かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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一章 星詠みの目覚め

第9話 安易に多用すると身を亡ぼす存在、それが美少女

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 こんにちは! 出しゃばり原作破壊野郎です!

 美少女ですらねえし、原作は破壊するしで、もう俺に存在価値は無いかもしれません! 誰か、俺に存在理由を下さい! それかTSの薬を!

「そっちの野郎はビビって動けなさそうだな。あ?」

 そう言って、目の前の赤い髪の男は俺を煽る。
 その通りだよ!

 ミズヒ先輩が初心者用ダンジョンの先にある実験施設に向かったと聞いて俺は大急ぎで向かった。

 デモンズギアに万が一でも触れたら大問題なので、わっせわっせと急いだわけだが、そうしたら、先輩が誰かと戦っているではないか。

 俺はてっきり、上手くフェクトムに侵入した一般他校生徒クゾザコモブかと思って意気揚々と加勢。
 そうして、良く良く戦っている相手の顔を見てみれば、見覚えがある。

「……エイピス理事会執行官『栄枯えいこの六波羅』」
「わざわざ肩書きまでセットで覚えてくれてるとは、感激だなァ。野郎に興味はねえけど」

 俺もねえよ! バーカ!

 彼の名前は六波羅。
 ファンの間では常に六波羅と呼ばれている存在だ。
 
 原作での登場は一巻で、それから最新刊にいたるまで常に最強議論スレに名前が上がる最強の一角である。

 原作主人公のトウラク君と同じでデモンズギアを所有しており、それ故同じデモンズギア持ちのトウラク君にちょっかいをかけている。
 六波羅さんは超えるべき壁であり、ライバルのような存在として描かれていた。

 デモンズギア持ちは全員、アホほど強い。
 さらに、六波羅さんは学園都市に七人しかいないSランク探索者なので、素でも強い。
 そんな奴がデモンズギアを持っている。

 つまり、めっちゃやばい。

「ミズヒ先輩、撤退しましょう」
「できると思うか?」
「……ですよね」

 六波羅さんのやべー性質その一。
 面白れぇ奴、と認識されたら最後、頑固な油汚れ並みにしつこく戦いを吹っ掛けてくるようになる。そう、原作主人公に対してそうだったように!

「おいおい、逃げ腰じゃ困るぜ。こちとら目当てのモンが無くてイライラしてんだからよォ」
「ひえっ」

 六波羅のやべー性質その二。
 アホほど自分勝手。
 自分がやりたいようにする究極の自由人。どうしてこんなのが執行官なんですか????

「ケイ、私が引きつけるからその間にミロクと連絡を取れ。数人で掛かればあるいは」

 無理である。
 Sランクはそもそも存在としての格が違う。

 Sランクに認定される条件は二つ。
 一つは、単体で最高難易度のダンジョンでも攻略可能な事。
 もう一つは、な事である。

 Sランクの生徒を除いた全ての生徒を同時に相手をしても勝利すると判断された者だけがSランクの生徒になれる。

 つまり、フェクトム総合学園の今の戦力ではどうやっても勝てないのだ。

「ソッチの野郎は気が付いているみたいだなァ。この状況が詰みだってことによォ。お前らは俺を楽しませてくれれば良いんだよサンドバッグ共がァ!」
「ッ、来るぞ!」
「はい!」

 ミズヒ先輩の警告。
 それよりも速く、気が付けば目の前に六波羅さんがいた。

 俺を狙ってるゥ!?

「そォら、まずは一人目だ」
「っ!? ケイ!」

 ミズヒ先輩の叫ぶ声が聞えた。
 眼前に迫るのは六波羅さんの愛用する双剣の刃。

 俺は自分に迫るそれを見て――避けた。

 体一つ分の空間を裂いて、地面が激しい砂煙を上げる。

「……へぇ、お前、今の躱すんだァ。いいねぇ」
「……それはどうも」

 やばい。ロックオンされた気がする。

「じゃあ、コイツはどうかなァ!?」

 六波羅さんは俺へと刃を連続で振るい始めた。
 一見、乱雑な攻撃のようだが、その実全ての攻撃が繋がっており、付け入る隙のない連撃。

 当たれば一撃で敗北するであろうそれを、俺は

 ……どうして避けれてるの??????

