上 下
3 / 236
一章 星詠みの目覚め

第3話 女装だって広義での美少女化

しおりを挟む
 バイト、おしまい!
 おつかれっしたー。

 夜九時、俺は三つ目のバイト先を後にした。
 体は疲れ切っているが、フェクトム総合学園に戻る足取りは軽い。
 何せ、今日は目的のブツが届く日だからだ。

「この日の為にバイトを頑張ったと言っても過言ではない。アレが後払い可能で良かった。本当に良かった……!」

 俺はフェクトム総合学園に来て早々とある物を買っていた。
 軽く十万以上が吹っ飛ぶ買い物だが、迷いはなかったのだ。
 
 ルンルン気分で俺はゲートを潜り学園に戻る。
 廃墟みてえな場所だけど、今は輝いて見えるや。やっぱり、気持ち次第で世界の在り様はいくらでも変わるらしい。

「ただいまっと……これか」

 俺が一人で使っている寮の前に複数の段ボールが積まれていた。
 勿論開けられた形跡はないし、見られている可能性は無い。これが見られた暁には、俺は爆発四散するだろう。

「さっさと運ぼう」

 見られる前に急げー!



 荷物を隣室に置く。
 まあ、壁がぶっ壊れているから隣も糞もないんですけどね。ほら、部屋同士で移動できるし。

「さあ、御開帳」

 俺は夕飯も食べずにさっさと箱を開封した。
 中から出てきたのは、様々な化粧品や衣装だ。
 特に、この白黒のひらひらが付いたゴスロリ衣装は素晴らしい。
 
「うむ」

 俺は満足して頷く。
 そして、ひび割れた鏡の前に化粧品をセットして座った。
 もうお分かりだろう。

「やるか、女装……!」

 美少女になれないなら、限りなく近いものになるしかねえ。
 美少女化願望に対する一種の沈静療法として、女装が有効だということは既に全ての人間が知ることだろう。

 日本では安土桃山時代から、「美少女になりたければまずは女装で腕を磨け」と言われていたらしい。流石俺達のご先祖様、未来に生きてやがる。

 化粧は初めてだ。
 が、この日のためにあらゆるバイト先の先輩から化粧について聞いているし、なんなら練習も付き合ってもらった。
 ありがとうございます、バイトリーダー。

「――ふう、こんなものか」

 普通の野郎では精々が女装でしかない。
 が、俺は那滝ケイ。

 顔だけはよく、肌は真っ白で体の線は細い。
 彼を女装させるイラストなどを俺は生前によく見かけたものだが、偉大なる先人たちの考えはどうやら間違っていなかったようだ。

「これは……美少女だ」

 シュレーディンガーのおちん〇ん状態であれば実質美少女である。
 白黒のフリルがあしらわれたゴスロリ衣装に、特注で作らせたケイの髪色と同じ蒼みがかった銀色のカツラ。
 ウェーブの掛かった長髪は、輪郭を上手く隠し完全に俺を美少女にしていた。

「おぉ、お、おおおお……!」

 俺、感涙。
 鏡の向こうに、美少女がいる。
 これね、俺なんすよ。今俺にお出しできる最大限の美少女なんですよ……!

「かわいい。……うん、ちょっと素っ気ない言動の方がしっくりきそうだな。闇をかかえている系の」

 割れた鏡と、ボロボロの部屋。
 退廃的な空間に佇む一人のミステリアス美少女。
 完璧である。

「へへっ」

 嬉しくて江戸っ子みたいな笑いと共に思わず頬が綻ぶ。
 いけね、こんな笑い方をするタイプの美少女じゃねえよな。

 ここからが本番だ。

「外に行こう」

 女装した。なら後は外に出るだけである。当然だろう。
 それもただ外に出るわけではない。

「ダンジョンに行こう」

 俺はダンジョン初心者だ。
 原作知識はあるものの、戦いは慣れていない。
 特に、魔力に対しては殆どが未知である。

 この世界で魔力と言えば探索者が身体能力の強化などに使うバフのような意味合いが強い。魔法が存在しないため、呪文などを覚えなくてもよいのが幸いだ。

 そういう訳で、バイト終わりに夜な夜な初心者ダンジョンへと向かって、戦い方を学んでいるのである。
 各校は初心者用の訓練ダンジョンの設置を義務付けられているため、このフェクトム総合学園にも初心者ダンジョンというものが存在した。

 今日で三日目。そろそろボスを倒したいものである。

「ミズヒ先輩は明日までずっと救援申請を受けているって言ってたし、ミロク先輩は夜八時以降は寝ている。トアさんも夜は怖いから基本は自室。つまり、ダンジョンは今は無人! 俺の絶好の女装日和!」

 心が躍ってしょうがない。

 俺はダンジョン探索に必要な物を用意して部屋を出ようとして、足を止めた。

「……万が一って事があるからな」

 注文しておいた見た目だけの口元を覆うガスマスクを付ける。
 意味もなく細部が光るゲーミングガスマスクだ。こういうのが似合う美少女が好きなので、一緒に買ったのだ。何か文句はあるか?

「シュコーシュコー……いや、普通に喋れるか」

 効果ねえマスクだしな。

「よぉし、気を取り直して行くぞー!」

 女装でダンジョン攻略、開始!
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...