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一章 星詠みの目覚め
第19話 美少女であるが故に脳破壊は許してはならない
しおりを挟むダンジョンを前に、俺達は困り果てていた。
「ダンジョン……見つけちゃいましたね」
「ですね」
え、これ攻略していいの?
この二人で?
バフ無しかませと臆病トアちゃんで?
「あ、魔力深度はD相当ですね。そこまで攻略難易度は高くないかも知れないです」
「そうですか」
ダイブギアで、ダンジョンの入り口の魔力を計測していたトアちゃんはどこか嬉しそうに言った。
確かに、これでBとか言われても困る。
俺一人なら、女装して出直す事もできるがトアちゃんがいるし……。
そう考えていると、背後に誰かの気配を感じた。
同業者かな? と思って振り返るとその瞬間視界いっぱいに直剣が飛び込んでくる。
「っ!?」
長袖の中で赤い腕輪が出現し、動体視力が向上する。
俺は剣を避けてその持ち手へと短刀を振り下ろすが、それは当たる寸前で回避されてしまった。
「あーあ、仕留め損ねたな」
「……随分なご挨拶ですね」
短刀を構え、トアちゃんの前に立つ。
俺達の前には三人の生徒がいた。
見覚えのない制服からして、原作では登場しないモブ生徒だろう。
どうしよう、ボコボコにしてやろうか。
「いやぁ、君たちそのダンジョンを譲ってくれないかな? 俺達、ダンジョンのノルマあるんだよねぇ」
「知った事じゃないですね。大人しく俺達から買い取ればいいでしょう」
「正式に攻略の権利がお前たちにあるならそうする。けど、まだビーコン立ててねえだろ」
ダンジョンの攻略権利を表すビーコンは、原作内でも散々に言及された要素だ。
そのダンジョンを今、どの学園が攻略しているのか、人数や名前などがわかる他、場合によってはダンジョン内と外界との通信を中継し、救難信号を出す役割りもある。
これを入り口に打ち立てる事により、そのダンジョンの攻略権利が発生するわけである。
が、俺達はまだどうするか悩んでいる最中で、ビーコンを打ち立てなかった。
というか、そもそも俺はフェクトム総合学園のビーコンを持っていない。アレ、有料だし。
「……トアさん、ちなみにビーコンは」
「あ、あります。けど、この状況じゃ」
立てられるわけがない。
となると、バチバチに争うか、逃げるかの二択なのだが。
「お前ら、見たことねえし、弱そうだ。ここで三人相手にするよりも、大人しく逃げたほうがいいと思うな」
「ははっ、ユウ君こえー。コイツ、マジつええから。止めといたほうが良いぜ?」
モブのお手本みてえな台詞言いやがって……!
こうなりゃ、また適当に突撃して吹っ飛ばされるか?
そうすればソルシエラになれる。
けれど、それには。
「うぅ……」
俺の影に隠れるようにして身を震わせるトアちゃん。
彼女を一人にするわけには行かない。ミズヒ先輩とは違うんだ。
大人しく譲るのが安全策だろう。
元々が推定Dのダンジョンだ。稼ぎもそれほどではない。
フェクトム総合学園にとってはかなりの痛手だが、ダンジョン全体で見れば逃がしても惜しくはない程度だ。
「……わかりました」
「よし、話のわかる奴は好きだぜ? なら、野郎は興味ねえから失せろ」
「は?」
は? 心は美少女だが?