「おいおい、どういう原理だァ? 仕組みを教えてくれよォ!」

 俺が知るか!

 そう答えてやろうかと思ったその時、俺の左腕に巻き付く赤い腕輪が目に入った。

 絶対にこれのせいじゃねーか!
 明らかに、動体視力が化物並みに向上している原因などこれしか考えられない。

 一度、そう知覚したが最後、その腕輪は俺の脳へと直接アピールを始めた。

『■■■■■』

 まるで脳みそに直接炭酸水をぶち込んだかのような新感覚。
 どうやら、ソルシエラの名を呼べと要求しているらしい。

「絶対に嫌だ」
「へえそうか! 種が割れたら困る代物かァ!」

 アンタに言ってねえ!

 ずっと、待機状態で『自分、いつでも行けます!』とアピールして来る赤い腕輪。
 俺はそっと制服の袖で隠しながら、バレない様に攻撃を避け続けるしかなかった。

「そらそらァ! 避けてばっかじゃいつか死ぬぜェ?」
「そうか」

 なら、どうしろってんだ。
 ここで星詠の杖ソルシエラを出せば、逃げることくらいはできるだろう。
 が、その瞬間に昨晩の配信に映った『ミステリアス超絶最強無敵究極美少女』の正体が俺だとバレてしまう。

 それだけは避けたい。
 原作に無駄に巻き込まれる可能性もそうだが、それ以上に――俺が女装を楽しめなくなってしまう!

「絶対に失いたくない」

 そう! ミステリアス美少女としての絶好のロールプレイの機会を失うわけにはいかないんだ。

 学園都市で話題沸騰(予定)の謎の美少女。
 それは夜な夜なダンジョンに現れては、まるで泡沫うたかたのように消えていく。

 物憂げな表情に、時折見せる悲し気な顔!
 何かを暗示する言葉の数々に、浮世離れした美しさ!
 人を寄せ付けぬ孤高であり、人の目を惹く銀月!
 
 そんな2000年代エロゲのメインヒロインみたいなロールプレイを俺はしたいんだい!

 それなのに『あの美少女ってかませ役♂だったの!?』ってなったら台無しだろうが!
 
「悪いが、今はお前の挑発に乗ってやる事は出来ない」
「あァ!?」

 ここで戦えば、俺の美少女なりきりライフは死ぬ。
 
 が、同時にここで負けてもいけない。次はミズヒ先輩の所に向かうだろう。
 だから、俺は少しだけ原作知識を使うことにした。

「探し物があると言っていたな、それはデモンズギアか?」
「そうだ。その様子だと知っているみてえだな」
「さて、どうだろうな」

 無数の剣撃を回避しながら、俺は六波羅さんと会話をする。
 あくまで対等な立場のような言動を心掛けて、言葉を続けた。

「テメエが持ってんのか? だったら、倒す口実も出来て一石二鳥なんだが」

 攻撃の最中でありながら、息切れ一つ見せずに六波羅さんは獰猛に笑う。

「いや、俺は持っていない。他の学園が既に持ち出したか、あるいはアレが意志を持って逃げたか」

 剣を避け、俺はくるりと回って距離を取る。
 そして、六波羅さんの持つ双剣を指さした。

「エイナに訊け。そのデモンズギアは、他のデモンズギアよりも知覚能力が優れているだろう。他のデモンズギアを探す能力がある筈だ」

 瞬間、俺の頭に迫っていた剣が止まる。

 この人、明らかに大切な事を話そうとしている人間の頭カチ割ろうとしてなかった?

