怖ろしい姿だった。
(魔力によって自身の身体を強制的に操作した? 確かに理論上は可能ですが、それを顔色一つ変えずにやってのけるとは。怖ろしく巧い魔力制御、これなら周囲の人間が気が付かないのも納得です)
クラムの中で、ソルシエラは既にSランクを超越した怪物へと認識が格上げされていた。
仲間に引き入れたい強力な探索者から、決して怒りを買ってはいけない未知なる怪物へと。
「あら、何を驚いているの?」
言葉が詰まって、まともに話すことすらできない。
クラムは気圧されていた。
圧倒的な量の魔力放出と、それを自在に操る手腕。
ソルシエラの正体を掴んだと喜んでいた自分がどれだけ矮小な存在だったか。
(私は、彼女と同じ目線で話ができていると思っていた。けれど、違った)
「……はぁ」
失望したようなため息。
失望した。
一体、何に?
いや、そもそも――なぜソルシエラは話をしたのか。
(正体がバレたならば、普通は処理する筈。彼女なら、いくらでも私を殺すチャンスがあった)
それでもそうしなかったのは何故か。
クラムという少女が自分の正体を突き止めたところで取るに足らない存在だからだろうか。
ならば何故。
何故、デモンズギアについて話したのか。
何故、背後に存在する強大な組織を示唆したのか。
何故、今もまだ何かを待ちわびるかのような眼をしているのか。
(私の全てを見透かしている。その上で、ソルシエラは様々な事を教えてくれた。なら、もう取り繕う必要なんかない)
それが自惚れでないのならば、それが勘違いでないのならば。
ソルシエラは、綺羅螺クラムという少女の中に何かを見出したことになる。
クラムは他人に誇ることなど一切ない。
それでも、自身を突き動かす仄暗い熱だけは確かに持っていた。
「――私は」
後は、その熱を口にするだけでいい。
「それでも、構いません。例え、深淵だろうが騎双学園を潰せるなら。……いえ、私の復讐を果たせるならそれでいい」
大義など所詮は嘘。
全ては、復讐の為に。
ただ一人の少女のために、クラムはここにいる。
「そう。多少は期待できそうね、貴女」
目が合った。
今までのような一方的なものではない。
確かにこの瞬間だけは対等だと理解できた。
それが、何を意味するのかも。
間もなく、クラムのダイブギアに一つの連絡先が追加された。
「……これは」
「時が来たら知らせるわ」
それ以上の事を口にすることは無かった。
やがて、少しおどおどとした声が聞こえてきた。
ふと隣を見れば、既に髪は短く戻っておりいつも通りの那滝ケイの姿に戻っている。
(これがソルシエラ……)
月宮トアを見て、優し気な笑みを浮かべるその顔はまるで嘘がないかのようだった。
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