「こっちは男しかいねえからさ、一人くらい花のある奴が欲しいんだよね。ソッチの女を同行させてくれりゃ、魔石の一つくらいは譲る。どうだ?」
「ははは、ユウ君、またやってるよ! よっ、女泣かせ!」
「おいおい! アイツらはユウ君に勝手に捨てられた気になっている女だろぉ? ユウ君悪くねえって!」
「それもそうか。あっはははは」
ははーん、コイツらモブであり脳破壊要因か。
……じゃ、殺してもいいか。
「――」
「っ!? なんだコイツ!? 急に武器を振り回して!」
「くそっ、こっちの攻撃が当たらねえ!?」
百合を破壊するものは許さない。
お前らを殺して、最後には俺も男として死ぬ。
それか、お前らも纏めて女にする。
「お前らは絶対に存在しちゃいけない」
「そこまで言うかよ!?」
「ユウ君コイツやべえって!」
短刀を、ただひたすらに相手の喉元目掛けて振るう。
俺は回避特化で剣の腕などないが、当たるまで続ける覚悟だ。
「こ、コイツ強いぞ! ユウ君、能力使っちゃっていいよ!」
「ああ、分かった!」
リーダー格の生徒の周囲の景色が灼熱で歪む。
次の瞬間、生徒の身体の至る所から火が吹き上がった。
俺は咄嗟に飛びのいて、短刀を構えなおす。
「はははは、俺に能力を使わせたらもう終わりだぜ? この身体に纏った炎がある限り近付けねえだろ!」
確かに少し厄介だ。
『■■■■■』
まあ、確かに君をぶっ放せばそれで勝ちなんだけど。
女装できそうにないからなぁ。
「さらにぃ! 俺はあの騎双学園とも繋がりを持っている。……逆らった時点で、これから先の探索者人生は終わりだ」
「……そうか」
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「火を纏っただけだ。この刃が届かない訳ではないだろう」
「そうだなぁ。けど、これならどうかな!」
リーダー格はそう言って、俺に突進を仕掛けてきた。
ははは、なんて雑魚い突進。
あの六波羅さんの攻撃を避けきった俺からすれば赤ちゃんレベルだね。
そう思いながら、ひょいと横に避ける。
「馬鹿だな。狙いはお前じゃねえよ!」
「……は?」
リーダー格は減速せずに突進する。
その先には、怯えたトアちゃんの姿があった。
「トアちゃん!? クソッ!」
卑怯者! なんて模範的な悪役の行為を……。
俺はすぐに駆け出そうとする。
がその前に二人の生徒が立ちはだかった。
「行かせると思うか?」
「ユウ君のハグは熱烈だからねぇ。火傷しちゃうかも」
「……あ?」
トアちゃんに火傷?
そんなこと、あってはならない。
『■■■■■』
女装は出来ない。する時間がない。
けど、この気持ちの高ぶりは無視できるわけがない。
『■■■■■』
わかっている。
どこまでやれるかわからないが、こいつらを細切れにするぞ。
「――フゥ」
息を吐く。
僅か一秒。
そして、口を開いた。
「ソルシエ「ちょっと待ったあああああ!」……え?」
『■?』
声に、俺と生徒二人は停止する。
が、その間もリーダー格の男はトアちゃんへと接近し――。
「ゲコッ」
機械的に再現された蛙の声が響いた。
見れば、トアちゃんの前に一匹の機械仕掛けの蛙がいる
「ははは、俺の勝ちだぁ!」
リーダー格の男が気が付かずその蛙を踏み越えようとしたその瞬間、蛙は派手に爆発した。
立ち昇る爆炎の中から悲鳴が聞こえる。
「ぎゃああああああ!!」
「「ユウ君!?」」
爆発し、吹き飛ばされたリーダー格の男が地面に転がる。
俺を軽々超える飛距離から察するに相当な威力だ。
「トアちゃん!」
俺は呆然とする生徒たちの間をすり抜けてトアちゃんへと駆け寄る。
「げほっげほっ……ケイ君」
トアちゃんは、爆発に巻き込まれたというのに僅かに砂ぼこりを被るだけで傷一つ負っていない。
俺の眼には爆発のすぐ近くにトアちゃんがいた気がしたのだが。
「――まーちゃんの爆発は自由自在。指向性を持つが故に、この爆発は唯一無二です」
少女の声が聞こえた。
特区の荒野に、新たに誰かが現れる。
騎双学園の黒い制服、金髪に紫メッシュの派手な女子生徒。
その生徒を、俺とトアちゃんは一方的に知っている。
「騎双学園の名を聞けば即参上! 私こそが、騎双学園特化暴露系配信者――浄化ちゃんだよ!」
フェクトム総合学園を取り巻く現状の原因と、俺のソルシエラの知名度アップの恩人の姿が、そこにはあった。
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