「……テメエ、どこまで知っていやがる」
「答えるべき問いではない。知らぬ方が上手く回る事も往々にしてある」
「チッ、おいエイナ! 今の話は本当かァ?」

 俺を一睨みして六波羅さんは剣を下ろす。

 そして、自分の双剣へと話しかけた。
 一見すると可笑しな行動だが、原作を知っている俺にはその行動が理解できている。

 武器状態の彼女と話をしているのだろう。
 六波羅さんは、暫く何かを言い合っている様子だったが、やがて今日一番の声で叫んだ。

「……あ? 何言い訳してんだゴラァ! ちょっと、面貸せ」

 六波羅さんが双剣を放り投げると、剣の先から解けるように少女の姿に戻っていく。
 現れたのは、二本のおさげが特徴的なおどおどとした少女だった。

「り、リーダー、すみません。私、別に黙っていたつもりはなくてぇ!」
「黙れ! エイナ、俺達はここまでデモンズギアを獲りに来たんだよなァ? 朝一で、理事会と騎双学園の両方からの糞みてえなモーニングコールでよォ!」
「は、はいぃ!」

 エイナはその場に正座する。
 六波羅さんは仁王立ちで見下ろした。

「今まで、一度も! テメエにそんな便利機能があるって聞いてねえんだが! アァ!?」
「ひえっ。そ、それはリーダーが危ない目に遭わないように、と、私の? や、優しさ的な? どうせ死ぬにしても、楽に死にたいでしょう?」
「どの口が言ってんだ。おい、今からこの場所にあったはずのデモンズギア探せ。見つけねえと一ヶ月飯は自分で用意させる」
「えぇ!? わ、わかりましたよぉ。ちょっと待っててください……」

 ぶつぶつと文句を言いながら、エイナは地面に手をついて目を瞑る。
 
 その様子を確認してから、六波羅さんは俺の方を見た。

「正直助かったぜ。殺す前に聞いてよかった」
「そうか」
「だが、同時に聞きたいことも増えた。……お前、何者だ。デモンズギアの存在どころか、エイナの機能まで理解してやがった」

 六波羅さんは、左腕をかざす。
 その動作に応えて、ダイブギアが一振りの剣を召喚した。
 デモンズギアとは違う、彼が本来所有している武器だ。

 二本の剣が捻じれ合わさり一本になったかのようなデザインの剣その切っ先を、六波羅さんは俺へと向ける。

「おいおい、戦う理由ができちまったなァ……」

 あ、あれぇ!?
 デモンズギアの探知できるんだから、普通はそっち優先しないのォ!?

 ど、どうにかして見逃がして貰わなきゃ。 命乞いしなきゃ!

「そう逸るな」
「あ?」
「然るべき日が、近いうちに必ず来るだろう。戦いと飯は、食らうに上等な日和がある。そうは思わないか?」

 原作で六波羅さんが言っていた事でしょう!?
 トウラク君も、ボコボコにしてもトドメは刺さずに見逃がしたりとか、必要なら助けたりとかしていたじゃないですかぁ!

 俺みたいな女装趣味で美少女化願望持ちの一般生徒なんて放って、原作エンジョイしてくださいよ!

「今はまだ、決戦の時ではない(震え声)」

 半ば泣きながらの俺の言葉。
 六波羅さんがそれに何か言おうとしたその瞬間、俺と六波羅さんの間を閃光が通り抜けた。

 見れば、ミロク先輩とトアちゃんが武器を構えている。
 来てくれたんだ! ……いや、犠牲が増えるだけだこれ!?

「……なるほどなァ」

 六波羅さんは俺とミロク先輩を交互に見つめると頷いた。

「エイナを俺から引き剥がして、オマケに自軍の頭数も増やす。はははっ、性格が悪いってよく言われねえか」
「前の学園では聞き飽きるほどに言われていたな」

 主に、俺じゃなくてかませ役♂だけどね。

「普通ならこれで逆転なんだろうが、俺はSランクだぜ? その意味は分かってんだろ。テメエら全員殺すことなんか、訳がねェ」

 六波羅さんの言葉に、全員が警戒する。
 が、その様子を見て六波羅さんは呆れたように笑うと武器を消失させた。

「冗談だよ。オイ、テメエ名前は」
「……那滝ケイ」
「そうか。ケイ、テメェだけ弱点が多いってのは不平等だ。それじゃ、楽しめえねよな……まだ何か隠し持ってんだろ、お前」
「????」
「とぼけたような顔すんなよォ」

 ほんとに知らねえんだよ。

『■■■■■!』

 いやいや、星詠みの杖、君はカウントしないから。
 君、あくまで換金アイテムだから。

 赤い腕輪から猛抗議が来た気がするが、俺はスルーを決め込む。

「ケイ、お前は今の自分にある全ての手札を切った。その結果、ゼロ%だった勝利の可能性を数%だが引き上げやがった。その度胸に免じて、今は見逃がしてやるよ」
「そうか」

 ありがとうございます! ありがとうございます!

「なら、行くべき場所があるんじゃないか」

 早く、デモンズギアの方に行け。俺の方はもう無視しろ! お願い!

「わかった、わかった。今はその口車に乗ってやるよ。エイナァ! 探知できたかァ!」
「は、はいぃ! 中央区の南西エリアにいますぅ」
「じゃ、さっさと行くぞ。他の学園に奪われたら面倒臭ェ」

 六波羅さんはエイナをひょいと担ぐと、さっさとその場を去ってしまった。
 さようなら! 二度と来るな!

「ふぅ」

 俺は息を吐く。
 朝からクソほど疲れたぜ! やっぱり原作勢には関わらない方が健康的な生活送れそうだね!

「ケイ、お前……」

 ミズヒ先輩の声がする方を見る。
 そこには、他二人も合流しており、俺を複雑そうな表情で見ていた。

「ぁ」

 やっべ、そうだ。
 六波羅さんにおかえり頂く為に必死で全然こっちのこと考えていなかった!

 今の俺は、急にわけわかんねーことをベラベラ喋り始めた男である。そのどれもがトップシークレット級。
 怪しさのバーゲンセールなものだ。

 今まで普通の生徒でやってきたのにぃ!

「えっと、その……」

 どう言い訳しようかな。
 六波羅さんに嘘ついていましたってのは、エイナの件が真実って時点で通じないだろうし。
 実はデモンズギアに関わっていますとか? ……うーん、碌な目に遭う気がしない。

 俺が迷っていると、ミロク先輩が一歩前に進みでる。
 そして、笑顔でこう言った。

「帰りましょうか」
「え?」

 ミロク先輩は、それだけ言うとトアちゃんとミズヒ先輩にも声をかけてその場を去っていく。
 それに従うようにミズヒ先輩もまた歩き始めた。

「ああ、帰るか」
「ミロクちゃん!? ミズヒちゃん!?」

 トアちゃんは慌てて、その後を追う。
 俺は、思わずその背に声をかけた。

「あの! 今の俺ってかなり怪しくないですか?」
「そうですね。でも……私達を守るためにここに来てくれたんでしょう?」

 私達? 俺はミズヒ先輩をデモンズギアから離すためにここまで来たんだが……。
 いや、ミズヒ先輩がいなくなれば実質フェクトム総合学園は崩壊するのだし、言葉としてはおかしくないか。

「それは、そうです」
「なら、今はそれでいいんです」

 ミロク先輩は振り返って俺を見る。

「けれど、もしも助けが必要になったら絶対に言ってください。私達が、必ず力になりますから」
「……はい」

 なんか知らねえけど、あったけぇ……!

 こんな良い人がいる学園で女装したり美少女になろうとしている自分が馬鹿に思えてくるぜ!

「さ、ケイ君も行きましょう」
「はい」

 俺は先輩たちの後ろを付いていく。
 変な誤解をされていなくて、本当に良かった。
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